イレギュラー③ イレギュラー
「「………………」」
12月5日。俺たちは守護者協会にて、その結末を見届けていた。
そして俺たち以外にも、多くの守護者たちもいて、同じように、画面に映し出されていた中国防衛戦の戦いに言葉を喪っている。
中国政府から、全世界にその様子を配信すると言い出した時は、正気かを疑ったが、ここまで圧倒的な勝利を見せつけられてしまえば、何も言えない。
(これが、『ゼロ』の全力……。防衛戦は集団戦と考えてた俺が、バカらしくなるな)
たった三人で侵略者たちを蹂躙し、圧倒的な勝利を収めたその光景には、ただただ脱帽しかなかった。
そして同時に、これを予期した神代当麻とは何者なのかと、考えてしまう。
「これが、『ゼロ』……。私たちなんか、まだまだって、思わされちゃうね」
「……そうだな」
アレを見せられては、『ゼロ』へと至ると豪語した自分が、アホらしくなる。
「根本的に、私たちとは規格が違うからね。それにしても、事前に場所が分かってた辺り、神代君、本当に未来を知ってたんだね」
(あの時の誘いに乗るの、意外と悪くはないかも? もし本当に厄災があるって言うなら、英雄への近道になるかもしれない)
ふと、そんな考えが頭をよぎる。
神代君はそこまで好きじゃないし、その薄っぺらさも信頼には欠けるが、利用するだけならアリと思い始めてきた。
それにこのまま中国だけを増長させるのは、何となく嫌だし。
「永久? 何を考えてる」
「ん? 愛しの和人のこと♪」
「お前な……」
「永久さん、ダメだからね」
「しらな〜い」
(まっ、それは向こうに戻ってからまた考えればいいや)
一旦思考を放棄し、これからのことを考える。
「それより、防衛戦も終わったんだから、明後日にでも青森に行こっか」
「お気楽だな」
「私たちには関係のない話だからね。勝ったんだから、それでいいでしょ」
「言ってることは、その通りだけど……」
「でしょ? なら私たちは、私たちの仕事をやんないとね」
「お前に正論を言われるの、なんか癪だな」
「何を〜〜!」
ため息をつきつつ、立ち上がる。未だに多くの守護者たちが、さっきの戦いについて思う所があるのか、今後のことについて話合う声がいたるところから聞こえてくる。
それは倉瀬たちも同じだ。
そして俺たちの視線に気づいたのか、倉瀬たちも立ち上がる。
「行くか」
「うん」
「ほ〜い」
明日に向けた最終確認のために、俺たちは会場を後にする。だけど歩きながら、さっきの光景を振り返った時に、ふと思った。
天上は、この結果について、どう思ったのかと。
***
『つまり、今回の裏には、神代当麻1等星が関わっていると?』
『そうよ。半信半疑ではあったけど、今の防衛戦の結果を見て確信した。ごめんなさい。本当なら真っ先に貴方に伝えるべきだったのに……』
『いやいい。君にも事情があったのは理解している』
『そう言ってくれると助かるわ。それと2、3日後くらいにそちらに行くから、手続きをお願い』
『神代1等星に会いにか?』
『話が早くて助かるわ。天上の制約を突破し、私以上の未来観測を持つ。きちんと見極めないと、か細い希望の未来が消えてしまう事態になりかねない』
『分かった。至急手配しよう』
『ありがとう。それと、諸々終わったら、私とデートでもしましょうか、笹倉さん』
『ははは……、その誘いは、劇薬だな』
『ふふっ、それじゃあね』
そうしてソフィアとプライベート通話を終え、すっかり冷めてしまったコーヒーを一飲みする。
「ふぅ……、神代当麻、か」
ふと、今年始めにあった出来事を思い出す。
──無駄だと思うけど言っておきます
──年末頃に、特殊なダンジョンが世界中に現れる
──後悔する前に、信じる気になったら、俺の所に来て欲しい
あの時は、彼が予言系のスキルを持っていないことや、そういう者たちとの接点があるという噂などもなかったため、真に受けなかった。
そして実際に特殊なダンジョンである、イリーガルダンジョンが現れたことで、再度彼について調査を福山君に頼んでいたのだが、結局これといった情報はなかった。
だとしたら、本当に勇者には未来予兆に類するスキルがあるということなのか?
