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エルフの国へのパスポート

ミリア・モートンは朝目覚めると寝ぐせのついた金髪のくせ毛を櫛でとかしながら着替える。


今日は魔王国からの使者が来る日だ、直接会議に参加しないとはいえ身だしなみはいつも以上に気を遣う。

ミリアの仕事は『受付嬢』、村に訪れた旅人なり冒険者なり商人が必ず訪れるギルド、受付嬢がその村の印象を決めるといっても過言ではない。


「今日はどっちにしようかな?」


鏡の前に立ち胸元につけるリボンの色に頭を悩ませる。


制服は緑がメインカラーの落ち着いた装飾のロングドレスで基本的にはその他の装飾品については派手過ぎなければ制限は無いので自由にしてもよい。


「よし。」


結局オレンジのリボンを付け両親の形見であるペンダントを首から掛け服の中にしまう。


「さて、今日の朝ごはんは何かなぁ~?」


娯楽の少ない田舎、食事も娯楽の一つだ。

とくに料理を担当しているジギは創作料理を定期的に作り、それを試食として提供してくれる。


もちろん普通の料理を注文すればメニューにあるものなら作ってくれるが、特にリクエストがない場合は試作品に付き合うことになる。


ミリアはリガと違い好き嫌いは無いので出来るだけ試作品に付き合っている、以前リガと一緒に試作品に付き合った際には野菜炒めがで出てきて次の食事までずっと不機嫌だったときは大変だった。


