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異世界だろうとのんびりと  作者: ダルマ787
ーーーーーーーーーーーーーーーーー 第二巻 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
34/243

第2話 異世界人とは詐欺師である

2021/1/13少し文章を足しました

2021/1/23 軽度な編集をしました。

2021/5/27 軽度な(言い回し、誤字脱字)をしました。


街道から外れて一日、俺が暮らしていた森とは違った薄暗い森の中でジオラルは腕が鋭い刃物の魔獣と戦っていた。


「変な生き物だな」


キンッキンッ、とぶつかり合う金属音を聞きながら、荷馬車の荷台の後ろでその戦いを覗いていた俺はそんな感想を述べる。


「ナカムラの山にも魔獣はいたと思ったけど」


冒険者の一人でもあるカルバンはなぜか俺の事を苗字で呼ぶようになり、馬の世話をしている。

もう一人の冒険者、テトラは本当に聖職者なのかと疑いたくなるだらしない姿勢でジオラルの戦いを見もしない。


そして、なぜか冒険者であるはずの二人は戦闘に参加していない。


「カマソンって珍しい魔獣じゃないよね? アイミさんも初めて?」

「ううん、私は何度か遭遇した事あるかな」


そして、ゴーゴン族であり、その体のなかに原種と言われる力を宿した俺の隣人であるアイミは、荷台の隅でちょこんと座っていた。


「しかし、まさかのアイミが年長者だとは……」


やはりというべきか、この世界の成人は一五歳らしく、ジオラル、カルバン、テトラは成人を迎えたばかりだという。

基本、冒険者も一五歳から登録できるらしく、駆け出しだとか。


そのことに驚いていたのは俺とアイミで、俺はその年齢のみに、アイミは年齢にそぐわないBランクという高ランクに驚いていた。


「でも、タダシは二八歳なんだよね?」

「まぁ、月日の流れがあってたら二九になってるかもしれないけどな」

「異世界人ねぇ……」


テトラがまだ半信半疑の疑いの目を向けてきた。


俺は少しだけその話をしたことを後悔し始めながら数日前の事を思い出していた。



引っ越しを決めた数日後の事――。



元俺の住まいが消滅したハゲ山になった荒地に数百本の枝を差し終えてから、俺たちは【ギサール】へと一時宿泊することにした。


宿で二つの部屋を借り、男女で別れて入室。

どうやら、冒険者には冒険者用の宿がギルドの管轄で借りられるらしいが、ジオラルがこの街の冒険者に喧嘩を売ったらしく、面倒なので一般宿に泊まっていたらしい。

その事実が俺の脅しに役に立っていたとはこの時知ることになった。


「一人部屋がよかった」

「文無しが文句言ってんじゃねぇよ!」


暴言を吐いてくるジオラルだったが、その金もすべて焼き払ったのはどこのどいつだ。


「なぁ、これって頭いい方ではないよな?」

「概ねその見解であってるよ。それに君には申し訳ないことをした。僕が代わりに謝るよ」


「まぁ、その件に関してはもういいや。しつこく言っても結果は変わらないし」

「…………」


俺の言い草に何かを考え込んだカルバンは、そのまま考え込むように黙ってしまった。


まぁいいか、と粗末なベッドに腰掛ける。

俺が思う布団なんて上質なものは無いようで、形の悪い何かの固い毛が、これまた粗末な布で覆われて布団と毛布としているようだった。


それでも、地面の布団に丸太の枕、草の毛布よりはいいわけで、俺からすれば一年ぶりのきちんとした寝床で満足である。

この布団を買ったところで、雨風に耐えられないだろうから、購入はしていなかった。

まぁ、存在すら知らなかったけど。


「やぁやぁ!」


久々のベッドと布団をお尻で楽しんでいたら、ノックもなしに部屋の扉が開かれた。


隣の部屋の女子二人が掛け声とともに部屋へと乱入。

声を出していたのはテトラ一人で、アイミは、初めての男子……いや、初めてのお友達の家にきたような面持ちできょろきょろとテトラの後ろに隠れるように部屋へと入ってきた。


俺にとっても部屋に女子が入ってくるような素敵イベントは初体験だったのだが、アイミのような心境になれるはずもない。

だって、これは修学旅行じゃない!