(分からない。本当に未来予知のスキルがあるなら、なぜ彼は我々にそのことを伝えない? そうすれば、より多くの人たちだって救えたはずだ)
ソフィアが言った言葉も気になる。
であれば、私も彼と会い、話すしかないだろう。
(このイレギュラー。天上はどう受け取る?)
モノリスを監視している者たちからの連絡が一向に来ない。本来であれば、次の防衛戦がどこになるのか、それが書き記されるはずなのに、それが来ない。
もしかすると、このことは天上からしても、予期せぬ事態なのかもしれない。
──コンコン
「ん? 入れ」
「失礼します。そろそろ冷める頃と思い、コーヒーを淹れてきました」
「助かるよ、福山君」
「いえいえ。ソフィアさんとの通話は終わったのですか?」
「あぁ。近々来日することになった」
「それはまた……」
この流れは一体何処へ向かおうとしているのか、今はまだ分からない。
だからこそ、一つ一つやれることからやっていくしかないと考える。
「モノリスは?」
「依然、何も……」
「そうか。監視は怠らず、リアルタイムで情報共有するように通達してくれ」
「分かりました」
福山君にそう指示をし、新しく淹れてもらったコーヒーを飲む。
この時だけは、心が落ち着く。
そして小さくつぶやく。
「これが、これまでの停滞から脱する契機であればいいのだが……」
─── 12月8日 青森 平川市 ───
─── AM11:00 ───
「さぁて、今日も張り切ってダンジョン攻略だね!」
「柊、このダンジョンがそうなのか?」
「そうだよ。平川Aランクダンジョン。この先にイリーガルダンジョンがあるらしいよ。昨日確認取ったから間違いなし」
中国で行われた防衛戦から早3日。
俺たちは永久に依頼された三つのイリーガルダンジョン攻略のうち、最後の一つがある青森の平川市へとやってきた。
「Aランク……。これまでのイリーガルダンジョンって、ランクが1つ上がってたよね。つまり……」
「Sランクダンジョン。私たちもまだ行ったことがないよ。遠見君、遠征中に行ったことはあるの?」
「一度だけある。けど、時期尚早だと思い知らされて逃げ帰ったわ」
「2等星までじゃそうだろうね。出てくる雑魚の一体一体が他のダンジョンでいうボスだったりするから」
「嫌になるな、それは……」
(そういや先生も、Sランクは地獄って言っていたな)
しかもそれがイリーガルダンジョンともなれば、より一層危険度が増すだろう。用心どころの話じゃない。常に細心の注意を払わないと、死人が出てしまう。
「柊、大丈夫なのか?」
「パーティー構成が、3等星4人に、2等星が3人、そして1等星が1人だろ? 少し不安じゃないか?」
「そこは和人と拓真さん次第だね。2人とも手数の多さが売りだから戦力不足は補える。山口さんと森山さんは探知が得意だし、咲は高威力魔法がある。倉瀬さんと比嘉さんだって、3等星ではマシな方だしね」
「うっせ! 3等星で悪かったな!」
「そのうち1等星にいくから見てやがれ、後輩!」
永久のナチュラルな煽りは変わらずだなと思いつつ、今のうちに現状のスキルポイントを、全て『纏』へとつぎ込む。
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スキル:「纏」
魔力:1000
式神使い専用スキル
式神の力を憑依させることでステータスを強化
憑依中は、式神に応じた強力な一撃を放つ
使用制限:1日1回(120秒間使用可能)
威力:特大(UP)
ステータス:150%上昇
制約:スキルポイントを消費することで、本来の性能を取り戻す(SP:100 / 400)
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(威力の増加……だけか)
現在、俺のレベルは118。
そしてスキルポイントはレベルが上がるごとに1つ手に入る。
つまり、『纏』を完全にするには、レベルを400以上にする必要があるということだ。
(まだまだ先は長いな)
「神薙君、今回も『纏』に?」
「まぁな。変にスキルを増やすより、特化させる方がいいと思うからな」
「スキルポイントは振り直し出来ないもんな。特に式神使いなんて、情報が無いんだ。慎重に振れよ?」
「分かってるよ、倉瀬」
そして俺の準備が整ったのを見届けた永久は、『それじゃ行こっか』と、号令をかける。
「藤宮さん、俺の傍から離れるなよ」
「うん!」
「和人〜、私には?」
「お前は別に大丈夫だろ」
「ケチ〜〜」
「ったく、死地に行くっつうのに、呑気だな」
「いいんじゃないか? 守護者らしくてよ」
「言えてる〜。じゃあ、道中は沢山イチャイチャしよっか、健一君!」
「アホか! そんな死亡フラグみたいなこと、してたまるか」
「あはははは!」
本当にこれからイリーガルダンジョンへ行くのかと疑いたくなるような緩い空気の中、俺たちはダンジョンへと入っていた。
─── 同日 PM15:00 ───
─── 守護者養成高等学校(赤羽地区) ───
「葉隠、そろそろ行くぞ」
「分かってる。ちょっと待ってて」
バッグに教科書などを仕舞い、教室を出る準備を終える。これから鈴木たちのパーティーと、日課になっているダンジョン攻略だ。
鈴木たちとパーティーを組んでからというもの、私のレベルは面白いくらいに上がった。
咲ちゃんたちといた頃は52だったけど、今では65まで上がったのだから。
(神薙は既にレベル100超え。咲ちゃんも強くなってる。私も早く70以上にしないと!)
