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天上の不適合者~クソクラスと言われた式神使いで世界を歪めた者たちへ反逆する~  作者: 風間悟
第2章:メキシコ跡地防衛戦

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プロローグ 頂きとの会談

─── イタリア:天体観測所(運命の出会いウン・ベル・インコントロ) ───



「ふぅぅぅ……」



 20時という遅い時間(日本時間:4時)、天体観測所へと入るドアの前で、息を整える。珍しく心臓がバクバクしている。


 無理もない。立場上は私の方が上ではあるが、彼女はこの世界を守る守人であり、『ゼロ』の称号を持つ偉大な英雄。


 そんな生きる偉人とこれから会うのだ。緊張しない方が無理がある。



(だがまさか、1人で来い、とはな)



 今回イタリアに来たのは外交目的ではないとはいえ、些か不用心ではないかと思う。敵は外から来る者たちだけではない。()()にもいるのだから……。



「私のような力無き者など、恐るに足りないと言うところだろうか」


 覚悟を決め、ドアを開けて中へと入る。



(個人の天体観測所とは聞いてはいたが、かなりしっかりとした設備だな。彼女は……)



 中に入ると、見るからに人の生活空間が現れる。そしてその中央には、太い柱が立っており、その柱に沿って階段が設置されていた。


 階段の先を目で追ってみれば、大きな天体望遠鏡が夜空に輝く星々へ向けて、そのレンズを向けていた。


 そして、私が来たことに気づいたのか、一人の女性の声が聞こえてくる。



「あら、来たのね。どうぞそのまま、階段を登ってきてちょうだい」


(日本語……)


 ずいぶんと流暢な日本語だと思った。そういえば、彼女は日本文化が好きであると聞く。


 それはさておき、登って来てほしいと言われたため、天体望遠鏡へと続く階段を登っていく。


 すると階段を登りながら、彼女の声が再度聞こえてくる。



「今日は、一段といい夜空でね。あなたにも、この輝かしい星々を見てもらいたくて、ここに呼んだの」

「ずいぶんと、ロマンチックなことを考えるのですね。()()()()()()()()()()さん」


「ソフィアでいいわ。私の家族は皆、星を見るのが好きなの。こことは違う未知が常に溢れていて、新しい発見には心が躍る」


「こんなご時世でなければ、お父様たちのように、天文学者になりたかったものね」



「今からでも遅くないのでは? 守護者ガーディアンをしながら、俳優業をしている者も、中にはいるでしょ?」

「そうね。でも、それは難しいわ。だって──」



 その後に続く言葉を聞き、私は驚愕することになる。



──じきにこの世界は、()()()のだから



「っ!?」



 それを聞き、真っ先に思いついたのが、今日ここに来た理由となった言葉、『厄災』。


 あの少年が命懸けの戦いの果てに、人類史上初の、天上とコンタクトに成功したことで得られた情報だ。



 その言葉に驚愕しながらも歩みを止めず、天体望遠鏡が設置されている所まで到着すると、一人の女性が望遠鏡を覗きながら星を観察している。



「貴女は、まさか既にそれを」


 そう尋ねてみれば、星の観察を止め、くるりと椅子を回して私の方にその顔を見せる。



 金髪で、長くサラリとした髪。モデルでも通用すると思ってしまう程のスラッとした体型。正直、10代半ばではないかと勘違いしてしまうくらい、その美貌は美しかった。今年で28とは到底思えない。



「あら、見惚れてしまったかしら?」

「……私も男ではありますので」

「ふふっ、正直な人は好感よ。……それで、笹倉さん。あなたほどの重鎮がどうして私に?」


「貴女の目を以てすれば、もう()()()()()()のでは? だから先ほど私に、滅びるという言葉を使った」



 そう問いかけてみれば、感心したかのように優しい笑みを浮かべながら、『当たり』と、一言だけつぶやく。



「流石、守護者ガーディアンを表とするなら、日本を裏から守り続けている偉人さんね」


「貴方の言う通り、少しだけ()()()()()()()の。と言っても、私が視た未来からは既に分岐したけどね」



(分岐……)



「ご謙遜を。私は、力を手にすることができなかった1人の歯車でしかない」


「それが最も大切なの。私たちのように、いつ死ぬか分からない戦いを続ける日々と比べたらね」

「むしろ私には、この道しかなかった。貴女たちのように戦えたらと、どれだけ渇望していることか」


「正義感に溢れてるのね。こうして話したのは初めてだけど、とてもいい男」

「貴女にそう言ってもらえると、男冥利ですね。……それで、先ほどの言葉についてですが」



 いつまでも彼女と雑談をしている訳にもいかない。彼の言葉の意味、そして彼女の真意、それらを多角的に見極めなければならない。



「それもそうね。……さっきのはそのまんまの意味よ。私たちが住むこの世界は、近いうちに滅びる。そうね、大体──」


1()()()、ではありませんか?」



 そう問いかけてみれば、さっきまでの柔らかい表情から一変して、重苦しい真剣な表情となる。


 未来が分岐したと言っていたが、分岐する前の私はこのことを言わなかったらしい。



「貴方、どこでそれを。これはまだ他の『ゼロ』たちにさえ伝えていない期限だというのに」


(つまり他の『ゼロ』たちは、滅びることだけは知っていると……)



 私は別に、駆け引きをしたい訳でもない。そもそも人類存亡がかかっているのだ、無駄なことはしたくない。


 なので──



「先ずはそのことから話させてください。我々の国で得た、ただ唯一の奇跡を」



***



「……そう、Fランクの守護者ガーディアンが」


「はい。彼が無謀とも言える挑戦の果てに得た情報となります。それと、先日全世界に通達した『イリーガルダンジョン』による悲劇を辛うじて防いだのも、神薙和人かんなぎかずと10等星です」



