サタンちゃまが星4ガチャを引く
「しかしウメーな魔石っ……おっ!」
松尾が勝手に大型フロッグドラゴンの内部から取り出した特大魔石を食べて、レベル8から30へと一気にアップした。
これで魔石の特性と今回のようなレアも存在することが分かった。
そしてなによりも、
「にゃった!」
俺は嬉しさのあまり小さくジャンプした。
「おおっサタン様が喜んでくれてあっしも嬉しいぜ」
「にゃにゃにゃっ♬ これからも頼むにゃっ!」
俺は松尾の肩を叩いて労おうとしたが、身長差のせいで小さな右手が肩には届かない。
それを察した松尾がしゃがんでくれた。
「にゃははっ良くやった。とりあえず休んでいいにゃっ」
「ウッス!」
俺は松尾の肩をペチペチと叩いた。
軽く返事した松尾はカードフォルダに戻った。
『にゃっにゃっにゃっ♡』谷川シェフが仲間になったし今日はいいこと尽くめだ。
実に気分がいい俺は皆の元に振り返った。
「お座り」
「にゃんっ!」
いきなり聖女さまに躾され俺は強制正座させられた。
身体がガチガチに固まって首だけしか動かない。俺は恐る恐る見あげると聖女さまが笑顔で腕組みしていた。
『にゃ〜あっ!』
腕組みする聖女さまを見るのは初めてだ。
魔石を勝手に使ったことに対して相当怒ってらっしゃる。
「サタンちゃまはなんで貴重な特大魔石を低レアに食わすかな?」
「にゃっ!」
やっぱりそのことかっ!
弁明する余地がない俺はお仕置きに耐えるしかない。だから目を瞑って正座に耐えた。
「聖女さんよいいじゃねえか魔石なんか、また一から集めりゃよ?」
そこに谷川シェフが助け舟を出してくれた。
「谷川様は少し黙っていて欲しいですわね……」
「おいおいっ聖女様よ。俺にそんな丁寧な呼び方はやめてくれよ。谷川でいい。それより腹減ってねえか?」
「……仕方ありませんね。今回だけは谷川様に免じて不問に致します」
そう言って聖女さまは俺にソッポを向けると、強制正座が解除され自由になった。
ありがとう谷川シェフ。でもちょっと助けに来るのが遅かったかな〜、あ、足が痺れて動けない。
「ねえっここのボスって、あのデカいカエルでいいのかしら?」
メリーが聖女さまに聞いた。
「そうね……恐らくボスで間違いないと思うけど、谷川シェフはどう見ますか?」
「ああ、コイツ以上の魔物の気配が感じられねぇからボスで間違いないだろう」
ハンターの勘か鼻が効くのか谷川シェフが断言した。彼の答えに皆納得した様子。
流石プロハンターだからこその信頼と言える。
「谷川シェフ。政府に討伐した証拠を提出しなければいけませんので、すみませんがその角を分けてくれませんか?」
「おうっ!お安い御用だ。どれっ早速切ってやる」
腕まくりした谷川シェフが慣れた手つきで、大型フロッグドラゴンの一角ツノをノコギリで切ってくれた。
聖女さまに角を手渡し、必要な分だけの肉を切り取り容器に詰めた。
「しかし、もったいねーなぁ……」
谷川シェフは、持ち帰れないフロッグドラゴンの死体を名残惜しむように見つめていた。
するとメリーが俺の肩を叩いた。
「にゃっ!にゃんだメリー?」
「びびってんじゃないわよちびっ子。それよりガチャ回しなさいよ」
「にゃっにゃんでっ?」
「もしかして大量のアイテム収納出来る悪魔が当たるかも知れないじゃない?」
「んにゃ無茶にゃ……」
メリーが言いたいのは、ご都合主義ファンタジーにありがちな空間から大量の物を出し入れ出来る。アイテムボックス的な悪魔を出せってことだ。
俺は無茶だと否定したが、無駄にポジティブなメリーが無責任に『出せるわよ』と無理難題を俺に押しつけた。
「分かったにゃ……」
仕方なく俺はガチャスキルを発動。
空中から軽自動車サイズのカプセル自販機が出現した。
「うわっ!なっなんだこりゃあー?」
俺が出したカプセル自販機に谷川シェフが大層驚いた様子。
驚くのも無理もない。こんな非常識なスキルは俺にしか出せない。
「い、一回だけにゃっ」
メリーが急かすので谷川シェフに説明するのはあとにしてガチャを回した。
ガチャガチャガチャッポンッ!
「やった綺麗っ当たりじゃない?」
初めて金色の綺麗なカプセルが飛び出した。それを見ていたメリーが歓喜した。
俺も金色は初めて見るから、相当なレアの可能性があって期待した。
「ちょっと金のカプセルよ。マジで期待出来るわよねちびっ子?」
「にゃっ……」
興奮したメリーが俺の肩を揺すって無駄にプレッシャーを掛けた。
ああ、変なの引き当てたらどうしよう……不安な中カプセルが光った。
『頼むっレア出てくれっ!』俺は手を合わせ神に願った。
悪魔が神頼みだって? 細かいことはいいんだ。今はレアが出ることを願うだけだ。
パカッシュンッ!
