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閑話 セティのお仕事

すこし前のお話です。

これはケンジがこの世界にくる前のお話。



ゴルド王国教会本部


「セティさん、お手紙です。」


郵便物を教会内に配送する黒服のシスターが1封の封筒を持ってきた。


「ありがとう、貰うよ。」


ほぼほぼ使われていない教会の一室、ここはセティの自室だが1年のほとんどを遠征や仕事で出かけているためほぼ物置の様になっている。


「何々~?」


封筒を開けると中には手紙が入っていた。


「依頼か…。」


『南の漁村で奇跡らしき物が発見された、早急に向かい処理、願わくば回収されたし。』


「わお。」


久しぶりに教会に帰り、しばらく休暇を取る予定だったが勢いよく立ち上がり部屋を出ていった。


廊下ですれ違う黒服は驚いた様子で道を譲り、白服の同僚は「あぁ、奇跡関連だな。」といった半ば呆れた表情で見送った。


教会から飛び出した高身長な森エルフ白服シスターの横顔は、いまから親友の家に遊びに行く無邪気な子供の様な表情をしていた。



◇     ◇     ◇     ◇



グランシェル諸島


ゴルド王国から南に街道を行くと4日で着く、複数の島国からなる群島国家で言わずもがな漁業が盛んでここでしか食べられない魚料理を求め世界中から美食家が集まる事で有名である。


