再びの改名
第二、第三洞窟での大惨事。
その概要は騒動が外界に伝わって三日が過ぎても依然としてわからないままだった。
もちろん洞窟内部に入るときに申告する名簿から未帰還のチーム、予定を過ぎても戻ってこない松明守をすべて死亡とすることで確定ではないものの被害状況は把握できた。
だが、第二洞窟では魔物の先陣を務めたのがマネフィスクスとポネロスであることを把握し、前線が崩壊した原因をおおよそ推測できたものの、第三洞窟では接敵したわけではなかったのでその予測すらできず、第二洞窟の状況から第三洞窟でも同じ状況であったとされた。
むろん第二洞窟も前線状況の確認と残されたものたちがどうなっているかを確認する必要がある。
そうは言っても、第二洞窟も第三洞窟も主力探索者がほぼ行方不明、しかも、その生存は絶望的というのが現状。
それこそわずかしか残っていない一線級の冒険者チームに探索の依頼しなければならないのだが、例の毒に対する毒消しが完成しなければ、さらに被害が出しかねない。
チームの力と戦歴から探索を依頼することになる「黄金の盾」と「プロトポロース」は洞窟に潜ることを禁止され拠点への留め置きの指示が出された。
それからしばらく経った夜。
「始まりの町」ゴクレニウスにある冒険者組合の本部に呼び出されていた「黄金の盾」と「プロトポロース」は有名な酒場「ロクス・デイオルム」で顔を合わせる。
むろん、驚いたのは「黄金の盾」の三人。
なにしろ、アーベルの隣には、アーベルを暗殺しようと襲撃してきた有名な暗殺者がいるのだから。
「おい。アーベル。お前の趣味が悪いことは昔から知っていたが、今回はその中でも一番だな」
「よりによってなぜそいつを侍らせているのだ」
「まったくだ」
カッシーニが剣に手をかけながら喚きたてると、それに応じるようにダレストも杖を相手に向ける。
「助けて欲しければ今日の酒代を払え。心優しいカッシーニ様の心遣いだ。どうだ?」
「不要だな」
アーベルはあっさりとその申し出を蹴り飛ばす。
「もしかしてその女の色香にやられたか。そういうことならさっさと死ね」
「まあ、そう言うな。一応今はパーティを組んでいる。男三人と女ふたり。羨ましいか?カッシーニ」
「いらんわ。そんなもの」
そこから、お互いの近況報告が始まったのだが、その出だしで話は躓く。
「全くダメだな。それは。どう思う?ダレスト。セルシウス」
「ああ。俺もダメだと思う」
「失格だな」
「黄金の盾」の面々にそうこき下ろされたもの。
それは、アーベルたちのチーム名だった。
「『プロトポロース』?やめておけ。良い名を考えてやるから明日改名手続きに行け」
「命名料は特別に酒一杯で済ませてやるから」
そもそもチーム名などどうでもいいと思っているアーベルは鼻で笑って相手にしなかったのだが、それとは対照的に大乗り気だったのは脳筋兄弟。
そして、意外にもフランシーヌも身を乗り出す。
「聞かせてもらいましょうか。本当にいい名であれば、私も一杯ごちそうしましょう。ですが、それだけ大口を叩いてたいしたものが出てこなかったら。この場で首を撥ねてあげるから心して考えなさい」
「それでその自慢の名前はなんですか?」
「深淵の先導者。暁の騎士」
「扉を開く者。迷宮の覇者」
「光の導き手。漆黒の戦士」
「どうだ?」
即答である。
つまり、俺たちの情報はとっくに掴んでおり、その名を考えてきたわけか。
アーベルの笑みは黒味を帯びる。
「だそうだ。フランシーヌ。採点をしてくれ。できるだけ厳しく」
「了解」
アーベルの言葉にそう応じたフランシーヌは、三人を眺める。
「まあ、どれもこれも失格だけど、強いて上げれば『迷宮の覇者』か『深淵の先導者』でしょうか。これなら改名してもいいけど」
「俺は『深淵の先導者』がいい」
「俺も」
「ということは俺たちの勝ちだな。アーベル」
「くそっ」
「組合に払う登録料だって馬鹿にならないのだぞ。こんなことに金をかけるなど無駄の極みだ」
アーベルは不機嫌そうにそう言うと、酒を一気に飲み干した。




