第28話 考えさせられる調整
なんだろう、元の世界でこんなにも空を眺めることがあっただろうか。
なんとなくで、仕事をこなし、休日には店内で同僚と一喜一憂し、時に喜び、時に消沈し、そんな日々。
黄昏る事なんて忘れたかの様に淡々と生きていた。
のんびりといえばのんびりとした日々なんだろう。
でも、どこかに物足りなさを感じていた。
だから、この世界では楽しいのんびりライフを過ごすために、土台を作ろうとしていた。
だから、思い付きではあったけど鬼ごっこを大いに楽しもうとした。
なのに、
「こんなの、俺が思ってた鬼ごっこじゃなーい!」
逃げた先でごろごろと苦悩し、背中に土と枯葉を付けながら悶えた。
想像にない危機から間一髪の逃走は成功も成功だ。
だって、完全に撒いた。
でもね、追いかけてこないのは違うじゃない!
いや、そもそも、鬼ごっこに遠距離攻撃ってないじゃない!
ルール作ったじゃない!
「甘かったー、甘かったぁ! 異世界舐めてたわぁ」
この失敗はルール作成の時だ。
根本的に源素の方を封印しなければいけなかった。
それもこれも、力に溺れたんだろうなぁ。
「走るの楽しかったもんなぁ」
残像拳できると思ったもんなぁ。
その所為で、俺の中での鬼ごっこは破たんしていたんだ。
きっと、俺以外の全員が、逃げる追うの構図より、鬼と対峙し立ち向かう構図を想像しながらこの遊びに臨んでいる。
だから、アンとの鬼ごっこはあの形になってしまった。
「他もこんな感じなんだろうなぁ」
すでにジオラルとカルバンもルール上問題ない倒され方をしたであろう。
そうでなければ、アンとの一戦に混ざってなければならない。
「はぁ」
深いため息が漏れる。
「楽しみにしてたんだけどなぁ」
思い出の中に蘇る幼少期の鬼ごっこ。
ジャングルジムやすべり台を駆使しながら鬼から逃げるはらはら感。
その程度の緊張を思い描いていた。
求めていたものとの違い。
急速に冷めていく。
「つまんね」
この勝負の行方に興味を無くす一言を呟くと、そのタイミングでこの勝負のボスが現れる。
ジャンオル・レナン、俺がであった中でも異質の存在。
それが、表情硬めにどこか沈んだ表情で現れた。
アンの情報からアイミは負けたんだろう。
制限時間残りわずかな合図も打ち上げられない。
でも、もうどうでもいい。
勝ち負けよりも勝負の内容が気に食わない。
「ごめんなさい」
ところが、思いがけないレナの一言で俺は地面から体を起こす。
「なにが?」
レナは俺の傍まで来ると横に腰かける。
「こんな形にしてしまって」
それを聞いて、俺は反省した。
本来の形の鬼ごっこを望んでいたのは俺一人ではなかった。
そして、それを伝えきれなかったのは俺自身だ。
きっと、この子は俺とは違う形で鬼ごっこを心から楽しもうとしていたんだ。
発案者なのに、遊びをないがしろにしたことに大人げない情けなさを感じる。
だが、それで終わりにしてはいけない。
こんなものこの世界に持ち込んではいけない。
そんな気がした。
だから、
「要、調整が必要だな」
この世界にあるまで鬼ごっこの進化が必要だと考えた。
「え?」
「たぶん、源素を使わないってだけじゃ、足りないんだと思うんだよ。もっとパワーバランスを考えて、いや、まてよ、そもそも鬼ごっこって無限ループが基本だよな。そこから、徐々に調整していった方がまとまるんじゃないか?」
考え出すと止まらない。
「いっそのこと、普及しまくれば、独自のルールも各地広がるんじゃ。そこから世界大会まで広げれば、面白いんじゃ。どうせ、俺の脳みそで考えられるものなんてたかが知れてるし、子供の方が柔軟なわけで、それをもとに大人のルールを付け加えながら、いや、まてまて、この世界他種族いるわけだから、種族間でのチーム戦ってのも面白い!」
「え、あ?」
「夢広がるぅー!」
完全に失敗を忘れ、次の展開に心を躍らせたていたら、隣で困惑している少女が一人。
顔面が鉄板よりも熱を持つ。
「わ、忘れてください……」
年甲斐もなく恥ずかしいことを言ったものだ。
「違うっ! それは、私もできるのかな⁉」
「え?」
思わず、何を言っているのかわからず、レナを見た。
どこか不安そうで俺が次に言う言葉に全てを賭け縋ったような瞳。
それが意味わからなくて、
「当たり前だろ。なんでそんな仲間外れみたいなことを俺がせないかんのよ。調整よ調整」
協力しろよと言わんばかりに言ってのけた。
「ほんと?」
「嘘なんて言ってどうすんのよ、あー、そうなると、やっぱこの世界の基本知識いるよなぁ」
俺は諦めたようにある一つの提案を思い出していた。
すでに終わりを告げていた鬼ごっこに見切りを作るとして、
「そういえば、アイミってどうなったの? テトラは救護役だからあれとして」
この鬼ごっこで唯一出会うことがなかったアイミの行動に尋ねてみた。
すると、まるで憑き物が落ちたように柔らかくなった表情をレナはつくる。
それに俺はドキリとしたが、
「あの子は強くなるよ」
理解できない一言に、一瞬で俺は正気に戻る。
「な、何のために?」
心底理解できていない俺に、初めて見るレナの微笑みが余計必要なものを明確にした。
「やっぱ、異世界って分かんないわー」




