サタンちゃまとネオ横浜跡地クエスト
ショッピングモールの駐車場に椅子とテーブルを置いて、中々まぁ、迷惑客だけど今は比較的空いているからセーフとしよう。
それで俺たちはのんきにたこ焼きを食べながらの作戦会議が始まった。
「ネオ横浜跡地に出没する魔物の種類は分かってんの?」
新入りのメリーが聖女さまにタメ口で聞いた。なんか恐れを知らないというか凄く気が強い自信家で色々うるさいけど、彼女の加入でチームの雰囲気が明るくなったね。
あとやはりというか、彼女のテーブルの前にはたこ焼き2パックが置かれていた。そう、結構厚かましい性格だ。
「ええ、日本政府から事前に情報を得ているわ。今回のクエスト場所のネオ横浜跡地に出没するのはゾンビね」
「ゲッ!あたしゾンビ苦手なのっパスッ!」
目を瞑り舌を出したメリーが、両手を交差してバッテンポーズで拒否した。
「あらっ……勇者チームでもそんなワガママが通用したのかしら?」
「えっ!い、いやぁその……や、やります。やりますよ。あはは…………」
笑顔で怒る聖女さまの殺気に気づいたメリーが、半笑いで発言撤回した。
「それにしてもアレッ? たこ焼き屋こんなに間近だっけ?」
異変に気づいたメリーが聖女さまの背後をを指差した。彼女が振り向くと確かにたこ焼きオープンキッチンカーが間近に移動していた。
しかも準備中の札を掛けて癖のある金髪女従業員が俺たちのことを見ていた。
「ちょっと! なにジロジロ見てるのよっ!」
メリーがテーブルを叩いて立ちあがった。するとびっくりした従業員が頭を引っ込めた。
「……益々怪しいわね……あの従業員」
「それは貴女が大声出すからでしょう。それに間近で見て来たのは、あたくしのファンなら自然な行動と言えましょう」
紅茶茶を飲みながら聖女さまが納得いく意見を言った。まぁ、後者は自意識過剰とも言えるけど。
とりあえずメリーは座り直した。
「今回ゾンビなら相性がいいわ」
「あっ!確かに聖女様ならっ!」
メリーがまた立った。全く忙しない。
「ところでサタンちゃまの悪魔ガチャスキルはどうなってるのよ?」
「にゃっ!」
聖女さまが話題を俺に変えた。
「し、知らにゃいにゃっ!」
「怪しいわね……大体なによ。そのふざけたガチャスキルって?」
「にゃっ……にゃあぁ……」
聖女さまとメリーに尋問されタジタジになった。そもそも俺自身この幼女の身体もスキルについても良く分かってないんだ。
だから分からないから答えようがない。
俺が困っていると聖女さまがため息ついて話題をクエストに戻した。
「もっと詳しく、なのだ」
「わっ!?」
メリーが驚いて叫んだ。
いつの間にかたこ焼き屋の従業員が、テーブルに顔半分出して俺たちを見ていたからだ。
「なんなのよ。さっきからアンタ?」
メリーが従業員に指差して聞いた。
「…………あ、怪しくはないのだ……」
「充分怪しいわよっ」
「…………」
「あっ!コラッ!」
従業員は首を引っ込めキッチンカーに急いで戻った。それから即座に店仕舞いしてから車を走らせ逃げるようにいなくなった。
「なんなのよあの従業員っ!」
腰に手を当てメリーが呆れるように言った。
確かにあの従業員の様子は最初からおかしかったが、特に俺の顔を見てからが余計にな。
確かに俺を見て『悪魔王』と呟いた。一体なぜ彼女は何者なのか疑問が残った。
□ □ □
あれからメリーが中華街に観光したいと駄々こねたが、聖女さまは許可しなかった。当たり前だ。それで早速エアカーを飛ばしてネオ横浜に向かった。
ネオ横浜上空でメリーが、サイドガラスにへばり付いて食い入るように見おろしていた。
「なんなのよ大きな壁は」
異世界人が驚くほど巨大な壁がネオ横浜を囲んでいた。その高さは15メートルと聞いた。建造されたのは三百年前だというが、一体何に対してこんな巨大な壁で都市を覆う必要があったのか不明らしい。
それこそ日本政府の広報が言っていた隠蔽された歴史の一部に違いない。
エアカーが入り口付近に着陸した。
ここネオ横浜跡地も立ち入り禁止区域で入り口を警備兵が厳重に管理している。
今になれば歴史の遺物だけど、一般公開しない広大な土地を、税金を投入して維持しているのはどうかと思った。
「さて、行くわよ」