そんなことを思い出しながら1階へ降りると先客が居た。


ミリアの唯一の後輩、ケンジだ。


今まで早起き組はダロランとミリア、そしてジギだけだったが4人目の早朝組だ。


「おはようございます。」


「ミリアさん、おはようございます。」


「以前もお伝えしましたが、ミリアで大丈夫ですよ?私の方が年下ですので…。」


「いえいえ、先輩ですし…さん付けの方が呼びやすいので。」


「ケンジさんがそういうならそのままでも良いのですが…ところでこれは?」


隣の椅子に座ったミリアとケンジの間にあるのは1つの植木鉢だ。

青々とした緑色の苗が植木鉢から伸びていた。


「そう!聞いてくださいよ!!トマトの実験をしていたんですがそれが成功しまして!」


「そ、そうなんですか。」


「ですが不思議な話でして、普通ならトマトは今の時期発芽しないのです、暖かい季節の野菜ですので。」


「それは不思議ですね、花でも季節違いに咲く子もいますが…そういうのは大体枯れてしまいます。」


「そうです、恐らく強制的に発芽させようとした結果ですので栽培までは出来なさそうですね。」


「なるほど、なんだか難しいんですね…。」


そこでケンジの分のサンドイッチを持ってきたジギが奥から出てくる。


「おはよう、何にする?」


「お任せで!」


「わかった。」


そしてすぐに奥に戻った。


「ケンジさんは今日は会議に参加されるんですか?」


「あ、どうなんだろう。

もしかしたら参加するかもしれません、ジャガイモは栽培が軌道に乗ったので後は獣や虫、病気に気を付ける感じですので。」


「またリガさんに聞いておきますね!今回もシルマさんが来られるんですかね?」


「どうでしょう、代理の方が来てもおかしくはないですね、貿易の担当官ではありますがセティさんとお知り合いみたいでしたし、もしかしたら位の高い方かも。」


「可能性ありますね…少し緊張しますよね、魔族の方たちってシルマさんたちのように人に近い姿をしてる方たちもいれば、そんなことない方もいますから。」


「そうなんですか、自分はまだ王都と野営地しか行ったことがないからその姿の方々はみたことないですねぇ。」


ミリアはアケラ村出身ではない、王都よりもっと西の方にある領地に生まれた。

その領地では王都から離れてることもあってか様々な人種が生活していた、そんなところで育ったミリアは人種についての差別意識は王都民に比べると非常に低い。


「行くなら王都を中心に西がいいですよ、東は大森林や山脈があり旅には向きませんし、南は島国ですので。」


「西には何があるんですか?」


「かなり遠いですが魔族とは別の亜人種が暮らす王国があります、本当にごく稀ですがここにも商人が訪れますよ。」


「へぇ、それは楽しみですね。」


ちょうどその時ジギがミリアの朝食を持ってきた


「わぁ、ありがとうござ…なんですこれ?」


「ジャガイモに余裕が出来るらしくてな、ふんだんに使わせてもらった。」


出てきたのはサンドイッチ、だがその横に盛り付けられていたのには細い黄色い棒状の揚げ物。


「ケンジに聞いてな、ふらいどぽてとって言うらしい。

豚の油をフライパンで溶かしてそこに細切りにしたジャガイモを入れる、そして少し濃い色になれば完成だ、ケンジにも食べてもらったがもう少し塩が欲しいらしいが…なんせ高いんでな、少し味は薄いかもしれん。」


ミリアはおそるおそる口に運ぶ、まだ熱いフライドポテトはサクッと音をたてる。


「うわっおいしい!!止まらなくなりそう!!」


「簡単だが材料費が高いな、特別な時だけのメニューにしとくか。」


「お肉と合いそうですね。」


「そうだ、だからミリア嬢に頼んだ、リガの意見はあまり参考にならん。」


ため息をつくジギを前に2人は苦笑いするしかなかった。



◇      ◇     ◇



それから程なくして魔王国からの使者が来た。


今回出迎えたのはダロランとケンジだ、アケラやリガは今回は会談には参加しない。


来たのは翼を生やした者と顔を何やら魔法陣の様な者が書かれた布で顔を隠した者だった。


「こんにちは、以前我らの直属の上司であるシルマ様がお邪魔しました、今回からは基本的には私がお話を伺うことになりますのでよろしくお願いいたします。」


布の男が挨拶を交わすと後ろから翼の男が荷物を持ってきた。


「こちらが今後お取引をさせて頂く我が領土で採れる資源や特産品になります。」


「おぉ、わざわざありがとうございます、ここでは何ですので2階までご案内いたします。」


ダロランは丁寧に頭を下げ案内する



「では、開けさせていただきますね。」


革張りの重々しいトランクを開けると中には様々な瓶が入っており、綺麗にベルトで固定されていた。


「この中で一番数を卸せるのはやはりこちらの鉱石類ですね。」


テーブルの上に瓶を数本置いてゆく。


「まずは『鉄鉱石』これはゴルド王国でも流通量が多いので希少性はあまりないかもしれませんね。」


「そうですね、ジュゲ大山脈からの輸入品が大半ではありますが、いくつかの鉱山が国の所有でありますね。」


鉄鉱石は埋蔵量が多く、石炭に続いて最も多く消費されてる鉱石だ。

冒険者の武具から日常生活の備品、食器など様々な物に使用される、鍛冶屋も鉄鉱石専門の工房があるほどだ。


「ですが需要はありますので仕入れさせてもらおうと思っております。」


「おぉありがとございます、もちろん鉄鉱石だけではなく石炭も取れますのでそちらも。」


「寒い時期は必需品ですからね。」


ギルドには暖炉があり、冬の寒い時期は薪をくべ暖を取る。

だが石炭の方が燃焼効率が良く火力が強い、鍛冶にも使えるのであって困らない資源だ。


「あとはごく稀ですが希少鉱石であるミスリルや金、銀などが取れます。」


「素晴らしいですね!金や銀は王都でも非常に需要が高い金属ですので是非高値で取引させてください、ミスリルの関しましては恐らくリガやアケラ様の方が詳しいでしょう、もしかすると野営地のビット殿の方が興味があるかもしれません。」


「そうですね、金銀に比べミスリルは加工が難しく魔王国では少し手に余ります。

優秀な鍛冶師が以前いたのですが…内政のごたごたで国を出てしまいまして。」


「あぁそれは大変でしたね、ゴルド王国にはミスリルを扱える鍛冶師が何人かいます、ちょうど今領主館を建てる為に王都から鍛冶師が来てます、たしか彼もミスリルや希少金属加工の心得があったはずですよ?」


