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異世界だろうとのんびりと  作者: ダルマ787
ーーーーーーーーーーーーーーーーー 第一巻 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
22/243

第22話 先祖がえり

(古)22話『暴走』→(新)22話「先祖がえり」


2021/3/18 誤字脱字、ルビ振り追加、文章追加、台詞の言い回し変更など、編集しました。

――タダシが水を汲みに行き少し経った頃に遡る。


素人の家づくりは行き当たりばったりだ。

タダシは街に行った際、家作りも観察したと豪語していたが、実際は見た目以上の技術が施されており、丸太一本の繋ぎにも苦労した。


それでもその苦労でさえアイミは楽しかった。


誰かと何かをするという行為が幼少期以来。

共にいるということ事態が夢に思い描いていたのが今現実となっているのだ。


アイミにとって、些細な失敗は喜びですらあった。


だから、アイミはそこまで考えが至らなかった。

それは、タダシですら同じだ。

共に生きる、大半の人が当たり前に行っているこの日常は、アイミの存在で壊れる可能性が含んでいることを。


忍び寄る足音にアイミは、描いていた存在が何かの理由で戻ってきたのだと、柔らかい表情で振り返る。


それは一瞬だった。


Bランク冒険者、その内の二人がそこにはいた。


作業中はフードの服を着ていたアイミの表情は一気に曇る。

そして、思い出したようにフードを被って視界を塞いだ。


――逃げなきゃ。


アイミの脳裏に浮かんだのは、タダシの暮らしていたこの場所を巻き込まない事。


そう、思っているのに足が動かない。


冒険者に狙われる恐怖ではなかった。


やっと手に入れた平穏が壊れることを、タダシと離れてしまうことを恐れてしまった。


――また一人ぼっちになる。


何度も脳裏で反復するが、変わらない。


ぞわりと体のどこかで濁った感情が生まれた。


「やっぱりフードを被るんだな」


意味不明な事を言われ、思考が元に戻る。


とりあえず、この場から引き離さないといけないとようやく一歩が出た。

その勢いで、タダシがいなくなった方向とは逆に走り出す。


しかし、


「話をしにきました」


その一言で、再びアイミの心がざわつく。


これは罠だ。

最初に山で襲われたとき、持ちかけた提案は向こうから攻撃という手段で断られた。

その相手が会話を持ちかけてくるなんておかしい。

だから、これは絶対的な罠のはずだった。

それなのに、ざわついた心が押し留めた。


「……は、なし?」


ハットを被った少年はこくりと頷いた。


淡い希望をアイミは首を振って打ち消す。


それが何を意味したのか考えもせず、もう一人の少年は端的に話し出した。


「今まで暴走したことは?」


暴走? と単語で幼少期の事を思い出した。

母を、村人を、村そのものを石化させ、助けを乞いた商人を石化させたことを。


「…………子供の頃に……」

「そうか」


それだけ言うと、少年は後ろに下がりハットを被った少年にバトンを渡す。


「すいません。ジオラルはこういうのが苦手で、僕の方から説明と、いや、その前にまず、謝罪をさせてください」


「……謝罪?」

「はい。あなたを追いかけ話も聞かずに攻撃したことにです」


どういうことか分からずアイミは頭が真っ白になった。


「理解できないですよね。であれば、最初にこれからについて先に説明させてもらいます。そうすれば一緒にいた少年には何もしません」


タダシの存在が口にされアイミの表情が強張った。


「聞きますか?」


選択肢などない。


これは強要なのだから。


「わかりました」


もうアイミは逃げることもできない。


逃げた先に、もうタダシはいない。


幸せは終わったのだとアイミは確信してしまった。


「先祖がえりに関してどこまで知っていますか?」

「先祖がえり?」


「ええ、あなたはゴーゴン族で間違いないですよね」


そこからアイミはただ聞かれたことに頷く。


「はるか昔、魔王がいた時代その配下の一人として仕えた種族。もちろん、おとぎ話にさえなった昔の罪なんてものはありません。しかし、その種族の中に稀に原種と呼ばれる者の能力を受け継いでしまった存在がいます」