その群島までの定期便が出ている港町に1人の白服が訪れていた。


セティは酒場の前で馬を休ませ昼間から盛り上がる酒場へと入る。


酒場に入ると酔っていない者は珍しいのを見る目で凝視し、酔っているものはそのまま騒ぎつづけた。


「こんにちはマスター。」


「珍しいな、白服が出てくるような騒ぎなんてこの町では何も無いぞ。」


「とりあえずワインを1杯、近場の漁村ではどうですか?何か噂などは?」


「あ~、ギエ村に魚人が出たらしい、普段は沖の方に行かないと会えないのに浜辺に上がってくるのは珍しいなって話をしたかな。」


「ギエ村に魚人ですか。」


『魚人』分類上は魔物に当たる種族だ。


人によっては半魚人と呼ぶものもいる、顔は魚で皮膚は魚の鱗や皮の様なもので覆われておりシルエットは魚より人に近い。

漁をしてる漁師から魚を奪ったりするので大抵の海の人からは嫌われている。


だが、陸の生産品や農産物を持っていくと珍しい魚やサンゴや真珠などと交換してくれるので対策さえ立てていれば良い隣人である。


「人を襲ったのですか?」


「いや?負傷者が出たらもっと騒ぎになってるだろうな、なんかギエ村の海岸にずっといるらしくて怖がっているらしい。

この前村から来てたやつが嘆いてたよ。」


「そうですか、情報ありがとうござました。」


カウンターに置かれたワインを飲み干すと飲み物代に情報代を上乗せした100G金貨を置いた。


「お、おい!これ100G金貨だぞ…って、もういねえや。」


硬貨に気を取られていた隙にセティは酒場を去っていた。


「定期的に来てくれねえかなぁ……。」



◇    



ギエ村、グランシェルの港町から馬で1時間ほど走ったところにある小さな漁村。


港町が出来る前からある漁村で、特産品は干し魚。


「あら、良い村ですね。」


村の小高い丘の上にある教会に着き、馬を厩舎に入れて周囲を見渡す。


潮風がセティの頬を撫で、少し傾き掛けてる夕日が非常に美しく瞳に映る。


「引退後はこういう村で過ごしたいものですね…。」


白服のエルフが引退するのは一体いつになるのか…ふと考え鼻で笑いかき消す。

寿命の長い種族が将来の事を考え出すとキリがないのだ。


気を取り直し教会へと入る、地方の村などを訪れる際はまずその村の教会へと訪問するのが決まりとなっている。


白服として仕事をする為、まずは教会へ祈りをささげるのだ。


「あら?」


だが教会の扉には鍵がかかっており中に入れなかった。


「…。」


セティは袖に右手を入れ1本の鍵を取り出した、その鍵は見た目こそ古びた鍵だが、鍵穴に近づけると先端がまるで生き物のようにうねりだした。


そしてそのまま鍵穴に挿すと小刻みにカチャカチャと動きはじめ、しばらくするとピタリと止まった。

セティがゆっくり回すと、カチャンと心地よい音を立てて扉が開いた。


中を少し覗く、コーネリア教の教会は夜間も施錠せず門は開かれている。


にもかかわらず施錠がなされていた場合は何かしらのトラブルがあったか、もしくは規範違反か。


足音を消し教会内部に入る、セティの周囲には複数本の光の剣が浮かんでいた。


光魔法で作られた剣、この剣に殺傷能力はなく物理的干渉もない。

つまり壁や家具などを通り抜けて飛ばすことが可能だ。


「誰もいませんね…一体何が?」


複数の光の剣を教会内部を端から端まで飛ばし、調べ尽くしたが誰もいなかった。


「ふむ、事件性はなさそうですが…普通に規約違反なだけの可能性?」


教会内部を見て回ったが特に異常はなかった。


「もし教会を空ける場合はメモなどを置かないと…。」


セティはしっかりと戸締りをし、教会を出て村に向かう。


教会がある小高い丘を降りるとすぐに村に入る、村に入るとすぐに干し魚の香りが鼻腔をくすぐる。


「干し魚か、保存食にちょうど良いから少し買っていこうかな。」


海産物やキノコなどを売っている小売店を訪ねる。


「いらっしゃい、おやシスターさん。」


「どうも、干し魚を2つと、あとこのキノコも。」


「毎度!」


「ところでお父さん、この村に他のシスターはいますか?」


「え?あぁメアちゃん?なら今日は漁じゃないかなぁ?」


「りょ、漁!!??」



◇     ◇     ◇



「今日もお疲れさま!!」


「けっこう取れましたね!!明日は休みましょうか、海が荒れそうです。」


「了解した、メアちゃんの読みはよく当たるからな!!」


「じゃ!!また明日!!」


小麦色に日焼けした健康的な肌を、捲り上げた服からのぞかせるのはメアと呼ばれる女性。

今は動きやすいシャツにズボン、机上の日差し避けの麦わら帽子をかぶっていてどう見ても漁を手伝う村娘だが、れきっとした黒服。

しかも1人でギエ村に在任することが許されてるちゃんとした黒服シスターである。


網引きで鍛え上げられた上腕が汗できらりと光る。


「いやぁ、今日も大漁だな……あ。」


浜辺を歩き教会へと向かう道でメアは立ち尽くす


「おかえりなさい、どんな魚が捕れたのですか?」


「いや、えっと。」


「制服は?」


「教会に…。」


「規約は知ってます?」


「…。」


「…とりあえず教会へ。」



◇     ◇     ◇



「うっ…メアリンです、ギエ村のシスターで…村の皆からはメアと呼ばれてます…ぐっ。」


トゲのついた石板の上に正座させられるメリアン

血が出るほどでは無いが、その一歩手前の苦痛だ。


「漁に出る為に教会を開けたという事ですか?」


「はい。」


「なぜ規約があるかわかってますか?」


「えっと…。」


「教会はゴルド王国の各地に存在します、もちろん子供たちへの教育も役目ですが最も重要なのは各地の異常や情報をいち早く本部に伝えることです。」


「はい。」


「では今回貴方が行った行動がどのような結果を及ぼすか…例えば、ある時助けを求める旅人や冒険者がギエ村に訪れました。

初めて訪れる場所で右も左もわからないギルドもないような村、そんな村でまず最初に訪れるべき場所が教会です。」


教会は小さな村にもあり、場所によっては教会のみが道沿いにあったりする。


「そんな中で教会に誰も居ないといったことは避けなければならないのです、施錠してるなんてもってのほか、わかりました?」


「はい、申し訳ございませんでした。」


「ふぅ、せめて置手紙くらいしてほしいものです…。

まぁ、ここまでにしておきましょうか、本題は別ですから。」


メアリンを立たせ仕事の話になる。


「奇跡の様なものを見つけたそうですが?」


「は、はい村のはずれにある入り江にある日突然、村人たちの生活には影響は無く全体に警告も出しておりますので誰も近づかないようにしております。」


「では案内を。」


「あっ、少々お待ちください。」


「?」


「足が…。」


「軟弱。」



◇      ◇     ◇



「こちらです。」


ギエ村の奥にある入り江、そこに案内されたセティ。


入り江は村の浜から少し奥まったところにあった、まず目に飛び込んできたのは魚のような体に手足の生えた魔物だった。


「あれが半魚人?」


「はい、地元ではサハギンと呼ばれてる者達です。」


「なぜ浜辺に?」


「魚人たちの中心に水晶玉みたいなのが漂流しているのが見えますか?