「おおっ!」
カプセルから飛び出したシルエットは、肩と頭部が一体化したような250センチの人型だ。
「呼んだか」
ソイツはぶっきらぼうに喋った。
徐々にソイツの姿が明らかになった。やはり首が無く肩と頭部が一体化して、胸の辺りに鞠サイズの二つの黒いまん丸の目がついている。まるで顔はフクロウにそっくりだ。
あと、白い体毛が全身を覆い。四角くボリュームある上半身にくらべ下半身はやけに細っそりしている。
そして手は鳥のような翼状だ。
「と、とりあえずレアリティチェックにゃ」
俺は奇妙なフォルムの悪魔に恐る恐る近づくと、ステータスを表示させた。
するとこう表示された。
【レアリティ星4 モスマンレベル1 特殊スキル 無限大腹レベル1】
「にゃっ!」
モスマンって聞いた覚えがある。確か、三百年以上前のアメリカに出没した未確認生物だ。それが悪魔だったなんて初耳だ。
「おっ……」
モスマンと目が合った。
「にゃっ…………」
め、目をそらそう……。
「おいっ主人っ!」
「にゃっ!」
モスマンに強い口調で呼ばれ正直驚いた。
なんとも言えない奇妙なフォルムの彼を見ているといつの間にか、白い体毛がピンク色に変色していた。
「失礼、これはこれはサタン様。お久しゅうございます。良くぞこのモスマンを引き当ててくださり大変感謝しております」
モスマンは紳士的にお辞儀をして挨拶した。
いやまぁ……どんなにエレガントな仕草でもヘンテコ悪魔なのには変わりない。
「んっ…………サタン様……人間なんかとつるんでおられる……」
モスマンが振り返るとメリーと目が合った。
「ぎゃああああーーーーっキ、キモいっ!」
「なんだとっキサマッ!」
メリーは聖女さまの背中に隠れ、怒ったモスマンの全身の毛の色がピンク色から真っ赤に変色した。
モスマン怒ると茹でダコみたいになるのか……クソ面白い。
「まぁまぁ、待つにゃメリー」
「なっ、なによ。ちびっ子の癖にあたしにマウント取る気?」
メリーが聖女さまの背中から顔を出して言った。全く剣士の癖してビビり屋だな。
「星4のモスマンは当たりにゃ」
「だからって使えなくちゃ意味ないわよ」
「にゃっモスマンの特殊スキルを見るにゃ」
「なっなによ、どれどれ……」
まだ疑ぐっているメリーがモスマンにゆっくり近づくと、ステータスを凝視した。
そして首を捻ると、
「読めないわよっ!」
異世界語じゃないからメリーは読めないみたいだ。だから俺が説明することにした。
「特殊スキルインフィニティーストマックってことにゃっ、無限に物を収納出来る胃袋に間違いにゃいにゃっ!」
まだ仮説だけどモスマンが無い首を縦に振った。これじゃ腹筋運動だな。
「ゲゲッ無理っ!」
それを聞いたメリーが腕をクロスして拒絶した。
「キサマなにが無理だっ!?」
「ぎゃああああーーーーっキモいっ!」
頭に湯気を噴射して顔真っ赤にしてモスマンがメリーに詰め寄った。
すると怯える彼女は走り去って逃げた。やれやれ静かになった。
「へえ、無限に物を収納出来る胃袋ねぇ……本当に食料保存出来るのか?」
「んっ……お前は……」
モスマンが振り返った。
声を掛けたのは谷川シェフだ。しかし、キモ悪魔に自然体で話し掛けるとは流石凄腕ハンターだと思った。
モスマンと谷川シェフが目を合わせた。
「ようモスマン」
「おっ!」
パンッ!
谷川シェフが右手を叩く素振りをすると、モスマンも釣られて右手を出しハイタッチした。
中々シュールな光景だ。
「なぁ、食料品お前の胃袋に収納したいんだが……大丈夫か?」
「ふんっ心配するな。俺の胃袋は二つ有ってな、一つは食べ物を消化する普通の胃袋。で、二つ目は無限に広がる異次元空間に繋がる胃袋だ。だから消化される心配はないぞ」
モスマンは胸を張って自慢げに説明した。
「へぇ、じゃあ、コイツを収納出来るかい?」
感心し顎ひげを撫でおろす谷川シェフが聞いた。
「ああ、楽勝だ。どれ、見ていろ…………あんぐっ」
「ちょっとやばいっ!」
大型フロッグドラゴンの死骸の側に寄ったモスマンが、毛で隠れた口を大きく開くと呑み込み始めた。
そして巨大な死骸がスルスルと口に吸い込まれて行き、本当に呑み込んでしまった。
「おいおい凄えなアンタ」
「ゲフッ…………この位楽勝だ。いつでも食材取り出したい時は言ってくれ」
「おうっ!」
握手して肩を叩き合って意気投合した二人。
女には理解不可能な男同士の友情を見ていたメリーが、ゲンナリして舌を出した。
「無理無理無理無理無理無理っ絶対に無理っ!」
ガチャレアリティ
銅カプセル 星1
銀カプセル 星2
金カプセル 星3
エメラルドカプセル 星4
プラチナカプセル 星5
レインボープラチナカプセル 星6は八種しか存在しないスーパーレア




