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  わたしには好きな女がいる。告白して振られた。

 そして今、彼女がキスしているところを見ている。


 放課後の空き教室。

 廊下側の窓の隙間から、彼女のとろけた顔が見え、舌が動く音が聞こえる。

 たまたま、ではない。

 放課後、彼女がどこに行くのか気になってついていったら、見てしまった。


 成瀬あかりはクラスの人気者で、いつも笑顔で、長い黒髪はいつも艶やかで、そして、わたしの幼馴染だ。

 昔からよくお互いの家に行ったりしたし、何かあればあかりが守ってくれていた。

 ずっと好きだった。

 だけど、バカなわたしが告白したものだから、そういう関係は終わった。


 相手の男子は、同じクラスの佐久間湊……だと思う。

 サッカー部で、顔が小さくて、気遣いができる。あと声がでかい。

 正直、誰がどう見てもお似合いのカップルだ。

 苦しい。苦しいけど、目が離せない。


 はぁはぁと息遣いが聞こえる。

 それがわたしの息なのか、彼女のものなのか分からなかった。

 ただ、この吐息が混ざってしまえばいいのにと思った。


「あ……」

 彼女と目が合った。彼女が、ちょっと微笑んだ気がした。



 わたしの一日は、おおむね虚無だ。

 クラスの隅っこで空気になって、誰とも喋らず一日を終える。

 

時折スマホを見たりするけれど、別に誰から着信があるわけでもないから、もっぱら好きなアニメや漫画を見たりしている。

 あと、成瀬さんの写真と自分で描いたイラストとか。


 そんな一日が、いつもどおり終わった帰り道だった。

「こはる」

 学校を出てすぐの坂道で、成瀬あかりに声をかけられた。

 正直に心臓が跳ねて、すぐに気恥ずかしさやら後悔やらが胸を支配した。


「成瀬、さん」

「今帰り?」

「うん」

「一緒に帰ろうよ」

「え?」


 わたしが彼女に告白したのは、ひと月ほど前。

 同じ空き教室でだった。

 答えは「彼氏いるから」だった。

 気まずいとか、そういうのを通り越して不思議だった。


 なぜ振った相手と一緒に帰ろうなんて言えるのか。

 案の定、二人でしばらく無言で歩いた。

 成瀬さんは髪をいじったり、時折鼻歌なんかを口ずさんだりしている。


 少しだけ、昔に戻ったみたいだった。

 もしかしたら、またあかりの近くにいられるのかもしれない。

 わたしの胸が、今度は期待に高鳴った瞬間。


「ねえ」

 成瀬さんが、わたしの手を握った。

 文字どおり世界のすべてがゆっくりに見えた。


「こはるさ」

 成瀬さんの手が痛い。手を繋ぐのではなく、何かを捕まえるような強さだった。

「見てたでしょ。私がしてるところ」

 そう、彼女は言った。

「はい」

 わたしは捕らえられたネズミのように、素直に答えていた。

 頭は全く働かなかった。


「また、見たい?」

 わたしは答えた。

「見たいです」

「いいよ。こはるが見たいなら」

 彼女は本当に楽しそうに笑った。

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