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運命なんて信じない  作者: マオ
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四章・往生際の悪いヒトたち・5

 ため息をついてレナはイズを指差した。

[蕩(とろ)ける紅、(ほど)ける紫]

 彼女の指先から発せられた二色の光がイズを包む。その光が飛び散った後、イズはきょとんとして立っていた。自分が剣を握っていることに気がついて、目を丸くしている。

「あっさりと洗脳されたんだ。未熟者」

 エリオスの冷たい声に、状況が分かったらしく、イズは青くなった。

「す、すまん!」

「いえ、いいですよ、大事には至らなかったので」

 セーズはパタパタと手を振った。実際イズに向かってこられても、ちっともあわてていなかった。経験と技量の差である。若くてもセーズの強さはイズとは段違いなのだ。

「け、怪我しなかったか!?」

「させていたら今頃この世にはいないわよ、アナタ」

 うふふ、とレナフレア。

「セーズがお前程度に怪我をさせられるわけがないだろう。うぬぼれるな」

 エリオスはにべもない。

「してませんから、大丈夫ですよ、イズさん」

 暖かい反応を返してくれるのはセーズだけだ。なんで男なんだろうとイズは少し悲しくなった。これで本当に女の子だったら。

 残念に思いながら剣をしまう。セーズはイズが何を考えているかも知らずに、のたうちまわっている魔物のほうに目をやった。炎を浴びた直後よりはかなり暴れっぷりが弱くなってきている。そろそろ力尽きそうなのかもしれない。

「エリオス、これ、いつまで続くか指定して練ったのかい?」

「いや……そういえばしてないな。こいつが焼き尽くされるまで止まらない」

 エリオスはあっさりそう答えた。とりあえずレゼルドドルクの顔をもう何度も見るのがイヤだったので、抹殺するつもりで練った魔法だ。

「解除できるけど、するか? しても多分ろくなことにはならないぞ」

 何せ相手は魔物である。人間の常識では動いていない。ここでまたこいつの逃走を許せば、次も確実にセーズたちの命を狙ってくるだろう。

 この世界を牛耳るという野望があるのなら、勇者と呼ばれる人間は真っ先に邪魔になるのだから。

「でも、バーミリアスの呪いを解いてもらわないと、僕も男に戻れないだろ?」

「ああ、そうか、そうだな」

 バーミリアスのあの暴走っぷりから考えて、正気に戻らない限りセーズを男には戻してくれないだろうという予想はついた。バーミリアスが昏倒している今なら、レナの解呪で元に戻るだろうとも思うが、ややこしい条件があるなら、呪いをかけたものが解くほうが確実だ。

「仕方ないか、でもその前に……レナ」

「はいはい。分かっているわ」

 このまま魔法を解除しても、レゼルドドルクは逃げようとするだろう。逃げることには卑劣に長けている魔物だ。

[束縛の黄、(さいな)む蒼]

