サタンちゃまと聖なる斧
戦女神に祈りを捧げた聖女さまの元に空から降って来た七色に光る斧。それをなにを思ったのか彼女は柄を握り持ちあげた。
その様子を見ていた俺たちは驚いた。だって大型の斧を細身の聖女さまが、軽々と装備出来たのだから……。
「この斧を持つと不思議とある感情が湧きあがりますわ」
聖女さまは、目の前の強敵ゾンビプランツの前に目を瞑り、戦女神に祈りを捧げた。
「ちょっと聖女さま。なによこの斧は?」
メリーが聞くと聖女さまが振り向き優しく微笑んだ。嘘だろ腹黒聖女が神々しい。いや、絶対騙されないぞ。
「どなたがこの斧を投げたのかは分かりません。しかし、握ってみて分かりました。これは……」
聖女が言い掛けたその時、ゾンビプランツの無数に生えた根っこが動き出した。
「この光だ。光だ光だ。ワシらを見捨てた天使の光だ。ゆ、許せんっ…………この者を、生かして返すなっ!」
根っこと繋がった中央いるバーコードハゲのゾンビが、俺たちに向け指差し仲間に命令した。
「ぐああぁぁぁああっ…………光が憎いっ」
数にして六十ものプランツゾンビが一斉に、俺たちに向かって襲い掛かって来た。
「やっばっ!いくらなんでもあたしたちで対処出来る数じゃないわよっ!」
ビビりまくったメリーがパニックになって、剣を置いて頭を抱えた。
一方俺はレッドデビルに守られなんとかなっているが、聖女さまは斧を掴んで静かに祈りを捧げていた。
「ああ、聖なる斧から情報があたくしの頭に伝達して来ます。この聖なる武器の名は……審判を下す斧!」
スパアアアアアアーー〜ーー
突然聖女さまの全身が光り、銀色の髪の毛が金色に変化した。
その神々しい姿はまさに神か天使だ。
「訳分かんないけどヤバいって!」
「焦る必要はありません。何故なら今のあたくしには、邪悪な魔物に負ける気はこれ一つなくてよ」
目を見開いた聖女さまが飛んだ。するとバーコードハゲゾンビが腐った口を開けて立ちはだかる。
「キサマは天使の手先かっ!?」
「それは分かりません。しかしただ一つ分かるのは、このジャッチメントアックスで哀れな生きる骸を斬れということを」
「戯言をぬかせっ!キサマを先に血祭りにっ」
「あら、残念」
ザシュッ!
ゾンビといえど元は人。
それを聖女さまは躊躇せず斧で頭から全身を縦に両断した。
「ギャアッ!!」
「成仏…………いや、昇天しなさい」
斬られたゾンビとその根っこは地に落ちる前に光りのチリとなって天に昇った。
まさに昇天いや、浄化されたと言っていい。
「ガアアッ!」
リーダーがヤラれ怒り狂ったゾンビたちが聖女さまに襲い掛かる。しかし彼女は信じられない素早い動きを見せ、ゾンビたちを狩っていった。
全てのゾンビを昇天させた聖女さまが着地するとすかさず、ゾンビプランツに向かって走り出した。
ゾンビプランツも斬られまいと根っこで抵抗するが、全て斬り返される。その斧のおかげか今の聖女さまは無敵状態。
「この木を斬れば政府公認クエスト1クリアですわ」
聖女さまは大人の男でも重そうな斧を両手で握って振りあげる。
ザクッ!
『ギッ!』
振りおろした斧がゾンビプランツに突き刺さる。一瞬聞き間違いか木から声が聞こえた気がした。
バリバリバリバリッーーーー!
