悪戯
扉の外に、人が立つ気配がして、顔を上げる。
持ち手がゆっくりと回り、手提げの灯りに照らされた、美しい妻の姿が現れる。読んでいた本に栞を挟み、立ち上がって、出迎える。
アメリアは、もう夫婦なのだからと言ったが、気品溢れるいとしいひとを前にして、ただ待ち構えるなど、到底できなかった。
いつものように、灯りを受け取り、手を繋いで、寝台へと誘う。
傍らの低い棚に灯りを置いて、つまみを絞る。染み出していた灯り油が止まり、緩やかに、火が消えていく。浴室から戻る時に持参したものが、すでにあったから、明るさは十分だった。
本来なら、もう少し暗くするのだが、姿を見たいと、初夜に絞らずに置いて、そのままだ。
何も知らないアメリアは、そういうものだと思ったらしい。視線に恥じらう様は、たまらなく愛らしく、興をそそった。
寝台の上に向かい合って座り、白い頬に、手を添える。口づけようとして、そっと胸を押し戻される。
問うように見つめると、ためらいがちに、小さな声が落ちる。
「……月が、満ちてるから……」
納得する。腕を広げて微笑む。
「おいで。今夜は、ゆっくり話でもしよう」
安堵した笑顔。すり寄ってきた小柄な身体を抱えて、胡座をかいた脚の隙間に乗せる。
鼓動を聴くように、胸にもたれかかって、碧色の瞳が見上げる。金褐色の長い髪を、緩やかに梳く。
幸せそうに潤む瞳。灯りに煌めく様は、本当に美しかった。
「ねえ、フェリックス。あなたは、大丈夫なの? 何もしなくても……いいの?」
思わず苦笑する。
どうしても仕事が片づかず、先に寝るよう伝言を頼む夜以外は、必ず求めている。心配するのも、無理はなかった。
碧色の瞳を見つめて、柔らかに告げる。
「こうして君といられるだけで、十分だよ。たまには、こういう夜も悪くない。身体はつらくないか?」
「平気よ。少しお腹が痛いけれど、いつものことだから」
常と変わらない調子に、無理を言っていないか、確認してしまう。
灯りに照らされた顔は色よく、告げられなければ、その身体から出血しているとは、思い至らない。
確かに、小さい頃から、風邪も引かず、元気に駆け回るような子供だったし、長じてからも、貧血で倒れることはなかったから、月の巡りの影響が、少ないのかもしれない。
それでも、今は夫婦だ。もし、昔は立場上隠していたとしても、夫として、愛する妻を労りたかった。
「それなら、もう寝るか? 無理はしない方がいい」
「大丈夫。大したことじゃないわ。心配性ね」
少しおかしそうに笑う顔。頬に、軽く口づけが落とされる。
ありがとうと、穏やかな声に安堵して、薄紅色の唇に、そっと口づける。
豊かな柔らかさを、食んでついばむ。指を絡めて、片手を繋ぐ。息がかかるほどの距離で、見つめ合った。
不意に、アメリアがねだるように言う。
「ねえ、この機会だから、見てみたいのだけれど――」
話しやすいように、少し顔を離す。碧色の瞳が、悪戯っぽく輝く。
「あなたの、それ」
視線の先。意味を察して戸惑う。
「どんな姿をしてるか、気になるじゃない。身体に入るものだから、見ておきたいわ」
「いや、だが……どうして、今なんだ?」
見るだけなら収拾がつくが、この勢いだと、触れてみたいと言いかねない。
ただ男の愉しみだけの行為を、アメリアにさせたくなかったし、肌に触れずに、享受していられる自信もなかった。
「普段だと、そんな余裕ないもの。だから、ね?」
好奇心に、きらきらと煌めく瞳。小首を傾げて甘えた調子に、どうしても抵抗する気持ちがしぼんでしまう。溜め息を軽くついて、承諾する。
「……見る……だけだぞ」
少し不満そうな顔に、すかさず言葉を重ねる。
「俺だって、触れられれば感じるんだ。君に処理させるような真似は、したくない」
碧色の瞳が、じっと見つめてくる。
何かを考える色。一度瞬くと、楽しげな笑みが広がった。
「つまり、私が触れることで、あなたは気持ち良くなれるのね」
言葉を返そうとしたところを、唇に人差し指を当てて、遮られる。歌うような、優しく穏やかな声が語る。
