願いの先
「いってええええ!」
強烈な痛みに俺は目を開けると、学校の天井が映っていた。
辺りを見渡せば、見慣れた廊下がある。
服も学生服だし、携帯や財布もバッチリある。
「夢だったのかな……?」
そう思って日付を見ると、一週間ほど過ぎていた。
夢じゃ無かった?
戸惑い気味に通知を開くと、みんなの心配するメールやメッセージがたくさん入っていた。
「……みんな心配してくれてたんだ。俺が一方的に気付かなかっただけなんだろうな。ミリアと一緒で……人の好意が分からなかったんだ」
さて、どうやってみんなに事情を説明したら良いのか。そんなことを悩みながら、俺は久しぶりの世界の空気を吸いこんだ。
○
あれから一年近くが過ぎた。高校一年の春休み。もうすぐ高校二年になる。
あれから何度か寝て目が覚めたら異世界だった。という想像をしているが、実際にそんなことは起きなかった。
「ミリア達、元気かな。また会いたいな」
異世界の出来事を何となく思い返しながら、俺は寝ぼけた頭で階段を下りていた。
「あっ」
何かに足を掴まれた気がした俺は、階段を踏み外し転がり落ちるのだった。
○
「うわぁっ!?」
「ロキ。驚き過ぎ」
驚きの声をあげると、聞き覚えのある声がした。
神坂弘樹という俺の名前を、ロキと呼ぶ人は現実世界にはいない。
「……え?」
声のした方に視線を向けると、髪と身長が伸び、胸元もふくらんだミリアによく似た少女が立っていた。
手には見覚えのある黒い二振りの短刀が握られている。
「ミリ……ア?」
「……ロキだよね?」
ミリアの手が俺の頬に触れる。それに頷くと、ミリアは全身で俺に向かって飛び込んできた。
「ロキだ。本当にロキだっ!」
「ミリアなんだな。ちょっと大人っぽくなってビックリした。って、そうだよな。成長期だもんな」
少し大きくなってもネコっぽいところは相変わらずで、思わず俺は頭をなでてしまった。
「って、ごめん。子供扱いは良くないか」
「構わない。一年分なでて貰ってない。もっとなでて良い。というご主人様の命令。いっぱい……いっぱいなでて」
「あはは……。何というか性格もちょっと変わったか? 少しワガママになった?」
「むぅ、ロキは変わらずいじわる」
明るくワガママなミリアの様子に、俺は苦笑いしながらも頭をなでて応えた。
「というか、どうやって俺をここに?」
「神様を倒して願ったの。最強の剣であるロキをもう一度呼んでって。それで、前と同じロキを呼ぶためには、ロキを呼んだ時と同じダンジョンである必要があると思ったから、水晶洞窟が出るのを待ったの。そのせいで一年近くかかった」
「そうだったんだ。ありがとう。まだ俺を必要としてくれて」
いや、違うな。
また出会えて、こんなにも胸が温かいのだから、俺がミリアを必要としていたのかもしれない。
不思議だな。ミリアのためになら、俺は色々してあげたくなる。
「はー、やれやれ、ミリアはまだまだ子供だねぇ」
「アイリスの方が子供。恋をまだ知らない分、私が上」
「なっ! あんたねぇ。人が気を利かせてやってれば。私だって、私にとっての英雄のロキのこと。って本人前に何言わせてんのよ!」
「ロキがいるからこそ、ロキが私の物って見せつけてる」
「あーもう! この性悪白猫はっ! 成長しても何も変わらない!」
ミリアと言い争いをしている少女も、一年経って大人びているが、間違い無くアイリスだろう。
「って、アイリスがダンジョンいる!?」
「ん? あ、そっか。ロキが知らないのも当然か。ロキがミリアを生き返らせてくれた後、帰る準備をしていたらテュールの身体が杖になってね。その杖で私も立派な魔法使いって訳。ロキのくれた眼鏡のレプリカと、この杖でミリアのサポートをしてるのよ。ちなみにぃ、私の探検者ランクは何だと思う? 下はFで上はAね」
「え……? う、うーん、ミリアがAなのは知ってたけど、Bとか?」
「ふっふっふーん。私もAなのよね。どうよ。一年前に言った通り、魔法の武器さえあれば私だってこんなもんよ。だから、ちゃんとあんた達の探索に、これからもついていけるって訳」
胸を張ってアイリスが目一杯威張っている。
一年前は足手まとい扱いされていたアイリスだが、今ではミリアと一緒に一流の探検者になっているなんて、随分と変わるものだと驚いた。
「アイリス調子乗りすぎ。特記事項のサポートAランクでしょ。戦闘はE評価のくせに」
「何よ! 死霊使い(ネクロマンサー)なんだから仕方無いじゃない」
「ん。私が倒した魔物を使役して、やっと一人前。あの時みたいに調子乗ってつっこむと、私が苦労する。お義母さんに怒られたこと忘れた?」
「わー! ロキの前でその話しはダメ!」
変わった物もあるけど、この二人は変わらないな。
「ロキ。笑ってる?」
「あぁ、ごめん。俺の願いは叶ったなって」
俺が懐かしさで笑っていると、ミリアも優しい微笑みを浮かべた。
いつか俺がもう一度見たいと思っていたミリアの笑顔だ。
「私も一人じゃなくなった。ロキがアイリスを連れてきた。ルカともあの後、もっと仲良くなれた。私の願いはロキが叶えてくれた」
やっぱりミリアの願いは最強の剣なんかじゃなかった。信頼出来る仲間とそれを守る力だったんだと思う。
俺が生きて元の世界に戻れたのも、ちゃんとミリアの願いを叶えてあげられたからかもしれないな。ルカが願いを叶えれば元の世界に帰れるって言葉は本当だったんだ。
「ロキ。おかえりなさい。今度は私がロキの願いを叶えてあげる」
こうして俺達は三人でダンジョンを攻略し、新たな願いを叶えていくのだが、それはまた別の話だ。