あれが今回発見された奇跡の様なものです。」


よく見ると波打ち際に水晶が打ち上げられており、5人の半魚人が水晶の様な物を守るように立っていた。


「あれが報告にあった?」


「そうです、あ、足元に気を付けてください。」


セティが視線を落とすと流木で境界線が作られていた


「これは?」


「わかりませんが、ここから先に近づくと半魚人達がこちらを警戒してきます、逆に言えばここの線を越えなければ警戒しません。」


「被害者が?」


「いえ、事の発端は3日ほど前です。」



ある日、村の子供たちは大人達が漁に出ている間、入り江で遊んでいた。


そんな中、浜辺に打ちあがった水晶玉を子供が見つけた。

拾おうとしたところ海からサハギン達が出現、急いで避難し村の大人たちを呼んだ。


陸に上がったサハギン達は一定距離を空けると追従してこなかった、それに気付いた村人は刺激しないように入り江の立ち入りを禁じ、教会の指示を待った。


「賢い、こういった奇跡の取り扱いで一番危ないのは『近づくこと』。」


「村人に被害がなくてよかったです、教会側で出来る事はあるんでしょうか?」


「…魚人種に対しての光魔法は研究が進んでないのです。」


「え?光魔法がですか?」


「光魔法の概要を言ってみて。」


「は、はい。

光魔法とは『精神に干渉する』『神経に干渉する』『光を発する』の3つが主に上げられます。」


「サハギンは魔物ではありますが、一部は魚類と同じ構造をしています、背骨がある生き物の身体構造は総じて似ていると聞いたことがありますが…人と違うので効果があるとは限りません。

魚に魔法をかけても反応が薄いから分かりませんし。」


「なるほど、喋れないですものね。」


「あの目が見える?」


「はい、魚人種特有の魚の目ですね。」


「光魔法による精神操作などにかかると目の奥の光が消えたり、うつろになったりしますがそれが分からない。

更には表情筋などもないため判別がさらに難しい。」


「確かに。」


「あとは人間との神経構造が違うとされていて、気絶や麻痺などの状態異常も判別が難しいといった…まぁ取り合えず光魔法は有効ではないといったのが一般ですね。」


「なるほど、あと私からもお願いでサハギンを傷つけるのは避けてほしいのですが…。」


「それはなぜ?」


「漁師は沖に出るときには必ず酒や地上の食べ物を持ってゆきます、その理由はサハギンとの遭遇に備えてです。

サハギン達は海面から顔を出し物品を要求してきます、いつから行われているかは分かりませんが漁師たちと網にはかからない深海の生物や海産物と交換してます、言葉は喋れずとも昔から交流があります。」


