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雑談配信2枠目 とある教師の日記その1


 前書き。


 コレは、私が教員生活を送る事になった日から書き記し始めた物だ。


 いつか、誰かに見られる日が来るとしたら、コレは、私が思った事を雑に書き記した日記だと思って、そう深く考えずに読んで欲しい。(実際に読まれるのは恥ずかしいので、あまり読んで欲しくはないが)


———

——


 4月○日。


 クラス替えも終わり、私は新学期をもって41名の生徒を育てる事になった。


 社会を知らない幼さと、やる気に満ち溢れる強さが見え隠れしていたのも、それはもう昔の話で、今ではその幼さは無くなり、強さの方が強く現れている。


 新しいクラスでは、1年生の時に担任を持っていた生徒も少なくなく、学年全員の顔と名前を覚えているので、クラス内で名前を覚えていない生徒というのも居なかったのは、少しだけ誇らしい。


 そう言えば、他のクラスに転校生が来たと、クラスの中でかなり話題になっていたのだが、私は前もって知っていたが為に、全然驚く事は無いものの、転校生に驚いている生徒達は本当に微笑ましい物だった。思わず、笑みが溢れたのを覚えている。


 さて、明日から直ぐに授業が始まると言う訳ではないが、私自身、残業を多くしたい訳でもないので、今日のうちから授業の準備に取り掛かっておく事にしよう。



 4月×日。


 今日が土曜日で、1年生が学校に居ないと言う事により、今度ある部活動説明会で、新1年生を多く誘おうと、私が顧問を務める弓道部では、どうやったら多くの生徒を誘えるだろうか?と言う話になった。


 結局、その辺りの事を、もう少し生徒達と話し合っておきたかったのだが、途中で放送を通して呼ばれたものだから、話し合い半ばで鼻っぱしを折られてしまったのは、とても残念に思う。


 しかし、この呼ばれた理由と言うのもまた非常に大事な物で、その内容は、近い内に転入予定の生徒が居ると言う話であった。


 また、何でこの時期に?もうちょっと早くやらなかったのか?と思ったが、詳しい話を聞いたところ、その生徒はかなりの訳アリな様で、やむなく転入と言う手を取る事になったのだと言う。


 一体、どんな生徒が来るんだと、思わず身震いしてしまいそうになったが、前の学校では常に学年トップの成績と言うのだから、また別の意味で身震いしてしまった。その前の学校と言うのが、かなりの進学校であったのもその理由の1つだ。


 しかし、前の学校と、この学校は県をまたぐ程に離れており、訳アリと言うのが、そう悪い意味でも無いと予想でき一安心も出来た。未だ若い私には、どうも荷が重い生徒では無いかと、少々、心を震わせそうになったものだ。


 そして、その生徒は私のクラスに転入する事になる予定と言う事も伝えられ、他のクラスよりも1人少ない事を考えると、全然妥当だなと思い、特に反論する事もなく話は進んだ。


 しかし、その生徒は聞けば聞くほど凄まじいもので、私の教員生活(まぁ、たったの数年程度だが)の中でも、類を見ない優等生である事が分かった。他のベテラン教員の方も驚いていたところを見るに、予想通り、余程凄い生徒らしい。


 近い内に、保護者を含めて3人で面会する場を作ると言ってくれたので、その時に詳しい事情は分かるらしい。今からでも、気を引き締めておかねば。



 4月△日。


 今日は、前述していた生徒との面会があった。


 初対面では、この親子のどちらが生徒なのか、判別出来ずに少し固まってしまったが、直ぐに正気を取り戻し、何とかやり過ごす事が出来た。


 その生徒Xは(今後、混在する事がない様に、生徒Xと名付けた)常に落ち着いた雰囲気を纏っており、雪の様に白く流れる髪は、直ぐ側にある月の様に輝く金色の眼を、それは美しく飾り付けていて、例え同じ男だと分かっていても、気を惹かれる存在であった。生徒からも、多くの人気を集めるだろうと言う確信もある。


 しかし、本人はどんな状況下でもマスクを着用させて欲しいとの事で、生徒Xは自身の美貌について、あまりよく思っていない様子だったのだが、本人から続けて口に出された理由を知り、ストンと腑に落ちた感覚は、夜になった今でも覚えている。


 それと同時に、私が世間に疎い事も強く自覚させられる事になったのだが、もしかしたら、私が世間に対して無知であるからこそ、この生徒Xを任されたのでは無いかとも思う。まぁ、もう確認をしても変わらない話ではあるが。


 そして、ついでと言う事で、この学校に入ったら何をしたいのかを聞いてみたら、その生徒Xは「やる気が無い訳では無いのですが、僕は出来るだけ目立ちたく無いので、コレと言って何か大きな事をする事は無いと思います」と、淡々とした口調で言い切られてしまい、特に理由を問う事も出来ないまま、ついに面会は終わりを迎えてしまった。


 生徒Xは、前の学校での事があり、どうにも自分を隠す事に力を入れている様で、あの時あの場で話している時でさえも、自分を隠し、偽っていたのでは無いかと、それ程までに疲弊しているのでは無いかと、そう思ってしまった。


 それに気付いたと同時に、私はこの生徒Xの中身が見えた様に感じ、それと同時に少し吃驚してしまい、その場でペンを落としてしまった。


 と言うのも、生徒Xが秘めていた感情は、全くと言っていい程に凪いでおり、纏っていた雰囲気と言うのも、生徒Xが自らが意図的に作り出した様で、彼自身は、結局のところ、何も感じていなかったのだ。


