エピローグ
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最終話です!
エミリーとオールポート伯爵。そして、グレミヨン商会をはじめ、オールポート伯爵の計画に加担していたものたちは全員捕縛されて裁かれることとなった。
ディアーヌとディアーヌの腹にいる子の殺害を企てた、主犯のエミリーとオールポート伯爵は処刑が決まったが、計画を何も知らなかったエミリーの夫バレ子爵は罪が確定する前にアロイスが離縁の手続きを取らせたことで連座は免れた。
バレ子爵もある意味被害者と言える立場だろうから、彼が巻き添えを食らわなくてよかったと思う。
シャルリーヌはというと、ディアーヌから今回の活躍の褒美というわけではないが、もうしばらく侍女の仕事は休職で構わないと許可が降りた。ようやく訪れた新婚生活を有意義にすごせとも言われたが、暗に「社交もしてね」とのことだろうとも思っている。
今度こそ、ブラン伯爵夫人として社交をしてディアーヌの役に立つのだ。
セルジュはシャルリーヌにあまり外に出てほしくなさそうではあるけれど、以前と違って、無理に閉じ込めようとはしなくなった。
一度目の人生においてのシャルリーヌの死の原因となったオールポート伯爵が捕縛されて、近く処刑されるからだろう。
「シャルリーヌ。ひとつ、お願いがあるんだが」
セルジュの方も、アロイスから「褒美だ」と一週間のまとまった休みをもらって、夫婦でのんびりとすごしていたある日のこと。
セルジュが改まった顔でシャルリーヌに向けて言った。
「お願いですか?」
「ああ。いいだろうか」
「……ええっと、まずは内容を聞かないと何とも言えないのですけど」
すると、セルジュはちょっと気まずそうに視線を横に向けた。
ろくでもないお願いをするつもりだったのだろうかと警戒を強めると、セルジュがほんのり頬を赤く染めて、ぼそぼそと。
「……て、ほしい」
「ええっと、なんですか?」
あまりに小さい声だったので聞き取れずに訊き返すと、セルジュがさらに赤い顔になった。
「だからっ……け、結婚式のときのドレスを、もう一度着て見せてほしい」
「はい?」
「あ、あのとき、しっかり見ていなかったんだ! 君の結婚式のドレス姿は、その……、一度目の人生で、オールポート伯爵の花嫁になった時の印象が強いから、だから、ちゃんと俺の花嫁姿で記憶を上書きしたい」
(なにそれ……)
思わず、ぽかんとしてしまう。
「ドレス、まだあるだろう? いや、新しく作ってもいいけれど、時間がかかるし、その……」
「今着てほしいと、そう言うことでいいですか?」
こくり、とセルジュが頷く。
シャルリーヌはあきれたが、赤くなったセルジュがなんだか可愛くて、そのくらいのお願いならかなえてあげようかなという気になった。
ちょっと支度が大変だが、まだ昼だし、今からなら夕方までには支度が整うだろう。
「わかりました。髪型とか、あの日の装いに揃えるので少し時間を下さい。タチアナに手伝ってもらって準備しますね」
「ああ。じゃあ俺は、その間仕事をしているから」
「そうですね。見られていると支度がしにくいので助かります。着替えたら呼びますから」
「わかった」
セルジュが部屋から出ていくと、シャルリーヌは専属メイドのタチアナに手伝ってもらいながら結婚式の日の装いになるように、記憶を頼りに支度を整える。
髪型も、アクセサリーも、もちろんドレスもベールも。
今日からセルジュ・ブランの妻になるのだと、期待と不安に胸を躍らせていたあの日の記憶を手繰り寄せて。
(ドレス、処分していなくてよかった)
何度か、捨てようと思ったことがあるのだ。
着られる服が少なくても、さすがに結婚式のドレスを着て過ごすわけにはいかなかったし、なにより、あのドレスを見たら嫌な記憶を思い出すし。
だけど、このドレスは、ディアーヌがプレゼントしてくれたものだから捨てられなかった。
幸せになってねと、ディアーヌが言って手渡してくれたものだから。
鏡に映る自分が、あの日の自分の姿になっていく。
セルジュは記憶の上書きと言ったけれど、本当にそうかもしれない。
シャルリーヌも、髪型が、化粧が、ドレスが、あの日の自分に変わっていくたびに、徐々に幸せになれなかったあの日の記憶が上書きされていくのを感じた。
「お綺麗ですわ、奥様」
「ありがとう、タチアナ。タチアナの腕がいいから、本当にあの日と同じ感じだわ」
「ふふっ、奥様の記憶がいいからですわ。あの日どんなふうだったのか、細かいところまで覚えていらっしゃいますもの」
「そうね」
だって、あの日、シャルリーヌは楽しみだったのだ。
不安もあったけれど、自分の夫となる人は――家族となる人は、どんな方なのかしらと、とてもとても楽しみだった。
顔だけは知っていても、中身はまるで知らない相手だったけれど、頑張って幸せになろうと、そしてディアーヌの役に立とうと、胸を高鳴らせながら支度をした。
侍女仲間が髪を結ってくれるのを、化粧をしてくれるのを、まるで魔法にかけられていくみたいに感じながら見つめていたから覚えている。
「お疲れ様でございました。さあ、できましたよ。旦那様を呼んでまいりますね」
「ええ。ありがとう」
姿見を見つめれば、その中に、あの日の自分がいた。
タチアナがセルジュを呼びに行ってすぐに、こんこんと扉が叩かれる。
走って来たのか、扉を開けて入って来たセルジュは少し息を乱していて、振り返ったシャルリーヌは笑ってしまった。
そんなシャルリーヌを、セルジュが呆けた顔で見つめる。
あまりにも凝視されるものだから、シャルリーヌは恥ずかしくなってきた。
「……どう、ですか?」
照れながら問いかければ、セルジュが大股で近づいて来て、シャルリーヌを抱きしめようと両手を広げ、しかしそのままぴたりと動きを止めた。
「セルジュ様?」
変に動きを停止したセルジュに首を傾げると、セルジュが力なく手を下ろす。
「い、いや、抱きしめたらドレスが皺になるかと……」
「何言っているんですか?」
変なことを気にするんだなと笑って、シャルリーヌは自分からセルジュに「えい!」と抱き着く。
すぐに腕が背中に回ってきたことにホッとして、彼の胸に頬を預けた。
(本当はあの日、あの夜に、こうして抱きしめてほしかったのよ?)
抱きしめて、シャルリーヌの中の不安を溶かしてほしかった。
その前に、セルジュはいなくなってしまったけれど。
「記憶の上書きですよ、セルジュ様」
「……そうだな」
セルジュの腕の力が強くなる。
今日から。
もう一度ここから。
セルジュと一緒に歩いて行こう。
いいことばかりの人生ではないけれど、悪いことばかりでもきっとない。
現にこうして、シャルリーヌは今、とても幸せだ。
「俺は一生、妻として君を大切にすると誓うよ」
シャルリーヌとセルジュはどちらともなく顔を近づけて。
そして――やり直しのキスをした。
お読みいただきありがとうございました。
これにて完結となります。
最後までお付き合いくださった皆様、ありがとうございました。
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