転移魔法
「なあ、アーベル」
「俺は魔法について詳しくないのだが、突然姿を現す奇術のような魔法など本当にあるのか?」
「ある。ただし、俺だって剣士だ。多少魔法を使えるが、元々あった才が覚醒しただけであって正式に勉強したわけではない」
「当然、そのような魔法に関する知識などない」
「と言いたいところなのだが、実は組合の奴らから詳しく説明を受けてきた」
アルキタスの問いにアーベルはそう答えたが、これは嘘である。
いや。
冒険者組合からその魔法について聞いたのは本当である。
ただし、アーベルはデモクリトスからそれ以上のことを聞き出し知っている。
転移魔法というその名称を含めて。
だが、それをここで言うわけにはいかない。
裏切られたと言っても、やはり仲間。
誓いを破るわけにはいかないのだ。
仕切り直しの咳払いをしたところで、アーベルは言葉を続ける。
「まず、これは魔物だけが使用できる魔法である。もしかしたら魔法水晶のような類を使用しているかもしれないが、どちらにしても魔術師が関わっていることは確実だろう」
「そして、今回の一件から考察すれば、その魔法は相当遠方からその場所に移動できるようだ」
「実は、俺も似た現象を数回見ている。もっとも、俺が見たのは追い詰められた魔物どもが急に消えたというものだが。だが、その場から消え、別の場所に現れることができるのなら、その逆も可能だろう。今回はそれをおこなったということになる」
「なるほど。たしかにそれはなかなか厄介の魔法だな」
「だが、魔物どもはそんな便利な魔法があるのに頻繁に使わないのだ?」
「おそらく、それを使えるのは限られた者だけ。ネクロエデッセたちを連れてきた者がすぐに消えたことがそれを証明している」
「つまり、その魔法を扱える者は数が少なく、さらに簡単には補充できない。何があっても失うわけにはいかない。だから戦闘には絶対に参加させない」
「それでもそれを使った攻撃が有効とわかれば、今後も頻繁に同じことが起きるのではないのか?」
「あり得るな」
「そして、今回は現れたのがネクロエデッセだったが、深部にいるウルリクルリやギーガスのようなマイムー以上の怪力の魔物が狩場に現れるようになったら洞窟の戦況は一気に変わりかねない
「同じ魔法をこちらの魔術師は使えないのか?そうでなければ、やって来るのを防ぐ方法とか」
「研究中だそうだ」
「まあ、剣士である俺たちにはそれについてどうすることもできない。新しい魔法の開発やその防御方法は専門家である魔術師に任せることにして、俺たちはそのような事態に直面してもいいように更なる強さを手に入れなくてはならない」
「そうだな」




