サタンちゃまと防衛クエスト6 向けられたジャッチメント
ここ数日、凄いことが起こり過ぎてちょっと麻痺していたところに厄災が落ちて来た。
対策担当の大天使ガブリエルさんは前から匂わせていたけど、まさか厄災がマッチョとはねぇ……。
厄災の名はS鬼。その正体は異世界の魔王の細胞から作られた人造兵で二人兄弟の兄の方。
天使軍に運用されていた彼は、ある時俺のサタン細胞に侵されてしまったらしい。
その結果光と闇の属性を持ってしまった彼は暴走してソウルワールド(神の世界を頂点に何重にも連なった世界)中を破壊しながら降下。
ついにここ物質界に到達した。
サタン細胞のせいで異常をきたしたSドラコスは、天使でも手に負えない無敵状態。ただ厳密に言えば無敵ではない。戦神なら簡単に奴を倒せるらしい。
だけど、天界にいる神々は直接下界に手を差し伸べてはいけない掟らしい。それはつい最近、とは言え200年ほど前に決まったルール。
そこはケチ臭いこと言わずに助けて欲しいけど、ルールはルールで決して覆してはならないらしい。
聞いていてちょっと思ったのが、天界の神々とは融通の効かない頭の硬い連中だな。
それじゃあ天使が束になっても倒せないし、倒せる神々も直接手を出せない掟のせいで世界の終わりかと思うとそうではないらしい。
『例外なら』とガブリエルさんがそう答えた。
Sドラコスから遅れて上の階層から降臨した銀髪の少女神崎エイジ。
彼女は前世が人間で神に転生し、神と天使の特性を持つ例外的存在のエンジェルゴッド。
もう一度言う。神でも直接下界に手を出せるのは例外的存在。つまり神崎エイジはそれに当てはまる。
飛び蹴り一つでSドラコスを吹き飛ばしたエイジが俺たちの方に向いた。
「ぐおっ……」
「チッ!タフな奴だ。先輩方っ話はあとだ。まずはコイツを黙らす!」
しかし瓦礫に埋まったSドラコスが起きあがったので、エイジが向き直り構えた。
そして二人は対峙した。
「…………」
「俺の顔をなにジロジロ見ている?」
巨ジンにガン見されたエイジは不機嫌そうに聞いた。すると……。
「おおぉぉ……たぎる…………エイジを見ていると実にたぎる。それに、こっ好みだ……♡」
「ん…………テメェはっ!俺見てたぎってんじゃねえぞっ!」
烈火のごとくの速さで奴の懐に飛び込んだエイジ。流石前世が暴走族総長だ。
「ゴッドナックル!」
エイジの右手が光り金色の手甲が装着された。
「喰らいなっスサノオ直伝の正拳突きを」
ズバンッ!!
「グオッ!!」
腹パン一発。
天使でも手に負えないSドラコスを、たった一撃でその身体を粉砕した。
「凄いっやったの神さまっ?」
「……いや」
背中を向けたエイジが、駆け寄ろうとしたメリーを左手で制した。
どうやらまだ奴はまだ生きているらしい。
その証拠に、粉砕され残ったSドラコスの魂が、黒い球体に覆われて浮かんでいた。
「あの強硬な核は流石の俺でも壊せねぇ……」
振り返ったエイジは肩をすくめお手あげの様子。
「これでしばらくは大丈夫……だから、ここは俺に任せてください」
とは言っても警戒を緩めないエイジは背中を向け巨ジンの核を睨んだ。
「ここはエイジ君に任せて詳しい話はサタン城に戻ってするよ」
「ガブリエル様。これからわたくの使命の全てが分かるのですね……」
聖女さまが魔王を倒さなくてはいけない意味かぁ……。
「もちろんだ。だから皆も一緒に来てくれ」
殺し切れない厄災をエイジさんに任せた俺たちは一路サタン城に向かった。
□ □ □
サタン城に着いたガブリエルさんは研究室へと言って、俺を先頭で歩かせた。
忘れていた俺は戸惑ったが、良くよく考えれば、サタン城の防衛システムを沈静化出来るのは俺だから、先頭を歩かせるのは当然だったな。
研究室に入ると研究者のギジェルが出むかえた。
「お待ちしておりましたサタン様。どうぞこちらへ」
羽織った白衣をひる返すとギジェルが俺たちを培養室に案内した。
そこはいくつもの人が入る培養カプセルが設置され中央の特別仕様らしきカプセルには裸の少女が眠らされていた。
見た感じ十四歳位の水色の長い髪の少女。目を瞑っているけど美少女と分かる美貌。
この少女を見ていて何故か親近感が湧いた。それは俺に似ていたからかな……?