「それは素晴らしいですね、もしミスリルを下ろすことがあればお願いいたしましょう。」


その後も様々な品を見せてもらった、鉱石も多かったがより多かったのは魔物素材だ。


魔王国領地にしか生息していない魔物の素材、それはゴルド王国では非常に価値の高いものになる。


旅人や商人の入国は許可されているが冒険者は許可されていない、それは魔王国に住む魔族が高い戦闘能力を保有しており、人間が獣を狩り肉を食べるのと同じように自分たちで魔物の問題を解決できるからである。


もう一つの理由に人間と違い寿命の長い魔族にはいまだに当時の戦争に参加していた者が生きている。

かの戦争を言い伝えでしか知らない人間が居るのと違い、魔族には今なお鮮明に覚えているものが居る、そんな者達とのトラブルを避けるため武装した冒険者の入国はいまだに認められていない。


「ふむ、見たことのない、聞いたことのない魔物の素材ですね。」


ヘビ系の滑らかな革を手に取りながらダロランはまじまじと眺める。


「魔物の大半はそのまま食用に加工したりするのですが、正直に言うと角や革は余る素材になります。

魔族の文化としては実用性を重視する者が多く、人間に比べ装飾品などの意欲が薄い傾向にあります、鱗などは鎧に使いますが…。」


「なるほど、ドラゴンのような強い魔物の牙や骨なら武具に使えるでしょうが、その他の魔物の素材はゴミとなると。」


「我々としては不要品で金をとる形になり心苦しいのですが…。」


「そんなことはないですよ、普段は捨てるような貝殻ども畑にまく肥料になるように、一見要らないものでも別の場所では必要になるものも多いんですよ。」


「ケンジさんにもそういっていただけるとありがたいです、でしたらこれらも元冒険者でもあるリガさんにもお聞きしてリクエストをお聞きしましょう。」


こうして仮の取引リストが出来上がっていった。



◇     ◇



「ココが畑です。」


話し合いが終わると今度は視察だ。

魔王国側から鉱石や魔物素材を購入するならこちらが売るのは野菜だ。


「これがジャガイモ?」


使者がしゃがみジャガイモの苗を間近で観察する、数日前とは違い今はだいぶ成長した。

出芽の段階を越え、そろそろ『土寄せ』をしなければいけない大きさまで成長している。


「この調子ならいつ頃に?」


「本格的に寒くなる前には収穫できるかと思われます、今のところ獣の被害はありませんので、警戒しないといけないのは虫と病気、生理障害も怖いですがこればかりは試行錯誤ですね。」


「そうですかそうですか、シルマ様のご意見とは少し食い違いますが私としてはもう少し時間をかけて確実に仕上げてほしいと思っています。

魔王国の食糧問題はもちろんありますが、今にも絶滅しそうな程追い詰めれれているわけではありません、冬を越せるほどの備蓄はありますから…。」


「ありがとうございます、そのご期待に添えられるように努力します。」


「わがゴルド王国もゆくゆくはエルフの国に頼らずに自給自足できるようになればいいんですがねぇ。」


「それは魔王国にも同じことが言えますよ、ダロランさん。

もしエルフの国が農産物を一気に値上げしたら逆らえなくなるでしょうね。」


そのことについてはケンジも考えたことがある。


この世界は異常だ、農産物が作れる土地はあるのに誰も農産物を作らない。

農夫より冒険者や旅人の数が多いのである、本来なら自分たちの食べるものを自分たちで作ろうとするだろう。


ケンジが調べた範疇でしか分からないが、大きな戦争がありその際にノウハウが失われたこと、従軍の大半が農民だった、土地が余ってる郊外は魔物が出る

といった様々な要因がある。


だがその中でも一番の原因。


『エルフの国』だ。


ゴルド王国を含む周辺国家とエルフ国を賄えるほどの食糧生産力。


ケンジは正直、国民一人当たりの食糧の年間消費量を知らない、家庭によっては1日2食のところもあるだろう。

だがそれにしてもありえない規模の生産力だ。


(超巨大な農地があったとしても限度がある…この世界で可能性があるとするなら『奇跡』ような魔法のアイテムで生産量を上げてるのかな?)


