第39話 ピザパーティー
驚くべき火力と職人技で、ピザ窯ゴーレムへと入れた三枚のピザはまたたく間に焼きあがってしまった。
〔P──pppppp……!〕
ゴーレムが自身の腹部の窯からそれらを取り出した。
その場の全員から感嘆の声が上がる。
三枚のピザはいずれも表面にほどよく焦げつき、焼けたチーズがテラテラと輝いて、芸術品顔負けの美しさを誇っていた。
「なんていう……熱の回り方まで完璧じゃないか……! まさか自動で窯の中でピザを回転させていたのかっ?」
〔GGG……!〕
「これが古代ゴーレムの技術……!」
あまりの高性能っぷりに俺が感動していると、
〔pppppp!〕
ゴーレムの方が「早くピザを受け取れ」と催促するように三枚のピザを突き出してくる。
まあ、そりゃそうか。
冷めたら美味しくないもんな!
「よしっ、じゃあさっそく……」
俺は三枚の平皿へと載せたそれぞれのピザに、 (料理拳で)八等分の切れ目を入れようとする。が、
「お待ちください、ムギ様っ!」
鋭い制止の声がかかった……オウエルが、ビシッと手を突き出していた。
「な、なんだ……?」
「ムギ様、ピザを八等分にしようとされておりましたねっ? ご再考をっ!」
「どうしてだっ?」
「考えてみてもください、今この場にいる人数を」
俺は少し考えをめぐらせ……ハッとする。
「三十人……ってことは、」
「そうです。ピザ三枚を八等分にしたら、二十四枚。つまり六人分足りなくなるのです」
それは大変だ。
先着順なんてことになってしまったら……
「いや、われらが後から焼いたピザを食べたらいいのではないか?」
ドルフ伯爵がもっともなことを言う。
しかし、そういう問題じゃないのだ。
「見てくださいドルフ伯爵、ウサチとマチメと、ついでにオウエルの顔を」
「ピザを……にらみつけているっ!?」
そう。そうなのだ。
ウチのメシウマメンバーたちは全員、討伐クッキングで作った料理に対しての執着心が尋常ではない。
つまり──
「ヤツらは目の前のピザに抑制が効きません。災害みたいなもんなんです。このままじゃ……ケガ人が出る」
「おまえたちはいったいどんな食欲をしているのだっ……?」
ドルフ伯爵がドン引きしたように俺を見てくる。
俺は違うよ? ひとくくりにはしないでほしいのだが。
だって、自分が食べるよりもむしろ誰かに美味しく食べてもらえた方がうれしい人種だから。
「まあ、そんなわけで、急いで四枚目も焼くしかないってことかな」
「いえ、それには及びません」
ムフーっと。
得意げに胸を張って、オウエルが眼鏡を押し上げた。
「ピザを十等分にすればよいのです」
「十等分……!? できるのかっ!?」
「私が再びムギ様に会うまでの間、王都で何を学んできたとお思いですか?」
いや、絶対にピザを等分するやり方ではないことは確かだと思うけど。
しかしそうツッコミを入れる前に、オウエルはすでにカッティングナイフを軽やかに振るっていた。
ピザの一枚を半分に切ると、ピザの耳部分へとナイフで小さく何かの印をつける。
「ここがおよそ五分の一の円周上の点Pと仮定し……この点P以降の五分の四部分のピザをさらに半分に切ります! すると点Pを含まない五分の二側のピザと、点Pを含む五分の三側のピザができあがります!」
「おおっ」
「点Pを含まない側のピザはさらに半分に切れば自動で五分の一に、そして残った点Pを含む側のピザは五分の三は……」
「五分の三は……?」
「……三等分程度なら、目測でカット可能!」
「そこは計算じゃないのかっ!」
「まあ、こうすると大外れはしない……くらいの精度ですので」
ともかく、オウエルは手際よく三枚のピザを十等分してみせた。
これでちょうど三十人分。
一枚ずつをみんなへと配って回る。
「……よしっ、行き渡ったな? じゃあ、いただきますっ!」
「「「いただきますっ!」」」
俺たちはさっそくかじりつく。
メシウマ特製トマトペーストに、モッツァレラチーズをこれでもかと載せたそのピザを。
溶けたモッツァレラがほどよく伸びて、しかし溶けたバターのようにパンズの上から滴り落ちそうになる。それを慌てて口で受け止めた。
口の中に広がるこのまろやかさ、その感想を一言で表すならば、
「──あまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!!」
その場にいる者たち全員の気持ちを代弁するかのような大音量で叫んだのは、マチメ。
「しゅごいっしゅごいしゅごぉぉぉぉぉいっ! 塩味と酸味のほどよいトマトペーストの上でとろけたトロトロチーズが甘しゅぎりゅぅぅぅ! 具材のキノコのジューシーエキスが味蕾をヒタヒタに溺れさせてきて、もおぉっ、もおぉダメッ……美味し過ぎて 死! ん! じゃ! う! のぉぉぉぉぉぉっ!!!」
ああ、やはり危惧した通りか。
タルタルソースでトんでしまうマチメに、こんな上質ピザによる責めが耐えられるハズもなかったのだ。
まあ、放っておけばいつかは収まるだろう。
それよりも、
「アサツキ、初めてのピザはどうだ?」
「ふへっ、ふへへへっ……」
「アサツキ?」
「もぉ、これはウチもダメや……美味し過ぎて笑いしか出てけぇへんのやもん。美味し過ぎてな、ほっぺたの奥の方がキュゥッてすぼんで痛いくらいや」
アサツキは頬を押さえて目をつむってみせる。
そうか、それほどまでに美味しがってもらえたなら、本望だ。
そして、きっとコイツも本望な事だろう。
「……最高の仕事をありがとうな、ピザ窯ゴーレム」
俺は不動立ちをするゴーレムの、垂れ下がったその拳へと軽くグータッチする。
〔GGG……ppp〕
「うおっ?」
まさか、反応するとは思わなかった。
触れたからか?
