配信20枠目 そして、遂に出会ってみた。
1日目の予定は、テキトーに街を見回るだけで、特に予定自体を組んではいない。つまり、観光地を巡るのはどうしても2日目以降になる。
なのに、何故。俺は脳筋プロテインを差し置いて、射的をしているんだ?しかも、なんでこの時期に射的があるんだよ。観光地って凄いな。
「よく狙えよー?」
「分かった。分かったから。あぁもう!手!邪魔なんだけど!?」
先程から、目の前にちょろちょろと、カメラを持つ手とは、反対の手を出されて邪魔過ぎる。知ってる?今、お前の弔い合戦をしてんだぞ?敗者は引っ込んでろ。
先の通り、俺は惨敗した脳筋プロテインに変わり、銃の照準を合わせている。正直、コイツなら、なんやかんやで当てれると思ってたんだけどなぁ…
「ソラくんは射的大丈夫?ラギの二の舞になるかもよ?」
「任セロリ。所詮、銃口の先と景品を見えない線で繋ぐだけの作業なんで」
俺のこの眼をもってすれば、2、3発もあれば当てられる。コレでも、子供の頃は『スナイパー』と呼ばれなかった男だぜ?射的なんてなんのそのよ。
「とりあえず、様子見の1発目」
「うおっ。惜しい!」
少し右に向かって飛んだな。やはり、銃にも個体差がある。特に、射的の銃なんかはね。まぁ、予想通りの結果だ。次で修正すれば良いのだよ。
「後は時間の問題!2発目ぇ!」
ナイスヒット!でも、倒れねぇなぁ!ホントに倒れんのか?コレはよぉ!
「やるやん。見直したわ先生」
「昔から、ソラは変なところで多彩だね」
ちょっとー?青くんさん?「変なところで」は余計だろ。俺はいつだって多彩だが?『多彩のソラ』って呼ばれてなかったくらいには多彩だぞ?
「さて、次で倒させて貰う。狙うべきは敵の心臓!言わば重心よ!」
端の方に当たると、回転したりして勢いが分散される…多分!自信はない!案外、端を狙った方が良いかもしれない!特に、右上とか左上とか!
だが、もう既にどうと言う事は無い!1発で撃ち落とす!狙いは完璧だ!後は引き金を引く、俺のその度胸のみ!
「いよっしゃ。ぱーん」
やったぜ。完全勝利uc。でも、このぬいぐるみを取って、一体何なると言うんだ?(素朴な疑問)
「で?コレ、どうするよ」
「俺は要らねぇ。使い道無いし。ほら。青。お前にやるよ。妹によろしく言っといてくれ」
俺が意味なく取ったぬいぐるみを、ポイっと投げ渡す脳筋プロテイン。そのついでに、俺にカメラを手渡した。
それはそれとして、ぬいぐるみを受け取った青くんはとても困惑した様子だ。まぁ、当然である。
「僕、別に妹とか居ないんだけどなぁ…」
なんせ、青くんには妹どころか、弟も兄も姉も居ない。完全に一人っ子なのだから。因みに、脳筋プロテインも同じくだ。実はこの3人で兄弟がいるのは俺だけ。
「じゃ、親戚の子にあげろよ」
「いやだよ。親戚付き合いなんてしてないのに。誰があんな面倒事に付き合うのさ」
それな。俺も、一度だけ親戚同士で集まったが、驚く程に苦痛だった。良い思い出とか、出来るわけないだろあんなんじゃ。母が同じ思いなのが唯一の救いでしたよ。本当に。
「はぁ…まぁ、とりあえず空きの多い先生の鞄にでも詰めとくか。帰ってから考えようぜ」
帰ったって、転売くらいしか思いつかなくなーい?転売した事ないから分かんないけどさ。もういっその事、周りの人に差し上げろよ。お前のフェイスなら不審者感無いし。
「もう、誰かに差し上げれば?さっきから、チラチラ見てる子供。何人かは居るよ?」
