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初恋は、×の味。  作者: 狗賓
2/2

後編

 やっと書けた……


 今度も甘々?side:オレです。

 読んでいただけたら幸いですが、相変わらずの自己満足((ドヤァ


 胸に去来する、もやりとした鈍く重たい何か。


 それを初めて感じたのは、オレが自分の病気を知ってすぐ──高校生になったばかりのことだった。

 同中の奴らと集まって、いつものファミレスで駄弁っていたあの日。オレが通う高校と、ちょうど真逆の位置にある共学校に通っている一人が、ポツリと一言呟いた。


「なーんかさぁ、可愛くなったよな、三咲みさきさん」


 三咲、というのはオレの隣の家に住んでる三咲 りんのことか。

 確かあいつは、こいつと同じ高校に行ったのだったか。だが、たまに顔を合わせても特別かわいいと思えるやつじゃない。

 高校生になってもいまだに化粧の一つもできないし、髪型も地味な団子結び。容姿的には平凡の域を脱し得ないやつだ。

「あーね!分かるわ、三咲は大人しいし」

「そーそー、清楚系ってやつ?イマドキ珍しいよな」

「それな」


 ……こいつらは何を言ってるんだろう。



 三咲が大人しい?

 それはただ眠いだけだ。読書狂いのあいつは寝る間も惜しんで本を読み続けるから、いつも寝不足なだけ。

 そもそも大人しい女子が、近所のガキと嬉々としてサッカーするかよ、普通。


 清楚系だって?

 制服のスカートが長いのと化粧をしてないからだろうが、あいつは自分の見た目に拘らない上、無駄金を使うのを嫌がる。

 第一、スカートを切ったり、化粧品を買う金があるなら本を買うとのたまうだろうよ。



 こいつらは、あいつのことを“良い”とか言いながら、全然本質を知ろうとしてないじゃないか。

 そう気づいたとき、例の感覚が降りてきたのだ。


「なー、お前!確か三咲さんと家近いよな!?頼むから」

 紹介してくんね?と、そいつは言った。

 いつもなら「良いぜ、撃沈しても知らねーよ(笑)」とか言って、安請け合いしていた。だが、そのときオレの口から飛び出したのは、


「断る」


 その言葉だけだった。

「何で!?」

 当たり前のように返ってきたその言葉は、オレの心に思った以上の衝撃を与えた。

 ホント、何でだろう?

 あいつはただのご近所さんで、歳が近いから何度か遊んだ覚えはある。だが、オレにとってあいつは大勢いる友達の中の一人でしかない。そのはずだ。

 ……それでも、目の前にいるこいつらとあいつを引き合わせるのだけは、絶対に嫌だ。そう思った。

「……噂で聞いた。あいつは、好きな人がいるらしい」

 デマカセでも何でも良い。

 とにかくこの場であいつの話から逸らせれば。

 オレの答えに、三咲の話題を出したやつは大袈裟に仰け反っていたが、それ以外のやつらの視線が生温かい気がして、オレはどこか居心地が悪かった。



 それからというもの、オレは上の空になっていたらしい。

 “らしい”というのは、オレの当時のカノジョがそう指摘するまで自覚がなかったからだ。彼女は、そんなオレの態度が許せなかったらしく、その後スッパリとフラれた。ビンタつきで。

 これで9人目。皆向こうから告白してくるのに、振るのも決まって向こうからだ。

 オレはカノジョをそれなりに大事にしてるはずだ。浮気したこともないし、デートも流行りの店を調べて連れていってあげたりもした。それでも長くて三ヶ月が良いところだというから、不思議だ。