「これは現在開発中のサタン様専用のバイオボディスーツ2号です」
なるほど納得いった。
三百年前俺はこの地で自身の細胞を培養して作られた美女型(大人)バイオボディスーツの中に入ってママ天使と戦った。(ちなみにママ天使とは天使騎士の最終形態の一つで、悪魔が最も苦手とする愛を武器にして戦う厄介な敵だった)
結局ママ天使にバイオボディスーツを破壊され俺は敗北した。
まさか、その肉片をなんらかのキッカケで身体に取り込んだジャスティス巨ジンが暴走してSドラコスになったのか?
「完成次第サタン様の悪魔ガチャシステムに取り入れるつもりです」
「にゃっ!それはどう言うことにゃ?」
「最初に謝らせてください。勝手なことをいたしましてすみません。実は悪魔のガチャカード化やガチャシステムはこの私が開発してサタン様の魂に取り入れたのです」
『不自然な俺のガチャシステムはそう言うことか……』ギジェルに俺の魂のリンクを許していたから、眠っている間システムを組み込まれていても気づかない訳だ。
「にゃあギジェル。バイオボディスーツ1号はどうにゃった?」
「すでに修復済みです」
「にゃあさっ!」
俺はギジェルに手を出した。
あのバイオボディスーツがあればこの忌々しい幼女体型からおさらばだ。
しかしギジェルは首を横に振ると微笑んだ。
「すでにサタン様に差しあげました」
「にゃにっ!? ア、アタチは貰った覚えはにゃいにゃっ!」
「それはそうでしょうね。サタン様が眠っている間に私が修復したバイオボディスーツ1号を悪魔ガチャシステムに取り入れたのですから」
「にゃんとっ!しかしにゃあ……にゃぜ直接手渡さにゃかった?」
「フッ、簡単に手に入れたらツマラないでしょうサタン様。あとは運次第で自力でガチャ回して手に入れてください」
「にゃっ!?」
どうしてこう手間の掛かることを……ここで素直に渡してくれれば即戦力になったのに。
ガチャを回せかぁ……恐らくレアリティは星6クラス。そう簡単には引かせてもらえそうにない。
ガブリエルさんは結局コレを見せるために再度研究所に向かわせたのかな……。
それで一旦城から出た俺たちに彼女は、軍の宿舎で身体を休めと呑気な提案をした。
今はそれどころじゃない世界の危機なのだが……。
□ □ □
結局軍の宿舎で一泊した俺たちは朝をむかえた。
昨日あんなことがあって事態は進行中なのに、心配で熟睡出来るハズがない。
俺は目を擦りながら着替えて、集まった皆と急いでエイジさんの元に急いだ。
「ようっ待ってたぜ」
いつの間にか設営されていたテントの横でパイプ椅子に座るエイジが振り向くと、仏頂面で皆に声を掛けた。
例のSドラコスの魂の核は健在だ。もしかして寝ずに見張っていたのか?
