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運命なんて信じない  作者: マオ
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2/22

一章・いろいろと困る人たち・1

 商業都市ラジルダルはいつ来てもにぎやかだ。

 魔王に虐げられていた過去でも、人々はここを中心として辛抱強く生きていた。

 いまやその魔王は滅び、人々の顔は太陽のように明るい。

 長い苦難が終わることなど、勇者が現れるまで考えたこともなかったのだから、その喜びはとても大きいものだった。

「さあさ、寄ってっておくれ! 平和が来たんだ、お祝いだよ! 騒がなきゃ損だ!」

 あちこちでそんな声が上がっている。魔王が滅んだことで人々は浮かれていた。

 都市全体がお祭り騒ぎの中にあり、とんでもない安い値段で品物が売られている。

 皆喜び、浮かれているのがよく分かる。自然と人々の顔には笑顔が浮かんでいた。

「そこのお姉ちゃんたち! うちの店には勇者セーズ様が立ち寄ったよ! 見てくれ! セーズ様が買っていった薬草だってあるよ!」

 道具屋からの呼び込みの声に、オッドアイの少女は苦笑した。

「なんだかすごいね」

 手を振って断り、彼女は歩みを進める。幸福の空気があちこちに溢れて、こちらも嬉しくなってくる。

「魔王が滅んだのだもの、みんな浮かれて当然よ。あきらめずにがんばった成果だわ」

 桃色の瞳の少女は笑っている。周りを見て、彼女も嬉しそうだった。

 少し歩くたびに彼女たちには声がかけられる。美しい少女と可愛らしい少女の二人組はただでさえ目を引いた。そのうえ今は街中が浮かれきっている。

「ねえちゃん! 踊ろうぜ!」

 そう言って少女の腕を掴もうとした男がいる。がっしりとした体格の男で、腕は少女の腰周りほどもあるだろうか。掴まれたら少女に逃げることは難しい。

 が、男が腕を伸ばすころには少女の身体はそこにない。

「ごめんなさぁい、あたしたち急ぐの」

 さりげなく、だが素早く男の腕から身をかわし、少女たちはあっさりとすり抜けていく。

 残された男はぽかんと見送った。

「あほがいるわねぇ、浮かれすぎだわ、気持ちは分かるけど」

 桃色の瞳の少女が笑いながら呟く。その横でもう一人の少女はなにやら落ち込んでいた。

「…………ねえちゃん……」

 お姉ちゃん呼ばわりされたのが何故だかショックだったらしい。

「落ち込まないの。仕方ないでしょ」

 ぽんぽん肩を叩いて慰める連れの少女に、

「レナ……でも僕」

「わ・た・し」

 レナと呼ばれた少女は遮るように言葉を強くする。

「うぅ……わ、私」

 泣きそうな表情で復唱するオッドアイの少女だ。

「そう、『私』よ。いい? 悲鳴は『きゃあ』ね。わかった?」

 とても楽しそうに言われて少女は困り果てた顔になる。

「……分かりたくないよぅ」

「ナニを言っているの、魔物と戦うよりずっと簡単なことでしょ」

 にこやかにそう言うレナに対して、少女のほうは浮かない様子。魔物と戦うほうが楽だとでも考えているのかもしれない。

 どうやら少女のほうはかなりの男勝りらしい。双剣を扱うところからも知れよう。

 とんでもなく美しい容姿をしているのに、性格は男勝りというギャップがある。

「少しの我慢よ」

 なだめるようにレナが言い、少女はあきらめたように頷いた。

 人ごみを避けるようにして目指す酒場に向かう。どう見てもどちらも未成年だが、二人とも何の気後れも為しに目的の看板が出ている場所までたどり着いた。

 看板には『山積みのお宝亭』とある。

 昼間でも開いている冒険者用の酒場兼宿屋で、情報も人材も大概ここに集まる。

 大きな町には必ずこんな酒場兼宿屋が一軒はあるものだ。

 勇者たちも町を訪れるとまずこういう場所に足を運んだという。冒険の基本の場所なのだ。

 とはいえ、魔王消滅に浮かれているのはここも同じようで、中からは楽しそうに笑う声が聞こえてきている。

 聞こえてくるのは荒くれ男の声ばかり。女性二人が入っていくにはちょっと心の準備が必要な場所だろうに、彼女たちはためらいもなくドアを開けた。

 一瞬、視線が集中する。少女は全く臆することもなく、壁を埋め尽くすように張られた依頼のほうへ行き、レナはまっすぐカウンターのほうへ進んだ。

「こんにちは、ドルスさん。あたしのこと覚えてくれているかしら」

 小首をかしげるレナに、酒場のマスターは目を丸くした。

「……そのどう見ても十代前半にしか見えない童顔低身長……そのわりにむちむちばいんばいんの聖導師……ってことはレナフレアさんか!」

「……分かりやすいけど嫌な覚え方ね……」

 覚えていてくれて嬉しいとは言えなくなったレナフレアである。男という生き物は女の顔と身体にしか興味がないのか、と思わず半眼になってしまう。

「だってあんた、二十代でその顔は反則だろう? 初めてあんたたちがここに来たときゃ、未成年のペーペーだらけだと思って追い返すところだったし」

「そうよねぇ、懐かしいわ。あの時はほんとにバカ扱いされたし?」

 口元だけを笑わせて、レナフレアはマスターを見やる。魔王を倒す旅の最中だと言ったレナたちを、ここの酒場の連中はまじめに相手にしなかった。無理もない反応だと彼女自身も思っているので責めるつもりはない。からかっているのだ。

