サタンちゃま勇者パーティーに絡まれる
樹海の駐車場に戻ると荷馬車が二台止まっていて本日の対戦相手の太陽の獅子の錚々たる冒険者が待ち構えていた。
その中には俺が密かに憧れていた三人のクラスメイトの女子が含まれている。
「よぉ聖女。良く逃げずに戻って来たなぁ?」
勇者ガレオが軽薄な口調で聖女さまに声を掛けてきた。しかし彼女は無視して自分のエアカーの元に戻った。
「おいっ!無視すんなよっ白銀っ!」
プライドが傷つけられ逆上した勇者が、聖女さまの肩を掴もうと右手を伸ばした。
しかしメイドのサガネさんが割って入った。
「おっ……なんだよメイド。邪魔するな」
「お引き取りください。勇者様でも聖女パラル様に手を出すことは許しません」
勇者に一歩も引かないサガネさんは空手の構えで聖女さまを守っている。
彼女は普段からただならぬ雰囲気を持っていたけどなるほど、メイド兼武道家かな?
「チッ…………聖女パラル。さっさと僕の女になればいいのに勿体ぶって素直じゃないな」
そう言って勇者はクシを取り出し自慢の金髪をといた。しかし今の言動で聖女さまにつきまとう動機が性欲ってのが分かった。
ハッキリ言ってクソ。
勇者の名声と美形を利用していい女を囲っているのが最高にダサい。本当、俺の嫉妬心を差し引いてもダサいしカッコ悪いと思う。
「んっ……」
勇者と目が合った。
「おいっパラルっまだこのチビ解雇してなかったのか?」
「……貴方には関係のないことですわ」
涼しげな顔で勇者をスルーする聖女さま。いつも怖いけどこういう時は頼もしい。
「ハッ!関係あるよ。だって将来君は僕のお嫁さんになる運命だから」
「馬鹿じゃないの……」
「なっ!?」
良く言った聖女さま。
出端をくじかれた勇者は池の鯉みたいに口を開けぼう然としていた。
「ちょっとガレオッさっきから聖女なんか構ってるのよ。たまにはあたしの相手してよね」
見かねた仲間の一人。真っ赤な髪のツインテール美少女剣士が腰に手を当てて勇者に話し掛けた。
なんというか、ギャグかと思うほど絵に描いたような勝気な少女だ。
「なに見てんのよ。このチビ」
「にゃっ!」
ツインテ少女に目をつけられた。しかし幼女にチビってそうだけど大人気ない。逆にいうとチビじゃない幼女いるかって話だ。
「ふ〜ん……どれどれ」
「にゃっ!?」
ヅカヅカと歩いて来てツインテ少女が俺の前に腰を屈むと、指差し勝手にステータスチェックした。
「やっやめにゃっ!プ、プライバシーの侵害にゃっ!」
「にゃーにゃー煩いわねーっ…………なによアンタの職業サタンちゃまってバカじゃないの?」
「にゃっ…………」
見ず知らずの他人に、しかも敵チームの女に俺の正体を知られた……。
しかしバカって、それに関しては俺もそう思う。
「あらあらどうしたのメリー?」
白いローブをまとった茶色の長髪の優しげな顔の女性が、メリーというのかツインテ少女に声を掛けた。
「ちょっと聞いてよシンシア」
「はい」
「このチビっ子の職業がサタンちゃまってなんなのよ? しかも特殊スキルが悪魔ガチャッてふざけてない?」
「確かにそうね……サタンとか悪魔とかなんなのでしょうか……」
回復系魔法使いっぽいシンシアが俺を凝視しながら目を細めた。
しかし、有名なサタンと悪魔を知らないとは、異世界には存在しないのか?
