表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界だろうとのんびりと  作者: ダルマ787
ーーーーーーーーーーーーーーーーー 第二巻 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
49/243

第17話 座右の銘

「へくしゅんっ――失礼。それでどうしようか?」


どこかで、憐みの念を抱かれているとは知らず、カルバンは呼び出された本来の話をするために、本腰を入れる。


「あっ、そうだ、本題忘れてた」


相談なんて人生で初めての事で、重要な事を俺は忘れていた。


「おの二人を納得させる提案かぁ……」

「結局、勝負事になるんだろうなとは思っている」


「世界で十本の指にはいるあの二人に勝つ……か」

「一応言っておくけど、戦わないぞ」


「でも、勝負って」

「土俵さえ変えられればいいだろ」


「土俵?」


まじか……。


「カルバン、君は平民だろ」

「そうだけど」


「ゲームとかないのかね?」

「げーむ?」


あ、その言葉はないのね。


「遊びだよ ア ソ ビ 」

「どうだろう。僕は平民と言っても貧困外の出だし、生きるためにだいたいは働いて――」


「なんか、ごめんなさいっ!」


ただただ平謝りである。


とりあえず、俺の常識のなさは置いておいて、相談者としてその辺の説明をしてもらう。


「一般的に子供の遊びは駆けっことかはさすがに知っているけど」


思い出される町中での逃走劇。


「ひぃっ」


思えば正体不明の不気味な仮面の変質者は恐怖だった。


「?」


突然震えた俺に疑問の視線を投げかけてくる。


が、思い出したことで良い案が思いついた。


「これはあれだな、子供の頃にはやってたけど、大人になってからはまったくやらなくなった遊びで勝敗を決める」


異世界の何かかとカルバンは考える中で発表する。


「大人の鬼ごっこだ」

「大人のオニゴッコ?」


なんとなくいやらしく聞こえるのはスルーしよう。


「簡単な話、一人が逃げてもう一人が捕まえるたら、捕まえた方が勝ち」

「なるほど、逃げ切ったら逃げた方の勝ち」


「そゆこと」


ここで大きな問題がある。


「……あの二人から?」


そうは言うが、根本的に俺はその二人の事を良く知らない。


「そうだった、根本、相手の情報がいる。特にジャンなんとかレナ」

「ジャンオル・レナンだよ」


覚えきれるかっ。


「確かに、どうしてタダシに興味を持ったのかわからないけど、まずそこは置いておこう。と言っても、僕の知っている情報もそう多くはない。その辺の住人よりは多少は多いだろうけど」


それでも全く知らない俺よりはマシだろう。カルバンのそう多くない情報ということもあり、ヒントになるなにかがあればいいかと気軽に話を聞く態勢に入る。


子供ならではの体重で柵に全体重を預けて、バランスを崩すもすぐに立て直している頃に、カルバンの話は始まった。


「名はジャンオル・レナン。年齢20歳」


ただ、その話は俺が思う甘いものではなかった。


「あの人は聖騎士団国家(セントクロス)の最年少記録を全て塗り替えた――」


それを序章に話は盛大なものになっていく。


聖騎士団国家に入ったのは、若干九つの時、今でこそ字もちであるが貴族ではない。

そして入園と共にその力の一端は世界に知らしめるほどだった。


聖騎士団国家は入園も卒業にも年齢というものでの縛りがない。

どんな者であれ、早くても三年、遅いもので十年の月日を過ごすのが一般的だ。

しかし、ジャンオル・レナンはその月日を一年で卒業する。


そして、卒業と共に聖騎士長の座に就いた。


そこからは、世界が認める功績をいくつも打ち上げた。


一国の王を守り、時には戦争を終わらせ、またある時は自然災害をも食い止めた。

どれも一つ一つが、冒険者でいうSランク以上の案件で、伝説とかした。


「化け物じゃないか……」


その中でも有名なのが、冒険者との共闘だったという。


そこからは色々な国からオファーが殺到し、その流れで専属依頼が殺到したが、本人がそれを拒否。

その所為で当時は、力ある国からは狙われることもしばしばあったそうだが、逆にそれを返り討ちにすることでさらに名声を高めた。


さらに、ジャンオル・レナンが作り上げた女性のみのチーム、『戦場の戦姫(ワルキューレ)』は、騎士隊の中でも少数精鋭の特殊部隊。

一人一人がその美貌と強さで名を轟かせ、チーム解散後もその名は未だに衰えることを知らない。

その中に、アン・クラナディアが副聖騎士長(ロイヤルナイト)と存在していたという。


「それも二人か……」


そこからも出るわ出るわの伝説だらけ、もうお腹いっぱいだ。


それでも話は終わらない。


「――特に世界を驚かせたのはあの人が、聖騎士長及び聖騎士団国家を辞めると言った時だったよ」


それはあまりに突然のことだったらしい。


「辞めると言ってもあの人たちの場合、そう簡単でもなかったらしい。実際、想像の範疇だけでも、数十年分の仕事はあったはずだからね。しかもそれを正式に終わらせての引退。世界中が驚いたはずだ」