「なるほど、殺してしまうのは良くないか、特に交流が根付いたこの村では…無力化が望ましいと。」


「はい。」


「では、もう夕方なので明日の早朝に行動します。」


「分かりました、村人達にはなんと?」


「もう入り江の事は伝わってるのでしょう?でしたらそのまま伝えましょう。

野次馬があると出来る事もできなくなります、奇跡を使う事を想定した避難を。」


「わかりました!」


勢いよく返事をしたメアリンは駆け足で村へと向かった。


「はぁ、すこし黒服たちの教育を見直すべきかしら。」


深いため息をつきながらセティは懐から奇跡を取り出し明日の準備を始めた。



◇     ◇   



「おはようございます。」


「お酒臭いのですが…まさか。」


昨日と違い、しっかりと黒い修道服を着て入り江に来たメアリン。

寝起きのぼさぼさ髪をワシワシと掻きながら挨拶をするが、あくびの際の口臭からアルコールの匂いがした。


「えっ!?あっその、本日は漁がないので村の漁師たちに誘われて昨晩…いやいやでも村人と仲良くするのも大切ではないですか!?」


「…まぁ仕事をこなすのであれば許しましょう。」


「なんでもします!!」



◇



「あ、あのこれは…。」


メアリンが片手に持つのは小さいナイフ


「戦うにしては心もとない…。」


下手すれば果物ナイフより小さなそのナイフの柄には海を彷彿とさせる綺麗な青い宝石がはめ込まれており、その装飾が無ければ村の売店で売られてても誰も買わないだろう。


「その心もとないナイフでこの村買えますからね、壊さないように。」


「やめてくださいよ~!!セティ様だけですよ奇跡を気安く渡すのは!!」


両手でしっかりと握り直し、べそをかきながら中腰で震えるメアリン


「その小刀を持ってると海の生物は嫌がり近づかない、らしいです。」


「らしいってなんですか!?」


「魚で試しはしたものの、魚人種で試したことはなかったのでこの機会に検証したいと思いまして。」


「な、なるほど。」


「昨日あれからいろいろと試してみたんですが、やはり彼らは意識はないですね。」


「そうなんですか?」


「石を投げてみたりで反応をうかがいましたが無反応、ですが近づくと敵対反応を取りますね。

まるで水晶を守るかのような…。」


サハギン達は海岸に打ち上げられた水晶玉を守るように5匹のサハギンが並んでいる。


「可能性は『海の生き物を操る』とか『魚人種を操る』とかの可能性があります、恐らくその場合は水晶に再度触れると解除される場合が多いです。」


セティは様々な奇跡を取り扱ってきた、おのずと取り扱いもわかってくる


「似たようなものが?」


「そうですね、ただ最悪の場合も考えておかなくてはなりません。」


「最悪の場合?」


「『海の生き物を操る奇跡』。」


「!」


海の生き物、その定義は広い。

すぐに思いつくものであればサメやクジラなどが上がるだろうが、海には魔物もいる。


船を沈めるとされるイカやタコのような外見の巨大な化け物、クラーケン

美しい女性で下半身は魚、誘惑する歌声で船乗りを海へと引きずり込むセイレーン


陸に比べ海は広く、そして深い。

未知なる海の生き物を操る、そんな力を持つ奇跡だとしたら…。

メアリンは想像してしまい、身震いをした。


「もちろんそんなものがあれば大変なことになりますが、無いとは言い切れないのが奇跡の品です。

というわけで。」


メアリンの胴体にしっかりとしたロープがくくられた。


「え?何ですかこれ?」


「今から貴女にはそのナイフを持って水晶玉に近づいてきてもらいます。」


「え!?攻撃されるかもしれないんですよ!?」


「何かあればロープを引きますので、もしかしたら『近づいた者の意識を乗っ取る』などの奇跡の可能性もありますので、この方法なら行動不能になった場合の対処も可能ですから。」


「ううっ、白服上層部に訴えたい…。」


「ここに上層部居ますよ。」



◇     ◇



「問題ありませんか~?」


浜辺の端でロープを握り呼びかけをするセティ。


「い、いまのところは~!」


目的の水晶まで残り50mといったところまで接近するメアリンはナイフを前方に突き出し、スリ足で近づいて行く。


「ふむ、てっきり近づいただけで攻撃されるかと思っていましたが…ナイフの効果?」


メアリンに持たせたナイフはセティが所持している中でもかなり強力な奇跡だ、海の生き物などを遠ざける効果を発揮させるナイフは海上はもちろん、川や湖、沼までもその効果を発揮した。


漁師や貿易船らは喉から手が出るほど欲しがるアイテムだろう。


だがしかしこういった『人々の営みに大きな影響を与える奇跡』は教会が回収している、理由は簡単。

悪用しようとするものが必ずいるからだ、『水壺』のようなものは数が多く回収しきれないといった点もあるが、基本的に人々への影響が少なければ回収は行わない。


だがしかし、今回の入り江に流れ着いたモノ、サハギン5体を召喚するなどの効果ならまだ良いかもしれないが、海の生き物を操る類のものだと非常にマズイ。


「効果の上限が分からない今は下手な手は打てないですね。」


「うわっ!」


メアリンが驚きの声を上げ、セティも考え事をする脳から戦闘態勢へと切り替える。


ナイフを構えるメアリンに対してサハギン達が一斉ににこちらを見ていた

だがサハギンたちも身構えるなどの戦闘態勢を取らずに体ごと向きを変えただけだった。


「な、なに!?」


「メアリンさん!その場で待機!!」


「了解しました!!」


迷いのない的確な上司の命令は、困惑するメアリンにしっかりと響く。


セティは準備していたグレーのヴェールを羽織り、ここから先に入るとサハギン達が戦闘態勢に入ると言われていた境界線を踏み越える。


だがサハギン達はセティの方に見向きもせず、40mくらいの間隔をあけてメアリンとにらみ合ってる。


瞼がないので正確には睨んでいるかどうかは分からないが。


(やっぱりそうか。)