まぁ、ただの勘なんだけどね。でも、視界の端にチラチラと子供の姿があったのは知ってる。カメラ構えてるのもあってか、ちょっとした人だかりになってるし、中には脳筋プロテインの事を知ってる人も、何人かは居そうだ。
「あー。それもそうだな。持っててもだし。テキトーにあげてくるわ」
「いよっ。任せた!さて、青くん。君にはカメラを授けておくね。コレであの馬鹿を撮り尽くしてくれ。編集するから大量に映しちゃっても構わない」
「はいよー」
そうして、脳筋プロテインと青くんはどっかへ走り去っていった。何でやねん。直ぐそこで、邪魔にならなそうな位置でやれよ。
でも、まぁ、コレで暫くは静かかな。5月の癖に、日差しが絶妙に強くて休まないと死ぬ。日陰…日陰…おっ。なんか丁度良さそうなベンチが。
「ふぅー…あっつ。夏かよ…」
幾ら年中を通して長袖を着てる人とは言え、暑いものは暑いし、俺は基本屋内で涼んでる人なので、暑さ耐性なんて持っている訳がない。本当、季節って奴には困らされたもんだぜ…
そのまま、何故か貰っていたうちわで、自分の顔を煽ぎ、木陰でたったの1人。俺は、春の終わりを一身に感じていた。
結局、今年も花見をしてみたいとは思ったが、遂に行動に移す事はなかったなぁ…脳筋プロテインが誘ってくれたりとか、そう言う感じならやるんだけどね。
つまり、なんて言うか、俺は1人で生きていけないタイプの人間なんだよな。誰かに言われなきゃ自分から行動しようとは思わない。それこそ、自分で新しい事に挑戦する事も出来ない。
コレに関しては、俺の人間性だから、俺に変わる気持ちが無ければ、一生として変わらない事と言える。要は気持ち次第なのだ。
「ん?」
その時、いつの間にか近付いてきていた子供が、コチラを見上げている事に気が付いた。一体、どうしたと言うのだろうか?服にアイスでも垂らしちゃってたか?
それに、なんか…アレだ。見覚えのある顔をしている。いや、別にこの子供を見た事がある訳では無い。もしも見た事があれば、流石に気付くだろう。
しかし、俺に見た記憶が無いのだから、あくまでも、この子供に似た顔を、何処かで見た事が有ると言う事なのだろう。きっとそうだ。そうに違いない。
「「………」」
これと言って、話し掛けられる訳でもなく、ただこちらを見ているだけの少女。仕方がないので、こちらも詳しく観察する事にする。見られているのだから、少しくらいこちらから観察しても良いだろう。犯罪者じゃないよ。
ふむ。あくまでも、これは目測でしかないが、身長は母より低いな。140センチに、入っているか否かくらいの身長。髪の毛はかなり長い。それこそ、今の様に一つ纏めに結んでいないと、地面に着いちゃいそうなくらいに。
そして、長い前髪に隠れて分かり辛いが、この子の目の色は赤色の様だ。髪色はクリームっぽい明るい色で、俺とは全然違うのに、目の色は俺と全く同じ。もしも、コレがカラコンじゃないのなら、何処か親近感が湧くなぁ…
あっ。今、何と無く理解した。この子。何処で見覚えがあったのかと思えば。俺が毎日の様に、鏡で見てる顔じゃねぇか!つまりは、俺の顔!
気付いてからは早い物で、有り得ない程に俺と似た顔付きをしている。目とか。鼻とか。似てるところを探せばキリがなさそうだ。
やっと、何故、俺が見られているのか納得がいった。そりゃ、自分そっくりの顔付きの人を見つけたら、普通にまじまじ見ちゃうよな。俺も、テレビに映った俺Bをアホみたいに観察してたし。
「「………」」
しかし、どうしたものか。こんなに長い事観察されても困るのだが…もしかして、強制的睨めっこにでも参加させられたのか?俺は笑ったり、目を逸らしたりしたらいけないのか?
