サタンちゃまと妖しい店主さん2
「景品を当てて落とせば貰えるのね?」
射的店のコルク銃を構えて景品に狙いを定めるメリーが妖しい女店主に聞いた。
すると店主が寄り添い手取り足取り指導した。
「もう少し腰を低くして……こう」
自然な素振りで店主はメリーの腰や腕を触って体勢を修正する。どう見ても不純な動機で身体を触ってるとしか思えないんだ。
だから見ていた俺と竜神さまは目を合わせ困惑していた。
すでに二発撃って外したメリーが狙うのはウサギのぬいぐるみだ。作りはまぁ、作りはショボく市販のぬいぐるみを買った方が良いレベル。
だけど射的とは狙った物を当てて落とすのが楽しみだから、景品の出来は二の次だ。
パコン!
「あーっ残念っ!」
三発目も外したメリーは天を仰ぎ本当に悔しそうだ。しかし、撃てるのは三発のみだ。
続きをやりたければ追加料金を払う必要がある。それで順番待ちをしていた俺はどうするのか見ていた。
「あら残念。だったらサービスよ」
妖しい笑顔を振り蒔く女店主が、三発分のコルク玉をメリーに渡した。
「えっ……サービスって……」
半信半疑な表情を浮かべたメリーが振り返って聞いた。するとウインクした女店主が人差し指を立てて。
「うふふ……お代は要らないわ。それに目当ての景品が当たるまでヤ・ラ・セ・て・あ・げ・るっ♡」
「『……………』」
あからさまな女店主の言動に見ていた俺と竜神さまはドン引きしていた。
なんと言うか『ヤ・セ・て・あ・げ・るっ♡』が違う猥褻な意味に聞こえた……。
パコン!
パコン!
パコン!
「もーっ!なんで当たらないのよっ!」
フグみたいに頬を膨らませて残念がるメリー。目当てのウサギのぬいぐるみを外してこれで十五発目だ。
いくらなんでも下手過ぎだろと思ったが、全て無料だから好きに撃てばいいと見ていた。
しかしそろそろ当ててくれと順番を待つ俺たちの身にもなってくれと思った。
「あ〜ら、仕方ないわね〜……ほらっお嬢さんっアタシが合わせてあげるから、次は当ててあげるワ」
女店主はメリーに覆いかぶさり、コルク銃を構えて標準を調整した。
「本当?」
「ええ、うふふ……」
あからさまに身体が密着しているのに振り返り聞いた無邪気なメリーは、女店主の邪な心に気づかない。
『しかしメリーはあそこまでアホとはのう……』
「にゃっ!確かに……」
俺と竜神さまは鈍感なメリーに呆れ返っていた。
パコンッ!
「やった!」
女店主の手を借りて、やっとメリーは目当てのウサギのぬいぐるみをゲット出来た。
まるでウサギみたいにぴょんぴょん飛び跳ねて無邪気に喜ぶメリーの姿を見て俺はまるで、デート中の彼女を見守る彼氏の気分だった。
それじゃまぁやっと俺の番が回ってきたな。
背の低い俺は台に乗ってコルク銃を構えた。狙うのはキャラメル一箱だ。
正直に言えば景品はなんだっていい。要はコルク銃で景品を当てるのが楽しいのだから、射倖心は二の次だった?
パコン!
パコン!
スコンッ!
「にゃっ!」
早々上手くいかないものだ。俺は見事に三発とも外した。で、元々メリーの付き合いで入った俺は乗り気じゃないので連投はしなかった。
続いて竜神さまが交代したが景品を当てることは出来なかった。もちろんサービスで貰えることは無かった。
本当にあからさまなエコひいきな女店主だ。
『中々当てるのが難しいのう……』
「ハイハイ。残念ザンネン。それじゃぁ退いて」
『なっ!なんじゃお主あからさまにっ!』
メリーの時と違って心が入っていない女店主が軽く手を叩き竜神さまを退かした。
それで竜神さまが怒っちゃったので俺がなんとかなだめた。だって店内に雷が落ちたら俺ら感電死するからな。
懲りずに女店主がメリーに寄り添う。
「うふふっもう一発プレイする〜?」
『言い方っ!』この女店主絶対メリーを狙っている。これ以上この射的屋にいたら流石にやばいと感じた俺は竜神さまと顔を見合わせメリーの手を引っ張って店を出てた。
「店を出るにゃメリーッ!」
「ちょっとちびっ子!」
走って飛び出した俺たちの背後から『待ちなさいっ!』と呼び止める女店主の声が聞こえたが、構わず無視して逃げた。
□ □ □
どこまで逃げたのだろうか、人気の無い路地裏に来た俺たちはとりあえず壁を背に身を隠した。
しかしまさか妖しい女店主が追って来るとは本気で怖かった。魔物に追われる以上だなアレは……。
「はぁはぁ……ちょっとなんなのよーあの女……」
息を切らせながら鈍感なメリーも女店主の異常性に気づいたみたいだ。
俺は、明らかにアンタの身体目当てだと言えなかった。
「絶対怪しいわよっあの店主っ……ひょっとすると聖女様が言っていた魔王の手先かも知れないわね?」
「にゃっ!」
確かに怪しい。
だけど決めつけるにはまだ早いと思う。
しばらく路地裏で身を潜めていた。
時間はどの位経過したのか辺りは真っ暗だ。仲間と一緒だけど、見知らぬ土地の夜だから心ぼそくなった。
思えば冒険者覚醒儀式の日でこの幼女の身体に性転換して以来、家族と友人に会っていない。
確かに楽しい仲間と出会えたけどやっぱり寂しい気持ちになった。
そんな感傷に浸っていた時竜神さまが肩を叩いた。
『魔物の気配じゃっ!』
「にゃっ!」
路地裏の奥にプルプルうごめく物。
金色の見たことのない二匹のスライムだった。
「ちょっとなんでこんな場所にスライムがっ!?」
身を屈めていたメリーが立ちあがると、丁度携帯していた剣を抜刀して両手で構えた。
ちょっと金色ってのが気になるけど、相手は低レベルの魔物だ。ここはメリーに任せることにした。
「はあっ!」
気合いと共にメリーが剣を振るって二匹のスライムを倒した。金色だから警戒したけどいつものスライムだった。
コロン、コロン
スライムから金色の魔石が二つドロップして転がった。
この魔石の効果はなんだろう?
黄色の魔石とは明らかに違うし、効果はあとで悪魔を呼んでじっくり試すとするか……。
それでこの魔石はメリーは要らないと言うから、受け取った俺は懐に入れた。それより目の前は行き止まりだから追いつかれたら逃げ場を失う。
そう思ってる間に、遠くから俺たちを探す女店主の声が聞こえた。いやいや、そこまでして目当ての客を追って来るか?
行き止まりだし急に怖くなった。
すると左の木造建築の裏口のドアが開いた。
「貴女たち。もしかして追われているの?」
割烹着姿の、団子状の髪を上にまとめた優しげな女性が声を掛けてくれた。
世の中には優しい人がいるものだと感激した俺たちは訳を話した。
「そうでしたか。それじゃ中に入って」
「えっいいのっ?」
半信半疑なメリーが聞いた。
しかしその間にも俺たちを探す妖しい女店主の声が近づいて来た。もう一刻の猶予がないな。
「お願いっあたしたちをかくまって!」
「分かったわ。さあっ中に入って」
見ず知らずの優しい女の人のご好意で、俺たちは建物の中に入って避難することにした。
とりあえず助かった。




