第19話 後腐れなく
第一回編集(2022/3/24)
誤字脱字の修正、文章の修正、文章の追加、ふりがなの追加、言い回しなど編集しました。
「はぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
長く息を吐いた。
ため息ではない、言うなれば解放に近い。
俺は与えられた部屋……、
「納得はしてねぇけどな!」
何で光源を取っているのかはわからないけど、ほんのり照明がある鉄格子で囲まれた檻という名の監獄で俺は布団の上に大の字で寝っころがっていた。
一応、誰もいないようで人の気配はない。
なぜ監獄にいるかと言われれば、俺の立ち位置に起因する。
客という立場のアレク青年とアルフォナイン君の二人はきっと客室に案内されただろう。
そしてアイミはすでにこの学園の生徒として認められた。
じゃあ、俺は?
その中途半端な俺に与えられる部屋はないとのことで、鍵はかけられなかったが牢獄の一部屋に案内されたのだった。
まぁ、元々布団もないような森の中で生活していた俺からしてみれば十分な待遇だったりするのだが、ここ最近は野宿の頻度が減っていた分、ぶう垂れるのは仕方ないだろう。
それでも久しぶりに一人になったことで色々と解放された気分に浸ったというわけだ。
考えても見れば、アイミと三人の冒険者と出会って以来一人になることはほとんどなかった。
「濃い」
一言でいえば、最近の日常は俺の生活にはなかった濃い日常だった。
「疲れたー」
一人がここ数日を思い起こす。
のんびりとした暮らしが一変し、バトルファンタジーの観覧者に成り下がった。
助けるつもりもなかった一人の少女の人生を変え、引っ越しを余儀なくされ、気づけば美少女にストーカー紛いな事をされ、この歳(実年齢)で学園に入園しそうになっている。
「荷が重いわ」
ただ、ここで一度整理しなければならない。
本来の目的。
それはこの学園には正直ない。
アイミの手前、常識という部分でここまできた。
ただ、この学園で得られる常識はきっと騎士としての常識であり、俺が必要としていた常識からは少しずれてしまう。
教育機関ということもあって、読み書きや歴史なんかも知れればなぁと軽い気持ちも、今となっては期待できない。
なぜなら、元の世界でいうそれは小学生の立ち位置で、ここでは専門職を学んでいる。最低限俺が求める資料もあるだろうが、それだけに時間を費やしたい俺と、騎士を育てようとしている機関の意見は一致しない。
それをあの学園長は見抜いている。
だからこそ、俺は合格できなかった。
そして、本という媒体は【ギサール】の街にも存在していた。
つまりはその手の資料は求めれば手に入れられる。
今まで手にしていなかったのは、目的を持たず文字の組み合わせなんかを眺めている程度だったからだ。
本格的に学ぶとなれば、最低限の読み書きができる人に読み聞かせてもらい、ひたすら書き続けるしかない。
それは別にこの学園でなくともできる。
「会話ができるだけ端折れなくはないんだけど……」
それでもできれば便利であり、都合がいい場面はきっとあるはずだと求めた。
「優先順位の問題なんだよなぁ」
元々は一人で過ごすための娯楽ではじめたことで、重要度はそこまで高くはないのだ。
「そうなると……」
別れたばかりの冒険者三人を思い浮かべる。
頼むだけ頼んだ拠点。
加えて、教師役としてはうってつけの相手ではあるけど、きっともうこの町の近くにはいないだろう。
それに、探す術もない。
なにより面倒だから探さない。
「この際、仮拠点でもいいか」
だから、一人でできることを考える。
「ふふ」
なんやかんやこの世界にきて逞しくなったものだ。
元々は慎重な性格で追い込まれればやる。
それが起きているだけの事、加えて源素という俺にとってのチート能力は常識で存在し、十分すぎる。
「♪」
なんだかんだこの数か月は、人見知りでコミ症の俺でも十分楽しかった。
だから、もう満足だ。
もう、この学園にはいられない。
いさせてもらえない。
いたいと思っていない。
そうなれば、歩を進めよう。
「ふー」
これだけ先の事を考えるのは、この世界に来た時以来だろう。
あの時は、ただ混乱し、何をしていいのかわからなかった。
その時に比べれば、できる事への可能性を考えるのは楽しいものだ。
「ふふ」
すでにアイミはこの学園の生徒になった。
「ささやかな冒険はもう終わりだ」
後腐れなく立ち去ろう。
持ち上げた腕の手枷がカシャリと音を鳴らす。
俺に新たに与えられた試験内容。
きれいにまとめたつもりでも、一応片づけなければならない問題は存在している。
「面倒臭いなぁ」
それに、さすがにアイミに何も言わずに立ち去るのは気が引けるから、そのついでにこの手枷を外す。
理由としてはそんな所だろう。
思い出と新たな門出に浸るのはそこまでにして現実に戻る。
「立場か……」
現状俺の立場は部外者。
学園長の許可が正式にあるわけでもなく、存在自体があやふやである。
カミラさんに案内された時も生徒の目に着かないように案内され、誰にも見つかっていない。
ただし、この学園の門でしっかりとアピールしてしまった所為で、レナとアンの推薦で試験を受けにきた生徒がいるというのは伝わってしまっている。
「そう言えば。途中からカミラさんいなかったな」
二人が有名な分、この学園の生徒の興味に確実に引っかかる。
だからこその牢獄部屋。
「ばれずに行動が原則」
時刻は夜。
「めっちゃ寝たい」
今度はため息が漏れた。
そんな葛藤の最中、久々の一人の空間がおしまいを迎えた。
「見つけたぞ」
客の一人であるアルフォナイン君がそこにはいた。
ポッキーの日です!
UPが滞っており、大変申し訳ありません!
ポッキーでも食べて、気長にお付き合いください!
……末永くお付き合いください。。。




