第9話 出来る事
第一回編集(2022/3/23)
誤字脱字の修正、文章の修正、文章の追加、ふりがなの追加、言い回しなど編集しました。
開始早々、監視室にいるタダシの度肝を抜いた。
「おいおい、何でもできるんかい!」
アイミは一切の手抜きをしない。
そう言わんばかりに身体を強化したのだ。
それは紛れもなくタダシが使っている技術と同じもの。
「珍しい技術ですな」
副学園長である、アスコルは顎に手をやり感想を述べる。
「ですが――」
そんな監視室の声は届かないまでも、アロフォナインは同じ感想を述べていた。
「ふ~ん、珍しい使い方をするんだな」
余裕を見せつつ、構える。
「源素の無駄使いだぜ」
空調設備はあるものの、無風に近い密室空間に風が舞い始める。
「俺の精霊の属性は『風』だ教えといてやるよ」
そういうや、大砲となった風の塊がアイミを襲う。
アイミのいた位置が爆音とともに砂埃であたりが見えなくなった。
「ま、避けるだろ、それくらい」
アルフォナインはズボンのポケットに手を突っ込み、後ろから迫るアイミの拳を避けるために屈む。
「ほらよっ!」
後ろに跳ぶや否や、予備動作のないまま風がアイミの姿を押し返した。
「きゃっ」
態勢を整え、アイミは地面に足でブレーキを掛ける。
「雑な戦い方だな、聖騎士とは呼べねぇよ!」
再び、風を起こそうとするアルフォナインの前が急激に暗くなる。
「なるほど、土の精霊かっ」
アルフォナインを囲う為の壁が四方にできると、そのまま閉じ込めに掛かった。
「少しは考えてんのな!」
ポケットから片手を出し、手のひらに空気を圧縮していく。
そして、それをそのまま天高く手を上げ放った。
最後に繋がる土の天井の脆い部分に穴が空く。
そこからヒュンとアルフォナインが飛び出す。
「空……飛んでる」
アイミは目の前に風を纏い浮遊する少年に驚きを隠せない。
「経験不足だな」
アルフォナインは特別な事はしていない。
だからこそ、アイミの零した感想にその差を口にする。
「推薦されるに値しないんじゃないか? ま、俺には関係ないけど」
獣の爪をイメージするように、アルフォナインの手が空を切り裂く。
そこから、風の刃がアイミを襲う。
風の爪がアイミに襲い掛かっている最中、アイミは深呼吸をする。
実力の差など初めから気にしていない。というよりも、そのものに興味がない。
なぜなら、
「数えきれないくらい、負けてきたよ!」
初めて誰かと一緒に旅をした。
初めは自分が何のために一緒にいるかの理由を求めた。
ただそれも意味がないと教えられた。
そして、後悔しないために必要なものを教えられた。
その度に負けてきた。
だから、この時間は、
「何一つとして無駄にしない」
最初から、勝つことを意味していない戦いは、アイミにとって成長する可能性でしかない。