ゾンビプランツはてっぺんから根の深くまで斧で真っ二つにされた。そして声を出せない木は、断末魔の代わりに根っこを狂ったようにくねらせ。光りのチリになって消えた。
跳躍して着地した聖女さまが瞳を瞑り黙とうした。
「迷える魂よ。天に帰りなさい」
手にした七色の斧が消えた。それと同時に聖女さまの全身を覆う金色の光も消え元の銀髪に戻った。
「やはり女神様の奇跡……」
聖女さまは斧を握っていた手の平をマジマジと見つめていた。
「やったじゃない聖女様っ!」
怯えてた癖に、ボスが退治された途端に聖女さまに駆け寄る調子のいいメリーさん。
俺もレッドデビルたちをカード化し、ステータスの収納ホルダーに仕舞った。(一度出せばホルダから選んで好きな時に出せる)
「聖女さにゃあ」
俺は聖女さまに駆け寄った。
「なにかしら犬?」
「……」
神々しいなんて言葉撤回。やっぱり腹黒聖女さまだ。
「さっきの斧はなんだったの?」
俺の代わりにメリーが聞いた。
「……正直分かりません。しかし斧を握った時、ジャッチメントアックスの名が浮かびました。残念ながら消えてしまいましたが……だからこそ女神様が一時的に寄越した聖なる武器だと確信したのです」
聖女さまは胸に手を当てそう説明した。
その後、俺たちはクエストクリア報告のために新国会議事堂に向かった。
◇ ◇ ◇
新国会議事堂に到着して警備兵に中に入れてもらえると、異世界事変対策本部広報さんが出迎えてくれた。
黒髪ショートでスーツ姿の綺麗な女だ。
「ありがとうございます。見事関東クエストクリアしましたね」
「……言葉の礼はよろしいからもっと物質的な礼を」
にこやかな笑顔で聖女さまが広報さんに手の平を差し出した。
すると広報さんは微笑み返して、
「現金な聖女様だ……」
と皮肉を言ってついて来いと背を向けた。
以前通された会議室で広報さんは封書を聖女さまに手渡した。
「もちろんクエストごとの報酬を差しあげます」
「ふふ、なら頂くわ」
「……」
自分から請求しといてなに言ってるの聖女さま。流石の広報さんも厚かましい彼女に引いて固まってしまった。
「で、次のクエストは?」
「はい。次は中国地方岡山岩屋城跡に棲む魔物討伐でよろしいでしょうか?」
「ええ、問題ありません。明日に出発いたしますわ」
二人は握手して契約成立した。
しかし次は桃太郎で有名な岡山かぁ、行ったことないけど鬼退治かなぁ……。
考えてみれば桃太郎は元祖勇者だね。
用が済んだ俺たちは議事堂を出た。謎の封書を貰った聖女さまは上機嫌で帰る足取りも軽い。
「……」
「ちょっと待ちなさいよ!」
そんな聖女さまを不審に思ったのかメリーが呼び止める。
「なにかしらメリーさん?」
足を止め振り返る聖女さま。
「報酬いくら貰ったのよ……」
「……大した額じゃないわ。それよりお昼ご飯にしませんか?」
程よく誤魔化し背を向ける聖女さま。しっかし、ゾンビ見たあと良く食欲出るな。
「ちょっと聖女っ!あたしたちも戦ったんだから分け前頂戴よっ!」
「……仕方ありませんわねぇ……詳しい話しはお昼ご飯のあとで……」
「分かったわ。そのあとキッチリあたしの分のお金払ってもらうわよ」
腕組みして不満気な表情のメリーが了承した。
こうして近場の飲食店で食事をすることになったのだが、お腹が急に鳴った。
俺は聖女さまのロングスカートの裾を引っ張って甘えた。
「聖女さま〜〜ぁ、アタチのポンポン空いたにゃ」
「…………あらっ、さっきやったでしょチューム」
「にゃっ……」
チュームって猫を狂わせるチューブ状キャットフードのことじゃないか!
いいねとブックマークと評価ありがとうございます。作者として本当に滅茶苦茶嬉しいです。
だから頑張ってこの物語を書きます。これからもよろしく。




