その二
健太はとても優秀な成績で、地元の小・中学校を卒業、高校は県内でも有数の進学校に入学していた。
健太の夢は弁護士になることだった。
世の中の弱い立場の人に少しでも役に立ちたいという、そんな思いがあったからだ。
そんな思いを秘めている健太をみて、鈴木夫婦は、是非とも健太に大学まで行かせてあげたいと思っていた。
健太の成績は、その進学校でも上位に入るくらいに優秀だったからだ。
奨学金をもらうことが出来れば、大学の授業料はなんとかなるだろう、と鈴木夫婦は思っていた。
二人は健太の将来を夢見て、それを励みに日々の仕事に精を出していた。
しかし、鈴木夫妻の思いとは裏腹に、健太は高校卒業後すぐに働くことを決めていたのだった。
少しでも早く鈴木夫婦に恩返しがしたい。そんな切実な思いからだった。
そして健太が高校三年生になってすぐのある日、いつものように三人で夕食を食べ終えると、改まった健太が鈴木夫妻の前に正座をして言った。
「進路について、話しておきたいことがあるんだ」
いつもとは違うかしこまった健太の態度に、鈴木夫妻は少し訝しげたが、健太の真剣な眼差しを見て、なにか重大な決心をしたと感じていた。
夫妻もまた、健太の前に正座をして並んで座った。
健太が夫妻の目を真っ直ぐに見て言った。
「俺、高校を卒業したら働こうと思うんだ」
健太の言葉を聞いて、夫妻は驚いた。てっきり健太は大学に行くだろうと思っていたからだ。
博がすぐに健太に問い質した。
「お前、前から弁護士になりたいって言っていたじゃないか? 大学に行かなくちゃ弁護士にはなれないぞ」
「仕事が軌道に乗ってきたら、働きながら通える大学の夜間学部に進もうと思っているんだ。それまでに貯金をしておけば、大学の授業料も何とかなると思うし」
晶子が横から口をはさんだ。
「健太、お金の事なら心配しなくてもいいんだよ。大学の授業料くらいはなんとかなるから」
健太が首を振りながら言った。
「俺も、もう子供じゃないんだし、これ以上二人に迷惑はかけられないよ」
「迷惑だなんてそんな。子供の面倒を見るのは、親として当たり前のことだよ」
二人は、健太の気持ちは嬉しいものの、健太に大学進学を強く勧めた。




