サタンちゃまと優しい女将
「大変でしたねぇ」
射的屋の妖しい女店主に追われていた俺たちをかくまってくれた優しい女性。
訳を話しそちらの情報を聞くとこの女性は、老舗温泉旅館『あまくさギルド』の女将さんらしい。
ここ天草市にはいくつか旅館があるが、温泉旅館は八件ほどあってこの旅館は冒険者メインのサービスを取り入れて人気らしい。
変なネーミングだと思ってたけど、意味を知って納得だ。
「安心したらお腹減ったわ」
お疲れ気味のメリーが舌を出して言った。
確かにメリーの買い物に付き合わされた挙句、射的屋の女店主に追われスライムが出て飯食うヒマがなかったからな。
普段ならメリーに呆れるところだけど、俺も同意した。
「良かったらこの宿で食べていきません?」
「えっいいのっ!?」
目を輝かせるメリーが聞いた。
女将が言うにはこの宿にはちょっとした料亭があって今は空いてるからとのこと。
しかも特別に半額で料亭の料理が食べられるとのことでメリーは即決した。
で、俺はどっちでもいいから一応竜神さまに聞いた。
「竜神さまはどうするにゃ?」
『……あっああ、我は構わんよ』
「にゃっ」
竜神さまの煮え切らない返事が気になったけど、神さまがいいって言うなら大丈夫だと俺は判断した。
まぁ、俺がどうこう決めても決定権がないからなぁ……。
「決めました。あたしたちここで食事します」
「そうですか。では案内しますわ」
俺たちは女将さんのあとをついて料亭に向かった。
□ □ □
「わぁ、立派な店」
一階にある料亭に着くなり純和風な店内と外のライトアップされた見事な日本庭園にあのメリーも心を奪われた模様。
「好きな席でどうぞ」
「じゃあ、アッチ!」
他に客が居なかったのでほぼ貸し切り状態だった。それでメリーが指差し窓際の左端の座敷席を選んだ。
どうしてこう。ヤンチャ系はバスとか端っこ好きなんだろう?
まっどうでもいいな。俺たちは座った。
「料理が出来るまで少々お時間を頂戴しますがよろしいでしょうか?」
急須に入れたお茶を湯飲みに注ぎながら女将さんが聞いた。もちろん誰一人不満を口にする者は居なかった。
女将さんは『では……』と言って立ちあがると、そそくさに厨房の暖簾を潜り姿を消した。
わざわざ正座して頭をさげた女将さんが立ちあがると、そそくさと厨房の中に消えた。
その間俺たちは庭の景色をぼんやりと眺めていた。
『しかし妙じゃのう……』
女将さんが姿を消すと竜神さまが待っていたかのように口を開いた。
「なによ竜神様っまさか、あんなに良くしてくれた女将さんを疑うつもり?」
『ちょい待てメリーまずは我の意見を聞いてから反論せい』
「んっ……じゃあなによ?」
頬を膨らませて不満気なメリー。
なんと言うか、神さまに聞く態度じゃないな。
『あのなぁまず我が不自然に思ったのが、ここの宿は冒険者御用達だと聞いたのじゃが、中に入ってから一度も他の冒険者とすれ違っとらん。しかも自慢の料亭もガラガラじゃ』
「そ、それはたまたまじゃ……」
確かに竜神さまの指摘には一理あった。
それでもまだメリーは女将さんを信じたい様子。そりゃあんな怖い目に遭って助けてくれた恩人を疑いたくないよね。
でもまだまだ疑惑があると竜神さまが話しを続けた。
『あの女将は我の姿を見ても平然としとったのが違和感を感じた』
確かに角と尻尾が生えた竜神さまの恰好は普通じゃない。俺だって目立たないけど小さい角と矢印状の悪魔の尻尾が生えている。
普通なら『仮装ですか?』とか話しを振るよなぁ……そう考えると、女将の態度は凄く不自然だった。
『しかもまだ疑惑はあるぞ。覚えておるか?』
「なによ竜神様……」
『お主が倒した金色のスライムがこの旅館の路地裏に現れたことを』
「……たまたまよ……」
『たまたまか……まぁ、悪いことが起きなければいいのじゃが……』
せっかくリラックスしていたところを、竜神さまが不穏なことを言ってお茶を口にした。
「なによっ!あの妖しい射的屋の女よりは女将さんは信用出来るわよっ!」
なに言われても女将さん派のメリーはカッとなってお茶を飲み干した。
「本当、お、女将さんは………いいっ……アレッ……ひとよ…………」
「にゃっ!?」
急に頭をフラフラさせたメリーがあお向けに倒れて、そのまま眠ってしまった。
ビックリした俺は竜神さまに視線を送ると、なんと神さまも眠っていた。
「にゃっ!?」
まさかお茶に睡眠薬が入っていた?