異世界の一部がこっちの世界に移転してから三年が経ったんだ。その間悪魔とかの知識を耳にすると思うけど……まぁ、彼女たちが知らないなら好都合だ。
「おいおいさっきからなに騒いでんだ?」
今度は黒髪ボサボサロングのお姉さんが顔をだした。
大剣を肩に乗せて腹筋バキバキの筋肉質の身体に半裸なビキニアーマー姿の女戦士だ。
姉御肌な豪快な性格っぽいが、顔は頬に傷跡がついてるがかなりの美人だ。
しっかし、ビキニアーマー特有の腹出しスタイルは、防御力マイナスだろうと疑問に思っていた。
まさか本物を見れるとはな……。
女戦士が俺のステータスを覗き込んで見るが、眉根を寄せ首をかしげた。
どうやら文字が読めないらしい。
「おいドンゴっこのチビなんだと思う?」
女戦士が立派な髭を生やし二本のツノ付き兜を被ったドワーフに声を掛けた。
背は低いが鍛え抜かれた屈強な身体の彼も多分戦士だ。
「なんじゃライデン大きな声を出しおって……んっこ奴は……」
兜のヒサシから覗くドンゴの目が俺を凝視した。
知識豊富なドワーフだけに、なにか見透かされそうで俺は目を逸らした。
「サタンちゃまじゃと……」
『ちゃま』は特に重要じゃないよドンゴさん。
「ふ〜〜む………………」
腕組みして考え込むドンゴさん。
「なにか分かったかいドンゴ?」
「いや、全く分からん……」
思わせ振りで結局知らんのか!
太陽の獅子の冒険者は皆サタンと悪魔の知識は皆無だった。
そんな中助け舟を出したのが聞き知った声だった。
「ちょっといいですか?」
「なんじゃ新入り分かるのか?」
ドンゴが振り返るとそこに俺のクラスメイトの女子が腕組みして立っていた。
新入りの癖して偉そうだな。
それもそのハズ彼女はクラス委員にして風紀委員長をも務める中城アヤネ。
黒髪三つ編みおさげに前髪センター分けに眼鏡といかにも真面目なスタイルだ。
そして、セーラー服の左袖に付いた腕章が彼女の誇りだ。
嫌いじゃない。俺は密かにアヤネに叱って欲しいと想っていた。
「どうしたアヤネ?」
両手を首の後ろに回してアヤネに話し掛ける少女は桐川ミツヤ。
彼女も俺のクラスメイトで、ショートカットのスポーツ万能少女だ。
「この子確か……神崎君じゃない……?」
「えっ……あーあの、一人だけ性転換した変態男子か」
『…………』確かに変体したが決して変態ではない。
「にゃにゃっアヤネッミツヤッ頼むから聞いてくれにゃっ!」
久しぶりに知り合いに会って興奮した俺は、小さな両手をワチャワチャ振って話し掛けた。
俺を見ていた二人は不思議そうに目を合わせた。
「…………しばらく見ない間アンタ……変わった?」
ミツヤが妙なことを聞いた。
しばらくってほんの二、三日しか経過してないだろ。
しかも『アンタ変わったって』見れば分かるだろうミツヤ。
「ふふっ神崎君とっても可愛らしいわよ」
クラスメイトの高嶺ユウナが微笑みながら俺に話し掛けて来た。
風が吹いて長い黒髪がなびく。
成績優秀で学内一人気の美少女のユウナは、俺が密かに憧れていた高嶺の花。
そんなユウナと直接会話したのは実は初めてだ。
「にゃにゃっ……」
緊張して金魚みたいに口をパクパクした。
「ふふッ可愛い猫みたい」
「にゃっ!」
身を屈め俺の顔を見つめるユウナに心臓がバクバクだ。もうやめて萌え死ぬっ!
「ちょっとユウナっコイツ悪魔だよ」
せっかくユウナといいところなのにアヤネが水を差した。
邪魔するなアヤネ。まぁ、お前も嫌いじゃないけど……。
「別にいいじゃないサタンでも可愛いから」
ユウナは立ちあがって振り返った。
「なに言ってんのよユウナ。サタンと言えば悪魔の総大将よ。もし神崎のステータス表示が本当ならヤバいって」
「大丈夫よ。もし悪い子だったら勇者様に頼めばいいじゃない?」
『……』怖いこと言うなユウナ。『あっ!』決して今のはダジャレじゃないよ。
「……それはそうね」
お前も同意すんなアヤネ。
「君たちなにを騒いでいるんだい?」
軽薄勇者がアヤネとユウナの間に割って入り肩に手を掛けた。
この女たらし勇者が、気楽にユウナたちに触れるな!
「勇者様っ彼、いや、この子の正体がサタンだとすると危険です」
「ん〜サタン? 僕にはこのチビが脅威には見えないね〜むしろユウナ君の美しい美貌の方が脅威だ」
「…………」
ほらっユウナがドン引きじゃないか?
でも良かった。彼女はまともで勇者の毒牙に掛かってないみたいだ。
今のところはな……。
こうしてお互いの顔合わせが終えて、チーム対抗戦が始まろうとしていた。