それともあるいは……
ゴーレムにも、何かしら感じ入るものはあったのだろうか?
「まさか、な」
ゴーレムを見上げていると、
「なぁムギィ! もっともっとピザを食べたいぞぉ!」
後ろからウサチが跳んでやってきて俺の背中に乗ると、空になった皿を見せつけてくる。
まあ、そりゃあんなたった一ピースじゃ足りないだろうな。
「よし……じゃんじゃん作って焼いていくかっ!」
俺たちはそれからピザを焼いては食べてを繰り返した。
次第に腹が膨れて満足していく村人たちが出てくる中で、
「──ふわぁ、よく寝た……って、あれぇっ!?」
幌馬車の荷台からノソノソと出てきたのは、留守番としてこの村に残っていたダボゼ。
「おまえらっ、いつの間に帰ってきて……っていうかもうピザパーティーを始めてやがるじゃねーかっ!? 俺の分はっ!?」
「あっ……」
ヤバい。
荷台で寝てるっていうのは覚えていたけど、起こすのをすっかり忘れちゃってたや。
「まあだが安心してくれ、ダボゼ。おまえの分はこれから作ればまだあるとも」
「ホッ……よかった」
「けっこうあるけど、三十人前で足りるか?」
「それは多すぎるっ!!!」
ピザ生地はマチメが余るほど仕込んでくれていたからな。
そんなわけでメシウマ一行の討伐クッキング── " ピザ窯ゴーレムの捕獲 " 依頼は大好評の中で幕を閉じた。
* * *
~ダークエルフの拠点にて~
──里長の娘が行方不明らしい。捕らえた者には褒美として幹部の座を約束しよう。
拠点へと帰りつくなり、ダークエルフの女のヤマホロシの耳に入ってきたのはそんな物騒な情報だった。
「……なあ、なんか最近、肉食主義強硬派の意見が強くないか? 捕らえるだなんて──」
ヤマホロシが信頼のおけるメガネの友人へとそう問いかけると、しかし「シッ!」と強く制止を受ける。
「ど、どうしたんだよ?」
「ヤマホロシ、おまえが拠点を出ていた二週間で状況はだいぶ変わってしまったんだよ」
「変わったって……?」
「ウチの長が負けたんだ、例の " 流れの冒険者 " に」
「……えっ!?」
その男は三ヶ月ほど前、大森林に住まう強力なモンスター──通称 " 深き森の王 " に襲われるこの拠点へと現れ、その王をたった一人で倒してみせた強い冒険者だった。
御礼をと金銀を渡そうとしたこちらの申し出を、しかし男は断って、
『それよりも──今は美味い肉料理を喰いたい』
そうしてそれから、この拠点へと滞在することになった。
男は料理こそは全くできなかったものの、ダークエルフには伝わっていないオリジナリティあふれる肉料理の知識に精通しており、それを買われてこの拠点に客人として滞在してもらっていた……それだけのはずだったのに。
「強硬派の連中に懐柔されたのかっ」
小声で問うヤマホロシに、友人はコクリとうなずいた。
「あの冒険者、腕っぷしは強いが頭が空っぽみたいだったからな。肉で釣られたんだろう」
「じゃあ今、拠点の勢力図はどうなってる……!?」
「上層部は強硬派で占められているよ。反対意見を口に出すヤツはことごとく牢刑だ」
「……! じゃあまさか、ヤツら本気で " 例の計画 " を動かすつもりかっ?」
「だろうな」
友人は表情を歪めると、
「近いうちにエルフの里の " 実効支配 " に乗り出すつもりだぞ」
苦々しそうにそう口にした。




