水やりの効率化
数日後…
この日はセティがギルドに来ていた。
「ケンジさんとリガさんはおられますか?」
「はい、少々お待ちください!呼んできますね。」
そしてリガ、ケンジ、セティの3人はギルド裏倉庫に来ていた。
「お待たせいたしました、グランシェル諸島からの便が届きましたのでお呼びいたしました。」
「おぉ、ありがとうございます。」
倉庫には1つの木箱が置いてあり、開けると中から茶色の艶がある綺麗な壺が出てきた。
「これも水壺ですか?」
「そうです、私のコネで特別に譲って頂きました。」
「じゃあケンジ、水の確認を頼めるか。」
「そうですね…これどうやって飲むんですか?」
目の前にある壺はケンジが持ち帰ってきた壺と形状が異なり、口が小さく拳も入らないサイズだった。
さらには底がいびつな形になっており、木箱から取り出して地面に置いてみたところグラグラと揺れ不安定だった。
「そう、これが貰えた理由なのです。
よく使われる壺は口が広くて水を容器ですくったり出来るんですが、この壺は見ての通り口が狭く容器ですくえない、さらに壺自体も大きくいちいち傾けるのも一苦労で安定しないという…。」
「なるほど、水壺みたいな生活に使う物は利便性がその価値に直結するのか。」
「その通りです、グランシェル諸島は世界で一番水壺を保有する島国でもありますので手に入れるのは簡単でしたよ。」
「では…よいしょ。」
水壺を少し傾け、中から透明な水が出てきた。
ケンジはコップに注ぎ匂いを嗅ぐ。
「う~ん、匂いはなし、そして透明。」
「毒はないですよ、私も確認しましたので。」
「ありがとうございます、では飲んでみます。」
少し飲み、味を確かめる。
水壺は水以外にも液体なら何でも出るので無色透明で飲めたとしても、以前の様に塩分濃度の高い水だったりすると水やりには使えない。
「甘くもなくしょっぱくもない、さらさらしてるし軟水かな?これなら水やりにも使えそうです。」
「それは良かった!ではさっそく設置しましょう!!」
◇ ◇ ◇
畑の端に水壺を設置した。
壺を木枠で斜めに固定し蓋をする、水が欲しい際にはこの蓋が蛇口のような役割をするという仕組みだ。
「これでだいぶ楽になりますよ…これって蓋開けっぱなしにしたらずっと出てくるんですか?」
「そうですね、基本的にはずっと湧き続けるらしいですよ。
けどもそれも個体差があってチョロチョロとしか湧かない物もあればドバドバと湧くのもありますよ。」
「ホントに個体差が激しい奇跡なんですね。」
「水壺はこれでよかったのか?」
「そうですね…理想は水路を作りたいところっではありますが、水路作りは慎重に計画を立てながらしなければなりませんね。」
「そうですね、水壺の事故は過去に何件か報告されています。
中でも多いのが水壺から水を出しっぱなしにしてしまう事故がおおいです。」
「それの何が駄目なんだ?水は土に吸われるだろ?」
「植物が多かったり適した大地なら良いですが、そうでない大地に水を与え続けると逆に良くありません。
土地そのものに水を吸収する能力がなかったり、吸収されない水が流れて他の所に危害を加えたりする可能性がありますので。」
「なるほど…それもまたアケラ様にご相談せねばならないな。」
これにより今後は井戸まで水を汲みにいかなくて済むので村人の負担はかなり軽減される。
「畑の様子は?」
「そうですね、ジャガイモに関しては数週間…カレンダーで言うと20日ほど経ったら芽が出てくると思います。」
「採れるのはいつごろになるんだ?」
「芽が出て成長して…葉が半分ほど枯れたころに収穫なので1月かな…今が10月なので、ちょっと遅れ気味ではあるけど気温的には問題なさそうです.........恐らく。」
「まぁ収穫できそうなら問題ないか...ってことはもうそろそろ魔王国からの定期便が来るのか?