 ちなみにその事を友人に相談したところ、グーで殴られた。痛かった。



光希みつきは、平等な人だもの」


 いつだったか、あいつがオレに言った言葉。何で、今更思い出したのだろうか。

 ……いや、あいつが言ったのは一度じゃなかった。

 何度も何度も、そう言ってはほろほろと花が綻ぶように笑って、僅かに傷ついたように目を潤ませる。

 あいつがオレへのそういう(・・・・)好意を持っているのは、ずっと前から知っていた。少なくとも中学の頃には、そうだったはず。

 ホントのことを言うと、あの日言ったデマカセも、あながちウソじゃない。

 あいつは、その想いをオレに隠してるつもりだったらしいが、恋愛に関しちゃあオレの方が上手うわてだからな。すぐに分かったさ。

 でも、オレは知っててもそれを黙っていた。

 あいつの想いはあいつのもの。それを伝えるのも、捨てるのも、あいつの自由だから。

 だから、ついに10人目のカノジョが出来たことをあいつに直接言ったとき。

「光希は、優しいもんね」

 その困ったような表情かおをみて、オレがどこかホッとした気がするのは、気のせいだ。そう思いたかった。



 でも、そのカノジョともわりとすぐに別れた。

 今度はだんだんと潮の満ち引きのように、ゆるゆると離れていって、いつのまにか別れていた。

 むしろ、向こうに新しいカレシができてから「サヨナラ」のメールが届いたぐらいだ。きっと、オレのことなど、どうでもよくなったのだろう。


「お前なー、もっと相手をみてやれよ。カノジョ、ちょっとかわいそうだったぞ」

 別れてしばらくして、同じクラスのやつにそう言われた。そいつは、もう5年も同じカノジョと付き合っている、円満カップルとして有名なやつだ。

「何いってんだ、オレはちゃんと見てただろう。大事にしてたし」

「違うっての!何かさぁ、もっと中身を見るんだよ。

 相手が何して欲しいか、どうしたら喜ぶか。

 確かにそれを見るのは上手いけどさ。少なくともお前は相手が一番気づいて欲しいところに全く気づいてねぇよ」


 一番気づいて欲しいところ、それは一体何なのか。

 

 ますます分からなくなったオレは、その混乱した頭のまま偶然出会(でくわ)したあいつに相談してしまった。……一応、オレの知り合いの話ってことにしておいた。

「あの、さ」

「うん」

 あいつは──三咲 凜というやつは、他人ひとの悩みには真摯に向き合うやつだ。だから、オレもポロポロと本音を漏らしてしまったのかもしれない。

「たとえば、そいつは相手をずっと大切にしていたのにさ。ある日、突然『もうイヤ!限界!』って言ってフラれたんだと。

 そいつの何がダメだったか、分かるか?」

 あいつは、ふむと頷くと少し熟考するように俯いた。

 その間、およそ二分。

 答えが出るやいなや、あいつはパッと顔を上げてニヤりと、いたずらっ子のように笑って見せた。


「きっとその人、相手の子以外にも同じことしてたんじゃない?