メイドのサガネさんを残し聖女さまは俺とメリーを連れて入り口に向かった。
警備兵が聖女さまの顔を見ると敬礼し、厳重な鉄扉を二人で左右から引いて開けた。
「どうぞお入りください」
警備兵が聖女さまに手を差し伸べる。しかし顔パスとは凄い。彼女は澄ました顔で門をくぐり俺たちもあとをついて行く。
その際に俺を見た警備兵は目を見開いた。多分なんでこんな子供が危険な場所にと疑問に思ったに違いない。ただ、入場許可リストに俺も乗っていたから止めることが出来なかったんだな。
中に入ると壁に囲まれた広大な廃墟群が広がっていた。とはいえ全てが土台しか残ってなくて三百年の月日の流れを感じさせた。
「本当なにもないわね〜あっ!あそこに神社があるわよっ!」
メリーが指差し叫んだ。異世界人が神社を知っているとは感心する。
それで、入り口から入ってすぐ左横に無傷の神社があった。立て直したのか神の力で倒壊を免れたのか不明だったが、とにかく地元住民によって手厚く管理されているようだ。
「ちょっと聖女様っお参りして行こうっ!」
「……」
メリーさんは聖女さまになんてこと誘うんだ。彼女が信仰している神さまが違うだろうに非常識だ。
当然神社参拝は却下された。今はそれどころじゃないしな。
「皆さまお気をつけて、ゾンビがいつどこから出て来てもおかしくはありません」
真剣な顔の聖女さまが皆に注意する。
彼女はいつも手にしていたモーニングスターは腰の鞘に収めて、代わりに尖端に水晶玉をつけたロッドを握り締めていた。
そのロッドは当然魔法を繰り出すため。聖女さまの魔法は回復系防御系と死霊向けの攻撃魔法がメインだ。だから今回の敵ゾンビは相性がいいのだ。
「早速来たわよ」
聖女さまがいち早く感知した。すると崩れた壁から一体のゾンビがフラフラと姿を見せた。
ゾンビを見た聖女さまが首を捻った。
「おかしいわね。日本では死者は火葬されるでしょう……」
「それって命を落とした冒険者の成れの果てじゃ?」
メリーの答えに聖女さまの表情が曇る。
「それにしても数が多すぎますわ」
「ゲッ!マジやばっ!」
ワラワラと姿を表したゾンビの群にメリーがギョッとした。その数およそ三十体でさらに増えそうだ。
「ねぇサタンちゃま……いや、犬」
「にゃっ…………」
聖女さまがわざわざ言い換えた。
「ねぇ、確か日本では死者は火葬でしょう?」
「そうにゃっ」
「でしたらこれだけのゾンビどこから来たのかしらね……」
聖女さまは口を手で押さえ考え込んだ。この場合冒険者の死体が妥当だと思うがそれにしても数が多すぎる。それにゾンビの服装が異世界というより、スーツを着ていたり現代風のボロボロの服装なのが気になった。
「ネオ横浜跡地は思った以上に闇が深そうね……」
聖女さまも俺と同じことに気がついたのか呟き。温和な表情が厳しくなった。
「ちょっとちょっと!どんどん増えていくわよっ!」
流石のメリーも焦り出した。そこで聖女さまが振り返り俺の顔を見詰めた。
「流石にこちらの数が足りない……仕方ないわね。温存したかったのですが、ガチャスキルを使いましょう」
「にゃっ!」
もう乗っけから切り札使うのかよ。ガチャ引くのに限度があるから温存しておきたかったけど仕方ない。
ゾンビに囲まれる前にガチャ出しときたいか……。
「なによガチャッて?」
急を要するのにメリーがツッコミを入れた。だけど今は説明している時間がない。
彼女を無視して俺はステータスを出してガチャスキルにタップ。
ズドーー〜ーーン!
「ギャアッ!!」
目の前に落ちて来た巨大カプセル自販機に驚いたメリーが尻餅をついた。
「な、なによコレ……」
震える右手で指差すメリーが聞いたから俺は『ガチャ』だと答えたら、だから説明しろと罵倒された。
そんな余裕はないって、俺はMPチェックした。
【魔力45】
ガチャ一回引くのに20MP消費するから回す回数はたったの二回までか……今の幸運数値時点ではレアを引き当てる可能性は低い。
俺が小さな手をアゴに当て悩んでいると横から聖女さまが背中を叩き、
「必ずレアガチャ引きなさいよっ!」
そう言ってプレッシャーを掛けてくる。なんでこんな時に限ってポジティブなんだよ。
はっきり言って無茶言うな。とにかく俺は自販機のハンドルを回した。