「そう、アレもなのね。()()()でも、突然危険を知らせる未来が現れたのだけど、正確な内容が掴めていなかったから、とても助かったわ」


「目、と言いますと……」

「そう。私のクラス、『星詠み』の力よ」


 クラス『星詠み』。

 ランク自体はCランク相当の能力で、ただ先を視ることが出来るというクラスだ。


 通常であれば、ほんの数秒先の未来までしか干渉出来ない能力なのだが、彼女の場合は違う。遙か先の未来まで見通すことが可能であり、それ以外の精度も凄まじいと聞く。


 まさにそのクラス名に恥じぬ、相応しい力だ。



観測者アークライトというスキルでね。5年前、『ゼロ』に至った時に発現したスキルなの。未来の分岐に関わる事象の観測と、その先の未来を知らせる効果があるわ」


「未来の、分岐?」

「えぇ。特異点と言ってもいいわね。そしてその分岐には必ず、()()が関わってる」

「っ!?」


「これまでに2回、滅びの運命から未然に防いではみたのだけど、最後の1つだけがどう対処すべきなのかが分からない」

「貴女には、その内容が?」


 そう尋ねてみるが、彼女は首を横に振る。



「何が起きるのか、私にも分からない。ただ視えるのは、真っ暗な暗闇と人々の悲鳴。そして、それが起きるのが1年後であるということだけよ」


 彼女の口から出た言葉は、衝撃的以外の何ものでもない。


 ますます、彼が得た情報の信憑性が増してくる。



「だから、そのFランクの子が得た情報は、ほぼ間違いないことよ。まさか、向こうからコンタクトを取ってくるだなんて、思いもしなかった」


「すべてを見通せるわけではない、と?」

「対象を絞れば出来なくはないけど、その分脳への負担が大きいし、短時間しか視れない。できれば避けたいわ」



 それもそうか。未来を視るということは、今とはまったく違う情報が頭に流れることを指す。であれば、その情報処理にかなりの負担がかかるのだろう。



「でもそう、Fランクの……」

「彼が、何か?」


 そう尋ねてみると、少し考える素振りを見せながら、あることを口にする。



「私が視てきたどの未来にも、そんな()()()()()()()()。もしかしたらその子が、未来を分岐させる鍵になるかもしれない」

「っ!?」


「それに天上は、生き抜き、傷跡を残せと言ったのでしょ? つまり──」

「滅びの運命を変えられる手は、あると?」


 その問いにコクリと頷く。



「ふふっ、でもまさか、誰も見向きもしなかったFランクの子が、そんな小さな偉業を成していたなんてね。フォンが知ったら喜びそうな話よ」


「フォン? 確か去年『ゼロ』に至った……」

「えぇ。まだ18という若さなのに、『ゼロ』に到達出来た異常者よ。きっと気が合うと思うわ」



「まっ、その話は置いておきましょ。兎に角、彼の今後の動きによっては、未来に何かしらの影響を与える可能性があると分かっただけ、貴方とこうしてお話をした甲斐があったわね」


「私もです。ですが、この情報を世界に流さないのですか?」

「それも考えたのだけど、むしろ滅びが早まりそうなの。だから貴方も、無闇に言いふらさないようにしてもらえると助かるわね」


「分かりました。このことを知っているのは一部の者だけなので、情報が広がらないよう、徹底させます」

「そうして頂戴」



 そうしてソフィアとの会談を終えた私は、最後に彼女に勧められるがまま、少しばかりの天体観測を楽しみ、その場を離れる。



(『ゼロ』でさえ、視えない未来……)



 どうやら彼の存在は、私が思っていたよりもずっと強いのかもしれない。それに、あれからほんの数日しか経っていないにも関わらず、彼は物凄い速度で力をつけていた。


 であれば、本当に──


「ふふっ、これは次の選抜が楽しみだ」



 小さくつぶやきながら、福山君を待たせている車の方へと歩き出す。


 そしてふと夜空を眺めてみたが、確かに今日の星々は、綺麗に見える気がした。



***



「ふぅ……」


 目を閉じ、観測者アークライトを発動させる。


「ぐっ……」


 ザァァッと、未来の情報が頭の中へと流れ込んでくる。



(もっと、深く……)



 Fランク、式神使い、星の巫女、神薙和人。彼と話し、そして得た情報をパラメーターとして入力することで、未来の観測精度を高めていく。


 それでも尚視えるのは、真っ暗な暗闇と人々の悲鳴。



(まだ、情報が足りないというの?)



 それでも諦めきれず、より深く、限界まで未来を観測し続ける。すると、これまで一度だって視ることの出来なかった、()()()()が視えた。



(これは……、未来?)



 内容までは分からない。だけど微かに、暗闇とは違う、()()()()()()が確かに存在していた。


 そこに手を伸ばそうとするが、先に自身の限界が来てしまい、スキルが解除される。



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」



 激しい頭痛に耐えながら、息を整える。



「ようやく、視えた。希望の未来。その、一欠片」


 今はまだ吹けば消えるほどの小さな光だ。


 だけど微かに、そう微かな希望が、私たちには残っているのが分かった。いや、生まれたと言ってもいい。


 そして、そのために必要なピースこそ──



神薙和人かんなぎかずと君。貴方は私たちに、何を見せ、そして何を成してくれるというの?」



(これは、次の防衛戦で、見極める必要があるわね)



 聞けば、まだレベルは28らしい。

 だけど確実に、防衛戦までに間に合わせる。そんな確信があった。



「ふふ、ふふふっ、あははは! まだ私たちには希望があるようね! ……えぇ、見てなさい天上のクソ野郎ども」



──絶対に、私たちが殺してあげるから

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