第11話 上がる期待値
第一回編集(2022/3/24)
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風で出来た爪をアイミは華麗に避ける。
「原種をもってそんなもんか、あっちのガキもたかが知れてると思うけどな!」
その発言に初めてアイミはカチンと頭にくる。
「そう……、でも、君もあの二人に比べたら、全然弱い!」
その瞬間、お互いの攻撃が止む。
「誰と比べたか知らねぇけど、あんたの実力となんの関係がある?」
「それだったら、私の実力とタダシは関係ない!」
お互いに睨み合いが続く中、監視室では、
「なんか口喧嘩してる……」
「申し訳ありません、まだまだアルは幼い部分が抜け切れてない。実力は申し分ないんですが」
「いいじゃないですか、元気があるのは」
「(そういう問題なのか?)」
「一応部下がいる身としては、許容しづらいですね」
「あら、それなら、聖騎士団国家でお預かりしましょうか?」
「はっは、ご冗談を」
「(この空間も気まずいな……)」
もう少し、世間話とか和気あいあいと談話してくれればと思いながら、タダシは聞いてないフリをするため、意識を二人に戻した。
「そうか、そうだな。原種がなんなのか調べておこうか」
アルフォナインの意味深にも聞こえる言い草にアイミが疑問を浮かべる。
「調べる?」
「少し本気でやってやるってことだよ!」
突如、アルフォナインの周りに風が吹き荒れる。
姿が消えた、とアイミが思った時には、
「ぐはっ」
アイミの体は横に吹き飛ばされた。
「(目で追えないっ)」
「まだまだ行くぞっ!」
直接は殴られていない。
ただ、アルフォナインが近づいただけで、その身体に纏っている風がピンポン玉のようにアイミの体を弾いていく。
右へ左へ弾かれ、どちらかに対処しようとすると、今度は上下に弾かれる。
「くっ」
腕を閉じ、その衝撃に耐えるだけでアイミは何もできない。
「おらおらっ、どうした!」
高速移動のみでアイミを圧倒する。
しかし、その声の出どころにアイミは気が付いた。
「まだ何もしていない――」
ゴッと鈍い音がアルフォナインの腰を叩いた。
「しゃべりすぎ、どこにいるか分かりやすい!」
土で出来た拳がどこからもなく、生成される。
しかし、アイミの攻撃はアルフォナインにダメージはおろか、その形を風の力によって風化させられる。
「このっ、」
「今度はこっちの番っ!」
アイミの銀色の瞳がぎらりと光る。
「なにができるって――」
その瞬間、アルフォナインに動揺が走った。
それと同時、監視室の数名も同様に驚きの声を上げた。
「石化っ!」
「それもアルの風を石化させるとは……」
「風、というよりもそこに交じる源素を石化したようですね」
その中でもいち早く解析するのは、アスコルだった。
「古来存命した種族で石化を主とする者は、ゴーゴン族ですかね。普通のゴーゴン族では、そこまで出来ない事から、原種とは恐ろしいものです」
そう言いながら、ここにいる者達には余裕がある。
それはとてつもなく畏怖するべきことなのだが、
「(最初から石化してればいいのに)」
アイミの能力について知っている、尚且つ脱出できるタダシは、ぼーっとなんの感想も抱かず眺めていた。
それが、返って期待値を上げることになっているとも知らず。
「(原種であれだけということは、レナンの推薦であるこの少年はどれだけの力を有しているのか)」
「(レナンさんの推薦の少年はどれだけのモノ持っているというのか、聖騎士団国家ほど敵に回したくない場所もない)」
「(長いこと待たされましたからね、学園長の期待を裏切らないでほしいものです)」
視線に気づいていたタダシは妙な圧に震えていた。




