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第1章(4) 二度目のファーストコンタクト

 翌日の朝。蓮太郎は東京支部でこれからお世話になる人達に挨拶回りをする為、マンションの前まで迎えに来たワンボックスカーに乗り、再び東京支部へと向かっていた。

 蓮太郎は清澄支部でやっていたのと同じように、ビジネススーツを着て、服の内側には『ハーフダイブスーツ』を身に付けている。

 ハーフダイブスーツの機能により、蓮太郎の視界には現在、ヘッドセットを取り付けた時のようにウィンドウが表示されていた。

 ウィンドウをスクロールして、細かい調整を確認している内に、東京支部の前に着く。

 運転していた積木さんが、車体後部のスペースにやって来る。

「着いたわよ、蓮ちゃん。準備はどう?」

「はい、行けます」

 腕時計型の情報体生成装置の電源を入れた。

 蓮太郎の意識が半分飛んで、目の前に人間サイズのソラシオン――情報体の少女を作り出す。

 意識の半分でソラの五感設定を確認する。視界も良好。身体に違和感無し。

「改めて見ても不思議な光景ね。前より動作が自然に感じられるから尚更」

「あれからまた練習したんですよ」

 蓮太郎の代わりに、ソラが笑顔で答える。

 蓮太郎が機動少女ソラシオンのパイロットを始めるに当たって、正体が男であることを隠す為に、積木の友人である機動少女技術者――美衣子みいこ=エルドリン博士に協力して貰い、様々な物を作って貰っていた。

 パイロットスーツの、情報体による体型偽装システムや、ハートライター等がそれだ。

 そして、蓮太郎が今使っているハーフダイブスーツと、『ハーフダイブシステム』。

 意識の半分を情報体の操作に当てることで、本来の身体を使いつつも、もう一つの自分の身体として情報体も動かすことが出来る。

 つまりは、本体と情報体を同時操作出来るシステムなのだ。

 ただし、操作は簡単ではない。ちゃんと自分の中で二つの意識を上手く分けて制御する必要がある。でないと、片方の操作を忘れてぼーっと立ったままになってしまったり、意識を混同して片方に間違った動作をさせてしまったりする。

 ちなみに蓮太郎は、家で練習していた時に、自分の身体だと思って前進させたら、実はその身体がソラのもので、目の前の壁におでこをぶつけてしまい、ソラと二人で額を押さえて痛みに悶えるという経験をした。

 毎日暇さえあればソラの情報体を作り出して練習した結果、今現在では二つの身体を何とか同時並行してまともに操作出来るまでにはなった。とはいえ、ふとした拍子に意識が片寄ってしまう場合があるので、まだまだ油断は出来ないけれど。

「それと……」

 積木さんが、じーっとソラを見つめる。

「あの……? どうかしましたか、積木さん?」

 今度はソラの代わりに、蓮太郎が尋ねる。

「ソラの服、凄く可愛いわね」

「あっ、これ、お気に入りなんですよ。青森で恵さんと出掛けた時に選んで貰ったんです」

 髪と同じ空色の半袖パーカーに、音楽の譜面の絵柄が入った白いティーシャツ。下は青色の短パンに、パステルカラーな虹模様のソックスと、青のスニーカー。

 積木さんは、ふむと唸って、

「やるわね、斉田プロデューサー……。ただ、そうか……そういうことも出来るのか……」

「えっと……」

 積木さんのソラを見つめる瞳が、いつかのように好奇心で輝いている気がする。

 しばらくして、にこやかな顔で、

「ねぇ、ソラ。今度、私と一緒にデートをしましょうか」

「で、デート? 一緒に出掛けるってことですか? ソラの姿で?」

「そう。私もソラの私服選びたいなぁって思って。……嫌かしら?」

「い、嫌ってわけではないですけど……でも、その……」

 蓮太郎とソラと目を合わせる。本体である蓮太郎が一応男なので戸惑ってしまう。

「あら? 一つ勘違いしてるわよ、蓮ちゃん。ソラだけじゃなく、蓮ちゃんも一緒に出掛けるに決まってるじゃない」

「「え」」

 ソラと声が重なる。

「ソラの情報体を出したまま、三人でデートするの。ソラの服を選んで、蓮ちゃんとは純粋にデートを楽しむ。ソラの可愛さも堪能出来るし、蓮ちゃんとの親密度も高められる。まさに良いとこ取りね。蓮ちゃんにとっても、ソラの私服バリエーションが増えるし、ハーフダイブの練習にもなると思うんだけど……どうかしら?」

