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雑談配信1枠目 寮に入ってみた。


 今からn年前の事。


 はぁ…俺はこれで良かったのだろうか。


 そんな不安を抱えながら、着替えや荷物が入った荷物を背負って、俺は学校の側にある寮の廊下を歩いていた。


 俺は、今年この学校に入学して来た新入生だ。そして、この学校は全寮制。俺は実家を離れて寮に入らなければならない。


 そして、この寮の部屋は、平均的な一軒家の洋室と同等レベルの様で、2人が生活スペースを確保するには、少し手狭だと言う噂を聞いている。


 確かに、案内図を見る限り、確かに2人で使うには幾らか狭い様にも感じる。だが、荷物がそう多くなければ、全然問題無い広さであるとも思えた。


 その点、俺は大きな荷物が少ないから、部屋はかなり大きめに使えそうだ。つまり、同室の先輩へ迷惑を掛ける事も無さそうで、人とのコミュニケーションが苦手な俺からすると、先輩から悪印象を抱かれないのはとても嬉しい、少しだけ安心出来た。


 しかし、この学校は国内でも有数の底辺高として有名であり、それこそ、不良が多く通っている事も有名である。


 事実、入学式に居た新入生を含めた学生は、染髪や耳以外を含めたピアスは勿論。刺青やら変なセンスの私服は当たり前。そう言った様に、とても制服がある高校とは思えないものだった。


 その学校に1年と通っている先輩だ。間違い無く、不良である事は確定と言える。幾ら邪魔にならない様に務めるとは言え、反感を買わないかだけは、とても拭えない不安だ。


 と、危ない危ない。そんな事ばかりを考えていると、部屋を通り過ぎてしまうとこだった。名札の名前も、先生から聞いた生徒との名前と一致している。間違い無い。この部屋だ。


 さて。今から部屋に入るのだが、扉をノックするべきだろうか?しかし、ノックされるのを嫌うタイプの人かも知れない。嗚呼、考えれば考えるだけ、可能性が浮かんでくるな。


 そんなこんなで、3分は立ち尽くしていたか、廊下を通る生徒からは、怪奇的な目を向けられていた。まぁ、そりゃそうだ。側から見たら変人だし。


 だがしかし、立ち尽くす事で分かった事もある。どうも、この部屋の人物はかなり有名なのか「嗚呼、アイツと同室なのか」等と、少し不憫に思われている様な口振りをされた事から、かなりヤバい人だと予想する事が出来た。


 しっかし、そう声に出して言う程には、この部屋の先輩はヤバい人なのだろうか?なんか、余計に入る気が失せたぞ…


 しかし、ここで立っていても変わらない。億劫でしかないが、そろそろ入るしかないみたいだ。仕方がないので、全く出ない勇気を振り絞ろう。深呼吸は飽きる程に済ませた。ヨシ。ノックからだ。


 コンコンコン。


 地面に置いていた荷物を再び手に持ち、3回とノックを鳴らす。すると、部屋の中から返事が返って来た。


「入ってるぞー」


 トイレかな?


 いや、入ってると言う報告を受けてもだな。こちらとしてはどうしようも出来ずに困ってしまう。コレは入って良いと言う意味なのだろうか?


 よくよく考えてみれば、今のは全くおかしく無い返事だったかも知れない。変に思ったのは俺が動転していただけか。きっとそうだな。そうに違いあるまい。


 ガチャ。


 少しビビりながらその扉を開く。部屋の中には、人が1人、床で四つん這いになって、汗を流しながら息を切らしている。部屋の隅にはダンベルの様な物も転がっているし、もしかして筋トレでもしてたのか?


 しかし、四つん這いになり、酷く息を切らしていようとも、とても端正な顔立ちである。正にイケメン。額から汗を滴らせるその美貌は、どうも言い表すのが難しい美しさで、是非とも俺の絵の模写体になって欲しいと、お願いしてしまいそうになる。仲良くなれたらそうしよう。


 さて、挨拶挨拶。仲良くなる為にも第一印象は大事にしておかないとな。


「今日からこの部屋に住む事になりました。新入——」


「俺の事は先輩と呼べよ!」


 は?いや、俺話してる最中だが?まだ名前も言えてないよ?そこ大事だよね?絶対に大事だよね?


