第14話 ただの異世界人
声に怒りが含まれてるっ。この人、意外と見境ないぞ!
「まぁ、確かに、私もここに来て興味深い存在を見つけましたし」
そういうと今度はアイミを見た。
それが何を意味しているのか冒険者の三人が同時に声を上げ、アイミを守るために前に立った。
俺の脳みそは処理が早くない。
事態の変化におろおろしながら、どうしていいか分からなくなってきた。
「今更あなた達には何もできないでしょう。それに悪いようにはしないわよ。どうかしら、私の推薦で聖騎士団国家へ入らない?」
ビクッとアイミが反応を見せた。
それは恐怖や嫌悪の反応ではないことは分かる。
確かに、その提案自体は悪いことではないと思う。
アイミの常識外れは俺と違い、その人生の境遇から来たものだ。
だとしたら、そこでまた一つの普通の暮らしをすることができる。
しかし、
「……いや、です」
アイミは弱弱しく断った。
アンはその様子に微笑み、
「もちろん、あなただけとは言わないわ。どうかしら、レナの推薦でタダシ、あなたも聖騎士団国家へ入るというのは」
今度はアイミだけでなく、レナも反応して見せた。
「現実問題、私たちも今は聖騎士を辞めた身、いつまでもこのままというわけにはいかないし、教える立場になって聖騎士団国家にいればレナの希望も叶うと思うわ」
おかしい、俺の意思がそこにない。
「どうかしら?」
誰もすぐに答えない。
アイミが何を思い、何を考えているのか、人生を左右する選択に悩み続ける。
自分が暴走者としての自覚を持ち、『新しい波』が同行している理由の一つも同時に叶えてしまう、願ってもない提案。
そして、短い提案で俺を恐怖のどん底に落としたレナは、まるで町中での逃走劇の時に感じた、喜々とした明るい雰囲気に無表情の中に明るさを感じ取れる。
ただ、二人は気づいている。
その答えを出せるのはたった一人であることを。
「そうね、答えはナカムラ・タダシ。あなたに聞いた方がよさそう」
「え、あ、びっくりするほど嫌です」
誰もが喜んで受け入れやすい提案に、速攻で拒否した。
「ぶふっ」
何故かテトラのツボに入ったようで吹きだしていた。
「き、聞き間違いですか?」
「いや、超ウルトラびっくり、これでもかってくらい嫌です!」
テトラが腹を抱えながら大笑いしている。
くそ他人事だと思って……。
「り、理由を聞いてもいいかしら?」
「逆に理由がない」
「はい?」
「俺はのんびりとした生活が送りたいだけで、聖騎士になりたくないし。さらにいえば、戦いたくない」
ぴくっとレナの方が動いたような気がした。
「誰もが憧れる聖騎士団国家に興味がないと?」
「興味あるなしというより、むしろ関わりたくない」
「どうやら、話は平行線になりそうですね」
するどい目つきと口調がそう言ってない。
これは最終的に力づくになりそうだ。
実際に冒険者の三人がそうされたように、
「とりあえず、一日くれ」
それを壊すため俺は、時間を稼ぐ。
「一日?」
アンの不穏な雰囲気が解かれる。
「お互いが納得いくような提案を考える時間」
「それを待つ理由がありませんが?」
「なら、俺はそいつを絶対的に無視し続ける」
指差した先にレナがいた。
そして、俺は普段使わないようにしている相手を見下す言い方をあえてする。
そうすると、さっきまで喜々とした雰囲気のレナの表情は一気に曇った。
おそらく、それを感じ取っているのは、俺とアン、もしかするとアイミだけなのかもしれない。
「なるほど、いいでしょう。しかし、あなた一体何者ですか? 今度は詐欺師なんて嘘はなく聞きたいわ」
子供のふりも今更で、隠すというのもあまり意味がない。
あとは信じるか信じないかだけの話だ。
「ただの異世界人だ」
今度は誰も驚かなかった。