「私たちが来たのは分かってるよね?」


その発言に思い当たる節があった。


「そうか、そうだな」


なんだかんだ、ここまで同行し部屋まで同じだが、アイミの問題が解決した以上この子達と一緒にいる必要はない。


「まぁなんだ、お疲れ、どこかであっても、話しかけないよ、面倒ぐぇえ」


その瞬間、テトラが俺にヘッドロックを仕掛けてきた。


俺に言えるのは一つ、柔らかい膨らみが足りなすぎる。


「そうじゃないでしょ! 真剣な話っ」

「そうだね、はっきりしておこう」


どうやら、考え込んでいたカルバンの思考もテトラの発言と同じことだったようだ。

テキパキと椅子を並べ、その間に俺は自由の身になった。


そして、その椅子にはテトラとカルバン、アイミが座る。

俺とジオラルは各々選んだベッドに腰掛けたまま体をそちらに向けて話は始まった。


司会進行はカルバンが、


「まずはアイミさんの件に関して」

「まだあんの?」


もう解決したと思っての発言だ。


「一つ、暴走に関してこれはまだ解決したとは思っていない。しかし、事実としてアイミさんが石化のコントロールができたということで様子を見たいと考えています」


それは本人であるアイミに問いかけられた。


それに関してアイミは頷いて返事を返す。

実際アイミにとってはその方が安心だろう。

事実を知り、そのうえで見守ってくれていると言い換えることもできるからだ。


「二つ目、引っ越しに僕たちも同行する」

「却下」


即却下に反応したのは、案の定ジオラルだった。


「なんだとっ!」


それを静かにという意味のジェスチャーでカルバンが止める。


「理由は?」


冒険者という肩書上、トラブルの匂いがすごいするからだ。


「冒険者は危険だ」

「いまのところ君達に向けての敵意はないつもりだけど」


「冒険者というより、冒険者の環境」


ふむ、とカルバンは顎に手を当て考える。


「自分たちでいうのもなんだけど、僕たちはルーキーの中でも異質のBランク冒険者だ。タダシが思うようなトラブルから、どちらかと言えば対処できる側だと思う。それに今度はもっと準備もできるしね」


「冒険者と一般人、危ない目に合う回数が多いのは?」

「ん? ああ、そういう意味か」


他に何がある。


「同行の提案には二つの意味がある。一つは、アイミさんの再暴走の懸念、もう一つは、アイミさんの保護」


そういえば、アイミの話関連だったか。

勘違いに、思案する余地が生まれた。


「暴走に関しては、どうせ役に立たないのがわかっているからいいとして、保護というのは?」


俺の言動にテトラは苦笑いを浮かべ、ジオラルは今にも噛みつきそうな勢いで不満そうにしている。


「過去の暴走に関しての記録で、討伐が成功したという事案しかない」


つまり、アイミのように暴走した種族は過去に討伐という処理をされてきたということだ。

そして、今回、アイミはその討伐という行いを覆し、新たな可能性を示した。


「どういうことだ?」

「つまり、前例がないってこと」

「保護ね……」


それは、俺に実験などの暗躍の気配を感じ取らせる。


しかし、


「おそらく、この事は隠しておいた方がいい」


予想外の言葉に俺は目を見開いた。


「タダシは見た目(・・・)の割に勘がいい。おそらく、暴走を食い止めた存在として、アイミさんは捕らわれる可能性がある」


その言葉にアイミの肩がビクンと跳ねた。


「つまり?」


この話はジオラルに説明するためにあるのだろうか? 


そして、その補足役にテトラがいるようだ。


「アイミさんは暴走を止める方法を知っていると思われる。仮にそれを知らなかったとしても、原種を止めた者として、原種の暴走を止める方法を探る為に色々調べられるってこと」


「……でも、それで私のように困っている人が助かるなら」


アイミは馬鹿じゃない。

俺の言動やカルバンの提案に何か暗いものを感じ取れないはずがない。


「そんな自己犠牲俺はゆるさん」


何も分からなかった事に、綺麗ごとだけの調査だけで済むはずがないんだ。

だからこそ、カルバンは言葉を選びながらその提案をしてきた。


「話さなければバレないのでは?」


「そこまで、甘くはないと思う。僕たちはすでにゴーゴンという名を口にしてしまっている」


それだけで、可能性が生まれるということは、諜報という部分でこの世界はそうとう優秀のようだ。

きっと、俺の知らない能力があるのかもしれない。


一気に部屋の空気が重くなった。


その空気を壊したのは、理解が遅れているジオラルだった。


「まぁ、あれだろ、だから俺たちがついていくって話なんだろ」


「まぁね。気付かれないようにする為の誤魔化しの為に、僕たちがなんとかする」


「そのついでに暴走がしないかも、確認しようってこと」


なるほど、と俺は納得した。


すると、膝の上で握りこぶしを握ったアイミはすっと冒険者たちの目を一人一人見つめ、言い放つ。


「もし、罪滅ぼしのつもりなら私は大丈夫です。元々、私の責任で、それにジオラル、カルバン、テトラちゃんを危険な目にも合わせました。だから、今度なにかあればそれは――」