 突然に下された命令に、どう反応して良いのか判らず、慌てた様にオドオドとしてしまう。しかし、それでもその先輩は、更に追加で俺に命令を下してきた。


「後、敬語は使うな!使われても俺にはどうすれば良いかよく分からん!そして、俺とは友達になれ!親に友達作れって言われてるし!他は…うん。思い付いたら言う!」


「えぇ…」


 どう反応すれば良いのか分からない命令に、ポカーンと惚けて動けずにいると、背後から誰かが俺の肩を叩いた。


「立ち往生は良くないよ。人の邪魔になるだろう?それに、扉の開けっ放しは留年の元だよ?」


 どうも読めない表情で、笑顔を浮かべて優しく注意してくれたのは、青髪の美青年。どうも制服には見えないオシャレな服に身を包み、耳に下がる金のピアスや、首に下がるネックレスが小慣れ感を演出しており、一際目立つ顔からは中々目を離せない。正にイケメンその2。


 そんな彼は、この部屋に用事がある様で、部屋に入るその一歩を踏み出せずにいた俺を引き連れ、部屋の中に入りその扉を閉めた。


 ありがとう。結構、立つのも疲れてたんだよな。貴方が居なければ、俺の足は即死だった。


「お?青じゃん。なんか用か?あっ。コイツ俺の友達。今日からここに住むんだって」


「嗚呼、そうなんだ。通りで、廊下で立ち往生なんかしてる訳だ。僕はラギと同じ2年生。『青』って呼ばれるし『青』って呼んでくれると分かり易いかな」


「えっ。あっ、はい。わかりました」


 突然の美形2人に圧倒されて、言われるがままに返事を返してしまったぞ。一体、俺はいつからこのラギと呼ばれた先輩と友達になったんだ?友達の判定がアバウト過ぎる。


 しかも、この青先輩と、ラギと呼ばれた先輩との関係が、どうも掴めないんですが?どう考えても、この2人。別世界の住民では?絡む事ないよね。恐らく。


「あっ、おい!敬語はやめろって!」


 えぇ…何なんだこのラギ先輩は。何?敬語恐怖症?敬語言われて嫌な人って、あんまりいないだろ。まぁ、実際のところは知らんけどさ。


 しかし、とりあえずここは大人しく従っておこう。俺自身、敬語は元々苦手だし、仲良くなる為にも、ラガ先輩相手には敬語は使わないでおこう。


 え?本当にいいのか?教師に見つかったらボコられたりしない?俺嫌だよ?教師にボコられんの。


「あ、嗚呼。分かった?」


「ラギ。彼が困ってるよ。入学したてで、色々と困惑しているだろうしさ」


「おー。そうだなー」


 ふむ。とりあえず、この一連のやり取りで分かったのは、ラギ先輩は気難しい人じゃなさそうと言う事か。寧ろ、友好的な人と言う印象を受ける。良い意味での予想外だな。


 じゃあ、一体何故、俺はラギ先輩を知る生徒から不憫に思われてしまったのだろうか?それが全く分からないんだな。絶対重要な事なのに。


「で。青は何の様だ?」


「いや。特に用はないよ。ただ彼が立ち往生してたから、注意してあげようと思ってね」


 あっはい。すみませんでした。それについては申し訳なく思っています。


「あ、そう。なぁ後輩。1つ聞きたいんだけどさ。お前ってかし——」


 ラギ先輩の言葉を遮ったのは、勢い良く開いた部屋の扉で、あまりに大きな音に、この部屋の全員の顔が扉へ向く。


 ワオ!なんとそこには、如何にもガラの悪い大柄な人が立っており、ラギ先輩に対して、強い敵対心を向けているのがコレでもかとよく分かる程に強く睨み付けていた。


 おー、怖い怖い。なんだろう?親の仇でも討つのかな?イケメンなのだから程々にして欲しいな。顔が崩れない程度によろしくお願いします。