「と、とても素敵な話だとは思いますけど……ソラの髪色は目立つし……瞳の色も……」

 機動少女が日本文化の中に入って来てから半世紀以上。技術が進歩し、毒性が無く髪の痛まないヘアカラーや、酸素透過性が限り無く百パーセントに近く目に優しいカラーコンタクト等が生み出されたこともあって、機動少女のカラフルな髪色とアイカラーに影響されて真似する女性も、最近では少なくない。

 ただ、それでも黒髪黒目が多い日本で、空色の髪と青色の瞳はやはり人目を引く。

「大丈夫よ。そこは情報体であることを上手く使って、髪と瞳の設定を黒とか茶色にすればいいだけだし。試着する時だけ空色に戻せば、無問題よ」

「で、でも……」

「でも?」

「何と言うかその、ちょっと恥ずかしいというか……」

「恥ずかしい?」

「僕も一応……男なので」

 面と向かってデートと言われるのは、実は生まれて初めてだったりする。

「あーもう――」

 積木さんは俯いて身体を大きく震わせたかと思うと、次の瞬間、

「蓮ちゃあぁぁぁん!」

「うわっ!?」

 積木さんが勢い良く抱き付いて来た。頭を撫でられる。

「男の癖に可愛いわねコンチクショウ! 不覚にもトキメイちゃったじゃない!」

 ふわっと甘い香水の匂いに包まれ、積木さんの体温と柔らかさを感じて、恥ずかしさで顔が火照る。

「つ、積木さん、恥ずかしいのであんまり……」

「んー、離れなきゃ駄目?」

「は、はい。出来れば……」

「じゃあ、仕方ない。代わりに――」

 蓮太郎から身体を離した積木さんは、隣のソラに抱き付く。

「ソラで我慢するわ」

「ちょっ……それ意味無いです! 中身一緒ですから!」

 が、先程よりも不思議と恥ずかしくない。これまで意識したことは無かったけれど、ソラで居る時は身体だけでなく心が女の子になっているということなのだろうか。自分の新たな謎を知ってしまった。

「とにかく、私とデートするのが嫌ってわけじゃないのね?」

「は、はい」

 単純に恥ずかしいっていうだけで。

 仕事抜きで積木さんと出掛けるのは、楽しそうだなと思う。

「良かったぁ。じゃあ、本当に今度、遊びに行きましょう。ね?」

「分かりました」

「ふふっ、約束よ」

 頷いてみせると、積木さんは嬉しそうに笑って、ソラから離れる。

 気持ちを仕事モードに切り替えたらしく、落ち着いた雰囲気を纏って言う。

「じゃあ、充電も済んだことだし。そろそろ行きましょうか」

「「はい」」

 蓮太郎とソラは答えた。

 一つ、拭い切れない懸念を胸に秘めたまま。




「青森では命を救われた。改めて御礼を言わせて欲しい。ありがとう、ソラ」

「いえ、そんな。あの時はただ必死で」

 東京支部人事部の田辺部長は、ソラと握手しながら言う。

「だとしても、君があの時、勇気を持って行動したからこそ、怪我人は一人も出なかった。それはとても凄いことだ。私はそう思うよ」

 田辺部長はソラから蓮太郎に視線を移して言う。ソラの正体を知っている、数少ない人だ。蓮太郎が男であるにも関わらずオーディションを合格出来たのは、彼の助力あってこそだと思う。

「ありがとうございます、田辺部長」

「機動少女としての道のりは当然ながら厳しい。女神のこともある。君の事情を考えると尚更だろう」

「はい」

「ただ、私は青森の一件で、君がどんな機動少女になるのかを見てみたいと思った。そして、昨日の戦闘でも君は機動少女を一機救ってみせた。だから、決して諦めずに頑張ってくれ。君ならハンデも超えて、きっと良い機動少女になれると信じている」