セティは警戒しつつも自信のある足取りでサハギン達に近づく。


羽織ったヴェールは『隠密のヴェール』、セティのお気に入りの奇跡だ。

声を発しないことを前提条件に装着者から出る音を完全に遮音する、心音から服のこすれる音、更には足音や落とし物の音まで。


(普通の視野角を有するならとっくに私の姿は見えてるはず、つまり彼らは目が見えていない、もしくは殺気や敵意などに反応していると考えるべき?)


あっという間にサハギン達に近づいたセティ、メアリンが心配そうにこちらをチラチラ見てるがアイコンタクトで黙らせる。


サハギン達まで残り5mまで近づいたセティはより一層慎重に動く、ひざを曲げ中腰になり忍び足で接近する。

その隠密行動は、姿が見えているはずなのに眩しい朝日と白い砂浜に純白の修道服が同化し、集中して見ていないと見失いそうになる程だった。


(やはり見えていないか、となると精神支配系だと考えてよいかな…。)


ゆっくりと近付き深呼吸をする。


サハギンたちの間をすり抜ける、そしてついにセティの指が水晶に触れた。


その瞬間だった。


今までメアリンに釘付けだったサハギン達が一斉にセティに牙を向いた。


それは比喩ではなく、いままで閉ざしていた口を大きく開け、まるでピラニアのような鋭利な歯と真っ赤な口内を見せつけてセティに襲い掛かった。


「セテっ…!!」


メアリンは驚きの声を上げるが、遠い。

待機するように命じられていた場所からはどう頑張っても間に合わない場所に彼女はいた。


だが次の瞬間に、なぜ彼女はそんなにも離れた場所で待機命令を出されていたのかを知ることになる。


眩い朝日に劣らぬ閃光


それはサハギンに囲まれたセティから発せられたものだった。


『光の剣』

それは白服ならば誰もが習得している近接戦闘用光魔法だ。


光魔法で生成された実体を持たない眩い剣、人によっては短剣の様であったり両手剣の姿をしているその魔法の効果は1つ。


『攻撃部分の精神・神経の破壊』


光魔法は精神に作用する効果を持っており、鎮痛やリラックス、熟練者になると混乱や幻覚、麻痺などの効果をもたらす。


精神を破壊する光の剣、それをまるで居合のように目にも止まらぬ速さで振るったセティ。


剣はサハギン達の脳と目の間を通過した、その結果。


本来脳から送られて来るであろう『噛みつく』といった信号が遮断され、サハギン達はその場で糸の切れた操り人形のように倒れこんだ。


「セッ、セティ様!大丈夫ですか!!」


心配そうな顔で慌てて走ってきたメアリン


「大丈夫、そんなことだろうと思って…どう考えても水晶を守る形でしたし、その水晶に触れたら攻撃してくると予想できました。。」


手に持った水晶を大事そうに見つめるセティ、その手にはすでに光の剣は無かった。


「今のは?」


「光魔法、大丈夫彼らは気を失っているだけ。」


視線を落とすと、確かにサハギン達の肺は浅い呼吸を繰り返しており、生命活動が続いていることが確認できた。


「えっでも、光魔法は…。」


「昨晩、生きた魚で試したので大丈夫、正確な場所を言うと目と目の間の後ろが弱点です。

ここを光魔法で切れば無力化できます。」


「そ、そんなわずかな隙間をあの一瞬で5体も?」


「そこは…まぁ、経験ですよ。」


はにかむセティだったが、メアリンは尊敬と同時に畏怖を覚える。

全世界にいるコーネリア教から選ばれた精鋭が黒服であり、その中からさらに選ばれた13人の白服。


世界に13人しか存在する事が出来ない白服とはこんな化け物達なのかと、目の前にいる人物を凝視してしまう。


「顔に何かついていますか?」


「あ、いえ何も。」


セティは手のひらで朝日の光を浴びて綺麗に輝く水晶を眺める。


「恐らくはサハギンを使役するような奇跡なのでしょう、条件は恐らく海に触れていることだと思われます。

まぁ、憶測ですが。」


「となると最初に村人が触った際に発動してしまった?」