「おー。誰だっけお前。その扉。最近直したばかりだからやめてくれよ。弁償すんの怠いだろ?」


 え?扉、直したばかり?最近までは壊れてたの?いや…弁償って事は壊したの?何をやったんだ?この人。


「さぁ?知らねぇな。でも、先輩を敬わねぇ後輩は指導しなきゃだよなぁ?」


「え?何で?お前と俺、同級生だったじゃん」


 ん…?え?でも、さっき先輩だって…しかも、同級生″だった″?あっ…もしかして。


 そんな事を考えながら、青先輩の方に顔を向ける。此方の視線に気付いた青先輩は、俺の言いたい事を理解したのか、コクリと頷いた。


「そうだよ。ラギは留年してるんだ」


「は?何言ってんだよ。お前もだろ?」


「嗚呼、そうだね」


「「アッハッハ!」」


 いや、笑い事じゃないじゃん。この学校で留年とかマジで言ってるのか?この学校、卒業するより留年すら方が難しいって、そんな噂が立つレベルに留年出来ないのに?


 いやこっわ。本当に2人して笑い合ってる場合ですか?もうちょっと危機感をだな…


「おい。劣等生ども」


 すると、その光景に腹を立てたのか、部屋の入り口に立つ男は、怒り心頭のままラギ先輩の胸倉を掴んで怒声を発した。


「何無視してくれとんじゃあ!舐めとんのかぁ!?」


「なぁ。それ何弁だっけ?俺、そう言うの疎いんだよな。青は知ってる〜?」


 いや、胸倉掴まれた状態で煽るなよ。それどころじゃねぇだろ。もうちょっと、抵抗の意思とか見せたりさぁ…あるだろう?


 よそ見をしているその余裕そうな態度に、苛立ちがピークに達した男は、胸倉を掴んでいない手を振り上げ、拳を作ってラギ先輩に振り下ろした。


「危険が危なーい!」


 拳が完全に振り下ろされる前に、思わず俺は声を掛ける。しかし、その時にはもう遅く、ラギ先輩はよそ見をしていたまま、男に殴られて地面に倒れてしまった。


 やめろよ!折角の顔が勿体無いだろ。アホ程、美形なんだからさ!俺の模写体を破壊するのやめてもらっていいですか?


「はっ。舐めてるからこうなるんだよマヌケが。で?さっき生意気な事を言ったのはどいつだ?」


 そう言いながら、男はターゲットを俺に変えたのか、ゆっくりとこっちへ歩み寄って来た。そんな怖い顔でこっち来んな。全然分かってんじゃん、なんなんだよホント。


 因みに、青先輩はやれやれと溜め息を吐いているが、コレと言って行動を起こすつもりは無い様だ。本当にため息を吐いているだけ。後輩の危機だぞ!この先輩、かなりの薄情者なんだけど!


「なぁ、お前か?」


「い、いや…そんな筈では……偶々ですよ。偶々そう感じただけ〜…あはは」


 何とか無傷でやり過ごそうと、男を宥めながら後退りをしていると、壁際にまで追い詰められていた。青先輩は未だに静観。もう、腹を括るしかない様だ。誰か、紐を持って来てくれ。


「あ?」


 そんな冗談はさておき、俺はニュースで見た記憶のあるボクサーの真似をして、ファイティングポーズを取る。


 何故、右利きであるのにも関わらず、左手が前なのかも分からない程には無知だが、そんな事はええねん。こっちは初めての喧嘩にビビってんねんぞ。かかってこいやオラ。


「やっぱ生意気なのはお前だなぁ!?」


 そう叫びながら、拳を振りかぶってくる男。俺はその拳を視認する事は出来たし、どこへ振り下ろされるのかも分かったが、思ったよりも身体は言う事を聞かず、ガードする事すらも出来なかった。


 べ、別にビビった訳じゃねぇし!?なんか身体が不調だっただけだし!?そ、そんな俺がビビる訳ないじゃん!


