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学園一の美少女が失恋したいと泣きついてくるので困っています……  作者: 田奈から来た使者
俺と彼女の失恋作戦
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幼馴染と久々に下校

 ここ数日間、俺には気がかりなことがある。


 それは澄花との失恋作戦を開始してから紗耶香との関係が疎遠になりつつあるような気がするからだ。


 結局、ここ数日、紗耶香は俺の弁当を作ってきていないし、話しかけてもてどことなく余所余所しい。


 これは俺にとってあまり心地いいものではなかった。


 だって、俺と紗耶香はこれまでずっと同じ時間を過ごしてきたんだ。


 物心がついたころから仲の良かった相手が急に余所余所しくなれば誰だって不安に思うだろ?


 だから、俺はその不安を払しょくするために学校が終わるとすぐに紗耶香の後を追い、久しぶりに一緒に下校することにした。


「どういう風の吹き回しかしら……」


 学校を出てからずっと彼女の隣を勝手に歩いていると、紗耶香が痺れを切らせたのか、前を向いたまま話しかけてきた。


「どうもこうもないだろ。一週間ぐらい前までは、ほぼ毎日こうやって一緒に登下校してたんだし……」


「いくら私のことが好きだからって勝手に過去を改ざんするのは止めてもらえないかしら」


「いくら俺が嫌いだからって勝手に過去を改ざんするのは止めてくれないか……」


「あら、私、柄木田くんのこと嫌いじゃないわよ。私、元々動物は好きなの」


「俺の好き嫌いと動物の好き嫌いに何の関係があるんだよ……」


 口の悪さは相変わらずだ。


 が、やっぱり紗耶香は俺と目を合わせようとしない。


「その名字で呼ぶの、いい加減にやめろよ……」


「ごめんなさい。それじゃあ、これからはちゃんと“これ”って呼ぶはね」


「ちゃんとって何だよ。ちゃんとって……」


 繰り返すが、彼女の口の悪さは相変わらずだ。


 が、彼女のそんないつも通りの受け答えが、どことなくぎこちなく感じるのは多分気のせいではない。


「私なんかと一緒に歩いていて大丈夫なのかしら……」


 と、そこで俺に唐突にそんなことを尋ねる紗耶香。


 俺には彼女の言葉の意図が理解できなかった。


「あなたの恋人は私とあなたが二人で歩いているのを見てもなんとも思わないのかしら?」


「恋人?」


 が、すぐに紗耶香のいうその恋人とやらが誰のことを指しているのかピンときた。


「もしかして澄花のことを言ってんのか? それなら問題ない。何せ、あいつは俺の彼女じゃないからな」


「なるほど、つまり、あなたにとって彼女はただの使い捨ての性欲処理の道具ってことね」


「どう聞けば、そんな解釈になるんだよ……」


 と、ツッコミを入れつつ俺は何となく、紗耶香が最近、俺に余所余所しい理由がわかってきたような気がした。


 紗耶香は俺と澄花が付き合っていると勘違いしているようだ。


 それで彼女は澄花に気を遣って、あえて俺との距離をとっていたのかもしれない。


 だとしたら、そんな気遣いをする必要はない。


「あいつとはなんというかその……色々事情があって今は行動をともにしているだけだ」


 俺が全然釈明になっていない釈明をすると紗耶香は「そう……」と小さく答えたきり俺に何も追及してこなかった。


 これで紗耶香の誤解は解けたのか?


 自信はないがそうだということにしておこう。

 が、これだけではまだ駄目だ。


 少なくとも俺は紗耶香とこれからも今まで通りの関係を続けたい。


 それは、なんだかんだで、俺にとって一番心を許せる存在がほかでもない幼馴染の紗耶香だからだ。


「なあ、紗耶香……」


 俺は相変わらずこっちに顔を向けようとしない紗耶香の横顔に話しかける。


「明日からまた俺の弁当を作って欲しいんだけど……」


「二郎、プロポーズっていうのは、ある程度プロセスを踏んでからするものよ?」


「いや、毎朝俺の味噌汁作ってくれ的なニュアンスで言ってるんじゃないんだよ……」


「そう……」


 紗耶香は黙り込む。


 何と答えようか考えているようだった。


 が、しばらくの沈黙ののち、少し伏し目がちに小さな声で答える。


「お昼ぐらい学食で食べればいいじゃない……わざわざ私が作る必要もないわ」


「そういうことじゃないんだ」


「じゃあどういうことかしら?」


「前みたいに昼休みに一緒にお弁当を食べながらお前と他愛のない話がしたんだよ……」


「…………」


「なあいいだろ? また前みたいに俺にもお弁当を」


「嫌よ」


 と、俺が言い終える前に紗耶香はそう答えた。


「なんでだよ」


「それだと、あなたが一方的に得をして終わりだわ」


「でも、これまでは」


「これまでが異常だったのよ。どうして私があなたのような地味な男子生徒のために毎朝お弁当を作らなきゃならないのかしら」


「それは俺とお前が――」


「幼馴染だったら毎朝、お弁当を作らなくちゃいけないのかしら?」


「それは……」


 紗耶香に完全論破されてしまった。


 確かに、紗耶香の言う通り、いくら幼馴染だからって彼女が俺に毎日弁当を作らなきゃいけない理由なんて何もない。


 彼女が嫌だと言えば俺はそれ以上何も言い返すことができない。


 そんなこんなで黙り込んでいると、そこで紗耶香は初めて目だけを俺の方に向けた。


「まあでも、私も鬼じゃないわ。どうしてもあなたがお弁当を作って欲しいって言うのなら、あなたの奉仕次第では作ってあげないこともないけれども……」


「奉仕?」


「そうよ。下僕がご主人様からご褒美をもらうためにはそれ相応の奉仕をするのは当然でしょ?」


 俺が彼女の下僕であるという前提条件はともかくとして、その奉仕とやらをすれば紗耶香はまた俺に弁当を作ってくれるのか?


 と、そこで紗耶香は突然立ち止まった。


 そして、カバンから紙きれのような物を二枚取り出して俺に差し出した。


「ここにパパから貰った遊園地のチケットが二枚あるわ」


「遊園地?」


「今週の土曜日、遊園地で私を楽しませてくれたらご褒美としてお弁当を作ってあげないこともないわよ」


「楽しませるって具体的に何をすればいい?」


「それはあなたが考えるべきことじゃないかしら?」


 そう言うと紗耶香は初めて小さく笑みを浮かべると俺を置いてそそくさとどこかへと歩いて行ってしまった。


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