 応援してくれる人が居るというだけで、とても心が温かくなる。

 営業スマイルではなく、ソラと蓮太郎は自然に笑うことが出来た。

「ありがとうございます。期待に応えられるよう、全力で頑張ります」

「ああ、期待しているよ」

 と、隣に立っていた人事部の職員らしい女性が、田辺部長に冷めた視線を送る。

「部長、鼻の下が伸びてます。あとソラちゃんの手を握り過ぎです」

 田辺部長は慌ててソラとの握手を止めて、

「な、なんてことを言うんだ三島君! 良い感じの話が一発で台無しじゃないか!」

「慌てて手を離す辺りが確信的です」

「ち、違うぞソラ。三島君の言うことを真に受けてはいけない。私はそんないやらしい気持ちで君と握手したわけじゃないんだ」

「ごめんなさいね、部長がソラちゃんにセクハラをして。可愛い子に弱いってだけで、根は決して悪い人じゃないのよ」

「握手しただけでセクハラ!? 三島君、一応私上司だからね!? 君の上司だからね!?」

「そんなわけで、部長共々、これからよろしくお願いしますね。名前は……えーと」

「あっ、僕はソラのマネージャー見習いをしています、星川蓮太郎と申します」

「そう、蓮太郎くんって言うの。随分若いわね。何歳なの?」

「今年で十七になります」

「まだ未成年なの!? きゃー、どうしましょう! まさか職場でこんな若い子とお知り合いになれる日が来るなんて!」

 蓮太郎と握手をして、ぶんぶんと元気良く腕を振る三島さん。

 田辺部長は納得行かなそうな顔で、

「おい待て! 星川君に対する三島君のそれはセクハラじゃないのかね!?」

「は? 何言ってんですか部長、これは親愛の握手を交わしてるだけですよ。ねー、蓮太郎くん?」

「鼻の下どころか顔面中弛みまくってますけど! 星川くん、いいからね! ウザかったらウザいって遠慮なく言っていいからね、そこのお姉さんに!」

「あ、あはは……」

 反応に困って、蓮太郎はソラと一緒に苦笑いをするしかなかった。

 そんな風にして人事部での挨拶を終え、次の場所へと向かう。

 蓮太郎は隣を歩く積木さんに言った。

「田辺部長って、思ってたの全然違って、愉快な人だったんですね」

「仕事に関しては凄く真面目だけど、素の性格はあの通り面白い人よ。まあ、あとは三島さんが特殊過ぎるってのもあるけど……」

「凄い強烈な人でしたね」

 上司にあの毒舌。二人合わせて人事部の漫才コンビと呼ばれているとか。

「次は、整備十班のところね」

「はい……」

 蓮太郎は今まで回って来たところ以上に緊張を覚える。

 ソラシオンのパイロットとして素性を明かせないということは、既に東京支部中に伝えてある。今のところは順調に進んでいるけれど、昨日の素っ気無い態度を見せてしまった整備班の人達は一体、ソラのことをどう思うだろうか。

 少なくとも、正体を隠した相手の機体を整備しろと言われて、良い気はしないだろう。

 廊下を曲がったところで、格納庫の方から誰かが歩いて来るのが見えた。

 それが誰だか、すぐに分かった。

 ベリーショートヘアーの女の子。

「あっ!」

 佐々野蜜柑さんがソラの姿に気付いて、声を上げた。駆け寄って来て、ソラの前に立つ。

「ソラシオン! どうしたんだ、今日は?」

「え、えっと……東京支部の人達に挨拶をして回ってて」

「あー、なるほどな」

 ソラは佐々野さんの目を見ようとして、出来ずにすぐ逸らしてしまう。

 朝からずっと胸に抱いていた一つの懸念。それがこうして、支部内を歩いている時に佐々野さんと鉢合わせしてしまったらどうしよう、ということだった。

 昨日ずっと考えていて、未だにどんな風に話したらいいか、分からずにいる。

 上手い言葉が浮かんで来ない。

 でも、謝らなくちゃ。

 強く握った手の平が汗ばむのを感じながら、蓮太郎はソラの口を開く。

「えっと、佐々野さん、昨日は……その……」

「情報体の時は、普通に喋れるんだな」

「う、うん……」

「そっか、了解した」

「ごめんなさい」

 結局、蓮太郎――ソラには素直に謝ることしか出来ない。

「別に謝る必要なんかねぇよ。……だから、そんな気まずそうな顔しなくていいからさ、顔上げてくれよソラシオン」

「え?」

 驚いて見ると、佐々野さんは至って柔らかな表情を浮かべていた。

「昨日のことだったら気にしなくていいよ。正体が明かせない事情があるんだろ? だったら、パイロットスーツ着てる時に喋れなくても仕方ないじゃん。……アタシの同期の機動少女パイロットにさ、機動少女に乗ってる時は滅茶苦茶明るいのに、普段は恥ずかしがり屋で全然喋らない、想石って奴がいるんだ。だからそういうのは慣れてる。まぁ、要は今みたいに、情報体の時に会話すればいいわけだから、特に問題ねぇよ」

