サタンちゃまと鹿肉のハンバーグ
「クエスト成功毎に報酬を支払いますわ」
そう言って、聖女さまがメリーが座るカウターの前にそっと封筒を手渡した。
「なにこれお金……」
封筒の中身を確認したメリーが札束を取り出し首を傾げる。多分だけど異世界人の彼女はイマイチ日本円が分かってないと思う。
だからお節介だけど、彼女に教えてあげよう。
「これは日本のお金にゃよ」
「それくらい知ってるわよっ!このチビッ!」
「にゃっ!」
俺に暴言吐いてソッポ向くメリー。ちょっと迂闊だった。プライド高い彼女を怒らせてしまった。良かれと思った親切心が仇となって、精神ダメージが俺に降り掛かった。
「で、いくらなの?」
メリーは聖女さまに真顔で聞いた。やっぱり分かってなかったな。
俺がニヤニヤ見てると睨んできた。
「……二十万よ」
「二十万っ!に、二十万って凄いの?」
興奮したメリーがテーブルを叩いて立ちあがった。なんか馬鹿っぽい異世界人の反応見れた。
「ええ、ある意味庶民にとってはいい金額ね」
「そ、そうか……このお金でたこ焼きパック帰るかな……」
メリーは指折り数えると座った。その指じゃ計算足りないんじゃないかな?
たこ焼きと言えば、朝ショッピングモールの駐車場で出会った怪しいたこ焼き屋を思い出した。
俺たちの話しを盗み聞きした挙句バレて逃げちゃったけど、なんだったんのだろう……。
多分、たまたま会った聖女さまのファンだと思う。だから二度と会うことはないね。
ジュージュー
店主が早速肉をフライパンで焼き始めた。香ばしい香りが漂い。鼻腔をくすぐり食欲を刺激した。
「ねえっ!次の政府依頼のクエストは岡山だっけ?」
ジュージュージュージュージッ……
メリーが聖女さまに聞くと何故か、谷川シェフのフライパンを揺らす手が止まった。
まさか聞き耳立ててるのかな? まぁ気のせいか……。
「ええ、岩屋城跡の山中よ」
「お客さんっ岩屋城跡になにがあるんですか?」
何故か谷川シェフが興味津々に直接聖女さまに聞いてきた。
「……中ボス級の魔物よ」
ありゃ極秘クエストなのに言っちゃうんだ。まぁ、谷川さんいい人そうだから問題なさそうだけどね。
「へ〜え……中ボス級ねぇ……ソイツは食えるタイプですかねぇ……」
意見を言いながら谷川シェフはフライパンを振う。
「食える……さて、それは現地に行ってみないと分からないわ」
「そうですか。で、いつ出発するんで?」
「…………」
やけに食い気味に質問してくる谷川シェフに聖女さまは、引いてるのか黙った。まぁ、彼は男性だから警戒するよね。
「…………二日後に出発しますわ」
聖女さまはしばし考えてから答えた。すると横から『ちょっと聖女っ二日も待てないわよっ!』せっかちなメリーが横やりを入れた。
「駄目です。出発は二日後です」
「え、え〜……」
聖女さまは優しく微笑みやんわりとメリーを制した。勝気な彼女も聖女さまには逆らえない。
しかし、また聖女さまを呼び捨てにした。本当にお馬鹿というか、恐れ知らずの女だ。
「冒険の準備には二日位掛けるのが妥当ですかねぇ……あいよ。鹿もも肉香草焼きだ」
ゴトッ
谷川シェフが熱々の鉄板を聖女さまの前に置いた。上に乗った5センチの厚さの鹿肉のステーキが程良く焼け、香ばしい香りに混じって爽やかな香草の香りがした。
「あら、美味しそう」
「美味しそうじゃねえ。美味しいんだ。食べてみろ聖女さん」
「分かりました。ふふっ……」
谷川シェフにうながされて聖女さまがナイフで鹿肉を切ると、断面から肉汁がジュワッと溢れた。
その様子を見ていたメリーが息を呑んだ。
「どうだい肉汁エロいだろぅ」
「…………」
肉汁に対して最高の褒め言葉だけど、下ネタに聴こえた聖女さまは黙った。
すると困った谷川シェフは頭を掻くと『悪りぃ無かったことにしてくれ』と訂正しようとしたが、もう遅い。(どっかで聞いたことのあるフレーズだが……)
気を取り直した聖女さまがフォークに刺した肉を一口。すると目を見開き思わず口元を手で覆った。
「あら美味しい。口の中に肉汁が溢れ噛めば噛むほど旨味がして、いつの間にか無くなってしまう」
「へへっそりゃどうも」
聖女さまに料理を褒められ谷川シェフも嬉しそう。
そして他の皆の前に鹿の香草焼きが置かれた。
「美味しいっ!」
当然メリーも大絶賛だ。当然というのは、例えば彼女がファミレスのステーキを食べた場合でも全く同じ反応していたと思う。
それだけメリーの舌は馬鹿だと思う。
しかし俺のは?
すると俺の不安を察したのか聖女さまが微笑み。テーブルの前に一本のチュームをそっと置いた。
「にゃっ!?」
「お食べ」
「にゃあっ!」
マジかこの聖女。
しかし、色々ネタにされたけど持ってたのかよ犬用チューム。
しかし俺のステーキは?