お兄ちゃんを見つけるためにも、一刻も早くレベルを上げなければならない。
そうして教室を出れば、壁際で待っていた鈴木が反応する。
「来たか。んじゃ、今日も行くか」
「はいはい。鈴木も真面目よね、この間70になったじゃん。それに私以外のパーティーメンバーも70になったんだから、少しは羽目を外さないの?」
「そんなことをする暇があるなら、レベルを上げる。70になったと言っても、ようやく入り口に入ったレベルなんだからよ」
それもそうか。
70になって自慢出来る時代はとっくに過ぎ去っている。今ではただの通過点にすぎない。
「葉隠、お前だって65になってんだ。このまま70まで上げちまおう」
「分かってる。でも明日は予定空けなさいよ? 折角デートしてあげるんだから」
「へいへい」
そんな、すっかり日常となった話をしながらグラウンドへと出る。するともう他のメンバーたちが集まっていた。
「んじゃ、行くか」
「はいはい」
そうして皆と合流しようとした時に──
──ねぇ、何あれ?
そんな、一人の生徒の不思議がった声が聞こえた。
「どした? …………人?」
「でも、空を単独で飛べる守護者なんていた?」
「それもそうだな……。じゃあなんだ、あれ?」
それを皮切りに、ざわざわと他の生徒たちが一斉に騒ぎ出す。
(は? 人が、空を飛ぶ?)
そんな話し声が聞こえてくるが、にわかには信じがたい。そしてそれは鈴木も同じだ。
「人が空を飛べるわけないだろ。空飛ぶ魔物を使役してるテイマーなら別だが……」
「だよね。というか、空に何がいるのよ?」
二人して空を見上げる。
そして、その光景に目を疑った。
「…………は?」
「おい、マジで空飛んでるぞ。というか、アレは……」
その姿を見て、連想するのはただ一つ。
そしてその言葉が自然と口から出た。
──あれって、天使?
「はははははは!!」
上空で佇み、一人の男が歓喜の産声を上げる。
その者は、長くサラッとした茜色に染まりし髪をなびかせながら、紅蓮の眼光を放つ。そして背中には、6枚の美しい白き翼を生やしていた。
「なるほど、ここが奴らの世界か!!」
小さい。
あまりにも小さい!
だが、同時に懐かしくもある。
ところどころ荒廃しているが、活気ある街並み。
今を、そして明日を楽しむ笑い声。
生者特有の活力。
生物として重要なものが、この世界には満ち溢れていた。
「素晴らしい! これほど活気溢れる下等生物たちが、これから絶望すると考えるだけで心が躍る! どれだけ美味な死の恐怖が生まれるのか、楽しみでならないな!」
だが同時に悲しくもあった。
折角奴が住むという土地へ来たにも関わらず、来たる厄災に向けて追加したダンジョンの攻略をしに、遠征に行ってしまった。
これでは、当初の目的を果たすことが出来ない。
何にせ、エムルが新たに追加した制約により、俺はこの土地から離れることが出来ないのだから。
(まぁいい。今はここに来れたことを喜ぼう)
両腕を広げ、声高々に宣言する。
「さぁ、愚かにも我らに抗い続ける守護者たちよ、喜ぶがいい! 貴様らの宿敵、天上が来てやったぞ!!」
その日、天上にして6大貴族の当主が一人。
『カリス・シンセシズ・ヴァーミリオン』の分霊体が、日本の埼玉へと現界した。