「佐々野さん……」

 そうか、佐々野さんは、こういう女の子なのだ。

 連太郎は思わず、目頭が熱くなる。

「昨日は半端になっちゃったから、改めて。アタシは佐々野蜜柑。機動少女カシスのパイロットだ。よろしくな、ソラシオン」

 彼女が手を差し出して来る。昨日はその手を取っても挨拶をすることが出来無かった。

 蓮太郎はソラの手を伸ばし、佐々野さんと握手を交わす。

「うん……!」

 嬉しくて、胸が一杯で、言葉が詰まる。

 一度ちゃんと呼吸をして、気持ちを落ち着けてから、

「……ありがとう、佐々野さん。色々迷惑掛けるかもしれないけど、こちらこそよろしくお願いします」

「さん付けなんかしなくていいよ。昨日も言ったけど、同い年なんだし、なんかムズ痒いし。気軽に下の名前で呼んでくれ」

「じゃあ、蜜柑ちゃん……でいいかな?」

「ち、ちゃん付けか……」

「あ、ごめん。気に障ったかな? 呼び捨てだと、ちょっと気恥ずかしくて」

「いや、それでいい。実は色んな奴から呼ばれ慣れてるし。それで、アタシの方も、ソラって呼んでいいかな? ソラシオンって言うと、なんか他人行儀の気がしてさ。ファンからは愛称でそう呼ばれてるって聞いたんだけど」

「うん。そっちの方が僕も嬉しい」

 握手し終わった後、蜜柑ちゃんは蓮太郎と積木さんのことが気になったようで、

「そちらの二人は? ソラのプロデューサーさん?」

「紹介するね。こちらが僕のプロデューサーをしてくれている人で――」

 積木さんが前に出て来て、蜜柑ちゃんと握手をする。

「よろしくね、佐々野さん。私はソラのプロデューサーをやっている積木紗知つみき さちって言います。佐々野さんのカシスは、確か組ちゃん――山本プロデューサーが担当してるのよね?」

