予想外の敵
始まった洞窟探索。
それは予想外に順調なものだった。
アーベルの感覚では、前所属チーム「黄金の盾」よりも間違いなく上位のメンバー構成。
特に魔術師に関しては自分とダレストの合計よりも数段上。
本格的な戦いが始まる前にクロエの戦闘経験を他のメンバーと同等レベルまで高めておく必要がある。
「そのためには、接敵したとき、まずクロエが魔法攻撃をおこない、残った魔物を三人の剣士が倒す」
今後の戦い方の方針を伝えたアーベルだったが、クロエの魔法、その破壊力は掃討戦をおこなう必要を生じることがないくらいに完璧なもの。
当然、毎回出番なしとなる兄弟剣士を閉口させた。
「……それに、あれだけ完璧に灰にしてしまっては奴らが持っていたかもしれない戦利品も手に入れられないだろう」
「食料だって」
「まあ、それは間違ってはいないが、この辺を徘徊している魔物が持っているものなどロクなものはないし、食料はこの付近であればまだ冒険者組合の直営店が点在している。マイムーやクヌピが食っているものなど食料があるかぎり食べたいと思わない代物だ」
と言っても、そう言う俺は奴らの肉を食ったのだが。
アーベルは薄く笑うと、松明で照らされているとはいえ、十分な明るさがあるとはいえない洞窟を進むチームの最後尾を歩く。
そして……。
「音がする。新しいお客さんのようだ」
先頭を歩くフランシーヌが後ろを振り返りながらそう叫ぶ。
「数は?」
「音だけで判断するのなら二足歩行の魔物が十体以上。クヌピよりも重いが比較的軽量」
「ということは、リュコスか」
「またはピーテーコス」
リュコスは人狼とも呼ばれる人型の魔物。
ピーテーコスは、いわゆる猿人で、力はリュコスよりも劣るが、その知力は高く、剣技に優れているうえ、魔法も操る魔物で、五十体以下の集団の指揮官、いわゆる下級指揮官の大部分がこのピーテーコスとなっている。
「まあ、小集団の指揮官役を担うピーテーコスがそれだけ纏まってくることはないだろうからリュコスだろな」
第一洞窟最深部に入った経験からいけば、もうひとつ可能性があるのだが、さすがに最深部より遥か手前まで奴らが進出しているはずがない。
アーベルは心の中で呟く。
むろん、その時は可能性のひとつを口にしただけであり、目の前に現れることなど爪の先ほども考えていなかった。
だが……。
「……なぜマネフィスクスがこんなところにいるのだ」
「しかも、よりによってポネロスを連れ立って……」
姿を現した相手を確認したとき、アーベルの口から呻き声に似た言葉を漏れ出した。
魔物が現れる場所は決まっている。
これが冒険者の常識となっている。
だが、これは正確には正しくない。
多数に抜け道があり、長く曲がりくねっているものの、洞窟は一本道。
さらに、転移魔法の登場によって状況は若干変わってきたものの、基本的には魔物は沸いて出るわけではない。
つまり、どの魔物もどこにいてもおかしくはないのだ。
だが、実際には魔物は種族によって行動している場所は違う。
例えば、クヌピやマイムーは洞窟のほぼ全域で見かけるし、冒険者組合の報酬対象から外れている最弱の最弱といわれる半液体のような形状が定まらない魔物であるスクリーキ、ゲオス、サリンガ、サリアンなどは、ケノンと呼ばれるクヌピやマイムーすらほとんど姿を現さない地域にも多数生息している。
ちなみに、ケノンとは、現在の前線の三日分後退した辺りにある空気が非常に悪い地域で、人間側もそこに長く留まることは命の危険があるとされる場所である。
そして、現在アーベルたちの前に現れたマネフィスクスやポネロスを含む人型の魔物の多くはこのケノンの奥を縄張りにしており、マネフィスクスやポネロスに関してはケノンを超えた場所にやってきたことはこれまで確認されていなかったのだから、アーベルが驚くのも無理はない。
だが……。
一瞬後、アーベルの顔にはどす黒い笑みが浮かぶ。
「確かにこの状況は最悪だ……だが……」
「それとともに、最高でもある」