カレンダーを見る癖をつけないとな。」
「はぁ、カレンダーは便利ですけど信者や貴族からは『魔族の文化なぞ信用できん!』って声が上がって大変ですよ、ゴルド王国内の普及はまだまだ先ですかねぇ…。」
「コーネリア教のシスター殿も大変ですね。」
「差別は減りましたが心の奥底にある苦手意識を変えるのには時間がかかりそうです。」
◇ ◇ ◇
ゴルド王国、騎士団本部
「モーグ副団長、ただいま帰還しました!」
「ベリット隊長、北方警備ご苦労だったな報告を。」
「はっ。」
北方治安維持隊の任務を終えたベリットは長い報告書を読み上げた。
「なんと、魔物が…それはご苦労であった。」
「いまギルドに運び解体を進めていますが、解体人も初めて見る魔物らしく大忙しです。」
「ふむ、また報告書を待とうか…アケラの様子はどうだった?」
「元気でしたよ、上手く馴染んでる様子でしたし職員からも慕われていました。」
「そうか、また団長にも話しといてやれ、喜ぶだろう。」
団長のベルモンドはアケラが出て行って以来、少し元気のない日があるらしい。
「団長としてもっと威厳のある行動と態度をしてほしいものだが…。」
「団長のアケラに対する扱いは娘みたいなものでしたからね…。」
「ともあれご苦労だったな、魔物に関しては教会には?」
「はい、すでにアケラ村に在任していた2名の白服に報告済です。」
「あぁ、そうかあそこには2名も白服がいるんだったな、ならもうこちらから報告は要らんな。」
「あとリガ・アルヘオもギルド職員として魔物狩りに同行しましたが…彼女が居れば騎士団は要らないかと。」
「元金級冒険者か、確かにそうかもな。
今後はミルト村までの遠征でも良いかもしれん、新人遠征であの森は荷が重かろう。」
「かしこまりました。」
「では改めて今回はご苦労だったな、2日ほど休暇を取りたまえ。」
「ありがとうございます、失礼します。」
ベリットは一礼をし部屋を後にした。
「ふむ、でもまぁ教会に顔だけ出しておくか。」
副団長室で独り言を呟きモーグは外出の準備をした。
◇
「ごきげんよう。」
モーグが教会本部で挨拶をしたのは短い白髪に大きな瞳、顔に大きな引っ搔き傷をつけた白服だった。
彼女は脇に分厚い本を抱えたまま挨拶を返す
「あら副団長様、ごきげんよう、だんだん涼しくなってきましたね。」
「あぁ、毛皮のコートが欲しくなってくるな。」
「熊の魔物のコートならもうすぐ市場に出そうですがね。」
「はは、耳が早いな。」
「ふふっ、情報は鮮度が1番!」
「私が顔を出すまでもなかったかな?」
「いえいえ、ちょうどお伝えしたいことがありますので。」
「そうか、来てよかったな。」
◇
「わざわざお越しくださりありがとうございます。」
「どうも、まさか貴女様からお話を聞けるとは思いませんでしたよ。」
顔に傷のある白服に案内された部屋にはルーシーと書類の山が待っていた。
「案内ご苦労様ポルン、下がっていいわ。」
ここまで案内してくれた白服は『ポルン』というらしい。
彼女は礼儀正しく一礼をした後退室した。
「どうぞおかけください。」
来客用の革張りの椅子に腰掛けるモーグ
そして軽い口調で話し始めるルーシー
「さて、以前からご依頼いただいておりましたアケラ様に関する調査の進展をお話しいたしましょう。」
自然と前のめりになるモーグ。
「えっとですね、結論を言いますとですね。」
「うむ。」
「分からなかった、というのが結論です。」
「何?今なんと?」
「落ち着いてください。」
「何を言うか、我が国が誇る教会が調べ上げて何も分からないという事があるかと言っているのだ!」
「問題はそこなのですよ。」
「何?」
「今回我々が調べ上げたのはアケラ様が襲撃に遭われた際の積み荷の内容、それらの依頼元や被害にあった隊員たちの身元調査など…。」
「それで何も出なかったのか。」
「はい…ここからは私の独り言なのですが、この件どうも匂いますね。」
ルーシーは顎に手を置き眉間にしわを寄せる
「今回の一連の出来事はあまりにも怪しいのにもかかわらず何も出てこない…私は何者かの手が加わっているのではないこと思っています。」
「心当たりが?」
「いえ…これは憶測ですが、当初の予定であの積荷は国王への献上品でした、その中にドラゴンをおびき寄せるような何かがあったとすれば?」
「ふむ…ドラゴンの種によってはとんでもないことになっていたかもしれんな。」