分からなかった、どうして自分だけが力をコントロールできないのか。

そして、その原因を調べることも、それが今になって分かる。


「その原種の力は残念ながらコントロールできる者はいないとされています。その理由は正確には分かっていませんが、仮説としては本来持てる個の力に加えられてしまうため許容量から溢れてしまうと考えられています」


それが先祖がえり、アイミは初めてこの能力が憎らしく思った。


正しく使えば母のように家の修繕などで人の役に立つこの能力を誇らしく思ってさえいた。

しかし、起源である先祖の呪いのように背負ってしまったこの能力は人を脅かすものでしかない。


「その持て余した力は感情の起伏に応じて本人の意思とは別に暴れ出す」

「……それが暴走」


話に嘘などない。

事実としてアイミはその時の記憶は存在せず、事実として惨状を目の当たりにした。


「過去にも、暴走が原因で世界に多大な被害を出した事件があります。それをきっかけに、冒険者、もしくはそれに対処できる存在は、暴走を起こす可能性のある者を討伐する義務が生まれました」


アイミは恐る恐る二人を見た。


「本来であればSランクと位置づけられる依頼ですが、この田舎にはSランクどころかBランクですら近くにはいません。なので、僕たちがあなたを討伐する――つもりでした」


「…………でした?」


「今更ですが、この数日僕たちはあなた達を監視していました。理由は、先ほどもいったSランク案件だったこと、それとあなたの傍に少年がいたからです」


偶然とはいえ、タダシという存在が今までアイミを助けていた。


「初めはあなたが少年を攫い、利用しているのだと思いました」

「――そんなことっ!」


「はい。それがここ数日の監視で分かりました」

「だからだよっ!」


その声にアイミは肩をビクつかせ、怯えた。


それが今まで大人しくしていたジオラルをイラつかせる。


「だからっ、俺たちは分からなくなった。ただ、人と違う能力をあるってだけで、討伐されるなんておかしいだろっ! …………ただ」


ぎしりとジオラルの歯を食いしばる。


「それでも暴走する存在であるあなたを放っておくこともできない。僕たちが冒険者である限り」


言われても、アイミにはどうすることもできない。


「そんなこと……、そんなことっ、言われても私にはどうすることもできない! 私だってこんな能力なくなればいいって何度も思った! これさえなければ……母も村の人たちだって――」


「――っ、余計な事を言うなっ!」


今にも飛び出しそうなジオラルをハットの少年が肩を掴んで止める。


「それ以上は何も言わないでください。賭けに勝ってもそれは紛れもない罪です」


封じこめていた古い濁った感情が零れ始める。


「……賭け……?」

「ここからは僕たちにとっても賭けなんです」


置かれていた手が離された。

それが合図するかのようにジオラルは掌を向ける。


「何を…………?」


ジオラルの契約している精霊の属性は火。


「焼き尽くせ、」


掌に火球が現れる。


遅れてアイミは気が付いた。


「――っ⁉」


ジオラルが向けている掌の先には、タダシの大事なものがある。


「――ダ、ダメぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!!」


アイミが伸ばした手の先で火球が通り過ぎた。


小さな火球は着弾すると、その大きさとはかけ離れた轟音と共にその範囲を拡大する。


全てが燃える。


家や畑、街で買った服もアイテムも、思い出を残すことを許さないと言わんばかりに燃え上がる。


二つの濁った感情が合わさりあう。


「あ…………ああ、消さなきゃ、消さなきゃっ!」


敵に背を向けアイミは無防備に燃える家に手を翳し、土の精霊の力を借りて鎮火を試みる。

しかし、圧倒的に火の精霊と木という相性の良さに跳ね返され飲み込まれていく。


「……やだ、やだやだやだ」


まるで幼い頃のアイミがそこにいるようだった。



大変申し訳けないのですが、20話目以降書き直すことにしたので、


分かり辛いのですが。


いったんUpした話数(25話まで)は消させていただこうと思ったのですが、負荷がかかるようなので、サブタイトルの前に(古)と書いてあるものは書き直し前の物になります。

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