 炎の中でぴくぴくしている魔物に二色の光がまとわりついた。光り輝く縄となって魔物を束縛する。それを目で確認してから、エリオスは何事かを呟き、炎を消した。

 レゼルドドルクは動けない。黄色い光は身体を麻痺させ、青い光は魔力を封じてしまっている。

 ほどよく焦げている魔物は弱々しく呻いた。今にも消えてしまいそうにも見える。

「うぅ……慈悲があるなら見逃してくれ……もう二度と人間の目の前に現れないと誓うから……」

 よろよろとそう言い、許しを請う。ニコリともせずにエリオスが言い返した。

「確か三度目に遭ったときもそう言ったな。四度目のときに後ろから襲ってきたが」

「うぅ……もう二度と悪いことはしない……」

 ふぅ、と息をついてレナが額を押さえ、呟く。

「最初に遭ったときそう言ってセーズに許してもらっていたわよね? 二回目のときには忘れたと叫んで襲ってきたけれど」

「うぅ……そこの優しそうな人間よ、こいつらを説得してくれないか……ワタシは魔底に戻ってこの世界からは出て行くから……」

 イズに対してそう話しかける魔物に、エリオスは冷たく言葉を投げかける。

「四回目の奇襲が失敗したときにそう言って、五回目のときに一度戻ったから約束は果たしたと言って襲ってきたよな。ごろごろ配下を連れて、得意げに」

「ちなみに二回目は死んだフリして逃げたわよね」

 五回目はやられている配下を見捨てて逃げ、そして、今回が六回目だ。

「うぅ……慈悲はないのか貴様ら!?」

「アナタに対してはもうないわ。品切れよ」

「セーズに毎回許してもらったり逃げたりしていて……こりろ! 少しは! 五回も逃げておけば充分だろう!」

 レナとエリオスはキッパリと言い切り、セーズは苦い顔だ。五回も見逃したり、逃げたりしているのに、まだこりないレゼルドドルクにあきれている。

「……バーミリアスの呪いを解いてくれるのなら、見逃してあげるよ」

「セーズ!」

 エリオスが顔をしかめる。

「ただし、次は許さない。もう一度こんなことをしたら、次は滅ぼすから。この『星砕く刃』にかけて」

 セーズはレゼルドドルクの目の前に刃を突き刺した。ジルゼから授かった剣は固いはずの床をすんなりと貫く。一体どれほどの力を内包しているのか。これに貫かれたら、レゼルドドルクなどひとたまりもないだろう。

「ディザスターを滅ぼした剣……自分の身で味わいたくはないだろう?」

「ぬ、が……うぬぅ……わ、分かった」

 セーズの本気を感じ取り、魔物は呻いて了承した。滅びるよりは魔底に戻って悪いことを企てたほうがいい。

「あと、妙な真似をしても滅ぼすから。こっちにはレナがいる。君じゃなくても解呪は可能だからね」

 先ほどのようにイズを操られても困る。セーズは先に釘を刺した。エリオスやレナはそもそも操られるほど心が弱くないので心配は要らない。

「うぐ……分かったと言うのに……ええい、解いてやるから魔力の拘束を解いてくれ! このままでは何もできん!」

 さすがに逃げる気はなくなったようだ。この魔物が逃げるより、セーズが魔物を滅ぼすほうが遥かに早いだろうとは誰もが予想できる。

 レナは仕方なく魔力のほうの拘束だけを解いた。体の麻痺はまだ解かない。飛び掛ってこられてもイヤだからだ。反射で叩き落して、その一撃でコイツを滅ぼしてしまったら目も当てられない。

 ぶつくさとレゼルドドルクは何かを呟いた。魔物の言語だろうか。人間には聞き取れない。長く、意味の分からない言葉が室内を流れていく。静かに言葉が形になって、気絶しているバーミリアスを包んでいく。魔物の力の具現だ。人間にはわけの分からない、独自の形――多分文字だろうものがバーミリアスの身体に張り付いた。


 ぼふん。


「……おや?」

 煙となって霧散した力に、レゼルドドルクは不審げな声を上げた。真っ先に反応したのはセーズだ。

「『おや』って? まさか失敗したのか? バーミリアスに何が起こったんだ!?」

 じゃきっと剣を突きつけて真剣に叫ぶ。間近の(しろがね)の輝きに恐れおののきながら、レゼルドドルクはもう一度同じように言葉を流した。


 ぼはん。


 やはり、霧散する。

「……レゼルドドルク?」

「ちちちち、ちょっと待て!! 待て!! その男を起こせ、何かおかしいっ!!」

「おかしいって、何が?」

 返答次第では滅ぼす。明確に目がそう語っているセーズだ。大切な仲間のことなので彼は本気である。

「解けないのだ! ワタシがかけた呪いなのに、何故解けない!? その男が何か自分でしたのではないのか!? いろいろ魔法をいじくるのが得意な男なのだろう!!」

「エリオス、バーミリアスを起こしてくれ」

「分かった」

 セーズの言葉には素直に従うエリオスが、バーミリアスに括を入れた。呻いて呪われている魔導師は目を開ける。

「いでで……アチコチ痛い……ひどいなエリオス、仲間だろう? 手加減しろよ……」

「その仲間に思い切り高レベル魔法をぶつけてきたのは誰だ?」

 忌々しげに答えて、エリオスはバーミリアスの首を無理矢理セーズのほうに向けた。

グキっという音は当然のように無視している。

「いてぇ! エリオス、いてぇって! ……おお、セーズ! ハーレムに入ってくれる気になったか?」

「ならないって……それよりバーミリアス、こいつにかけられた呪いに何かした?」

「あ、改良した」

 即座に明確な返事が返ってきた。セーズを始めとする面々がガクリと肩を落とす。どれをどのくらい改良したのかは分からないが、それではレゼルドドルクの力で解呪できるはずもない。実力的には遥かに上のバーミリアスが呪いの上書きをしてしまって、別のものに変えてしまっているのだ。

