第15話 センス
2021/1/23 読み直し(一回目)編集しました。
2021/3/17 誤字脱字、ルビ振り追加、文章追加、台詞の言い回し変更など、編集しました。
生活区を一周走り回ること一件の洋服店でフードも被らずアイミは目を瞑って座り込んでいた。
「いた」
「ごめんなさい」
文句の一つでも言おうとしたが、一つ疑問ができた。
なぜここまで移動できたのか、移動できたのであれば、店の中に入る事もできる。
「どうやってここまで」
「途中で目を開けちゃいけないと思って、こう薄目で」
なるほどと内心で感心しながら、すぐに疑問がやってくる。
それを解決するため、俺は目に源素を集めて確認してみた。
「び、微妙に漏れてる」
溢れ出ていた時に比べれば確かにマシだとはいえる程度の黒い気配がうっすらと漏れていた。
ただそれだけで確かに被害が出るとは思えない。
それに加えて、修道服の少女との出会いが、まぁいいかと思わせてくれた。
「それでほしい服は見つかったの?」
口調を意識しながら尋ねると、思わぬ返答が来た。
「……お金持ってないです」
「…………」
確かに金目のものを持っている様子はないし、なんとなくそんな気はしていたが。
「タダ飯喰が……」
今更ながらアイミは肩を落として落ち込んでいる。
見かねたわけではない。
元々それも考慮にいれてあるからこそ、俺は畑の収穫量も増やし、金を作ったのだ。
それに、畑で出来る野菜だけでは俺も食に関して飽きがくる、だから定期的に街でしか手に入らないような肉などは買いこむ。
だから、二人分になった生活費は作らなければならない。
「ほら、買い物さっさと終わらせますよ。収穫のお駄賃ぐらいは渡すつもりでしたし」
「いいのかな……」
本当にどんな生活を送ってきたのか、アイミは気にし始めると罪悪感で謙虚になりがちだった。
「まぁ、気にするのも分かるし、その辺に関してはきちんと話をして決めないといけないな。現状アイミは街で働くなんてできないだろうし、俺も街で働く気がない。当面は畑の野菜で生活をしていくわけだから、その規模を増やす。その労働力に賃金を払うってことだろうけど、どのみち帰ってから決めよう」
「…………」
何を思い耽っているのやら、どのみちアイミが答えを出すための障害を取り除くことはできないだろう。
非現実的な体質改善なんて本人にも解らないから、こんなことになっているのだから。
俺は同じ立場になったつもりで考える。
たしかに、他人にそこまでしてもらうなら、我慢を選ぶ。
ただ、現状、俺はその立場にいないわけで、
「なら、適当に見繕ってあげます。冒険者に見つかったら、やっかいですし。僕がさっさと決めてあげます!」
アイミは顔を下げたまま反応がない。
それなら本当に俺が決めてしまおうと、店の中に入る前、
「女の子向けの服か……選んだことないな」
ぴくっと反応を見せる。
だが、それに気づかず俺はもっと大事なことに気が付いた。
「まてよ、もしかして、私服がダサいと言われ続けた僕のセンスがこの世界では輝くのかもしれない!」
そう元の世界ではダサくても、この世界では認められるかもしれない。
俺のお気に入りファッションが。
「……やだ」
「は?」
「ダサいのやだ」
「いや、まてまて、まだそう決まったわけじゃ」
「自分で決めるっ!」
ダサいという言語だけ聞き逃さず、駄々っ子が動き出す様にアイミが立ち上がった。
「どうせ買ってもらうなら、好きな服ほしい……」
そう言って手を差し出した。
「頑張って働きます」
しっかりと目を瞑ったまま、今できる精いっぱいを口にした。
はじめの一歩なんてそんなものから始めればいいさと、口には出さないがその手を引く。
「わかりました」
とりあえず、物は試し。
「とりあえず、僕にも選ばせてみてください」
俺はアイミの慎ましい決意なんてそっちのけで、かすかな希望を胸に、いざセンス者が集う決戦の場へ足を踏み入れるのだった――そして、儚き希望は秒で砕け散る。
一コマ分に値しない速さで俺のセンスは却下され、数点の衣類を購入することになった。
基本は女性店員に見立ててもらう。
アイミは少し不満そうだったが、盲目という設定上仕方がない。
俺に選ばせるよりは、という不名誉な理由なのが納得いかなかった。
ついでに俺も適当な服を選んでもらってそれを購入。
正直言えば、選ぶというほど種類はそこまで多くない。
軽装なシャツに、軽装なパンツ(スカートも含む)、下着、男性、女性、子供などサイズの違いがあれ、俺の中ではどれも大差ないといっていい。
店員にその事を尋ねてみれば、呆れ顔で「そんなの貴族やら金持ちにしか与えられてない」と一蹴された。
購入した服を適当な布で包んでもらい、ついでにアイテムショップの場所も一応尋ねておく。
走り回った際、見つけた店とは違い目的の店は冒険者の利用の方が多く、冒険者ギルド寄りの生活区にあるという。
早速、アイミの手を引いて店へと向かった。
本日中にもう一話Upします




