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異世界だろうとのんびりと  作者: ダルマ787
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー第三巻ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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第12話 思っていた展開と違う

今度は、アルファナインは飛びのいた。


「っち」


舌打ちしたのには当然、解石はできないからである。


「面倒だな」


しかし、避けたように対処がないわけでもない。

アイミもそれに気づき、緊張感を持ち始める。


「すごい……」


純粋な感想を述べ、それでもやるべきことを考える。


だが、そこからは防戦一方な戦いになった。


それは監視室にいるタダシ以外も気付く。


「精霊にも序列が存在している。お前はどこまで耐えられるかな」


アルフォナインの気配が変わる。


吹き荒れる風がぴたりと消えた。


アイミは身構えるよりも攻撃を選んだ。


無数の石の蝶が訓練場に舞い、アルフォナインを取り囲むと、一気に襲い掛かった。

次々に襲いかかかる石の蝶の効果は、衝突した場所を石に変える。

避けたとしても、蝶は衝突が起きない限り消えはしない。


しかし、アルフォナインは避ける素振りを見せなかった。

それどころか、気にした様子もなく、それを受け入れた。


「捉えた」


逃げ場はない。

そう感じ取ったアイミだったが、石の蝶が衝突する寸前、一定の距離で動きを止めた。


「風は目には見えない。見えているのは、舞い上げられたほこりや塵だ」


石の蝶は役割を消失させたわけではない。

その証拠に動きを止めた先で形を崩しきっちりと石化させている。

しかし、それはアルフォナイン自身ではなく、その周りに舞い上げられたほこりや塵、もしくは源素の欠片でしかない。


そして、石化したそれはすでにアイミの手から離れ、石つぶてとなって帰ってくる。


「『土壁(ストーンウォール)』」


それを壁で防ぎ、すぐに崩して相手の動向を伺う。


が、それは相手も同じ。


さらには、


「お前、身体強化と石化同時にできないのな」


あっさりと自分の弱点を悟られる。


「まだ後がある。とりあえず、俺の役割を済ませるぞ」


そう言い残し、右手手首を捻る動作をするのを最後、アイミは足元からできる竜巻に巻き込まれた。

全てが遅い。

土のドームで自身を守る壁も、竜巻の発生を食い止める術ももたず、竜巻の中に閉じ込められた。


ただ、不思議な事にアイミの体は宙に浮くことはない。

それどころか、竜巻を内部から視認できていた。


これは相手を捕縛するための術とアイミが勘違いしても仕方がない。

しかし、本来の使い方と形を変えられた竜巻はもっと残酷な意味を持っていた。


「はぁ……はぁ…………」


自身の息遣いでその意味を知ったアイミは、ぞくりと恐怖を覚える。


「(窒息させられるっ)」


ドクンと心臓が跳ねた。


再び恐怖が襲う。


「原種持ちは自身の命が脅かされたとき、一番暴走が起きやすい」


冷たく言い放たれたその言葉はアイミには届かない。


アイミは必死に抗うために竜巻ごと石化を試みるが、敵わない。

それを経験するのは二度目だ。

アンとの戦闘で、氷漬けに抗う時にも力負けしている。

それを返していたのは、


「(いやっ…………)」


心臓が高鳴るにつれ感じられる存在。


ドクンッ!


