第32話 旅立ち
2021/1/23 読み直し(一回目)編集しました。
2021/3/18 誤字脱字、ルビ振り追加、文章追加、台詞の言い回し変更など、編集しました。
慌ただしい一日が過ぎ、
「気持ちが悪い」
そう真正面からアイミに言われる。
「ぐっ」
しかし、俺は辛辣な言葉に言い返せない理由があった。
二度目の暴走後アイミは動かなくなり、冒険者である三人と話はしたもののその事象に関しての答えを持ち合わせておらず、口論になった。
口論になったのは、意外にジオラルとカルバンだった。
カルバンはすぐに討伐するべきだとし、ジオラルは様子を見ると言い出した。
お互いの意見を俺は理解し、そのうえで放っておくことにした。
そんなもんだから、もう一人の冒険者であるテトラは、
「ねぇ、君があの立場じゃないの?」
ジオラルを指差し、俺に尋ねてきた。
「ていうか、もういいよ。帰りなよ、うるさいから」
そう言いながら、繋がれたアイミの体に源素を送ってみた。
「――って、何してんのっ⁉」
そうテトラに言われるが、味方に手を貸すのに魔力とか気とか力を送るなんて定番中の定番だろう。
幸い、俺ができる数少ない事の中にそれがあった。
加えて俺はそういう『皆の力をかき集める』みたいな展開が好きだった。
「そんなの聞いたことがない……」
と、口論していたはずのカルバンから不吉な言葉が漏れる。
「そんなことできるのか?」
あれ、前例がない……?
「確か、東の島国に肉体強化を原素で直接する種族がいるってのは聞いたことがあるけど、源素を他人に分け与えるなんて……」
「それって大丈夫なの?」
テトラの疑問がトドメになった。
サーっと俺から血の気が引いた。
応用のつもりの思いつきだった。
種にできるんだから、アイミにもできるだろうと。
それに俺自身の身体能力向上と変わりないだろうと深く考えなかった。
だが、良く考えても見れば、種に成長の促進と分け与える量を間違えると、種はすぐさま成長し枯れ果てていく。
仮に、俺が普段使っている源素の量がアイミの容量を超えていたら……?
「ど、どうしよう」
しばしの沈黙。
「お、おお、吸い取れぇええええええええええええええっっっ!」
「そんなこともできるのっ!」
「できるなら早くっ!」
「そのまま、原種ごと吸いとっちまぇえっ!」
「どどどど、どうやってやるんだっ⁉」
再び沈黙し。
「「「しらんのかいっ⁉」」」
怒涛の突っ込みを浴びせられた。
しかし、そんな慌ただしい様子の俺たちを余所に、アイミの体がぐらりと傾く。
「あぶなっ」
俺は慌てて繋がっていた手を引き、もう片方の手でアイミの体を支えた。
そして、
「気配が……消えた」
ジオラルが零したその言葉に反応し、アイミの身体から黒い気配がなくなったことを確認できた。
全員で目を合わせ、再びアイミに視線を下げると、慎ましい胸が上下に動き呼吸もしている。
さっきまでの口論がなんだったのか、全員が安堵のため息を吐き、そして、俺の太ももを枕代わりにアイミが目を覚ますまで待つことになったのだ。
そんなわけで、
「ふんばりました」
アイミの第一声に安堵しながらも、俺は冷や汗一杯で目を反らしながら、
「ぶ、無事でなにより」
そう答える。
どこか不思議そうに、アイミは起き上がろうとした。
が、
「あ、あれ? 体が動かない」
ばっちり副作用が存在していた。
「ぶ、無事で何より」
二度目の安否確認により、アイミの視線が鋭いものに変わる。
「説明してくれるよね?」
そう言われ、俺は石化以上の膠着を余儀なくされた。
その間に、テトラが説明し、全てが明るみになると俺は気を遣いまくる結果となり、冒頭に戻る――とこういうわけだった。
「もういいよ、助けてもらったわけだし」
翌日には強烈な筋肉痛に襲われているようでアイミは、丸太に腰かけ座っている。
助けた覚えがないので、俺はその前に片膝で対応を行う。
そんな俺の姿にため息を吐きながらも、アイミは目の前で働く冒険者たちに新たな疑問をぶつけてきた。
「で、あれはなんなのかな?」
話が変わったことで、俺はすぐさま説明に入る。
「荒地は元に戻さないとな」
うんうん、と俺の小芝居に再びアイミからため息が漏れるが、まじめな話、この現場をそのままとはいかない。
なにせ、山中に響き渡る轟音でいつ誰がこの場を偵察しにくるか分からないからだ。
ジオラルは鍬を使って地面を耕し、カルバンはアイミの石化で残された残骸を細かくして辺りにばら撒いていく。
その後で、俺が枝に源素を送り、新しい木々を植えていく。
そんな段取りだった。
「ただでさえ、俺たちの住む材料や敷地の確保に森林伐採していたわけだし。まぁ、全部消し飛んでるけど」
その合間、アイミが動きを見せるたびに俺は駆けつけていた。
「よく、手伝ってくれるね」
それは簡単な話だ。
俺の家が、冒険者の手によって破壊され燃やされたと冒険者ギルドに依頼を出すと脅したのだ。
「…………ははは、Bランク冒険者を脅す子供って」
そうは言うが、その脅しに屈するだけの理由が冒険者側にあったからこそ、成立している。
それに家が壊されたのは事実だ。
「そういえば、テトラの姿が見当たらないけど」
「ああ、あの子は、その冒険者ギルドにこの件が依頼として出されていないか調べに行ってもらった」
「なるほど」
仮に依頼が存在していたら、受けて解決したことにしろと命令済みだ。
「まぁ何はともあれ、今後どうするか考えないとな」
「え?」
「問題は解決しただろ」
「あ、」
そもそもアイミが俺の隣人となる話は、アイミが石化をコントロールできないことにあった。
しかし、今もアイミの目を見て話をしているように、石化はコントロールできている。
そうなると、アイミが俺の隣人になる必要はなくなった。
「……タダシはどうするの?」
恐る恐る尋ねられた。
「んなもん決まってる」
アイミの願いは普通の暮らし、それだったらそれはどこにいても叶うだろう。
「いつ騒ぎになりそうな場所にいられないからな、平穏の為に引っ越しだな」
どこか悲しそうにアイミの視線は下へ向く。
「あのっ、あのさ……。私もついて行っていいかな」
何かを恐れながら、そう尋ねてきた。
「今更何を?」
さらにアイミの表情が沈んでいく。
「家の建築任せてるんだ。ここで逃げようなんてさせませんよ」
すでに俺の次の住まいは丸太小屋である。
自分の問題が解決したから、はいさよならなんて、問屋が卸さない。
ここで逃がしては石化損。
それにこの世界で俺が人見知りしない人は一握りなのだ。
「うん……、うん、うん、うん!」
そんな俺の腹黒い部分をよそに、なぜかアイミは、涙目になって何度も頷いている。
泣くほど嫌だったのかと俺は少し後ろめたい気持ちを持ちつつ。
「あー、どっかに良い山ないかなぁ~」
そう呟いたのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ひとまず書籍であるような一巻分を書き終えました。
詳しくは、活動報告に書きますので興味のある方はそちらへどうぞ。
興味のない方は、残念ながら第二章に突入するので、お付き合いください。
あ、二章の第一話は10時頃にUpします。
それでは、引き続きよろしくお願いいたします。




