第1話 聖騎士団国家
ここから第二章になります。
2021/1/23 軽度な編集をしました。
2021/5/27 軽度な(台詞の言い回し、誤字脱字)編集をしました。
「ふふ、本当にあなた方の人気は変わらないですね」
休日の学園の廊下に三人の足音と装備が擦れる音が響き渡る。
先頭を歩く聖騎士育成学園、通称『聖騎士団国家』の学園長、クライブ・イェールが要壁を越え届く歓声にどこか嬉しそうに微笑む。
「方、ではないですね。ほとんどはこの子の歓声でしょう。私はおまけのようなものなので」
そして、その後ろを歩く一人、アン・クラナディアが率直な感想を述べる。
「ふふ、そうでしょうか? あなた方で間違いないと私は断言できてしまいますよ」
イェールは歓声に交じるアンのファンの声も聞き逃さない。
「でも、なによりもお元気そうで何よりです」
今まで歓声に興味を示さなかったアンの隣に歩くもう一人の少女がようやく口を開く。
「……学園長も小さいまま」
一瞬、言葉の意味を二人は考える。
確かにイェールの身長は廊下の窓枠まで届いていない。
おそらく、これに嫌味はないのだろう。
むしろ、こんにちは、と言われこんにちはと返しただけのこと。
間違った挨拶の定型返し、全く悪意のない社交辞令。
「ふ、ふふふふっ」
アンはすぐに気が付き頭を抱えながら、イェーンが上品な笑みを零したことで諦めたようにため息を吐いた。
「……間違えた?」
本来なら失礼にあたる挨拶をした少女、ジャンオル・レナンはぽかんと首を可愛くかしげて助けを求めるようにアンを見た。
「失礼学園長、レナはあまりその辺の成長が薄くて」
それもいつものことのように代わりに謝罪するが、レナもアンも元この学園の生徒であり、イェールもそのことを重々承知している。
「いいのですよ、本当に久しぶりに大笑いさせていただきました。私が言うのもなんですが、この学園は息苦しいほど固い部分がありますし、今は女三人誰もいません。気にすることはないでしょう。それに失礼よりも、懐かしい気持ちが勝ってしまいました」
「そう言っていただけると――」
アンを遮り、イェールは唇に人差し指を一本あて、
「堅苦しいのはなしにしましょう」
長く生きた余裕か、微笑んで許した。
そのまま長い廊下を歩き続け一つの扉の前まで到着する。
学園長室。
大きな扉は豪華な造りでいて強固な厚みがある。
それに手を触れるまでもなくイェーンが近づくと自然と押し開いた。
学園長室に入ると大きな立派な机と椅子があり、部屋の壁には本がぎっしりと並べられた棚が囲んでいる。
イェーンはそのまま椅子に腰かける。
「ごめんなさいね。歳の所為か腰の調子が良くなくて」
机の前にアンとレナは並び、
「お気になさらず」
「かまわない」
そう言った。
「それで今回はどんな用事で来られたのかしら? あなた達のような有名な二人は中々学園に呼び戻すこともできないのだけど」
少しだけ嫌味が含まれる。
『聖騎士団国家』の中身は学園国家として存在が認められており、名目は聖騎士の育成と派遣を主に行っている。大半の生徒は実力が認められ、卒業と同時に生徒という名称から聖騎士団と変更され、『聖騎士機関』に所属する。
例外として本人の意思と、使えるべき主、学園側の承諾を持ってその国の直属として遣えることができるが、それを除いては期間を決め、その期間が終わると『聖騎士団国家』に戻ってくる。
そして、その中でも例外中の例外がレナとアンの二人だった。
「聖騎士最上位『聖騎士長』を捨て、冒険者ランクSSまでの称号、パーティランクも同様の称号を得た。でよろしかったですか?」
イェーンは二人の経歴を簡単になぞる。
「ランクはSだから少し違う。それに冒険者じゃない」
「あら、そうなのね。情報は正確なのが助かるのだけど」
そういうとイェーンはアンを見た。
正しい情報という部分ではレナに訊くよりもアンに尋ねた方がいいのだろうという配慮だった。
「冒険者の仕事を手伝うような形になった時にランクは勝手に付けられたもので、私たちは冒険者と名乗ったことはないです。SSというのはその後、レナ個人に与えられそうになったのを、この子が要らないと言ったことでいつしか脚色して噂が広まったのでしょう」
「あら、勿体ない。もらえるなら貰っておけばよかったのに」
冗談めかして笑うが、その冗談にアンは笑えない。
レナは分かってないような表情を浮かべているが、騎士団と冒険者は基本仲が悪い。
本来なら手を組むこともなければ協力することなどない。
それでも、レナが冒険者としての称号を得ているのは単に無知という名の無関心、それが偶然重なっただけに過ぎない。
「どうして仲が悪くなってしまったのかしらね」
さも不思議そうにイェーンが言うが、それを一番理解している一人である。
『聖騎士団国家』。
入国はもちろん卒業までが困難であり、挫折した者でも冒険者のCランク以上の実力を持っている。
逆にいえば、聖騎士になれなかった者は、落ちこぼれの敗北者。
外の世界でもその不名誉な称号はプラスに働くことはなく、落ちぶれてしまう。
その中で生きる道の選択肢に冒険者が存在しているのだ。
しかし、なろうと思って冒険者になった者からすれば、疎ましく思うのが当然であった。
加えて、聖騎士からの落ちこぼれは『聖騎士団国家』の名を明かすことはない。
それを恥としているからだ。
そして、また『聖騎士団国家』の生徒はそんな冒険者を見下している。
それが余計に冒険者との確執を生んでいく。
「本当に困ったものです」
ふふふ、と笑みを浮かべるイェーンにアンは恐ろしいものを感じる。
当然ながら悪意なんてものはないのだが、ここに来た目的をイェーンはどこまで知っているのかただただ恐怖を覚えた。
そんなアンを尻目にレナは興味なさそうにここに来た目的の為の質問をした。
「教えてほしい」
はい、と机の上で手を組みイェーンはレナの言葉を待つ。
「『新しい波』の事を」
例外中の例外の一つ。
そして、長い歴史を持つ『聖騎士団国家』の最大の汚点。
『聖騎士団国家』卒業後、『聖騎士機関』の所属にならず直接冒険者になった異色の卒業生。
少年少女の三人パーティー『新しい波』の名前がレナの口から告げられた。
お付き合いしていただけることを願い。
引き続きよろしくお願いします。