それは、引退のことだけでなく、数十年の仕事を一年足らずで終わらせたことも含めてなのだろう。


「実際の所、正式な引退は発表されていない」


聞きたくないけど、訊かないわけにもいかない。


「なぜ?」

「理由は分からない。ただ考えられるのは、聖騎士団国家と無関係になったと知られたくない可能性もある」


それは、聖騎士団国家側の話だ。


「でも、おそらく引退はしていると考えていい。タダシが気に入られたのと同様に、僕たちに興味を持って今の事態になっていることから、おそらく無所属の立場で自由に動けている」


「それでも有名だからあの変装を?」

「騎士としては動けないだろうから、おそらく」


「ん、まてよ、引退理由って『新しい波』が握ってるんじゃないのか?」

「それを言うなら、タダシの方がってなるけど」


「ぐっ」


確かに、標的が俺になった時点でそう言えなくもない。


「そんな嫌な顔をしなくてもきっと動機は違うよ」

「なぜ?」


「僕たちが冒険者になると決めた日よりも、あの人の引退の発表はしたのは前の事なんだ」


なるほどそれならきっかけは違くなる。


「と、ここまでが一般的に知られている話だね」

「はいっ⁉ まだプロローグっ??」


「これでも聖騎士団国家の出だからね、一般的に知られていない事も多少はわかる」


うん、わかった。これ以上は俺の可愛い脳みそちゃんが涙を流す。


「例えば、平民は聖騎士団国家の関係者の推薦人が必要だけど、未だにその推薦人が誰か不明とか――」


「もういい」


「え、でも情報は多い方が――」

「無駄だということが分かっただけで十分だ」


「無駄?」

「考えるだけ解決策はない!」


カルバンは呆れた様子で額に手をやる。


「ジオラルでもこういう時はちゃんと考えるのに」


それはマジ心外だ。


「一緒にするな。一応、思ったこともあるんだよ」

「それは聞いても?」


なんとなく含みのある言い方だが、気にせず俺はそのことを口にした。


「久しぶりに鬼ごっこがしてみたくなった」


今日一の深いため息をカルバンが吐く。


「いやいやいや、子供の頃の遊びを大人になってからやると、面白いはずなんだ! だって、本気の奴だぞ! しかもちゃんと罰ゲーム付きならなおさら!」


「もう何を考えているんだ……君は」


記録的なため息をあっさり塗り替え、さらなる深みのあるため息を吐かれたが、勝てないと思ってやるんだから、楽しい方がいいだろう。


「聖騎士団国家に入ることになるんだよ」

「死ぬよりマシだろ?」


「言いたくはないけど、僕はあそこで――」

「最悪、入園だけして脱走しよう」


「は……?」

「負けたら、外から逃げる為に助けてくれ」


「逃げる……?」

「そりゃそうだろ。そんな貴族だらけの中に俺なんかが合うわけない。いじめられたらどうする? んなもん、逃げるしかなくない」


俺は鼻で笑いながら、最初っから負けるつもりで逃げる準備を欠かさない。


「君たちに会えたのは怪我の功名、一人で逃げるよりも気が楽だ! むしろ、逃げる事の方が本番だな!」


カルバンは目を丸くしながら、不意に後ろを向いた。


「ほんとに君は……、どうして……」


目頭を押さえているようだが、また呆れられたか?


しかし、そんなの関係ない。


誇りとかそう言ったものは、


「桃に詰めて太郎くんにくれてやったわ!」


そう宣言すると、目を赤くしたカルバンは、


「安心しなよ。僕はすでにあそこから逃げてるから」


まるでなにかを吹っ切れたように、そう自信満々に言ってのけた。


「おっ、やるねぇ。だけど、逃げ歴なら俺の方が上だということを見せてやろう!」


情けなくて笑うしかないが、逃げちゃいけないなんて誰かが決める事じゃない。


前に進むために逃げることが必要ならば、俺は全力で逃げてみせる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