 カノジョってのは、つまるところ『特別』になりたいってことだから」


 独占欲ぐらい見せてほしかったのかもね、と。


 あぁ、なるほど。そういうことだったのか。

 それは思いの外、すとんと胸の中に収まった。あいつは、いまだにカレシいない暦=年齢なのに、オレより恋愛上手なのかもしれない。

「お前、よく思いつくなぁ」

「んー?そりゃあ、私も女子ですから!」

 同性の気持ちぐらい分かるよと、えへんと胸を張ってどや顔をかましてみせる。

 その顔が、眩しい気がしてオレは少し目を細めた。



 小さい頃の「ミリン、ミリン、酒女~」とからかわれて、ぎゃんぎゃん泣き叫んでたあいつは、一体全体どこへやら。

 「子どもっぽいかなぁ」と、微笑む姿はあいつ自身が思っているよりずっと大人っぽくて、きれいになっていた。

 あいつはよく「光希は大人だね」なんて言うけれど、オレの方が余程子どもだったなんて気づいたのは、その頃だ。

「三咲」

「はいはい、なんぞ」

 昔は「凜」と呼んでいた。呼びやすい軽い響きと、キレイな音が好きだった。呼び方を変えてしまった自分が、今更ながらバカみたいに思える。

 もしかしたら、心のどこかであいつに対して背伸びしたい自分がいたのかもしれない。下の名前で呼び合うなんて、子供みたいだと。

 ……騙されやすいあいつは、オレをすっかり“大人”だと思ってるらしいが。

「この前勧めた映画、観たか?」

「あー、あれね。ちょーっと甘すぎでしょ!カノジョと行くにはビミョーじゃん?」

「オレ、甘党だし?いいだろ」

「知ってるけど、それとこれは違うでしょ!」

 だからフラれるんだよ~と、もごもご呟くあいつは、オレがすでにフリーであることは知らない。

 くるくる変わる表情が面白くて、見飽きないなぁなんて思って。

 あれ、オレはひょっとしてあいつが好きなのか?と気づいたら、スッと心が軽くなった。

 前に集まった同中のやつらにそのことをメールで伝えたら、一人除いて(←三咲のことを話題にしたやつ)全員から「今更かよ」と返ってきた。

 ……断言しよう、あれは偶然じゃない。



 そんなこんなでオレはあいつへの想いを自覚したわけだが。

 それを伝えるかどうかと思い至って、はたと思い出した。

 ……そういえば、あいつにはオレが病気であることは伝えてないな。と。

 それでも、あいつに想いを告げれば少なくともオレは自己満足するだろう。病気も手術をすれば治るし、心配することはあまりない。

 だが、万が一にもあいつがオレの告白を受けて、その後にオレが手術で失敗して死んでしまったらどうする?

