サタンちゃまとフロッグドラゴンの唐揚げ
残りのフロッグドラゴンを片付けクエストが終わったところで一息ついた。
ちょっとしたキャンプを設営しお茶を飲んでから、報告しに東京に戻ることになったのだが、谷川シェフが聖女さまに呼び止めた。
「腹減ってねえか?」
「えっ!なにか作ってくれるのっ!?」
わんぱくなメリーが立ちあがって聞いた。まだ谷川シェフが作ってやるとも言ってないのに気が早い。
「もちろんだ。今回手に入れたフロッグドラゴンの肉を使って唐揚げでも作ろうかと思うんだ」
「唐揚げってなに?」
「お前唐揚げ知らんのか……」
メリーの反応から察すると、異世界には唐揚げに似た料理が無いらしい。
しかしフロッグドラゴンの肉を使うのは気にならないのが不思議だ。ほぼ見た目がカエルだぞ。まぁ、肉の味は鳥のササミに近いというから問題ないか。
「そんじゃっまっ、パッパッと作るか」
手を叩いて立ちあがった谷川シェフが離れて座っていたモスマンを呼んだ。彼なりにメリーに気を使って距離を置いていたんだね。
「ぎゃあっ!アンタなんでキモいの片付けないのっ?」
メリーが俺に文句を言ってきた。
良くもまぁ、本人に指差してキモいと言えるね。別にそんなキモくないと思う。
俺なんか彼のクリクリしたまん丸お目目が愛らしく思えてくるよ。
「チッ!ギャーギャー騒がしい人間のメスだ」
モスマンがメリーに悪態をつくと谷川シェフの元に来た。
「おうっ谷川。俺になんの用だ?」
「ああ悪いな。ちょっとお前に預けた肉が入ったタッパを取り出してくれ」
「お安い御用だ。ちょっと待ってくれ……」
何故かしゃがみ込むモスマン。
「う、う、うおあっ……おっおええええっ……」
苦しそうに口からタッパを吐き出した。
その様子を見ていたメリーが悲鳴をあげた。まぁ想定内の反応だ。
集めた薪に火をつけリュックサックから調理器具を取り出した谷川シェフが、タッパから肉を取り出し手頃なサイズに切り分けていく。
そして鍋に油を注ぎ、特製唐揚げ粉が入ったビニール袋に肉を入れ、良く揉んで油に投入した。
その手際の良さに、悲鳴をあげていたメリーも泣き止み調理工程を食い入るように見ていた。
「よっしゃ出来た!」
流れる手際と早さで唐揚げが出来た。流石プロの料理人だ。
唐揚げの山が乗った大皿が皆の前に置かれた。
カラッとあがった唐揚げから香ばしい香りが漂い俺の食欲を誘った。
「美味しそーーっ食べていい?」
「もちろん。好きなだけ食え」
「いただきまーすっ!」
唐揚げを手掴みで取って齧るメリー。各自フォークを手渡されているから単に彼女の行儀が悪いのだ。
「カリッモグモグ…………うっうまぁぁーーいっ!」
唐揚げの味に歓喜するメリーが早くも二個目に手を伸ばした。
このまま黙って見ていたら彼女に全て食べられてしまうので、俺も急いで小さな手を伸ばした。
両手で唐揚げを掴んで齧った。
「あむっ…………うっうみゃいっ!」
サクサクした衣を噛むと中から旨みたっぷりの肉汁が口の中に広がった。
そしてジュージューな歯応えのある肉がまるで鶏と同じ、いやそれ以上。
本当に美味しい。
プロが作った唐揚げが不味い訳ないから当然なんだよな。
「ふにゃにゃ〜あ〜……!」
ピコン!