 しかし、男の拳が俺に命中する事は無い。気付けば、男の拳はあらぬ方向へ、失速しながら飛んで行く。


 更に、その男の顔には、苦痛に耐えている様な、物凄く必死な形相があった。一体何があったと言うのか。


「残念、不正解。生意気なのは俺でしたぁ〜!」


 気付けば、男の背後にはラギ先輩が立っている。しかし、その手は男の何処にも触れていない。では、何故男は悶えているのか。それは、視線を落としてみれば、直ぐに分かる事だった。うわぁ…


「知ってるか?人の顔面って急所らしいぞ?俺は顔面狙われたんだからよ。お前も急所狙われねぇと割に合わねぇよなぁ〜!!!」


 男の股間には、ラガ先輩のキックが振り上げられており、男の急所へクリーンヒットしていた。見てるこっちがダメージを喰らってしまいそうな程、それはもう衝撃的な光景だった。思わず、俺もタマヒュンしたぜ…


 しかし、ラギ先輩はそれで止まる事は無く、男の股間へと振り上げた足を下ろし、地面に蹲った男に近寄っては、再びキックを放り込んだ。


 タマへの追撃マジか。コイツの一族、崩壊の危機到来?まぁ、兄弟とかが居たら問題は無いしいいか。いいぞもっとやれ。


「今のは俺の後輩の分!他にも『憂さ晴らし』と、『何と無く』と、『オマケ』が残ってんだからな。へばるんじゃねぇぞ?」


 そう言って、再び股間へキックを放とうとするが、そこに青先輩が介入して、ラギ先輩のキックを、同じく青先輩が放ったキックで止めた。


 いや、なんでやねん。さっき俺が襲われてた時は無反応だっただろ。実はこの男の回し者か?蹴らせてやれよ。全然、正当防衛が成立する案件だぞ。


「ラギ。そんなんじゃ、また留年しちゃうよ?」


 嗚呼、それは確かに困る。なら仕方ない。蹴らなくて正解だ。下手にやり過ぎると過剰防衛だし、このくらいに収めるのが正解か。正に英断。


「えっ、それは困るな。おい、お前。誰か知らねえけど、さっさと部屋に戻れよ?邪魔だから」


 その後、中々動かない男へ「オラ。早く行けよ」と言う、行動を急かす言葉と同時に、男の股間にキックを放つラギ先輩。


 悲鳴を上げた男は、急いで起き上がった後に、目に涙を浮かべて、内股で股間を押さえなりながら、トボトボと部屋を出て行った。


 アラ、可哀想。かなりの力を入れてたし、暫くは痛みに悶える事になりそう。ご愁傷様です。一応、病院も行った方が良いよ。多分。


「あーあ。僕はちゃんと注意したのに」


「でも、アイツ居たら邪魔だろ?本気で蹴ってねぇし大丈夫だろ」


 おいおい。マジか。あれで本気じゃないの?どう見ても遊びの威力じゃなかったけど?どう考えても破壊するつもりだっただろ。筋トレの効果か?この脳筋め。


「あっ、そうだそうだ。聞く事があったんだった。後輩って賢い?」


 いや、どう答えれば良いんだよ。賢いよって自分で言う訳にもいかないだろ。それただの痛い人じゃん。なんて答えたら良いんですかね。この場合。


 すると、困惑してる俺を可哀想に思ったのか、青先輩が軽く解説してくれた。


「嗚呼、ラギはさ。素行もだけど、テストが0点ばっかでさ。単位が足りなくて去年は留年したんだよ。だから、良ければ勉強教えてやってよ」


 嗚呼、ダメだこりゃ。今、俺は平穏な学校生活は訪れないと確信した。間違い無く面倒事に巻き込まれる。そんな確信がある。


 はぁ…俺はこれで良かったのだろうか。


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