 今となってはオレの勝手な願望としか言えないが、あいつもオレが好きなら、傷つくぐらいじゃ済まないかも知れない。


 病気のことを、言うか否か。

 オレの想いを、告げるか否か。


 どっちも言いたいのに、言ったらどうなるか分からなくて、ずっと先伸ばしにし続けて。

 手術の予定が四月に決まった頃、オレは結局どちらもオレの胸にしまったままにしようと決意した。

 その、はずなのに……。



「光希。私、あなたが好き。

 ずっとずっと、最初に会ったあのときから。……重いかもしれないけど、初恋なの」


 バレンタインに親経由で呼び出され、昔馴染みの公園で告げられた言葉。

 毎年恒例の、チョコレートのカップケーキはオレ好みの甘いやつ。……初めてもらったやつは、塩と砂糖を間違えてしょっぱかったけど、それ以来はずっと同じ味。

 正直、あいつの言葉は嬉しかった。柄にもなく、頬が赤くなるくらいには。

 でも、答えるにはもう一度考える時間がほしい。

 だから、オレは一ヶ月後──つまり、ホワイトデーまで待っててほしいと告げた。

 ぱかんと開かれた口は、少し間抜けだったが可愛いなと思うオレはどうやら完全に堕ちているらしい。

 照れ隠しに素っ気なく「またな」言うとさっさと、走って逃げてきてしまった。

 どうせお隣だから、送ってやればよかったかと思ったのは家に帰って自室で貰ったカップケーキを囓ってるときだった。

「……甘」

 同じ味のはずのカップケーキを、なぜかいつも以上に甘く感じたのは、オレの心境の変化のせいだろうか。

 そう思うと、不思議と顔が綻んだ。

 ……ちなみに、ケーキを囓りながら笑うオレを見た母は、憐れみの視線を向けてきた。一体なぜ。



 だが、そんなささやかな幸せを感じていられたのは、それが最後だった。

 翌日、オレは初めて発作を起こし、病院へ担ぎ込まれた。今までは何ともなかったのに、何故だ。

 医者先生曰く、オレの病気の進行速度が予想以上に早く、このままでは危険だというのだ。

「もしかしたら、海外で手術してもらうことになるかもしれません」

 その言葉にオレは茫然となった。

 両親はそれでもいいと即答してしまったが、オレにはまだやり残したこと──あいつへの返答がある。


 あと少し待ってくれ。


 そう言いたかった。

 だが、話はあっという間に進んでいき異例の早さでオレの海外行きの日が決まった。

 それはホワイトデーより前。オレの体調を過剰に気にするようになった両親を前にして、どう頑張ってもあいつのところに行くのは無理だった。


 三咲、ごめん。


 オレはついに何も言えないまま、旅立ってしまった。






 オレが日本に帰ってこれたのは、あいつとの約束から三年が経ってからだった。

 手術は成功したものの、運悪く熱を出し長々と療養を余儀なくされ、そのあとも少し弱った身体を治すため、リハビリにかなりの時間をかけてしまったのだ。

 結局、オレは高校中退となり、年齢を鑑みて再度高校に編入するのも憚れたので、高卒認定試験のため勉強も頑張った。

 母からあいつは地元の大学に通っていることを聞いていたため、できれば同じところに通いたいオレとしては、早く追いつきたくて仕方なかったのもある。

 だが、一番の理由はあいつに“大人”として思われていることへの、意地だった。



 帰国日は偶然にも3月14日、ホワイトデーだ。

 夕方、オレは家に着くやいなや、勢いそのままに例の公園へと駆けつけた。

 律儀なあいつのことだ。もしかしたら、まだ待っててくれているかもしれない。

 そんなオレの願望120%で公園に入ると──そこに、あいつはいた。

 しゃがんで膝を抱えて、じっと地面を見つめている。微かに肩が震えているのは、もしかして泣いているのだろうか。

 その後ろ姿に、オレは用意していた言葉の全てが吹っ飛んだ。


「凜」


 ピクリと反応して、背すじが伸びる。

 そして、おそるおそるという風にゆっくりとオレの方に振り返ると、その目を大きく見開いた。

 相変わらず化粧っ気のない顔は涙跡で赤くなり、零れ落ちんばかりに開かれた瞳はうるうると潤んでいた。

「凜、あのさ」

「……うん」

「向こうには、ホワイトデーがなかったよ」

「それで?」

「だから、さ」

「うん」

 オレはそこで深く深く呼吸をした。生きてることを噛みしめるように、ここにいることを思い出すように。

「オレにとっての次の(・・)ホワイトデーってのは、今のワケだ。だから、その……」

 答えを伝えに来た。

 その瞬間、あいつは立ち上り目元を拳でぐいぐいと拭う。いささか乱暴すぎるそれは、いつからか全然泣かなくなったあいつが久しぶりに見せた癖だった。

 あんまり擦ると後で痛いぞ、と何度注意したか。

 それすら今のオレには愛しくて、オレは自然と微笑んでいた。


「今更すぎるけど、オレは凜が好きだ。


 凜はずっとオレの特別で、一番大切な人なんだ。


 きっと、オレも凜が初恋なんだと思う。気づくのが遅れたのは、オレが凜にいいカッコしたくて、変に大人ぶってたから。だから────」


 言い終える前に凜がオレの胸に飛び込んでくる。ぎゅっと抱きついて、オレを絞め殺すんじゃないかってぐらいに強く強く。

 しばらくそうしていたかと思うと、急にばっと顔を上げて、ふにゃりと初めて見せる笑みを見せた。


「光希も、案外子どもっぽかったのね!」

「そう言う凜は、ずっと大人だったろ」


 オレの中に溶けていく甘さ。

 腕の中にはずっとオレが欲しかった一番の『特別』がいて、あいつが──凜が笑ってる。

 この上ない幸せを知ったオレは、この甘さからもう二度と離れられないだろう。




 それは、初恋の味。

 オレの初恋は、甘い甘いしあわせの味なのだから。

《その後》


「なぁ、凜。お前にとって初恋ってどんな味だ?」

「あ、味!?う~ん、言い得て妙ね……。あ、そうだ!」

「何々?」

「あれよ、そのしょっぱいやつ」

「……それって塩と砂糖を間違えた、あのカップケーキのこと?」

「違うっ!……ってゆーか、よく覚えてるね」

「あれは衝撃的だったから。で、結局何さ」

「わ、笑わないでよ?」

「もちろん」

「……だ、の味」

「うん?」

「な、涙の味。なの……((ゴニョゴニョ」

「……凜、あのさ」

「な、何?光希」

「……ごめんね、すっごくかわいい」




作者)はよ爆ぜろ


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