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002 ラック。ギルドからも追放される

 誰がかクシャミをして、その声で目が覚めた。

 誰でもない自分の声だったのを気付いてちょっと落ち込む。

 空は既に青く、体の関節が痛い。


 手には何が握っていて開くと1ゴールドが握られていた。紙も一緒に握っていたらしく、紙にはおつり。とだけかかれている。何のおつりだろう……? そもそも僕は無一文だ、もしかしたら店主が餞別にくれた1ゴールドかもしれない。


 1ゴールドだって立派なお金だ。

 昼食なら1ゴールドで大人3人分ぐらいは食べれる。



「野宿したのかな……いやしたんだろうね。あちこち痛いし」



 少し離れた倉庫と倉庫の路地裏で寝ていたらしく、なぜか僕の恰好はパンツ一枚だ。

 慌ててズボンと上着を探すと、あきらかに僕のじゃない服しか周りには無い。

 と、いうか僕の服はどこに……だからお酒は困るんだ。


 辛うじてパンツは僕のパンツだ。

 履きたくもないけど他人のズボンをはいてベルトを締める。上着もちょっと匂うけどしょうがない。



「サーリアに心配させる前に宿にもど…………」



 言いかけて言葉が止まった。



「そうだ、パーティー抜け……追放されたんだ」



 心配してくれる仲間はもういなくて……わかってはいるんだ。

 サーリアやグィンに騙された。それでも彼らと一緒に冒険した日々は嫌な事もあったけど、ほんの少し良い事の方が多かった。



「恨めないよね……それに、好きだったんだよ……そうだ、宿にいかないと」




 宿には荷物がある。

 周りから嫌そうな顔をされても来ている物を脱ぐわけにはいかない。

 何時も泊っている宿につくと、馴染の宿の主人ダングさんが仁王立ちしてきた。



「お、おはようございます、ダングさん……?」

「ああ、いい朝だな。悪いがお前の荷物は全部売ったぞ。あとくせえぞ」

「へあっ!?」



 突然の事で驚きの声しかでない。



「宿代がたまっていただろ? グィンは昨夜のうちに別の高級宿に移っていったよ。こんなボロ宿じゃ駄目なんだとさ。それとな今までの宿代はおまえの荷物で払ってくれ。と言ってな」

「そ、そんな……結構な荷物ありましたよね!?」



 今まで冒険で稼いだ誰も使わない武器やアイテムなどを僕がまとめて管理していた。

 置く場所も無いので僕の部屋にしまっていたのだ。



「ああ。だから売った。

 大体だな、お前らがダンジョンにこもるのに宿代は後払いだったぞ。

 ちょっとダンジョンで名声をえたら、俺の宿を馬鹿にしてさっさと高い所いくだ? ふざけんな。お前さんの補助魔法は助かったよ? 腰や肩こりが良くなった。だがそれだけだ。

 それにお前らば3部屋も借りて足りない分はサービスだ、追加で貰いたいぐらいだよ」



 あまりにもボロクソ言われて少し落ち込む。

 仕方がないじゃないか、僕にはそれしかできなかったんだから。足をちょっと速くする、筋力をちょっと強くする、腰痛をやわらげる。そういうのが補助魔法で、僕はそれぐらいしか出来なくて。



「っと、言い過ぎたな。そこまで落ち込むな。でもなぁラック考えても見ろ、冒険者なんて何時、この世から居なくなるかわからん商売だろ? 期日までに戻ってこない場合は荷物は宿の物、そういう約束で部屋を貸したんだ。お前さえよかったら宿の従業員になるか?」



 僕が宿の従業員? サーリアに誘われて村を出て5年、サーリアが希少価値の高いヒーラーになってから僕も魔法教えて貰ってやっと魔法を覚えたけど、仕える魔法が補助魔法。

 いてもいなくてもいいような仲間で……次の就職先は宿の従業員。



「あの、皆はまだこの街にいるんですよね?」

「知らんよ、いるんじゃないか? まさか会いに行くのか?」

「誤解を解きたいなぁって」

「…………高級宿じゃお前の恰好を見たら門前払いになるな。臭せえし」



 う。

 臭いのは拭けば何とかなるとして、確かに僕の冒険者ランクはD。高級宿に泊まるにはまずお金。次にそれなりの紹介か冒険者ランクが高くないと断れる。



「たく。腐っても冒険者ってか、俺が福引で当てた辺境行きのチケットがある。珍しく温泉があるらしくてな、お前にやる! 金貨10枚もあればゆっくりと疲れを落とす事も出来るだろう。帰って来てから返事を聞かせてくれ」



