15
「え?」
さっきまであかりと喋っていた女子の声がした。
わたしは背中にまわした手を強めて、あかりにしがみついたまま、キスを続けた。
教室が、次第に静かになっていく。
あかりが、両手でわたしの肩を押して、唇が離れた。
唾液が未練がましく糸を引いていた。
「お、小川さん。冗談がすぎるよ」
肩で息をしながらあかりが、唇をぴくつかせた笑みで言う。紅潮した顔は、怒っているようにも泣いているようにも見えた。
「あれなにやってんの?」クラスメイトのささやく声が聞こえた。
うるさい。
「わたしは、あかりとデートがしたい」
わたしはわめいた。
「は?」
「あかりと、おしゃべりがしたい。一緒に帰りたい。お昼、一緒に食べたい。Vの話だってしたい。もっと、いろんな場所に行きたい。学校だけじゃなくて、家だけじゃなくて、もっと、」
しゃくりあげる声が、自分のものだと気づいた。だんだん視界がぼやけた。
「小川さん……何言って」
あかりが言った。
「わたしを見て。ちゃんと見て。みんなの前でも……話しかけてよ」
「成瀬さん、小川さんどうしました?」
担任の先生の声がした。
手を掴まれた。あかりの手だった。
手を引っ張られる。教室のドアが開いて、ほとんど走るようにあかりは教室を出た。
「ああ、もう! ばかこはる」
あかりはわたしの手を引っ張り、廊下を歩きながらつぶやく。
やがて着いた空き教室に入るなり、あかりはわたしの両肩を掴んだ。
「なんであんなことしたの!」
「だって!」
「だってじゃないでしょ。こはる、自分が何したか分かってるの?」
「うるさい! わたしは、あかりのことが好きなだけなのに」
「好きなら困らせるようなことしないでよ」
「わかんない、わかんないよ」
わたしは首を振った。
「こはるは、私以外を見るべきだったんだよ」
あかりの両手の力が抜けて、だらんと落ちた。
「どうしてそんなこと言うの」
「こはると一緒にいると、なんでかな、私。ちょっと変になる」
あかりは力なく笑った。
「小学生の時あかりが守ってくれてうれしかった」
「そんなのただの気まぐれだよ。ずっとついて来るこはるが面白かっただけ」
「違う、違うよ」
「違わないよ。ねえ。私、明日からどうしたらいいの? クラスでどんな顔すればいいの? 湊にだって、お母さんにだって、なんて説明したらいいの?」
「わたしは、あかりが好き」
「いいよね、こはるは。そうやって何も考えず、一途になれて。私だってさ」
あかりの声が消え入るように、途絶えた。
「わたしにとって、あかりがすべてなの」
「私は……そうじゃないよ」
あかりにとって、そうじゃなくても。
「行こうよ」
わたしは手を伸ばした。
「どこに?」
「デート」
「なんでそんなこと言うか、わかんない」
「どうだっていいよ。クラスとか、みんなとか、そんなのどうだっていい」
全部全部全部、くだらない。
あかりはしばらくわたしの手を見つめて、やがて手を取った。