「はい。お知り合いなんですか?」

「ええ。組ちゃんは大学時代の後輩なの。今も仲良くさせて貰ってるわ」

 蜜柑ちゃんはそれから、蓮太郎に視線を向けて来た。

 目が合って、身体が強張るのを感じる。

 ソラでは既に何度も会話したけれど、直接言葉を交わすのは、これが初めてになる。

「えっと、僕は……星川蓮太郎って言います。ソラのマネージャー見習いをさせて貰ってます。これからよろしくお願いします」

 我ながら何てぎこちない挨拶だろう、と思う。まるでロボットみたいな口調になってしまっている。

 蜜柑ちゃんは蓮太郎をじっと見つめたまま、ぱちくりと瞳を瞬かせている。

 一体彼女は、僕のことをどんな風に思っているのだろうか。表情からは伺えない。

 と、積木さんが蓮太郎の肩に手を置きながら言う。

「蜜柑ちゃんは確か、ソラと同じで今年十七歳になるのよね?」

「あっ、はい。そうですけど……」

「蓮太郎くんもね、ソラや蜜柑ちゃんと同じ十七歳なのよ。仲良くしてあげてね」

 すると蜜柑ちゃんは納得したように、

「へぇ、なるほど。道理で若いなって思った。よろしくな星川」

 蓮太郎は、普通の反応であったことに安堵しながら、

「よろしくね、蜜柑ちゃん」

「って、お前もちゃん付けかよ!」

「あっ! ご、ごめん、つい……」

 口を滑らせてしまった。蜜柑ちゃんからすると初対面の男だというのに。

 蜜柑は蓮太郎から目線を逸らしつつ、人差し指で頬を掻く。

「いや、まあ、いいんだけどさ。ただなんか、男から言われると逆にムズ痒いものがあるというか……」

「佐々野さんって呼んだほうがいいかな?」

「うーん」

「蜜柑さんは?」

「……あーもう、ちゃん付けでいいよ、ちゃん付けで。ここまで来てわざわざ『さん付け』されるのも気持ち悪いし」

「ありがとう」

 良かった。何とか大丈夫そうだ。

 思わず笑みを零した蓮太郎に、「ん?」と蜜柑が声を上げる。

「どうかした?」

「何かお前……ソラと笑い方がそっくりだな」

「「「え」」」

 蓮太郎とソラの心臓が飛び跳ねた。

 蜜柑は顎を擦りながら、じーっと蓮太郎の顔を見つめて来る。

 嫌な汗が出て来た。どうしようと横を見れば、積木さんもまさかと言わんばかりの表情を浮かべている。

 笑顔が良いと褒められたことがあった。普段過ごしている時も、ソラである時にも。

 蓮太郎はソラの姿で居る時に、別段違う自分を演じようと思ったことは無かった。ソラになると声質が別人のように変わるし、ソラで接した人は皆女の子として扱ってくれていたから、このままで良いと思っていた。

 ただ、容姿が別人に変わっても、笑い方が変わるわけではないのだ。確かに蜜柑ちゃんの言う通り、ソラの笑い方は僕と一緒なのだろう。

 でも、それだけでバレるはずは無い。だって、僕は今ソラの横に存在して居るのだ。

 蜜柑ちゃんはハーフダイブシステムのことなど知らないはずだ。

「さてはお前――」

 蜜柑ちゃんが蓮太郎の目を見る。

 心臓の鼓動が早まる。

 蜜柑ちゃんは言った。 

「ソラの血縁者か何かだろ!」

「え、ええと……」

 肩から力が抜けて行く。

 けれど、意外に回答に困る指摘でもあった。どう誤魔化したらいいものだろう。

 戸惑っていると、積木さんが助け船を出してくれた。

「そうよ。実は蓮太郎くんは、ソラの双子の兄なの。事情があって、ソラのマネージャーとして付き添ってるのよ。ね、蓮太郎くん?」

「え? ……は、はい! 実はそうなんだ。でも、あの……出来れば他の人には秘密にしておいて貰えると……」

 小声で言うと、蜜柑ちゃんは頷いて、

「なるほどな。分かったよ、秘密にしておく。でも、そっか。双子ってことは、ソラの素顔は星川と似てるってわけか」

「ど、どうなんだろう」

「その反応……外見は似てると見た」

 満足げな笑みを浮かべる蜜柑ちゃん。

 と、彼女は腕時計を見て「いっけね」と言葉を零す。

「アタシ、今日これから学校に行くところだったんだ。だからごめん、続きはまた今度話そうな」

「そうなんだ。引き留めちゃってごめんね」

 そう言いつつも、ソラと蓮太郎は長く話せないのが残念だと感じてしまっていた。

 蜜柑ちゃんは首を横に振って、

「いいや、どっちかって言うとさ、アタシの方がソラと話したいと思ってたから。昨日変な別れ方しちまって、何かこう、モヤモヤしてたから。こうして翌日に会えてラッキーだったよ」

 爽やかな風が吹き抜けるように彼女は笑う。

「そんじゃあ、行くよ」

「うん」

 そのまま駆けて行こうとして、

「おっと、そうだ」

 蜜柑ちゃんは振り向いて、手を振った。

「ソラ、またな」

「うん、また今度ね、蜜柑ちゃん」

 ソラも手を振って返した。

 やがて蜜柑ちゃんの後ろ姿が見えなくなってから、積木さんは肩を下ろして、安心したように溜め息を吐く。

「一瞬、正体がバレるかと思ってヒヤヒヤしたわ……でも」

 蓮太郎に微笑み掛ける。

「良い子みたいね、佐々野さん」

「はい、とっても」

 蜜柑ちゃんは思ってたよりずっと、素敵な子だった。

 だからこそ、僕も出来る努力をしたい。

「積木さん」

「うん?」

「昨日言ってたパイロットスーツのボイスチェンジャーのことなんですけど……やっぱりエルドリン博士に頼んで貰っても、良いですか?」

「ええ、もちろん」

 ――幸運なことに、最初からとっても素敵な出会いがありましたよ恵さん。

 昨日とは打って変わって、蓮太郎の心は弾むように軽かった。

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