 別に何も言ってないんだけど、なんとか皆にあって誤解を解きたい。

 温泉はその後でも、金貨10枚ってそんな大金……無いよ。



「どうしたチケットだけじゃ不満か?」

「た、大変嬉しいんですけど……その金貨10枚が無くて」

「ああ? あいつら確かそれぐらいは残して置いていくって……いや、お前に関係ない話だったな。待ってろ!」



 宿のダンク(主人)さんは僕の頭からつま先までを見て、一度奥に消えた、すぐに革袋を僕に手渡してくれる。



「他の冒険者には内緒にしとけよ。たっく冒険者なら仕事して稼げ、と言いたいがラックだからな……色々と話は聞いてるしお前がサーリアにおっと」

「えっサーリアがどうしたんですか!?」

「………………聞き間違いじゃねえのか? さっさと辺境でもいって気分代えて来い!」



 宿を強引に追い出された僕は途方に暮れた。

 結局体も拭けずに臭いままだ。


 革袋の中には金貨が10枚。今の僕には大金で、節約すれば10日はもつだろう。

 後は辺境行のチケット、チケットは往復になっており道中の食事も賄ってもらえるという大変お得なチケットっぽい。


 買うといくらになるのか金貨10枚ぐらい要りそうだなぁ。

 合わせて金貨20枚以上の価値になる、僕としては借金はそんなにしたくないタイプでどうしよう。従業員になって地道に返済するのも手だろうけど。



 僕に出来る事……『腐っても冒険者か……』……そうだ! 僕は冒険者だ。


 

 僕が活躍すればサーリアだって僕を認め……『結婚して跡取りを作らないとな……』『ラックとは幼馴染なだけ……』『煙草が旨いでござる』


 慌てて首をふる。

 認めて貰えば僕の話だって聞いてくれる! はず。別にもう追放されたのはしょうがない僕に実力がなく、僕の話が皆に信じられなかったんだから。

 100万ゴールドの借金だって何かの間違いだってわかるはず。




 ただ…………僕は弱い。



 弱いからこそ 新しい仲間(・・・・・)を作るべきだ。それには冒険者ギルドに行くしかない。それに仕事をしてから、辺境に行ったっていい。

 辺境へは数日遅れるけど宿の主人に10枚、いや20枚を直ぐに返して、自分で稼い金で行った方がいいに決まってる。



 ギルド前についた。

 扉を開けると、見知った人達が僕の顔をみては顔をそむけた。なんでだろう? 臭いからかな……後で濡れた布を借りなくては。


 ギルドの依頼掲示板からD級依頼の紙を何枚もひっぺがした、野草取り、ドブの掃除、肩もみ、一角兎狩り。

 この際金額なんてどうでもいい、とにかく仕事をするんだ。

 カウンターに紙を持っていく。カウンターの人は女性で確かリンさんといったような笑顔が可愛い人で目が合うと笑いかけてくれる人だ。



「これ全部受けたい! ……です」

「出来ません」

「えっ!?」



 そうか、そうだよね。

 未達成や独り占めを防ぐために個人のギルド仕事は一人二件までなのを忘れていた。



「二件までだったね。ええっと。じゃぁこれとこれ」

「だから出来ませんよ」

「え。でも規約は……」



 他には何も無いはずだ。

 でも、ギルド職員のリンさんは分厚い本を出してページを開いて見せてくれる。



「冒険者規約第七の六条。金銭のトラブルなどにより信用が損なわれた者は一時的にクエスト受注を制限される場合があります。これですね、何に使かったがは知りませんが、銀行ギルドよりあなたの名前で借金の未返済があった。との事です。

 現在は返済されているようですが、この街では二十日間のクエストは無理なんです。込んでいるので場所を避けてください。

 あと匂いがキツイ方も受けれないクエストですね、ドブの掃除は関係ありませんが薬草採取は清潔な方でないと受けれないので……では次の方どうぞ」



 後ろの冒険者に肩を掴まれて強引に場所を取られた。

 僕は茫然とし他の冒険者からつまみ出されていた。

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