「はいっお嬢ちゃんの分」
「にゃっ!」
谷川シェフは焼きたてハンバーグを俺の前に置いた。
『やったチュームじゃない』これで飢えずに済む。しかもハンバーグなら幼児のお腹にも優しいよ。
「ありがとうにゃのにゃっ」
「おうっ!鹿肉のハンバーグだ。食えっ」
俺はナイフとフォークを持って礼を言った。えっと持ち手は合ってるよな……俺はぎこちない手つきでハンバーグを切り分けた。
肉汁が溢れる鹿肉のハンバーグは牛肉より味が濃くとっても美味しい。最初は完食出来るかなぁと首を傾げたが、全部平らげた。
聖女さまたちのステーキも鹿肉で、とっても美味しそうだった。
「ねぇねぇ聖女様」
食後のコーヒーを味わいながらメリーが聖女さまに話し掛けた。ちなみに俺のは冷たいミルクだ。
「なにかしらメリー?」
「あのねっ、あの時飛んで来た虹色の斧って、一体誰が投げて寄越したのかしら……?」
「……決まっているじゃない。戦女神様からよ」
そうと信じて疑わない聖女様が感謝の祈りを捧げた。
「そうなのかなぁ……」
まだ半信半疑なメリーは、コーヒーを飲み終えると手を合わせご馳走様した。
「ありがとうございます。良かったらまた来てください」
「ええ、また」
会計を済ますと聖女さまは谷川シェフと挨拶して店を出た。そのうしろを俺たちが続いた。
店から離れ駐車場に戻ると聖女さまがサガネさんに声を掛けた。
「今から岡山に向かって」
「承知しました聖女様」
サガネさんがお辞儀して運転席に乗り込む。彼女はメイド兼運転手なのだ。
しかも安全運転で信頼出来る。
「ちょっとちょっと聖女っ二日後に出発じゃなかったの?」
慌ててメリーが聞いた。どうやらツッコミを入れる時だけ呼び捨てにする癖らしい。
「ええ、ちょっと引っかかることがあって店主にはあえて嘘をつきました」
「それって……確かにクエストのこと食い気味に聞いてきたわねぇ……」
「そうよ。まぁ、いい人そうだから疑りたくございませんが、やはり用心するには越したことはないから……」
「確かにね……」
聖女さまも谷川シェフの違和感を感じていたのか。普通客の会話に店主が入ってくるなんておかしいと思った。
彼もハンターだから情報聞いて、あわよくば獲物を横取りする魂胆かも知れない。だからあえて嘘を言って彼が黒か白か聖女さまは試すつもりだ。
もし、谷川シェフがそこに来たら……。
そういう訳で俺たちは真っ直ぐ岡山に飛んで向かった。
◇ ◇ ◇
岡山市に到着したのは午後遅くで、ショッピングモールの駐車場にエアキャンピングカーを停めた。
その日は車中泊で寝ることになり、設置されたシャワーをめぐって揉めた。
「なんであたしがこのちびっ子と一緒にシャワー浴びなきゃいけないのよっ!」
俺が原因でメリーが聖女さまに文句を言った。本当に申し訳ない。こんな幼い身体だから聖女さまは一人ではシャワーを浴びせさせないんでしょう。
「困るわねぇ……このサタンちゃまの子守りも貴女の仕事の一つよ」
聖女さまは一万円札をメリーに握らせた。ワイロかよ。
「む…………ま、まぁ仕方ないわね……」
メリーは札を懐に仕舞うとあさっての方向を見ながらニヤケた。
現金というか、がめつい女だ。
「さっさと脱ぐっ!」
「にゃあっ!」
着替えにモタモタしているとメリーが無理矢理俺のドレスを飛っぺ剥がした。
ドレスの下には白い絹のワンピース下着を着用していて、その下にショーツを履いている。
不思議なことに男子学生から性転換した時に何故か着ていた服装だ。冷静に考えてあり得ない現象だけど事実だから困惑している。
それで全裸になった俺は自分の身体をマジマジと見下ろした。
「…………」
見慣れた男の象徴が消えていたのが正直ショックだ。そして見事なばかりのツルペタの変わり果てた身体を見て冷静でいられる自分に困惑した。
俺はロリコンじゃねーから、自分の裸みても興奮しないわな。
「ほらっ頭シャンプーで洗うから目を瞑ってて」
「にゅ〜〜……」
せっかくのメリーの裸も目を瞑っていては見れなかった。とは言え流石にジロジロ見れなかった。
しかし……俺が元男なのに裸をさらしてメリーは平気なのかな?
まぁ、彼女のことだ。俺が男だったことなど忘れているか、知りもしないんだろ。
こうしてシャワーで身体を綺麗にしてから車内で一夜を過ごした。
翌日の朝、なにやらメリーが騒いでいた。
なにごとかと聞き耳を立てると、こんな会話が聞こえてきた。
「ちょっとまた居るわよ。あのたこ焼き屋」
たこ焼き屋と聞いてピンときたから急いで窓から外を確認した。丁度正面に昨日利用したオープンキッチンカーが停車していた。
看板名はやはり『天使の八っちゃん亭』昨日の怪しいたこ焼き屋だ。
しかし全国規模のチェーン店で別人の可能性があった。しかし良く観察すると、金髪おかっぱ眼鏡の小柄なお姉さんがせっせとたこ焼きを焼いていた。
「…………」
怪しいたこ焼き屋さんの本人だ。
一体これはどういうことだろうか……まさかストーカー?
ちょっと俺は怖くなった。