「だが2つの予想外が起きた結果が今回の事件かと、私は思います。」
「2つの予想外?」
「まず1つ目は王都につく前にドラゴンが襲撃に来たこと、2つ目はアケラ様がドラゴンを倒した事です。」
「ふむ。」
「仮にアケラ様の証言が正しく、ドラゴンを討伐したとするのならば…その死体がどこにも見当たらなかったというのが不自然ですね。」
当初アケラはドラゴンとの死闘の末に気絶していたところを巡回兵に発見される。
その際巡回兵や援護兵が見たのは散らばった荷物に犠牲者の遺体などで、魔物やドラゴンなど見当たらなかったそうだ。
「つまり何者かが後処理をした?」
「そう考えるのが良いかもしれません、それかドラゴンが逃げたか…。」
「それも含めて調査をだな。」
「えぇ、ではここからが本題なのですが…ここからの調査は恐らく他国まで踏み込んだ調査になります、最悪の場合は魔王国まで。」
「…。」
「教会側としては和平状態にある今、踏み込んだ調査は御法度です。」
「ではどうしろと。」
「という事でこちらを。」
ルーシーは1枚のメモをモーグに渡した。
「これは?」
「魔族などに対して少なからず不信感を抱いてる者、正義感の強い者、上司からの命令に忠実な者などの白服のリストです。」
「つまり?」
「ここからは教会としての仕事はできません、ですので彼女らに個人的にお願いいたします。」
「良いのですか?」
「もちろんよくありませんのでここだけの話で、もちろん彼女たちにお願いする際には私の名を出してもかまいませんよ。」
「信頼できるのですね?」
「えぇ、白服達は親子の血より濃い繋がりで出来てますから。」
ニコニコと微笑むルーシーにどこか不気味さを感じた。
◇ ◇
「おや、お帰りですか?」
「あぁ。」
帰り際に案内してくれた白服に出会った
「たしか、ポルンだったかな?」
「はい!ポルンと申します!!」
「ふむ…いくつか質問しても?」
「どうぞ!!」
元気よく挨拶をするポルン
「君は魔族は嫌いかい?」
「…嫌いではないと言えば嘘になります、ですが魔族で一括りにすべきではないと思います。
魔族の中にも良い人はいますし、一番悪いのは戦争そのものだってことも…。」
「なるほど。」
「ルーシー様からお話は聞いています、もし魔族がかかわっていたとするならば戦争の種火になりかねません、私の家族は魔族に殺されました、二度と私の様な者を出さないためにも真相を突き止めるべきです。」
先ほどまでのにこやかな笑顔を浮かべる少女はどこにもおらず、目の前には真剣なまなざしを向ける1人の白服が立っていた。
「そうか…ありがとう。」
「では、明日から調査を行います、教会の身では動けない事もあるので内密に。」
「分かった、私は他の者にも声を掛けようと思う、何かあったらいつでも来てくれ。」
「ふふっ、声を掛けられなければどうしようかと思いました。」
「そうか、自主的には動けないのだったな。」
「はい、改めてこの機会を与えてくださりありがとうございます。」
「あぁ、よろしく頼む。」
その帰り道
モーグはルーシーに貰ったメモ帳を読み返し、ポルンの名前にチェックを書いた。
◇ ◇
それから数日が経ち、アケラ村の畑にケンジ達は立っていた。
「いい感じですね、土壌の栄養や固さなどが気がかりでしたが問題なく出芽してます。」
この日の朝、いつものように村人のゴベさんらが水やりなどで様子を見に来た際に小さな芽が出ているのを発見したのだ。
すぐさまギルドまで飛んで行きケンジも畑に飛んできた。
「このまま成長すればジャガイモが収穫できるってことだよな!!」
「そうですね、懸念点としては病気や虫食いなどがありますので注意していけば問題ないと思います。」
おおぉと小さな拍手が起こりみんなで喜んだ。
「いや、まさか上手くいくとは思ってませんでした!野菜は買うものだと思っていたのに作れるとは!!」
「正直不安ではありましたが、とりあえずは一歩前進ですね!!」
ゴベさんと強く握手を交わし、そのあと水やりの手伝いも行った。
そしてギルドに帰り昼食がてらリガに報告する。
「という事で、出芽まで行ったので後は様子を見ながら収穫を待てばよろしいかと、もちろん待つだけじゃなくて芽かきや土寄せも行いますが…。」
「あ~、そのメカキとやらは知らんが取り敢えずはよくやったな、アケラ様にも報告しておくよ。」
「う~ん、カレンダーでは10月の下旬かぁ、玉ねぎを植え始める時期でもあるなぁ。」