「恐らくそうでしょうね、今は何の反応もありませんし海から新たなサハギンたちが現れる様子もありません、取り合えずしまっておきましょう。」


いつものように奇跡の指輪で異空間に水晶やヴェールを収納する。


「さて、離れましょうか。サハギンたちが目を覚ました時にどういった行動をとるか不安ですし。」


「あの、よろしければこの後酒場まで来ていただけませんか?村の皆と話し合ってて、無事解決したら白服様になにかお礼をと。」


「あら、ではお言葉に甘えて。

新鮮な魚料理が食べたいですね、海辺じゃないと味わえないので。」


「是非是非!」


こうして2人はまだ気を失っているサハギンたちを後にして入り江を後にした。



◇     ◇     ◇



「以上が、ギエ村で発見された奇跡の対処および回収の報告になります。」


教会本部2階にあるルーシーの部屋にセティは居た。

教会本部に常在している白服の中でも一番偉いのがルーシーなので基本的な業務報告はルーシーの元へと集まる。


「それで?どうだった?」


「そうですね、一度白服による各地教会への見回りが必要かもしれません。」


「確かにね、決して仕事を放置しているという訳ではないのでしょうけども、少し怠慢がすぎる子もいるのは確かよね。」


「しかしメアリンは、ギエ村の住民すべての名前、住所、家族構成などを把握しており、今回被害者が出なかったのは教会が信頼されているといった事が大きかったと思っています。」


「確かにそれはあるわね~、となれば多少の怠慢も見逃すべきか…。

まぁ、余程の事が起きない限りは見守りましょうか、奇跡はどんなのでしたか?」


セティは懐から水晶玉を取り出し、ハンカチの上に乗せてテーブルに置く。


「様々な実験をしてみましたが『海からサハギンを呼び寄せ守護させる』といった説明になります。」


「ほう。」


「人気のない川や湖で試しましたが反応せず、海に水晶を触れさすことで複数のサハギンが出現しました。」


「それは…。」


「はい、海に元からいた種族ではなく召喚された、といった認識が正しいかと思われます。

実際、ギエ村ではあの後様子を見ていたサハギンたちは突如、泡となり消えました。」


「なるほど?」


「そしてそのサハギンは水晶の持ち主以外には敵対行動をとります、ですが一定距離以上は追跡せず、水晶の持ち主を守るような動きを見せます。」


「うんうん、なんとなく分かったよ。

どう?使える?」


「漁や海上運送業などの護衛として使うことは可能です、細かい命令は出来ませんが誰が仲間であるかは判断できる様子でした。」


「了解、じゃあこっちで預かります。」


ルーシーは水晶をハンカチで丁寧に包み鍵付きの木箱に保管した。


「では、この件はこれで以上になります、また奇跡関連のお仕事が来たらそっちに流すから。」


「ありがとうございます、では失礼します。」


丁寧な礼をし、部屋を後にするセティ。


1人になったルーシーは高級な革張りの椅子に腰掛ける

ギィときしむ音が静かな部屋に響く。


「セティ・パロネル…本部で腐らせるにはもったいないな…。

あそこまで動けるのに奇跡集めしかさせてないのはかわいそうだ、なにかデカい仕事でもないか…。」


軽いため息を吐き、窓を見る。


戦争なんて昔の話、魔族なんて見たことがない無邪気な子供たちが中庭で黒服たちと遊んでいる。


(ちょうど昼休みか…。)


少し小腹が減ったお腹をさすりながら料理長が作る日替わりランチを想像し部屋を出るルーシー。


彼女は数週間後に『近衛騎士東班ドラゴン襲撃事件』が起き、しばらくは作り置きのサンドイッチしか食べれないほど忙しくなるなど、想像すらしていなかった…。



読んでいただき誠にありがとうございます!!


X(旧Twitter) @yozakura_nouka


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