「ねえ、フェリックス。あなたは、私が良くなるように、いつも心を配ってくれるでしょう。私だって、同じ気持ちよ。私の手で、あなたが良くなれる方法があるなら、知りたいわ」
そういう考え方もあるのかと、温かく腑に落ちる。
相手を思って触れる。気持ち良くなって欲しいと願う。それは、男も女も変わりないのだ。
ただ男の欲を処理するためだけだと思っていた行為が、違う意味をもって、輪郭を為す。薄紅色の頬に触れて、優しく告げる。
「わかった。無理しなくていいからな」
「二人が楽しんでこそ、でしょう?」
あでやかな微笑み。笑みながら、口づける。
そして、華奢な身体を降ろして離れると、寝巻きの下の紐と下着の紐を解き、脚を引き抜いた。
露になったそこをまじまじと眺めて、碧色の瞳が、不思議そうに瞬く。
「……もっと、大きいものだと思ってたわ」
「触れたら変わるよ。四六時中、勃っていたら、困るだろう」
思わず、口調が苦くなる。小さいと言われたわけではないのに、ちくりと、心が痛んだ。
問いかける視線。頷くと、華奢な手が、脚の間に伸びる。
そっと、指先が撫でていく。柔らかな感触に、吐息が震える。小さな頭を包み込むように、両手を添えて、薄紅色の唇をついばんだ。
その柔らかな感触と、息継ぎで漏れる甘い声に、仄かな痺れが、ぞわぞわと背筋を伝っていく。舌を絡めて、たっぷり味わうと、唾液が糸を引いて、垂れていった。
見つめ合った視線が、何かを感じ取ったように、ふと落ちる。
「……あ……」
華奢な手の中。硬度を増して、形を少し変えたそれ。紅潮した頬が、さらに赤く染まる。
戸惑う色に、薄く微笑む。
「まだまだ序の口だな。やめるか?」
「……やめないわ。どうすればいいの?」
碧色の瞳が、挑むように輝く。色気も何もあったものではないが、意気込む様がおかしくて、笑みがこぼれる。
「軽く握って、上下させるんだ」
「――こう?」
華奢な手が、柔らかく擦っていく。
拙い所作だったが、アメリアに触れられていると思うと、たまらなかった。背筋が甘く痺れ、鼓動が高鳴る。
頭を撫でて、金褐色の長い髪を梳いていく。鼻をくすぐる、華やかな香り。耳を柔くなぞれば、小さく喘ぎが漏れた。白い首筋をたどり、豊かな胸に触れようとする。と、
「だめ。今日は、あなたが主なんだから」
手首を掴まれ、阻まれる。弄って感じる様を見たいと、いささか不満が閃く。
碧色の瞳に灯る、悪戯っぽい笑み。そして、おもむろに上体をかがめて、屹立したそれに、唇を落とした。
「……アメリア⁉」
ぺろりと、小さな赤い舌が、先端を舐める。不意打ちに、抗いようもなく、息を詰める。
「あなたが、私のを舐めるから。同じようにしてみたらと思って」
手で擦りながら、舌が裏をなぞる。上目遣いの碧色の瞳。楽しげに笑んで、甘えた愛らしい声が尋ねる。
「気持ち良い?」
単純な快楽を求めるなら、もちろん技は足りない。しかし、惚れた女の顔が、猛った我が身の間近にある光景は、威力抜群だった。
心からの喜びが、全てを甘く溶かしていく。返す言葉も出ずに、その淫靡な様を眺める。
いとおしむように口づける、薄紅色のふっくらとした唇。柔く食んだと思った瞬間、すっぽりと含んだ。そのまま舌が、合わせ目をなぞる。熱く、息が漏れた。
碧色の瞳が、嬉しそうに形を変え、ゆっくりと、頭を深く沈めていく。全ては収まりきらないと気づいて、目顔で問いかけてくる。大丈夫と、かろうじて微笑んで頷く。
屹立を含んで見上げる顔。揺らめく、豊かな丸みの腰。
その淫らな光景と拙い技の健気さという落差が、より昂りを掻き立てた。心で感じる快楽。愛する妻を抱く時の深い喜びとはまた違う、強いいとしさが、全身を満たした。
しばらくして、息をつきながら、口が離れる。
糸を引いて垂れ落ちる唾液。荒い呼吸に乱れた声が漏れる。
「……息、するの……難しいわね……」
「大丈夫か……? きついなら――」
言い差したところで、ふるふると首を振る。金褐色の髪が揺れ、甘く華やかに香った。
そそり立ったそれを擦りながら、アメリアが呟く。
「……大きい……」