いくら考えてもわからない


「一度、エルフの国に視察しに行きたいですね。」


独り言のようにぼそっと呟いたその言葉は風に乗り消えていった。


◇     ◇


「ではこれが許可書などになります。」


しっかりとした羊皮紙で作られた書類にはゴルド国王の印が押されており、これは国が正式に魔王国とアケラ村の取引を認めるものだ。


国王の印以外にも隣り合う領主であるミルトの印や貿易担当大臣などの印もあった。


「ありがとうございます、いやはやこうしてゴルド王国が認めてくださるとは…良き時代になりましたね。」


大切そうに羊皮紙を眺め、金属製の筒にしまい封をする。

これで今回の会談は終了だ、書類手続きも終えたのであとは物品のやり取りを残すだけとなった。


「今後とも、アケラ村をよろしくお願いします。」


「こちらこそ、よろしくお願いします。」


ダロランと布の男は固く握手を交わし会談を終えた。



遠ざかってゆく場所を見送り、見えなくなったところでダロランがパンと手をたたき口を開いた。


「今日はご苦労でした、あとはジャガイモの収穫が上手くいく様に祈るだけですな。」


一つの仕事を終えニコニコ笑顔のダロランだったが、その表情はすぐに変わった。


「さて、ケンジくん。

君はエルフの国に行ってみたいかね?」


「え?」


突然何を言い出すかと思ったが真剣なまなざしに冗談じゃ無い事を悟る。


「エルフの国、選ばれた商人しか出入りを認められておらず、それも貿易拠点まで。

農作物の栽培現場を見た者は誰も居ないという…。」


ケンジの喉元から生唾を飲み込む音が聞こえた。


「行ってみたいです。」


それは単純な好奇心だった。


前の世界でも大規模農業施設などは見た事がある、だがこの世界では前の世界にないものがる。

『奇跡』や『魔法』だ、見たことのない魔物なども存在している世界、むしろ今普通にジャガイモが育てられている方が異常なまでもある。


魔法で野菜を育てたらどうなるのだろうか、魔物が畑を荒らすのではないだろうか、便利不思議道具のようなイメージを持つ奇跡だがどのような活用方法があるのだろうか。


好奇心がとめどなくあふれる。


「よくぞ言ってくれた、だが簡単ではない。

ジャガイモが収穫できるころまでには何か良い返事ができるように努力しよう、もちろん教会などにも協力を要請しよう、ケンジくんのような特別な存在には教会も甘いじゃろうて。」