「何だまた新しいのでも植えるのか?」
「えぇ、玉ねぎって野菜があるんですが…王都に市場でも見たことないし珍しいのかな?あれはジャガイモと違い花から種を取り栽培するので市販の玉ねぎを買ったところで増やせないんですよね。」
「????」
「あ、えっとですね植物って増やし方がいくつもあるんですよ、一番わかりやすいのは花が枯れた後に出来る種をまいて増やす方法ですね、ジャガイモは特殊で芋自体から芽が出るので市販で売られているジャガイモを購入して植えることで栽培が出来ました。
しかし他の野菜だと花から種を取らないといけないものが多いです、その場合だと種を入手しないと栽培は無理ですね。」
「なんかいまいちよくわからんが種が必要なんだな?」
「そうですね、種ってどこで手に入ります?」
「それは…ジュゲ大密林の密林同盟国であるエルフの国だろ。」
「あぁ、この国の野菜の輸入先の…。」
「そうそう、ほぼすべての野菜をエルフの国から輸入してるからな、となれば種があるんじゃないか?」
「買えたりしますかね?」
「いやぁ~厳しいとおもうな、エルフの国から野菜を仕入れる為には信用と莫大な契約金が要るって話で、商人は皆大変らしい。」
「じゃあ野菜はエルフの国が独占を?」
「そうだな、そう捉えてもよいかも知れない。
だがゴルド王国に野菜を育てる者が居ないといった点や、エルフたちのように長生きで植物に詳しい者達が野菜を育てるのはごく自然だという感じもあってだな…。」
(なるほど、元居た世界とは違って農業といったものが普及されなかった世界という捉え方の方が自然なのかもしれない。)
「今の話だと、このまま野菜を育て続けていたら…もしかしたらエルフの国に目を付けられるかもしれない的な…。」
「う〜む、その可能性は果たしてあるのだろうか?
エルフの国も完全に野菜の独占販売をしているわけではないからな、実際に小麦などはゴルド王国の一部地域が栽培に適しているとやらで栽培はされているし…。
様子見をしながら続けていくしかないとしか…。」
「もっと自由に野菜を育てたいなぁ…。」
ケンジは昼飯に出されたサンドイッチを頬張る、先日キャラバンが来た際に取引をしたトマトやレタス、鶏肉が挟まっている豪華なサンドイッチだ。
「トマトとか楽しいんだけどな…。」
ケンジは頬張っていたサンドイッチを見つめながらぼそっと言呟く。
「…この種からいけるのかな。」
見つめていたのはサンドイッチに挟まっていた大玉トマトの輪切りになったもの。
中には当然ゼリー状なものに包まれた種が見える。
(思えば前の世界では種苗会社などから苗を購入して植えることが多かったな…。)
種をつまみ皿の上に数個取り出す。
「何してるんだ?」
「トマトの種です、一度やってみたいことがありまして。」
「え、ここから出来るのか?」
「おそらく。」
「私毎回食べてしまっていたな…。」
「種は基本食べても大丈夫ですよ、というかトマトは食べれるんですね。」
「なんだ、私とて野菜は苦手なだけであって食えるぞ。」
「どんどん食べましょう。」
「肉だけでもいいんだけどなぁ…。」
◇ ◇
その夜
村人のお願い事を聞いたり書類整理をしたりなど、畑の仕事が終わった後は夜ご飯まで雑用をこなしたケンジ。
思いのほか雑用でもやることは多く、毎日が忙しい日々を過ごしていた。
「ふぅ、今日も疲れたな。」
水浴びをして汗を流しサッパリしたケンジは自室へと戻ってきた。
「さて、植えるか。」
自室の窓際には一つの植木鉢が置かれており、植物を植える準備が整っていた。
机の上には昼に取ったトマトの種が布の上で乾燥させられており、水洗いをしたのでゼリー状の物もあらかじめ除去してある。
「もしこの前のジャガイモみたいに…自分が植えた植物の成長が爆発的なものになるのならば…。」
ケンジの授かった『緑の指』は植えたジャガイモの成長を爆発的に増幅させた、植えたら一晩で発芽し成長したように。
「水やりをして、人差し指の第一関節を目安に穴をあけて…2~3粒を…。」
撒いた後は土をかぶせ種が流され無いように優しく水をやる。
「これで明日の朝には結果がでるかな?」
こうしてケンジは遠足前の子供のころの気持ちを少し思い出しながら眠りについた…。
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