「だってさー、そいつセーズを殺せって強制力かけてくるから。イヤだと思って、呪いかけられてから速攻で改良した!」

 胸を張るバーミリアス。それでこういうハーレム馬鹿になってしまったらしい。絶対服従の呪いに負けなかったのはすごいが、より性質が悪くなってどうするのだ。

「呪いって分かっていたならどうしてあたしのところに来ないのよ!? 穏便に解呪できたのに!!」

 すぐ近くに専門家――聖導師であるレナがいたのに何故自力でややこしいことをしたのか。

「いや、自力でなんとかできるかなと。ほら、おれ、ジルゼに憧れているから。聖も魔も全ての魔法が使える存在なんてジルゼだけだろう? おれもそうなりたいんだ!」

「うん……それは知っていたけどさ……なにも一人で実行しなくても……しかも魔物にかけられた呪いで実験しなくてもいいだろ……」

 セーズは頭を抱えてしまった。彼はバーミリアスともまともに仲間付き合いをしていたので、バーミリアスが魔法の研究に意気込んでいるわけを知っていた。ほかの仲間もバーミリアスが研究熱心なのは知っている。

 彼が開発した魔法にはずいぶん助けられたからだ。

 が。

「この研究馬鹿……」

「……アホだな」

 セーズと同じように頭を抱えるレナとエリオスである。フォローのしようがない。

「おい、ワタシはどうなる? もはやワタシにも解呪はできんそ。別物になっているからな。貴様ら自分たちでどうにかしろ」

「あぁ……帰っていいよ。でももう悪さはしないように」

 ぐったりと言いながら、セーズは釘を刺すことも忘れない。レナが開放すると、レゼルドドルクはそそくさと宙に消えた。これで懲りたかどうかは分からないが、懲りて欲しいものである。

「レナ、解呪できるかな?」

「やってみるけど……難しそうよ。魔物の力とバーミリアスの魔力が変な風に混ざっているようだから……下手をするとジルゼ様でなければ無理かもね」

 言いながらもレナはバーミリアスを呪いから開放しようと試みる。

[開放の喜びを、悲しみの修復を!]

 ばきん。枝が折れるような鋭い音がして、集まりかけた光が飛び散る。普通、こんな風にはならない。

「……ダメみたいね」

 セーズにかけられた女体化の魔法を解呪しようとしたときと似たような現象だ。

「うわぁ……どうしよう。ねぇ、バーミリアス」

「ん?」

 微妙に魔物の気配を漂わせているバーミリアスだ。それでも仲間には敵意を発してはいない。さっき攻撃してきたのも、ほとんどシャレのようなものだったらしい。もっともあんな勢いで攻撃されたら、一般人なら即死しているだろうが。

「これ、解けないのか? どういじってこうなったんだ?」

「いや、おれにもよく分からん。何度かいじってこうなったからなー、まだおれには聖魔法を扱うのは無理だったらしい」

 いろいろと変化してしまっていて、もはや原形をとどめていない呪いのようだ。

「……ちょっと、バーミリアス。セーズの魔法は解けるの? あれを解呪しようとしたときもこんな感じではじかれたのだけれど」

 嫌な予感を感じてレナが問う。

「いや、解けるよ? 解かないけど」

 さっくりとバーミリアスは言い返す。その首をエリオスがねじった。

「いだだだ!! 何すんだエリオス!?」

「戻せ」

「やだー、いでででででっ!!」

「じゃあぼくが戻すから方法を言え」

「い、いででで、だだだだっ!!」

 ごきごきと首をねじねじされて、バーミリアスは悲鳴を上げた。エリオスは彼が否を言うことを許さない。応と言うまでねじねじする気満々だ。

「わ、分かった、言う、言う!セーズを男に戻す方法は――」

 痛みのあまり涙目で、バーミリアスはこう告げた。


「おれを殺すことだ」


次回で完結! オチに期待はしないでください(オイコラ)

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