まぁ、コレもそれも、脳筋プロテインや青くんが帰って来るまでの辛抱だろう。流石に、黒い帽子を被って、マスクを着けた不審者然とした男が、幼女に話し掛けるのはマズい。正直、事案でしかない。
例えば、警察関係者に知り合いでもいれば、多少は弁明がし易いのかも知れない。だが、生憎様、そんな知り合いは居らず、居たとしてもあまり変わりそうにない。何せ、俺は人に変態と勘違いされ易い節がある。
つまりは、どこまで行っても平行線。マジでどうしようもない、詰み!なんで昔から俺はこんな目に逢うんだよ!
あ、でも、いや。顔が似てるし兄妹とやり過ごす事も出来なくは無さそうだな。あくまで、幼女が協力してくれたらの話だが。
「「………」」
いや、協力してくれるくらいなら、わざわざ通報もしないか。俺は何を考えているんだ?疲れているのか?まぁ、うん。普通に疲れては居るんだけども。
何せ、この旅行中。視聴者の為に、編集済みの動画を4本も作成したのだ。俺は一応雇われ編集者だし、編集なら無駄に凝るタイプなので、動画時間にもよるが、1本当たりに一晩程度は掛かる。それを4本もだ。流石に過労死するわ。
思い返せば…俺。よく頑張ったな。旅行から帰ったら、脳筋プロテインに編集の仕方を教えてやろう。少しでも俺は仕事を減らすぞ。世はまさに、大労働時代!やはり、働き方改革なんだよなぁ…
「……っ?」
と、無駄な思考に時間を費やしていると、無事に少女のお迎えが来た様だ。安心安心。コレで何も問題は無い…よな?
いや、待てよ?今の時点でも、十分に事案と勘違いされないか!?マズいですよ!俺が社会的に死ぬ!そうしたら、芋蔓式に大問題に発展する予感!これは、本当にマズイですよ!?!?!?
「あっ!ソラ!」
迎えに気付いた少女が、そのお迎えの人に向かって走り出す。思わず、俺は身体を強張らせてしまうが…え?ソラ?今、ソラって言った?ん?……あっ(察し)
「ん。どうしたの?楓」
太陽の光が反射する赤色の目。多少、固められているのか、風に揺れてもびくともしない黒髪。そして、俺と同じ顔の癖に、俺と違って何故かイケメンなその人物。
「うわあぁぁぁーーーっっっ!?!?!?」
何で、草津に俺Bが居るんだよっ!?!?!?
どうやら、今年の春は、どうしようもない終わり方をするみたいだ。俺は今になってそれに気づいたのだが、振り返ってみれば、今年の春は、特別碌な事が無かった様に思える。
でも、まぁ…それは退屈からは掛け離れていて。それでいて俺を満たしている様にも感じる。いつかはコレも悪くないなと、そう思える日が来るのだろうか。
今の俺には分からない事だ。ただ、俺の人生に退屈の2文字は存在しないだろう。それだけは何と無く分かったし、胸を張って言えるだろう。
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弟side。
名も無き人間が死に際に放った言葉が有る。
——神は『全知全能の老人』や『完全無欠の秀人』では無く『未熟な若人』だったのだ——
僕の人生に退屈は無かった。しかし、気付けばいつも隣に立っていた。嫉妬も畏敬も、いつかには、全てが退屈に変わったのを感じ取った。そして、ついに知らないフリをした。気付けば、とうに限界を迎えていた。
ソレは僕を救い出した。僕はソレを酷く尊敬した。例え、その内にどんな想いを秘めていようとも、ソレは僕にとって尊敬するに値した。そして、僕はソレから距離を取った。僕はソレの邪魔にしかなれなかったからだ。
ある時、生まれて初めて心からの劣等感を感じた。平然心を装い、何処かでいつも醜さに悶えていた。気付いたら、ソレは居なくなり、僕から醜さが消え、また退屈の日常を感じていた。
そうだ。今、題材を決めた。知る限りの劣等感を綴ろう。終わりなき劣等感と、果てなき心の醜悪。そして、人を殺す退屈の果て。
その小説は、そうして完成した。