「危ねぇからここで待っていてくれ……」
なにかを感じたエイジが立ちあがると前に向き直った。視線の先の魂の核がブルブルと震えだした。そして粘土状に形を崩すと人型に再構築し、なんとSドラコスの身体が再生された。
「ほらな……」
見たかと言わんばかりにエイジが再度振り返って投げ掛けた。
「……ご覧の通りSドラコスは異世界大陸にいる魔王と魂が繋がっているおかげで、倒しても24時間以内に必ず復活する」
ガブリエルさんがエイジの代わりに説明するとメリーが『じゃあアレは完全に倒せないってこと?』と聞いた。
するとガブリエルさんは目を閉じた。
「いや、魔王を倒せばSドラコスは殺せる。しかし本当に魔王を殺せるのは神の血を引いた聖女パラル。アンタしかいねえんだ」
「……」
名指しされた聖女さまの責任は重大だし、黙っているけど重いプレッシャーだよな。
「一つよろしいでしょうかガブリエル様」
「ああ、なんなりと聞いていいよ」
「……ありがとうございます。魔王討伐に勇者では駄目なのでしょうか?」
「確かに勇者でも魔王は倒せる。しかし、神の血筋ではない勇者に魔王は完全に殺すことは不可能。もし勇者に先を越されたら魔王の魂はアレのように殻に守られ数百年休眠する。
そうなったらもう、魔王の姿に復活するまで強硬な殻に守られた魂を殺すのは不可能。そうなるとSドラコスを殺すチャンスを失い。物質世界は破壊され滅亡するだろう……」
ガブリエルさんが魔王討伐に、聖女さまを使命した理由が良く分かった。
「でももし勇者に先を越されちゃっても、エイジさんがいるから大丈夫なんじゃない?」
ずいぶんと無責任なことを発言するメリー。
考えてみろ。エイジが何百年とSドラコスを見張ってられるかよ。
「『それは無理だ!』」
ガブリエルさんとエイジが同時に同じことを言った。
「ぐ、ぐ、ぐお…………」
それと同時にSドラコスが動き出した。
「俺がこうして受肉出来るのは精々一年だ。だから一年以内に勇者より先に魔王を殺してもらう必要がある」
一年以内に魔王討伐って無茶言う新米神さまだ。
で、エイジの警告が続いた。
「もし勇者に魔王討伐を先越されたら、この世界はSドラコスに破壊されて滅びるっ!それを肝に免じろっ!」
バコンッ!!
「キサマグオッ!!」
再度エイジの鉄拳により身体を粉砕されたドラコス。しかしまた魂が殻に包まれ守りに入った。
「魔王が生きている限り倒しても倒しても復活するからキリがねぇ……しかし、何度復活しても俺が四六時中見張ってっから心配すんな」
頼もしい台詞。エイジは肩をすくめパイプ椅子に腰をすえた。そんな重要な任務なら、もっといい椅子もらえばいいのに……。
しかしこれで何故、聖女さまが魔王を倒さなくてはいけないのか謎が解けた。
そうなると俺の役目は……自ずと分かってきた。
『アタチは……』
俺は聖女さまの前に立って見あげた。
「アタチも魔王討伐に力を貸すにゃ!」
「良く言ったわね。わたくしの犬、猫いや、犬」
「にゃっ!?」
わざわざ言い直すな。
しかしこれで俺がやるべきことがハッキリした。
「待ちなさい……」
「にゃっ……」
後ろからメイドのサガネさんが珍しく俺に話し掛けた。振り返ると彼女が真剣な目で俺を見つめていた。
「悪魔王サタン……聖女様の力になることは大いに結構。しかしその前に、本当にその資格があるのか、私……いや……」
バリバリッ!
瞳を閉じたサガネさんがそっと胸に手を当てると、メイド服がビリビリに破けた。
まさかのサービスシーンかと思ったけど全身が光りに包まれ見えなかった。
発光を終えるとサガネさんの姿が変化していた。
まず髪の色が黒から金色に変化。髪型はふんわりしたロングヘアーに前髪を切り揃え縦ロールのもみあげに白いカチューシャと眼鏡。
服装は破れたメイド服が再構築されて白い強化レオタードにニーハイヒールブーツ。
手には白い弓が握られていた。
この姿は太陽天使騎士エイトさんに似ている。
つまりサガネさんの正体は……。
「メイド長サガネは仮の姿。私いや、俺の本当の正体は……七番目に作られた太陽天使騎士7だ」
「にゃっ!」
『なるほど』だから初対面からサガネさんは俺に冷たかったんだな。
宿敵だから納得だ。
「この悪には大ダメージを与え、善には癒やしを与えるジャッジメントアローでお前が改心したのか今ここでジャッジしてやる」
そう言ってセブンが弓をギリギリと引き、矢先を俺に向けた……。
コレで大体日本編は終了。
あと準備の話を消化してからいよいよ異世界大陸編に入ります。正直まだ設定とかまだ考えてません。小さな展開はその場その場でリアルタイムで考えて書いてます。
で、異世界大陸編からは王道異世界冒険ストーリーで行きたいと考えてます。
では読者の皆さん。新展開をよろしくお願いします。