 それは、生きると言う事を、まるで感情移入しないで小説を読んでいるかの如く、ただただ広がる世界観を眺めているだけの様な物(どう言い表すのが、1番正しいのか私には分からない)と、彼はこの歳にして思っているのでは無いかと、私はそう考察してみるが、実のところは、生徒Xに聞いてみない事には分からない。


 そして、学校の概要の説明を通して生徒Xと話していると、凪いだ感情の中に、渇望しているかの様な、切望しているかの様な、はたまた、絶望しているかの様な、そんな難しい感情を見つけ、思わず、お宝を見つけた子供の様に、心が舞い上がったのを覚えている。


 ついに、生徒Xが何を望んでいたのかは分からなかったが、これ以上探るのも彼に悪いなと思い、私はそれ以上の詮索はしないつもりでいるのだが、どうも彼からは危なさを感じ取って、放って置けない。それこそ、彼からわたしに話を持ち掛けてこない限りはどうしようもない話なのだが。



 4月□日。


 本日から生徒Xが、私のクラスの生徒として生活する事になった。


 初め、生徒達の前で生徒Xを紹介した時、生徒達は戸惑いの声を口にして「え?俳優?」「コレ、ドッキリ?」「めちゃくちゃ美しくない?」と、少し騒がしくなったのを、他のクラスの人にも聞かれ、同期の姫坂に愚痴を吐く結果になったのは、もう言うまでもない。


 結局、騒ぎは知らない内に収まっており、生徒Xは目を見張る速度でクラスに馴染んでいたので、恐らく彼が何らしらの事を実行したのは確実だと思う。そうでなければ、あの速度で騒ぎが収まるなんて、中々に有り得ない事だ。


 その後、生徒Xは昼休みに姿を消して、再び戻って来た時には食事を済ましていた。学食は利用しなかったのか、クラスの生徒に何度も彼の位置を聞かれて面倒だったのも、強く印象に残っており、それ程までに、彼には人を惹きつける力が有るのだと分かった。


 放課後からは、生徒Xを連れて、部活動見学へ連れて行った(この学校では、部活動に必ず入らなければならない為)のだが、彼は何においても凄まじく、用意されていた簡単な体験では、誰よりも完璧に事をこなしており、私が顧問を務める弓道部の時も、未経験だと言うのに皆中させるものだから、腰が抜けると言う感覚を、初めて感じる事となった。(継矢なんてされてたら、失神していたかもしれない)


 近いうちに学力テストが始まるのだが、彼の活躍からは目が離せないなのは、もう言わずもが分かる事で、なんでも、生徒Xの噂を聞いた教師が、教師達同士で得点の予想をしていると聞き、頭を悩ませた物だが、満点が塩梅だの言われており、私は天才と言うのものを、強く肌で感じ取った様に思う。


 それと同時に、生徒Xの言っていた「僕は出来るだけ目立ちたく無いので、コレと言って何か大きな事をする事は無いと思います」の意味が理解出来ず、ますます頭を酷く悩ませていたのだが、完璧に事をこなす彼を見ていて気付いた事があった。


 それは、生徒X自身が、自分の事を過小評価(いや、この表現は恐らく誤っている。自己評価において、常識との強い齟齬があるの方が正しいかも知れない)しているのでは無いかと言う事である。


 と言うのも、生徒Xは自身に対して、それはアンケートに答えるかの様に「自分には出来る」「自分には出来ない」の2つに分けて考えているのか、アレが出来る、コレが出来ないと言うのが、彼の中ではそれは偏った配合で存在しているのだ。


 この世には、プラシーボ効果と言う言葉があり(本来は、薬関係の言葉なのだが、今回は『思い込みは結果に強く影響する』と言う意味で使う)生徒Xは私達にとっての天賦の才を、普通の常識として強く思い込んでいる事で、あの様な行動を、おかしいと少しとて思う事なく、さも当然かの様に行えたのでは無いかと予想してみた。


 だとすれば、生徒Xには大きな伸び代と共に、彼にとっての常識と言う非常に大きな壁が有り、それを超えない限りは、彼の限界は見えないと言う事なのだがしかし、彼の常識の壁と言うのは、私達の限界よりも遥かに先にある物だから、結果として彼の限界を目に焼き付けるのは、どうしてもこの世界では不十分では無いかとも感じてしまう。


 何百年と昔に生きた偉人が、今になっても天才と持て囃されているのと同じ様に、生徒Xも何百年と時間が経っても誰にも越えられない壁、それはあまりに突発し過ぎた杭の様な物で、叩こうにも(勿論、そんな事はしないが)杭があまりに高過ぎて誰にも叩けないと感じ、どうにも人間と言う同じ括りにするのは如何なものなのかと、疑ってしまいそうになる。


 もしも、生徒Xの常識を取り払う事が出来る人間が居たとして、その人に常識を取り払って貰い、限界を超えて成長し続けた彼は、一体どの様な人間になるのか、それだけが怖いもの見たさと言うか、行き過ぎた好奇心と言う形で、私の中にはある。


 だが、生徒Xの常識を取り払う事など、単体の個体で生存する事の出来ない人間の中に、どれほど存在しうるのだろうか?


 もし、そんなそんな人間が居たとして、それは生徒Xの近くに存在しているだろうか?


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