勇者を殺せ
『魔族』・『魔物』――種族名に『魔』とつく、たったそれだけの理由で昔から人間に虐げられてきた。
人間よりも優れていることはあれど、違うことなど何もない。
確かに傷が癒えるのは人より早い――だが人と同じように痛みは感じるし、傷は残る。
魔力量も人より多い――だがそれは人の子だってたまにいるだろう。そして人間は彼らを特別視こそすれ、彼らに牙を向けることはない。
寿命が長いのは、個体差としか言いようがない。魔族や魔物が願って手に入れたことではない。
それに何より彼らは争いを好まないのだ。それは単純に不要だからだ。
争って何になるというのだ。どちらかが傷ついてしまうだけだろう。それで満たされるのは自己顕示欲くらいなもので、失うものの方が遥かに多い。
だから魔族と魔物は耐えた。ただひたすらに。
争うよりも人間が魔族と魔物のことを理解して、そして彼らと共に歩む道を選んでくれる未来を夢見て。
だがそれは魔王、シャガレイの誕生によって終わりを告げる。
彼は就任式で高らかに宣言した。
「勇者を殺せ」――と。
シャガレイは今までの魔王と同様に聡く、そして何より優しい性根の持ち主だ。だからこそ今まで通りに同胞たちが虐げられることを良しとはしなかった。
そのためにシャガレイは人間との共存の道を捨てた。
人間から恐れられようとも、彼は同族たちの暮らしやすい国を作ることに決めた。そのための声明だ。
誰かを傷つけることを嫌う魔族や魔物は城へと避難させ、そして共に戦ってくれる仲間を魔界の至る場所へと配備した。
それはたった数人でやってくる勇者一行を殲滅するためだ。
シャガレイの良心は痛んだが、長らくの葛藤の末に彼らには生贄になってもらうことに決めた。
それは魔族と魔物、魔界で暮らす全てのものが安寧を手に入れるための決断だった。
今まで一切の抵抗をしなかった魔族達は抑えていた力を解放し、彼らを葬った。その圧倒的な力を前に無力な彼らが塵となるまでそう時間はかからなかった。
誰からともなく地に落ちた勇者一行だった灰を拾い集め、彼らが王の元へと運んだ。
その灰の詰まったツボを抱えた王は涙した。自分が無力であるが故の犠牲であると。
それには誰も何も声をかけてあげることなど出来なかった。
代わりに城の中に勇者たちの墓を作った。農民の出であった彼らにはあまりに壮大な石碑を建てて、魔族と人間の争いに犠牲となった5人を弔った。
それから何百年、何千年と経ち、今ではすっかり初めの理由など忘れて、人を襲うようになった魔族や魔物もいる。
だが王として君臨するシャガレイだけは始まりを忘れることはない。
彼にとってはいつだって勇者を殺すのは同胞達を人間の手から守るためであり、そして葬った彼らは皆、犠牲者なのだ。
「勇者を殺せ」
勇者と呼ばれる人間が人間の国を発つ時、必ずシャガレイはその命令を下す。
人間との共存を諦めたその目は紅く染まり、いつだって悲しみを秘めている。