「い、いや、まさか本気だとは思わなくて……悪いことしたと思ってるよ。あんたたち、本当に魔王を倒しちまったんだから! びっくりしたさ!」

「そうね、倒せたのはセーズのおかげよ。あの子があきらめなかったから。あたしたちに希望を与え続けてくれたから。彼に感謝してね」

「そりゃもちろん! っとあの子は? 新しい仲間かい?」

 壁際で依頼の紙を覗いている少女にマスターは視線を向ける。その視線はなんだかいぶかしげだ。マスターはどこかであの少女を見たことがあるような気がしているのだが、どこで見たのか思い出せない。職業柄、人の顔や特徴を覚えることは得意なのだが、彼女をどこで見たのかは全く思い出せなかった。

「まぁ、そんなところ」

 レナは緩みそうになる口元を必死で押さえてなんとかそう答えた。

「ほかの子たちはどうしたんだ? セーズ様や……あとエリオスだったか? あのぼうや」

 懐かしそうにマスターは思い出す。勇者セーズ。初めて会ったころは頼りない少年に見えた。なのにどこか他人を包み込むような雰囲気を持つ、不思議な少年だった。

 そしてエリオス。意地っ張りで可愛くない少年だった。なにをするにも誰かと張り合って必ず勝ってしまうような有能な少年で、マスターが持った印象は本当に小憎たらしい子供だった。

 レナフレアとよく口論していたように思う。誰が割って入っても止まらないケンカだったが、セーズが入ると必ず止まった。レナもエリオスもセーズに対してはとても意地を張り通せなかったのだ。その関係はなんだかほほえましく、本当の姉弟のようだったことをよく覚えている。

「エリオス……えぇ、今は別。あたしたちはバーミリアスを探しているの」

「バーミリアス?」

 マスターは首をひねった。どこかで聞いた名だ。あまりはっきりと覚えていないが。

「魔王を倒した英雄のあんたがわざわざ探しているってことは大罪人かい? よっぽどの罪を犯したんだろ」

「え」

 レナはきょとんとして、それから笑い出した。

「ち、違うわ。バーミリアスはあたしたちの仲間だったでしょ、覚えてないの? いくらアイツの影が薄いからって大罪人はないじゃない」

「仲間ぁ? ……あんたたち三人パーティーじゃなかったっけ??」

 本気で言っているらしいマスターに、レナは耐え切れず大爆笑した。

 確かにバーミリアスは影が薄かった。セーズを始めとする仲間内で一番印象の薄い男だ。外見は十人並み、とにかく目立たない。

 身長はかなり高いのに、人の目に入らないらしい。そこまで行くともはや特技の域だとエリオスにいつも冷たく言われていたが、まさかここまでとは。

「ほ、ほんとに覚えてないの?」

 収まらない笑いにくすくすと肩を震わせながらマスターに訊いてみる。

「えぇー? セーズ様だろ、レナフレアさんだろ、エリオス坊やだろ? バーミリアスなんて奴いたのか? あ! この街を出てから仲間になった奴じゃないのか!?」

 違う違うとレナは笑いながら首を振った。エリオスが仲間になるころにはすでにバーミリアスは仲間になっていたのである。

 どうやらマスターは本当に覚えていないようだ。人の顔を覚えるのが仕事のような冒険者酒場のマスターにさえ忘れられる男、バーミリアス。

 やはり特技の域である。すごいわ、バーミリアスと、レナは内心で感心した。

 群集の真っ只中で裸になってもバーミリアスなら誰にも気付かれないかもしれない。

「どんな奴だった? 容姿とか特徴は?」

 どうしても思い出せないマスター。レナはまだ笑いながら探し人の特徴を言葉にする。

「年は二十二、魔導師で、背は高いほう、髪の色は紫、目は青。特徴は……影が薄いわね。すごく目立たない、それに尽きるわ」

 太っているか痩せているかすればまだそれが特徴になったものを、体型はやはりごく普通。あたりさわりもなく、特徴もない。顔が良いわけでもなく、これまたあたりさわりない。

 周りにいた仲間たちがまた、顔の造詣の良いものばかりだったのでなおさら目立たなかったのではないだろうか。

 セーズは超のつく美形、エリオスはそこまでいかなくともやはり美少年。レナは可愛らしい女性。この中でバーミリアスだけがごく普通。実力的には魔王を倒すパーティーにいただけあって相当強いのだが、とにかく目立たないので知られていないらしい。

 現に実際会っただろうここのマスターでさえ、覚えていないのだ。

「バーミリアス、バーミリアス……名前に聞き覚えはあるようなないような……で、何でそいつを探しているんだ?」

「ちょっと用事があって。アイツにしか分からない魔法の話なの。どこ行ったのか分からないのよね、音信不通で」

 困っているのよとレナは苦笑いを浮かべる。心底から困っているのは彼女ではないのだが。

「今のところ心当たりはないが……英雄の頼みだ、なんとか調べてみるよ。ここに来る連中で見た奴がいるかもしれないしな」

「お願いするわ。部屋は空いている? しばらくここに泊めてほしいのだけど」

「あぁ、大丈夫だよ。とっときの部屋をあてがうさ!」


勇者のパーティーは美人ぞろいだったようですが、バーミリアスだけ、別(酷)

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