羞恥と情欲の混ざった声色。寝巻きの下で、もどかしそうに動く脚。
たまらず抱き寄せて口づける。胸元の紐を解いて襟を広げ、引き下ろす。背中に手を回し、下着の金具を外すと、露になった頂きに舌を這わせた。
ぴくりと、華奢な肩が跳ねる。唾液を口内に満たして含む。片腕で背中を支えながら、空いた手で、弾力に富んだ豊かな胸を揉んだ。悶える吐息が、震えてこぼれる。
先に舌を這わせながら、強く吸う。指先で弾き、摘まんで弄う。甘く艶やかな声が、鼓膜を打つ。
愛撫に敏感に反応して跳ねる、華奢な身体。しっとりと汗ばんだ、張りのある肌。離す機会を逸したように、握られたままの屹立。
時折力がこめられて、程よく締まる感触が、理性をどろどろに溶かしていく。思う様むしゃぶりつき、豊かな胸を堪能する。
「あっ、や……待って……! それ以上し……たら、私……わたしっ!」
必死な声に、理性が形を為して、警告を出す。
荒い呼吸の中で見上げると、震える声が、鼓膜を打った。
「……欲しく、なっちゃう……でしょう……! 今夜は、だめなのに……っ」
ぽろぽろと、碧色の瞳から、雫がこぼれ落ちていく。上気した頬。薄く開いた薄紅色の唇から、濡れた吐息が漏れる。
艶やかな様で告げられた言葉に、鼓動が高鳴り、いとしさが心を満たした。涙を、そっと指先で拭う。
「すまない……もう、たまらなくて……」
「今夜は、あなたが気持ち良くなる方なんだからっ……また、私ばかり……」
可愛さに悪戯心が起きて、頂きを摘まむ。小さく甘い声が漏れ、華奢な身体が跳ねる。張りのある豊かな胸を柔らかく揉みながら、微笑んで言う。
「君に触れている時も、俺は気持ち良いよ。だから、時間もかける。君ばかりということはないさ」
「……せっかく、あなたの弱みを握れたのに……」
軽く頬を膨らませた顔が可愛くて、優しく笑みがこぼれる。波立つ金褐色の髪を一束取って、口づける。
「アメリア。それは、とうに君が持っているよ。――昔から、ずっとな」
小首を傾げて瞬く、碧色の瞳。ぬいぐるみを抱えた、小さな王女。
あの頃は、夫婦になるとは思ってもみなかった。そして、命を賭すほどに愛し、今は妻として、この腕の中にいる。
「俺の弱みは、君自身だ。その君に、男の弱みを握られているんだからな。完敗だ」
最後はおどけて言うと、吹き出して、おかしそうに笑う。ころころと、鈴を振るような声が、優しく鼓膜を震わせる。
引き合うように口づけて、微笑む。不意に擦る感覚がして、息を詰めた。
「それなら、大人しく負けてもらわなきゃね」
悪戯っぽい笑み。華奢な手が、一定の速度で上下する。猛った屹立が、さらに熱を帯びて、育っていく。
先端に口づけが落ち、小さな舌が、ゆっくりと這う。
支えを失くした豊かな胸が、隙間を埋めるように形を変えて、腿やその間に当たる。動きに合わせて、時折包み込む形になり、たまらなく心地良かった。
挟んでみたい衝動に駆られるが、さすがにそんな卑猥なことはさせられないと、ぐっと耐える。
しかし、先程と反応が違うことに気づいたのか、胸が押しつけられる。思わず息を詰めると、楽しそうな笑みが広がる。
「気持ち良い?」
「……っアメリア……こんなこと、……ッ!」
上目遣いで見つめながら、ぺろりと先端が舐められる。あまりの光景に、理性が融解していく。
気がつけば、うわ言のように呟いていた。
「……胸で……挟んで……」
碧色の瞳が瞬き、あでやかな笑みが咲き誇る。いったん身を離すのに合わせて、膝立ちになる。
豊かな胸の間に、屹立したそれが収まり、柔らかな弾力と密着感に、震えた吐息が漏れる。
「こう?」
「……もう少し下に……さっきみたいに、なるように……」
ずり下がる感触。背筋に、甘い痺れが駆けていく。
白く滑らかな肌から覗く、赤黒い先端。滴る雫を、小さな舌が舐め取る。
見つめる碧色の瞳。普段の聡明で美しい姿からは想像できないほど、淫靡な光景に、ぞくぞくと昂りを覚える。強い刺激はないのに、絶頂の予感に震えた。
突き出た先を口に含みながら、問いかける瞳に答える。