『レベルがあがりました』
「キタにゃっ!」
レベルアップのお知らせが来た。要因は魔物の肉を食べたからだけど、こんな楽な方法でレベルがあがるなんて、レベルあげに苦労している冒険者には言えないな。
とりあえずステータスチェックだ。
【 職業サタンちゃま レベル7 魔力65 攻撃力18 力14 体力14 素早さ14 幸運50 特殊スキル 悪魔ガチャレベル6 】
順調に成長しているな。
この中で重要なのが魔力と悪魔ガチャスキルの二点のみなのが相変わらずだがね。
俺はステータスを閉じた。
「ところで谷川シェフ」
「おっ!なんだい聖女様」
珍しく聖女さまが谷川シェフに話し掛けたな。一方彼の方はフランクに答えた。
例え聖女さま相手でも露骨に態度を変えないから好感が持てるね。
「先ほどフロッグドラゴンを一撃で倒した技は見事でした」
「それほどじゃねーよ」
「いえ、冒険者でもないのにたった二、三年でここまでの英雄並みの戦闘力を身につけるとは、一体どうしてでしょうか?」
聖女さまグイグイとシェフに聞いてくるな。まぁ確かに三年前までは普通の料理人だった彼がここまで強くなったのは疑問だった。
「ははっ、しょうがねぇなぁ教えてやるよ俺の過去をな」
彼は苦笑いながらコーヒーを淹れながら昔話しを語り始めた。
「復讐を誓い。冒険者を目指した当初、俺は全くの素人でスライムですら苦戦していた」
スライムか、懐かしいな。まぁ俺は今でもまともに戦えば苦戦するけどな。
「修行から半年が経ち実力に限界を感じていた俺はとある山で修行をすることにした。しかし、山中に入った途端に中ボスクラスの魔物と遭遇して死に掛けた。その時、一人のくノ一に助けられた」
「にゃっ!?」
今は西暦2320年だぞ。時代錯誤なくノ一に助けられるとは、いきなりぶっ飛んだ体験談になってきたな。
でも体験談を語る谷川シェフの表情は真面目だった。
「くノ一……」
口元に手を当て聖女さまが意味ありげに呟いた。なにか思わせ振りだな。
「なんですのくノ一とは……?」
『単に知らんのか!』俺は心の中でツッコミを入れた。
「ははっ異世界にはくノ一や忍者がいないのかー、まぁ、闇に隠れて要人を暗殺したり隠密活動する戦闘のプロフェッショナルだな」
「なるほど、暗殺者ですか。それならあたくしの世界にも同じような職業が存在します」
聖女さまが言うように、名称が違うだけでほぼ忍者と同じ存在がいるのか……。
なに気ない会話だけど、勉強になるな。
「くノ一に助けられた俺は弟子入りを志願して丸一年修行に明け暮れ。今の実力を手に入れた」
「だった一年でっ?」
驚いたメリーが立ちあがった。
「ああ、俺の師匠はとんでもねぇ強さで冒険者以上だ」
「冒険者以上ってアンタの師匠は冒険者じゃないの?」
「ああっ違うって言ってたな」
「なに者よ。一度会ってみたいわね」
「ははっ!いつかバッタリ出会うかもな……しかし気をつけろ。特にかわい子ちゃんはな……」
意味深なこと言った谷川シェフはメリーと聖女さまの顔を見て言った。
かわい子ちゃんと言うと当然俺なんだけど(自分で言うな!)、特に見られなかったから谷川シェフの師匠はロリコンではないらしい。
「なによ…………意味が分からないわ……」
「フッ、俺の師匠は女好きの痴女だ。気をつけろ」
「ち、痴女…………コッワ!」
メリーは身を縮め震えあがった。
食事を終え片付けの最中聖女さまが谷川シェフに話し掛けた。
「谷川シェフの作る料理は素晴らしかったですわ。これからもよろしくお願いしますわ」
聖女さまは温和な笑みを浮かべ握手を求めた。
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
握手を交わす谷川シェフ。これで彼は正式に聖女パーティーの一員になった。
一流冒険者に匹敵する谷川シェフの加入によって、俺たちのチームは少しづつ勇者チームに近づいていった。
「さて、下山するわよ」
聖女さまが皆に言った。
結局頂上まで行くことがなかった俺たちはクエストを終え下山を始めた。