その直後、監視室にいた大半が戦闘態勢に入った。


「アレク様はそのままここでお待ちください。我々だけで十分です」

「イェール様、少し席を外します」


そう言い残し、立ち去ろうとするアスコルとミツナの二人に、のんきな声を上げたのは一人しかいない。


「たぶん、大丈夫ですよ」


「は?」


とミツナが怒りを交え返し、


「それはどういう意味ですか?」


イェールがミツナを静止させるように質問を投げかけた。


「どういう意味? ……えーと、暴走しないと思うけど」

「それはどうしてですか?」


タダシは適当な言葉を探すが、説明べたを自覚しているからこそ言葉が出ない。

かわりに、

「はは、見てれば分かるかなー」


いいかげんに答えた。


「では、見てみましょう。皆さんも落ち着いてください」


イェールがそう答えると、戦闘態勢に入っていた二人もその緊張を解き、視線は訓練場に注がれる。


その様子にタダシは一人、イェールという存在を感覚ではなく、意識的に苦手なタイプだと認識していた。


誰もが暴走に警戒をするなかでイェールだけはそのまま何かをしようとしてはいなかった。

さらに、それらを分かっていたようにタダシの意見を素直に聞き入れ、全てを許容した。

それが、まるで全てを見透かしているようで、苦手意識に駆られたのだ。


「(どこまで知ってるんだろうなこの人)」


関わりたくねぇと心底思いながら、成り行きに任せるのは変わらず、タダシも視線を戻した。


しかし、タダシの発言とは裏腹に、異常なことが起きていた。


「なんだっ、これ!」


初めてアルフォナインは苦痛の声を上げながら、黒い源素の触手から逃げ回っていた。


黒い触手は竜巻に巻き込まれるように竜巻と同化する。


「『風の爪(ウインドネロウ)』」


直感的に触れてはならないと、アルフォナインは遠距離の攻撃を仕掛ける。


「よしっ!」


触手は風の爪によって切り裂かれ霧散する。


が、それは一端でしかなかった。


「な、なんだよこれ……」


襲いかかってきた触手は枝の一つと言わんばかりに、アルフォナインが作った竜巻は浸食し黒い大樹と化してそこに存在していた。


「くそったれっっっ!」


ダメだっ、と監視室で叫んだアレクの声は届かない。


アルフォナインが源素を高めた瞬間、それに反応するように、黒い触手が無数に襲い掛かる。


触手の数に合わせて風の刃を放つが、数が間に合わない。


「くそっ、くそっ!」


今にも泣きそうな声をあげ、それでも必死に返す。


そして、ついに、


「あ、」


黒い触手がアルフォナインを捉えた。


同時、監視室ではアレクが腰の剣を抜き、アスコルとミツナが戦闘態勢に、タダシは冷や汗を垂らす。


そんな中でも、イェールはまだ表情を変えない。


だが、もう間に合わない。


そう誰もが感じ取った瞬間、



「ダメぇえええええええええええええええええええええええええええええええっっっ!!!」



アイミの叫び声と共に、大樹は霧散していった。


アルフォナインの目前の触手も消える。


「打ち勝った」


誰かがそう零し、大樹の中にいたアイミが意識を失い訓練場に倒れ込んだ。


「行きましょうか」


静寂が支配していた監視室でようやくイェールが立ち上がり、皆に促す。

真っ先に飛び出したアレクは、急いでアルフォナインの元へと駆けだした。


後を追う形で着いていく者たちの中で、


「あなたの言うとおりでしたね」


イェールにタダシはそう言われた。


全然違うけど、と内心で思いながら、


「結果オーライ」


感情のないままそう答えたのだった。


アレクがアルフォナインの傍まで来ると、アルフォナインが力なく尻餅をつき小刻みに震えていた。


「大丈夫ですか?」


一瞬遅れている同僚であり先輩であるアレクの姿を見上げる。


「はっ、はは、余裕」


目に涙を貯めながら強がりは健在。

今後を心配したアレクだったが、その拳に悔しさが宿っているのを見逃さなかった。


遅れて到着した一同は倒れ込んだアイミを見るなり、ミツナが抱え、


「医務室まで運んできます」


そう言い残し、すぐに運んで行った。


「次はあなたの番ですが、ついて行かなくていいのですか? 少しなら時間を差し上げても問題ないと思いますが?」


心遣い、タダシの性格ならそうしていただろうが、残念なことにアイミの戦いが終わった瞬間から、アイミの心臓の鼓動以上に爆音を奏でているタダシの耳には届いていなかった。


「?」


応答がないことに疑問を浮かべたアスコルだったが、気遣いはもう一人にも向けなければならない。


「いかがなさいますか? お客様ですので、これ以上負担を強いる気は無いのですが」


それはアレクに向けられていたのだが、


「あ? やるに決まってんだろ!」


恐怖はすでに怒りに変わってしまっている。


「失礼な態度を私が変わって詫び申し上げます。どうかお許しください。そしてせっかくの申し出ですが、本人がこう言っておりますし、このままというわけにはこちらも行きませんので」


そうですか、とアスコルが失礼な態度も気にした様子もなく後ろへと下がる。


「そうですね。休憩もいらいないですかアルさん?」


「いらない……です」


イェール言葉に少しは冷静を取り戻したのか、アルフォナインは言葉を正しながらタダシを睨みつけた。


ド緊張のタダシと絡み合うことがない視線だったが、


「では、お願いいたしましょう」


アイミの合否も分からぬまま、タダシの試験が始まろうとしていた。


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