「手を使って胸で締めて……そう、上手だ……」
優しく頭を撫でて、髪を梳く。脚のつけ根と胸の間に指を差し入れて、頂きを弄う。
くぐもった喘ぎ。腰が浮いて、揺らめいている。慰めたいと、切なくなる。せめて今は、その健気な心に応えようと思った。
「……ああ、アメリア……良いよ……すごく、気持ち良い……」
碧色の瞳が、嬉しそうに形を変える。息継ぎで口を離すと、何かに気づいたように、視線を下に落として止まる。
唾液でぬらぬらと光る豊かな胸の谷間と、挟まれた屹立。口は閉じたまま、動く顎。
と、糸引いて、薄紅色の唇から、唾液がこぼれ落ちていく。少し身を離して、谷の隙間に垂らす。そして、再び密着すると、唾液を擦りつけるように、上下に動き始めた。
華奢な手が胸を締めれば、卑猥な水音が鼓膜を打つ。身の内に似た、しかし柔らかくなめらかな感触に、思わず呻く声が漏れる。
「やっぱり、こういう状態が気持ち良いのね」
歌うように笑う声。先端が、再び含まれる。
愛する女の、これ以上ないほど淫靡で卑猥な姿に、言葉を返す余裕もなく、与えられる快楽を、息を呑んで享受した。
「……ッアメリア……そろそろ……!」
さすがに口内に出すわけにはいかないと思いながら、その愛らしい声を発する喉に注いでみたい、という衝動と葛藤する。
言葉の意味を察して、アメリアが軽く頷く。誘うように見つめる、碧色の瞳。
舌が形をなぞり、含んで強く吸う。最後の理性の一束を掴んで、声を絞り出す。
「だめ、だ……このままだと……ッ!」
「いいわ、フェリックス。あなたの全部を、私にちょうだい」
凄絶な笑み。あでやかな大輪の花が、美しく咲き誇っていた。
本能が、あっという間に理性の束を離す。そして、じゅると、音を立てて強く吸われた瞬間、強烈な痺れが全身を突き上げ、意識が弾けた。
まるで幾度か吐き出したあとのように、肩で息をしながら、白い喉が、飲み下して動く様を見た。
短く声を上げて、唇が遠のく。名残を惜しむように、糸を引いていく。
手を寝台について、少し離れるのと同時に、力が抜けたように腰を下ろす。碧色の瞳が、瞬いて見上げる。
「フェリックス、大丈夫……?」
荒く息をつきながら、ようやく、ああ、と答える。
口の端から伝い落ちる雫に、沸々と実感が湧いてくる。その白濁を、華奢な指が拭い取って、何気なく舐める。そうして、悪戯っぽく笑った。
「せっかくだから、もう少し美味しかったらよかったのに」
言いように、思わずつられて笑う。腕を伸ばして、そっと抱き寄せる。
「すごく気持ち良かった……ありがとう」
満面に咲き誇る笑み。碧色の瞳が、深い喜びに潤んで煌めく。
そっと口づけて、豊かな唇を食む。舌を絡めれば、残滓の味がした。その不出来さに、己の欲深さを恥じながら、飲み込んでくれた妻に、深いいとしさを覚えた。温かな思いが、心を満たす。
唇を離して、強く抱き締める。髪の甘く華やかな香りに、顔をうずめる。
「……アメリア、愛している……」
「まあ、現金ね」
くすくすと笑う声。背中に回った華奢な腕に、力がこもる。穏やかで柔らかな声が囁く。
「私も愛してるわ、フェリックス。いい時間だった。……でも――」
少し、ためらうような間。抱き締める力が一層強くなり、くぐもった声が、胸の中で聞こえる。
「やっぱり、繋がりたい。欲しくて……たまらないの……」
豊かな丸みの腰が、もどかしそうに揺らめく。
ずっと感じていたのだと思うと、よりいとしさが増した。耳朶を唇で甘く食み、優しく囁く。
「来週はたっぷり、お礼をしないとな」
そして、おもむろに身を離して、ほんのりと朱の差した頬に、手を添える。灯りに煌めく碧色の瞳を見つめる。
「何かご要望はございますでしょうか、殿下」
見開いて瞬き、楽しげに笑う顔。華奢な手が重なる。
「たくさん抱き締めて、たくさん触れて――あなたの全部が欲しいわ」
「私の全ては、殿下に捧げられております。初めて言葉を交わしたあの日から、ずっと」
心からの幸福に、美しい笑顔の花が咲く。微笑み合って、優しく口づけを交わした。