いたずらっぽい笑みを浮かべるダロラン、恐らく一番楽しんでいるのは彼だろう。


「ではワシは各所に手紙を書くとするか、今日はご苦労様。」


 恐らくダロランはこういった仕事が好きなのだろう、許可書などにサインをするよりかは計画を立てそれらを実行するために根回しをするタイプだ。


「エルフの国か…楽しみだな。」


この世界での最先端技術を見れる可能性がある、そこからアケラ村でも実施出来る農法があれば参考にしたい。


「あっ、土寄せしなきゃな、芽かきもそろそろだな。」


ゴベさんを呼び出し村人に集まってもらい作業をしないといけないことを思い出す。


この調子で何事もなければ12月頭には収穫ができるはずだ

いわゆる『秋ジャガイモ』だ。


収穫量は春ジャガイモに比べ減るものの冬に収穫するため貯蔵が楽といったメリットもある。


ケンジはエルフの国がどんなところにあるのか、どのような農法を利用しているのかを想像しながら仕事に戻った。



◇     ◇     ◇



ゴルド王国


王の寝室


様々な装飾品に彩られた豪華な部屋にはまさに王が寝るにふさわしいベッドがあった。


そのベッドに横になるのはゴルド・オーラン3世。

ゴルド王国の現国王である。


そして寝室にはもう一人、王の寝室に立ち入ることの許されている数少ない人物のうち1人。


「陛下、お呼びでしょうか?」


「うむ、よく来てくれたイディオ、少し痩せたか?」


イディオと呼ばれたその人物は少し出たお腹をさすり苦笑う。


「いえいえ、いくら頑張っても少しも落ちませぬ庭園の散歩などを日課としてますが、旨そうな果実が実っており、つい…。」


「ふはは、それでは意味がないな、騎士団の訓練へ参加させてもらうか?」


「ほっほ、お戯れを。」


髪のない頭に手を当て困った顔をするイディオ、昔こそは少しは動けた。

だが大臣の地位を与えられてからは運動をする暇もなく働いてきた、頑張れば剣を振る事くらいは出来るだろうが自身の身を守るので精一杯だ。


「まぁ本題に入ろうか。」


すぐさま緊張した空気に切り替わる。


「薄々感じているだろうが、ワシはもう長くない。」


ベッドに横になる王は年相応の老いた体をしていた、王ほどの高齢者でも元冒険者などは今でもムキムキの体を維持している者もいる、だが王は鍛えない。


今や城の中を移動するのも大変だ、寝間着ならまだしも正式な場での王冠やマントなど、王の威厳を知らしめる装飾品の数々はハッキリ言って重たい。


高齢者には酷な服だ。


「…まだまだお若いですよ、とは言いません。」


「ふはは、他の貴族ならそういうだろうな、だがそれは私が求めている返事ではない。」


「では、準備を始めますか?」


「そうしたいところではあるが、のう?イディオ大臣、今は良いタイミングか?」


少し考える…

大臣であるイディオの元には国内のほとんどの情報が集まる。


その中で必要な情報とそうでないものを分けて会議を行うのだ。

もちろん大臣だけでそれを行う事は危険なので複数人のチェックを通すが。


「そうですね…良いとは言えませんが、今後更に良くなるかと言われれば…今しかないといいますか。」


「そう考えるか。」


「えぇ、ドラゴン襲撃事件や教会からの報告にもありました異世界人の件もあります。

後は魔王国からのコンタクトにグランシェル諸島での大型魔物の出現、エルフの農産物の値上げなど…各地の貴族からも対応に追われているとの報告もあります。」


「ふむ...。」


「ですが今やらねば追々報告が増える可能性もあります、今は氷賢の季です。

草賢の暖かい季節になれば魔物の動きも活発になりますので…。」


「そうだな、そうしよう。

では準備を始めてくれ、次の国王はどのようなものが良いと思うか?」


「もはや戦争は起きないとみてもよいでしょう、戦闘ができるものである必要はございません。

若い者がよろしいのでは?容姿が良いものを選びましょう。」


「うむ、ではよろしく頼んだぞ。」


「はっ、お任せください。」


イディオは深々と頭を下げ退室していった。


重要な話が終わり肩の荷が下りたとたん、急に眠気が来た。


「ふぅ、今夜は久々に熟睡できそうだな…。」


王国の安泰を祈り部屋の明かりを消し、オーランは眠りについた。



◇     ◇     ◇



「今日は芽かきと土寄せといった作業をします。」


集められたゴベたちは真剣にケンジの話に耳を傾ける。


村人たちは最初こそ農業を重要視していなかった、国から安定した支給はあるし何より魔物や獣などの肉類も豊富にある。


年に1~2度しか収穫できない植物を育てるメリットを感じていなかった。


だが最近その考えが変わった、村に魔族が頻繁に訪れるようになったのだ。


かつて戦争をし合った相手が手を組み、一緒に事業に取り組んでいる。

その姿を見た住民は『自分たちは国がらみの仕事をしている』といった意識が芽生えてきたのだ。


「芽かきというのは種芋から生えてきた芽を間引く作業の事を言います、1つの苗から3本も4本も芽が出ると栄養が吸われてしまい小さいジャガイモしか収穫出来なくなってしまいます。」