俺は生まれた時から何故か日本茶が嫌いで、今日たまたま飲まなかったから難を逃れた。
しかしエライことになった。
これは罠だった。
ミシッ……
背後から畳を踏む音がしたので恐る恐る振り向いた。すると厨房に消えた女将さんが無表情で俺を見つめていた。
「にゃっ!?」
「…………一人飲まなかったか……しかし相手はガキだ。構わない。連れて行け」
「へいっ!」
いつの間にか女将さんの背後に立っていた覆面黒ずくめの六人の男たちが、眠っているメリーたちを抱き抱えた。
「お前も来いっ!」
「にゃっ!」
俺も当然手下に捕まり連れて行かれた。
向かった場所は地下へ続く階段だ。
女将さんに結構奥まで連行された俺たちは、とんでもない部屋に入れられた。
そこは洞窟になっていて蒸気と熱気が立ち込める源泉が湧く場所だった。
しかし不穏な箇所があって、入り口は鉄格子で厳重に管理されていたこと。牢屋かと思ったけど様子が違う。
「中に入れ」
「にゃっ!」
手下が鉄格子の鍵を開けると、乱暴に背中を押され眠っている皆んなと一緒に中に閉じ込められた。
まだなにが起こったのか半信半疑な俺は女将さんの顔を見た。すると彼女は薄ら笑いを浮かべていた。
やっぱり俺たちは女将さんに騙されたんだ。
「ふっふっ……また馬鹿な冒険者が引っ掛かった♬」
「にゃっ!?」
「ちびっ子に睡眠薬盛れなかったの残念だけどまぁ無力だから良いでしょう」
「お前っにゃんだっ!?」
「あらぁ……悪魔族とは珍しい。いいわ。教えて差しあげます。私は魔王様の部下よ」
「にゃにっ!」
まさか女将さんが魔王軍の手下とはなぁ、俺が驚いていると覆面を脱ぎ捨てた手下たちが下卑た笑みを浮かべていた。
そいつらの肌は緑色で人間ではなかった。とんがった耳と裂けた口から覗く鋭い奥歯の姿はまるで知性のあるゴブリンだった。
恐らく女将も人間ではない魔族なんだろう。
まぁ、今更そんなことはどうでもいい。それより何故この牢獄に俺たちを閉じ込めたかだ。
「ふっふふ……知りたい? 知りたいわよねぇ……何故お前たちをここに閉じ込めたかを……」
そう言って女将が指差した。
どうやら俺にではなく、その背後の奥にある洞窟に指差しているようだ。
振り向いた俺は洞窟の奥をよーく凝らして見た。
すると8メートルほどの巨大な物体がプルプル揺れていた。
それは金色に光る特大スライムだった。やはりあの時の金色スライムはここから逃げ出したモノだと理解した。
「ふふ、このスライムの名はパーフェクトスライムゴールドインフィニティー」
「にゃっ……」
長えしセンスのないネーミングだ。
しかし、まさか俺たちは……。
「このスライムは源泉をエネルギーにして無限に増殖するのよ。目的は世界侵略のためと魔石の増産のため。そして、お前たちをここに入れたのはパーフェクトスライムゴールドインフィニティーに食わせるためよ」
「にゃっ!」
クソ長いネーミング二回も言うなっ!
とは言え大変だ。
このままでは俺たちはスライムの餌食になってしまう。
「……………にゃ〜〜んてねっ!」
「なっ!なにを笑っている貴様っ!?」
「にゃっにゃっにゃ〜あ♬ アタチには頼もしい部下がいるのにゃっ!」
「なにっ!」
俺はステータスオープンして召喚悪魔ファイルを開いて一枚のカードを指でタップした。
そう。たった一枚のカードで充分なのだ。
俺はそのカードの悪魔を呼び出した。
「サタン様っ悪魔騎士クレナ。ただ今参上いたしました」
星5レアの凛々しい悪魔女騎士クレナが長い黒髪をなびかせ、俺の前にひざまづいて忠誠を誓った。