俺が含まれていないのが気になる。


「「「あー」」」


冒険者である三人は視線を泳がせた後、俺を見た。


俺は不穏な気配を感じる。


「まぁ、確かに俺たちに罪の意識がないわけじゃない」

「それに、冒険者としての判断として間違ったとも思っていない」

「あ、もちろん、アイミさんが悪いって意味でもないよ」


じゃあ、と集まる視線の先にいる俺をアイミも見た。


「「「どちらかっていうとタダシの存在の方が怪しい」」」


「お、おお、俺かいっ⁉」


小さな声で「確かに」とアイミが零したのを俺は聞き逃さなかった。


あははと誤魔化しながらアイミは何かを思い出したように、慎ましい胸のあたりでポンと手を合わせた。


「そういえば、似たような事を服屋さんに行ったときに話したよね?」

「そういえば忘れてたな」


確かに、帰ってからその話をする的な事を言った覚えがある。


「まぁ、隠しているわけでもないから話をしてもいいんだけど……」


そう言うと、アイミ関連の話とは違い、四人は興味津々と一列に並んで食い入るように見つめてくる。

その中でもアイミは目をキラキラと純粋に輝かせている。


「アイミ関連の話はついでだったのかよ」


その話しづらい状況に小言を言いつつ、俺は話をすることにした――俺が異世界人だということを。


話したのは、自己紹介の延長のようなものだった。


改めて氏名、性別、年齢、この世界へ来た状況(これに関してはいつの間にかとしか言えないが)、余計な事だけを隠し(童貞とか)、最低限説明する。


当然、疑わしい目と反論をくらう目にあったが、信じる信じないかは自由とした。


その流れで、この世界で異世界人は一般的ではないという事実を得た。

しかし、昔話の中に異世界人という言葉と意味は存在し、今では詐欺師が使う手段として『異世界人』という言葉は定着しているようだった。


「まぁ、異世界人の存在を使っての詐欺は今では誰も使わないけどね」


そういったのはテトラだったが、ようは成りすましに使われていたということなのだろう。

まさか、自分の正体を明かしたうえで、信じてもらえないのは予想していたが、詐欺師扱いされるとは思ってもみなかった。


「そういえば、姓持ち……」


「それに関しては証明できる」


カルバンの疑問に唯一の俺の持ち物になったプレートを懐からだして、見せる。

証明できることは証明しつつ、疑いは晴れないままだった。


しかし、その中でもアイミだけは反応が違っていた。


まさかの質問攻めに、その中で独身であったことがバレ、この世界での結婚適齢期から大分遅れていることを知る。

冒険者の結婚は男女ともに遅いらしいから、恥ではないとか。


そもそも結婚が遅いのはいい、問題は経験値の問題だ、そこだけは今の体が適齢期に突入するまで、いや、墓まで持って俺は逝く。


鼻息荒くアイミの質問攻めを喰らいつつ、俺の正体に関しては疑問を残したままお開きになった。

追及がなかったのは、それが嘘だった場合でも俺の姿が一二歳であり、それを身分プレートが証明していたからだ。


そんな引っ越しの道中、時折、俺は疑いの目を向けられているというわけだった。



「なんだかんだいって討伐って時間かかるんだな」


未だにキンキンと鍔是り合いは続いていた。


「Bランクっていうから、Dランク案件なんてすぐだと思ったのに」


街に滞在していた際、ギルドで依頼を受けたと説明されその時に難易度も聞いていた。


「大量発生って話だけど、これは予想以上に多いかも、これならCランク案件だったって報告してもいいくらい」


「報酬上がる感じ?」


テトラは首を振る。


「世知がらい」


そう言いながら、俺は持ち金の事を考える。


家がなくなった俺は全てを失った。

家も金も服も買ったばかりのアイテムたちも。

ただ、運よく野菜の報酬を後回しにしていたことで、その売り上げ金だけは手元に残ることになった。

そのおかげで再び俺とアイミは新しい服を得て、俺たち分の食料を確保している。


アイミは相変わらず控えめな形で服を購入し、テトラに同行を願い出てよかったと思う反面、センスを再び罵倒された。


「おじさんいい人だったね」


フードが付いていない女の子らしい恰好で、アイミが俺の隣に移動してくると、まるで俺が思い出していることを分かっているようにそんな事を言ってきた。


「それだけが心残りだよ」


実際、俺の野菜を売ってくれていた店主はいい人だった。

事情を改ざんして説明し、引き止められるかと思いきや、豪快に笑って見送ってくれた。

去り際に、うまい話は俺に持って来いよ、と冗談めかして言われたが、売り上げは歴代一位を記録し街で一番の俺の恩人になっていた。


「門兵さんたちも」


なんだかんだ説教が多かったが、俺の心配をしてくれた人では一番かも知れない。


「一人で生きるって難しいは」


つもり、はできても実際は色々な人の力を借りて生きていると改めて実感しながら、ジオラルのストレス発散が終わるのを待つのだった。



「うぉおおおおおおおおおおおおっ、誰か手伝えぇえええええええええええええええええ!」


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