故に2本まで芽を残す。


「そして土寄せですね、皆さんは緑色のジャガイモを見たことがあるかと思われます。

あれは日の光が当たってしまったジャガイモなんです。

そうなると食べれなくなるので、土を被せます。」


一通り説明を終えた後2班に分かれて芽かき組と土寄せ組に分かれる。


広大な農場でも人の手があればすぐに終わる、種芋を土の上から押さえて余分な芽を間引く。


そして後続のクワを持った村人が土を寄せる。

このときはあまり多くは被せず手の平の幅ぐらいに高さを盛る。


あとは雑草をみんなで取り、綺麗な圃場ほじょうが完成した。


※圃場…農作物を育てる土地全般を指す用語、畑、田んぼ。





「皆さんお疲れさまでした!!」


作業を終えて休憩をとる。

新しく設置した水壺のおかげで水分補給が楽になり作業効率もよくなった。


「あとはもう少し成長してきたらもう一度土寄せなどをします、成長してくると地表にジャガイモが出てきてしまう事もあります、あとは雨とかで土が流れてしまったりとかですね。

そういう株をみかけたら土を被せてあげてください。」


村人も愛着がわいたのか仕事がない日でも定期的に畑を見てくれている。

こうした行動が病の早期発見などにつながるので非常に大切な事である。


「では本日は以上となります、ありがとうございました!!」




解散した後はいつも同じだ、ギルドのバーでゴベと飲むのが習慣になってきた。


「いやぁ、それにしてもだいぶ成長してきましたな!!」


エールをあおり、いつもより大きな声でしゃべるゴベはいつもより上機嫌だった。

目に見えて大きくなったジャガイモの成長がうれしいらしい。


「それにしてもケンジさん、このままジャガイモが収穫できるとしたら次は何するんですか?」


「そうねすねぇ、春に植える野菜は非常に多いので…候補はトマトやニンジン、トウガラシや豆にダイコンにかぼちゃ、夏野菜はやりたいですがそうなるとスイカもしてみたいな…。」


「すごいおおいですね。」


「ですが苗や種がないと何とも…。」


野菜の中でもジャガイモやサツマイモなどは芋やツルから栽培するが、その他の野菜のほとんどが種である。


その種はどうやって手に入れるのか。


そう、一度野菜を育て花を咲かし、それから種を取るのである。

つまり現状エルフの国から収穫後の野菜しか来ないので種の取得は非常に困難になる。


「はぁ、よくわからないけど大変なんすねぇ。」


そこで後ろから声を掛けられた。


「ケンジ。」


「あ、お疲れ様ですアケラさん。」


「今いいか?」


「大丈夫です。」


ゴベに断りを入れ離席する。



「エルフ王国への入国審査だが、おおよその目途がついた。」


「本当ですか!?」


アケラはテーブルの上のロールを開いた。


「教会の許可証と私の許可証だ。」


ロールにはそれぞれの責任者のサインがしており、セティ・パロネル、アケラ・グラディウス両名のサインが書かれていた。


「教会の許可がいるんです?」


「ケンジの預りは教会だからね、今後の扱いは変わらず教会になるかな。

そしてこちら側の許可はこれでいいんだが…あとは国同士の許可証待ちかな。」


「いつ頃になりそうですか?」


「うーん、今年中は無理だなぁ、早くても来年だろう。」


「なるほど、了解しました。」


「あぁ、そうだ同行者が1人、セティ・パロネルがついてゆく。」


「セティさんが!?」


だが納得のできる、いや彼女しかいないだろう。

なんといっても彼女はエルフだ、普段人間が来ない国でケンジが移動するなら付き添いはエルフの方が良いだろう。


「まぁ、そこまで付き合いがないだろうから不安があるのは分かるが…リガや私は信頼を得れるような人物ではないからなぁ。」


アケラは人間であるから信頼を得るのに時間がかかるだろう。


リガに関しては同じエルフ種ではあるが、長命種である森エルフの中には差別意識が色濃く残っている。


「つまりセティさんが最適解…だと思う。」


「不安要素が?」


「いや、本人がここ100年程帰ってないらしくてな…そこが心配かな。」


「大丈夫ですかね…?」


「…死にはしないだろう。」


大きな不安と期待を胸に抱えたまま1日が終わった。


2025年もありがとうございました、来年の目標は作中の農作物を増やしたいですね~。

また来年度もよろしくお願いいたします。


それでは皆様良いお年を。

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