【始まりの夜】
2003年3月。
当時、僕は22歳の何処にでもいる平々凡々な新社会人待ち。
20歳から付き合っている彼女もいた。
何の苦労も知らず、何の努力もせず、毎日を過ごすありふれた大学生。
卒業間近になって、やっと決まった就職。
このまま、年を取って、彼女といつか結婚するんだろうなと悟ったような雰囲気をかもし出す冷めた若者だった。。。
20歳まで、キスすらした事がないDTヤロー。
見た目は自分で言うのもなんだが、そんなに悪くもなく、さほど良くもなく。
趣味は映画鑑賞、バイク、サッカーetc。。。
取り柄は「優しさ」一点と自負。
彼女以外は全部男友達の番号が詰まった携帯電話。
決して女性恐怖症などでもない。
そんな僕、「浅野 洋介」の嘘の様な恋の物語。。。
2003年9月。
新生活にも慣れた頃。
仕事は電話での営業活動。と言っても、家に押し掛ける訳ではなく。
逆に一本の電話でお店まで、足を運んでもらい商品をお薦めする「アポイントメントセールス」。
マーケットは関西一円、これがなかなか。
しかも、相手は20~30代の独身女性。
正直、20歳でやっとまともに彼女が出来た僕にはキツイ。
適当な日常会話も知り合いとしかしない位、女性の友達がいない。
決して、女性恐怖症ではない。
幸いにも実家暮らしの為、嫌な事があれば、友人に愚痴る事が容易い生活。
とある休日前日、いつも通り仕事を終え一人深夜に帰宅。
台所にある食卓に一人荷物を置く。
ふと時計を見ると23時前。
ズボンの両ポケットから、右手に携帯。左手にも携帯。
男友達オンリーの右手の携帯。
会社支給の仕事用携帯が左手だ。
明日はせっかくの休日、今から何しよう?
久しぶりに小学校からの親友「永瀬 泰英」のとこにでも行こうと思い右手携帯を発信。
永瀬は実家の家業を継ぐ予定の若旦那、今は「メロンパン」を車で売るアルバイト。
言わば、フリーター。
僕とは違い、モテる男。
ボクシングで鍛えた細マッチョが羨ましい。。。
小学校からの付き合いで、高校時代は毎晩の様に僕は永瀬の家の前で二人でだべってた。
学校の事、共通の友人や家の事、恋の話などなど。
暇を持て余して、しょうもない事ばかりしていた時代だ。
ある時なんて、ジャンケンで負けた方が全く好きでもない女の子に電話で告白するという、たちの悪い遊びをした事もあった。
そんな、数少ない「親友」である。
永瀬に電話を一本入れて、23時半頃に集合と電話を切った。
右手携帯をテーブルに置き、次に左手携帯のディスプレイを確認してみる。
メールも着信も特に無・・・し?
左手携帯に何やら見覚えもない番号から着信が入っていた。
帰り道の途中に掛かってたみたいだ。
気付かなかった。疲れてるのかな?
でも、誰からだろう?
会社用は基本的には上司や同僚、他には連絡を取り合っているお客様くらいしか登録されていない。
いったい誰?と不思議に思いながら、もしかしたらメモリーに入れ忘れたお客様からだったら面倒だとその場で掛け直してみる。
時間は23時を5分程回った頃。
プルルルル・・・プルルルル・・・、ガチャッ。
「もしもーし、誰?さっき着信があって掛け直したんですけど、どちらさんですか?」
相手の思いもしなかった言葉にちょっとビックリ!?
女性?声の雰囲気は20代後半~30代前半。
声には全く聞き覚えもない。
しかも、あたかもこっちが先に掛けたかのような言い草。
「へ?いやいや、僕もさっき着信があったんで、掛け直したんですけど?」
「え?私からは掛けてないよ?って、何?悪戯?誰?誰?」
「はぁ~、悪戯でもないですし、僕の方からも掛けてないですか・・・」
ちょっと呆れながらの僕の言葉を待たずに女性は言う。
「あ!もしかして、高木君?そーでしょ?高木君でしょ~!」
高木君。え、誰?誰誰?知り合いに高木君すらいない。
「違います。」
「じゃぁ、誰さん?」
誰でもいいじゃん。何か必死に僕の名前を聞き出そうとしてる感じが面白かった。
「浅野です。」
僕は気にせず本名を名乗ってみた。
もしかしたら、知り合いの悪戯かも知れない。
「浅野?いいって、嘘は。偽名でしょ?ホンマに誰?」
は?全く信用してないし。。。
「じゃ、田中で」
ちょっとイラッとしたが、即座に対応してみる。
「田中?それこそ嘘でしょ(笑)」
ちょっと笑ってるし。
「だから浅野って名乗ったし(笑)」
つられて僕もなんだか半笑いになる。
「浅野?知らないなぁ~。どこの人?どこどこどこ?」
え?何故?
「どゆ事?なんで?どこでもいいやん(笑)」
えらい突っ込んでくる女だな。
「もしかしたら、知り合いかなって思って。」
「てか、そっちこそどちらさんなんですか?」
何故か敬語になってる。
「私?怖いなぁ。変な人じゃないよね?」
は?意味がわからん。名前だけ聞いても何にも出来ないし。
「初対面で変な人って、なに!?こっちは先に名乗ってるんですけど。」
「そかそか、私は福島って言うの♪」
結構アッサリ教えてくれた。
「福島さん?やっぱり知らないですね。」
「でも、そっちが先に電話してきたんだよ?」
「いや、してないし。」
そんなやり取りを3回程繰り返してから福島が言った。
「変な感じだよね?って、結局浅野君はどこの人なの?」
まだ、聞くか!!ちょっと笑いもあり、打ち解けた事で僕も安心して言ってみる。
「京都ですけど、そっちは?」
「えー京都!?マジで!?私と一緒じゃん♪」
だから?てか「じゃん」?関西人なのに?ツッコミどころが多すぎる!!
「へぇ~?福島さんも京都なんですね。もしかしたらどっかで会ったのかも知れへんね。」
「あ!やっぱり私の事、知ってる人なんだ!?」
「ご心配なく、それはないですから。」
ちょっと冷めた感じで切り返し、時計を見たら永瀬との約束の時間が迫っていた。
そんな僕の気持ちを察したのか、福島が言った。
「そっか。間違い電話やね。わかった。じゃぁ切りますね。」
「そーですね。僕も今から出掛けるので、そろそろ終わりますか。」
お互い、同意の元電話を終えた。
変な電話。
間違い電話でこんな風に話す事もあるんだな?と独り首を傾げてみた。
「あ!?こんな事してる場合ちゃうわ!」
永瀬との約束の時間に間に合わないと、いそいそと家を出た。




