クドゥクシュ興亡史(メインの物語 Sogno di Volare の歴史的基層)
クドゥクシュという星域は、元来、ドゥアピーズ帝国と、タポルラン諸星同盟の前身たる「トゥアッキ」とが、その覇権を巡って争奪を繰り広げた境界の地であった。
独立以前、この星の統治者が帯びた称号は「総督」あるいは「将軍」に過ぎず、いずれもその時々の宗主国の意向を代行するだけの存在であった。
しかし、トゥアッキ勢力の後退を好機と捉え、クドゥクシュは悲願の独立を果たす。
そして、新興のタポルラン、古豪ドゥアピーズ双方との間に巧みな等距離外交を確立し、
緩衝国家として独自の繁栄を極める単一惑星国家へと変貌を遂げた。これが、現代クドゥクシュの起源である。
新生国家において、君主号として制定されたのは「商王」であった。
その地位は、あたかも役員会によって選出される企業の最高経営責任者にも似た性質を持ち、初期においては一定の正当性と合議制を象徴するシステムであった。
だが、いかなる理知的な制度であれ、世襲制を採用した時点で、統治はやがて専制の色彩を帯びる。
代を重ねるごとに「商王」という特異な君主形態は形骸化し、ありふれた絶対君主へと変質していった。
とはいえ、クドゥクシュという国家そのものは、タポルランとドゥアピーズ――内側世界を二分する強国の国境がただ一点で交錯する要衝として、
星間交易と政治の結節点に君臨し続け、絢爛たる繁栄を謳歌したのである。
この国家の急速な凋落、そして滅亡への道程は、マッヒトトン、アプロ、そしてイツェンギチュ(セダスタの父)という、末期の三代の王たちによって決定づけられることとなる。
凋落の端緒:マッヒトトンの野心
国家の傾斜は、マッヒトトンの即位と共に始まった。
極めて強硬なタカ派であった彼は、戴冠と同時に関税および宇宙船通行料の大幅な引き上げを断行する。さらに、ドゥアピーズやタポルランへの牽制を意図し、実質的な戦力増強を伴わないまま「新型宇宙艦隊」の配備計画を大々的に喧伝。軍備拡張を誇示するこの政治的パフォーマンスは、周辺大国に無用な警戒心と敵意を植え付けるだけの結果に終わった。
致命的転換:アプロの治世と新航路
続くアプロの治世において、事態は決定的な局面を迎える。
750年代以降、タポルラン諸星同盟は外側世界への進出を加速させると同時に、内側世界においても、「バンガリャン(ラプター)」の1人だったグレジョイの手により、
「南洋星団」を経由する新航路を開拓させたのである。
それは「クドゥクシュを経由せずとも、最終的にネトヴィツへ到達可能なルート」の確立を意味していた。この新航路の誕生によって、クドゥクシュが独占していた地政学的価値は暴落し、その優位性は過去のものとなった。
往時の栄光に固執したアプロは、失地回復を狙い、周辺の小規模植民星や自治領に対して秘密裏に自立支援や交易圏の拡大を持ちかけるという策に出た。しかし、この外交工作はドゥアピーズにとって明白な挑発行為と映り、さらなる批判と軍事的圧力を招く呼び水となってしまう。
余談:役員会の復活と廃位
特筆すべきは、アプロの最期である。彼の時代には、かつてクドゥクシュが企業国家であった頃の遺構――王権の抑制機関としての「役員会」が再興していた。
アプロはこの会議によって罷免された史上 2人目の商王となった(1人目は 2代商王アツキノー。これに危機感を抱いた 3代ソゼンが役員会を弾圧し、以降の専制体制を確立した経緯がある)。
内憂外患の果てに王が挿げ替えられたこの時、すでに滅亡へのカウントダウンは始まっていたのである。
終焉への序曲:孤立と包囲
弱り目に祟り目と言うべきか、760年代に入るとドゥアピーズ帝国は、積年の領土問題を蒸し返し、クドゥクシュへの批判キャンペーンを公然と展開し始めた。
さらに、戦意を煽るプロパガンダが内外に浸透したことで、小規模なテロや暴動が国境双方で頻発するようになる。これらは、大国が小国を併呑する前夜に見られる、あまりに典型的な不安定化工作の兆候であった。
最後の王 イツェンギチュ
こうした硝煙漂う情勢下で、統治のバトンは最後の王、イツェンギチュへと渡される。
彼が治めた 70年代から 80年代にかけて、クドゥクシュは依然として富裕な惑星国家の体裁を保ってはいたものの、社会の至るところには火薬の匂いが充満し、もはや戦争の足音は誰の耳にも明らかであった。
784年:クドゥクシュ戦役
784年、ついにドゥアピーズ帝国はクドゥクシュへの本格侵攻を開始する。
総数68隻を号する宇宙軍の連合艦隊が、富める孤独な惑星の防衛宙域を覆い尽くした。
宇宙時代において、戦争の趨勢の8割は艦隊戦によって決せられる。この冷徹な常識に従い、クドゥクシュの命運もまた、防衛艦隊の壊滅とともに尽きた。
その後に行われた地上戦には、もはや戦略的な意義などほとんど存在しなかった。
しかし、それでも敢行されたのは、式典がすべての儀礼を履行して初めて完了と見なされるように、戦争にもまた、一定の手続きを経て終わりを告げる「形式」が必要だったからに他ならない。宇宙艦隊の衝突の、あくまで余技に過ぎぬこの掃討戦は、しかし、無意味であるがゆえの悲惨な犠牲を伴うこととなった。
わずかな抵抗ののち、地上軍司令本部を擁するホドー、そして首都クドゥロが相次いで陥落。
かくしてクドゥクシュは歴史の舞台から完全に姿を消し、ドゥアピーズ帝国の版図へと組み込まれることとなったのである




