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「え?」

 さっきまであかりと喋っていた女子の声がした。

 わたしは背中にまわした手を強めて、あかりにしがみついたまま、キスを続けた。

 教室が、次第に静かになっていく。

 あかりが、両手でわたしの肩を押して、唇が離れた。

 唾液が未練がましく糸を引いていた。

「お、小川さん。冗談がすぎるよ」

 肩で息をしながらあかりが、唇をぴくつかせた笑みで言う。紅潮した顔は、怒っているようにも泣いているようにも見えた。

「あれなにやってんの?」クラスメイトのささやく声が聞こえた。

 うるさい。

「わたしは、あかりとデートがしたい」

 わたしはわめいた。

「は?」

「あかりと、おしゃべりがしたい。一緒に帰りたい。お昼、一緒に食べたい。Vの話だってしたい。もっと、いろんな場所に行きたい。学校だけじゃなくて、家だけじゃなくて、もっと、」

 しゃくりあげる声が、自分のものだと気づいた。だんだん視界がぼやけた。

「小川さん……何言って」

 あかりが言った。

「わたしを見て。ちゃんと見て。みんなの前でも……話しかけてよ」

「成瀬さん、小川さんどうしました?」

 担任の先生の声がした。

 手を掴まれた。あかりの手だった。

 手を引っ張られる。教室のドアが開いて、ほとんど走るようにあかりは教室を出た。


「ああ、もう! ばかこはる」

 あかりはわたしの手を引っ張り、廊下を歩きながらつぶやく。

 やがて着いた空き教室に入るなり、あかりはわたしの両肩を掴んだ。

「なんであんなことしたの!」

「だって!」

「だってじゃないでしょ。こはる、自分が何したか分かってるの?」

「うるさい! わたしは、あかりのことが好きなだけなのに」

「好きなら困らせるようなことしないでよ」

「わかんない、わかんないよ」

 わたしは首を振った。

「こはるは、私以外を見るべきだったんだよ」

 あかりの両手の力が抜けて、だらんと落ちた。

「どうしてそんなこと言うの」

「こはると一緒にいると、なんでかな、私。ちょっと変になる」

 あかりは力なく笑った。

「小学生の時あかりが守ってくれてうれしかった」

「そんなのただの気まぐれだよ。ずっとついて来るこはるが面白かっただけ」

「違う、違うよ」

「違わないよ。ねえ。私、明日からどうしたらいいの? クラスでどんな顔すればいいの? 湊にだって、お母さんにだって、なんて説明したらいいの?」

「わたしは、あかりが好き」

「いいよね、こはるは。そうやって何も考えず、一途になれて。私だってさ」

 あかりの声が消え入るように、途絶えた。

「わたしにとって、あかりがすべてなの」

「私は……そうじゃないよ」

 あかりにとって、そうじゃなくても。

「行こうよ」

 わたしは手を伸ばした。

「どこに?」

「デート」

「なんでそんなこと言うか、わかんない」

「どうだっていいよ。クラスとか、みんなとか、そんなのどうだっていい」

 全部全部全部、くだらない。

 あかりはしばらくわたしの手を見つめて、やがて手を取った。

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