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取り調べ

「ふーむ、シルマ領の今期の納期分は前年度より減ってるな…。」


書類とにらめっこしているのは占い師。

今現在魔王国に書類整理や文字を読み書き出来るものは少ない、そのせいか占い師といった名を貰っているのにかかわらず事務仕事の大半を任されている。


「アケラ村に期待するか…転生者が生産系の能力ならありがたいんだけどなぁ。」


独り言を呟きながら書斎で一人仕事をしていると。


コンコンっとノックの音が響く。


「占い師様、入ってもよろしいでしょうか?」


「どうぞ~。」


書斎に入ってきたのは妖艶な淫魔、以前ケンジの夢に入り込み誘惑に失敗したサキュバスだった。


「どう?なんか進展あった?」


「それが…夢に入れないんです、主要人物どころか村人さえにも。」


「ありゃ、バレたかな?多分結界かもしくは女神関連の強い『奇跡』の品があるかもしれません。」


「どうしましょう?」


「こうなったらもうこちらから出向くといった手もあります、いつまでも城に籠ってたらさすがに怪しまれますので。」


「行かれるのですか!?シルマ様に続いて占い師様までもが行かれますと城が手薄になりますが…。」


「今動きがあるのはどこです?」


「今のところ他のところは動いてなさそうですが。」


「これから寒くなる時期ですからリザードマン達は動きが鈍くなるので攻め込んでは来ないでしょう、獣も同様におとなしくなる、今が自由に動くのに適してるでしょうね。」


「はぁ、なるほど。」


「もし心配ならシルマを置いて私だけで行くのもありですが…それはさすがに危険すぎるので避けたいですね。」


「行かないという手は?」


「それもありですね、私という存在をちらつかせて相手にプレッシャーを与えるというのもいい…。」


コンコン


誰かが書斎の扉をノックした。


「失礼します、占い師様。」


入ってきたのはシルマ


「何かあった?」


「はい、部下がアケラ村のリガさんから連絡がきたとの事です。」


「あの角の子?便利な力よね、離れたところから会話ができるなんて。」


「大変助かっております、それで内容なのですが…。」



◇     ◇



「ご指名!!??」


「はい。」


「私が?」


「そうです、『ゴルド王国側から使者が来たので話し合いの場を設けたい、是非占い師殿にもご主席願いたい』との事です。」


「使者って誰だろうか、アケラ村に白服がいるから次は大臣とかかな?」


「聞いてみますか?」


「いやいや、これ以上怪しまれるのは避けたいね。

分かった行こう、準備をするから明日出ると伝えといて。」


「承知いたしました。」


シルマはほぼ電話みたいな役割になっている部下の元へと向かった。


「うーん、こっちから行こうと思ってたけど、向こうからお誘いがあるとは…。

少し警戒していくか…。」


「大丈夫ですか?私が淫夢に入れなかったこともありますし、もしかしたら…。」


「最悪のことは考えておいてもよさそうだね。」


占い師はそう言って明日の準備を進めた。




◇     ◇     ◇



「返事がきました、『明日伺う』との事です。」


「早いな、もっとかかる距離だと思うのですが。」


教会の尋問室、正確には空き部屋なのだが窓のない倉庫のような場所に5人の人影があった。


「リガさんにしか聞こえてないので真偽が分かりませんね。」


「セティさんは何も感じませんでしたか?」


「えぇ、モントさんも?」


白服2人は手に持った道具を見ながら確認作業をする。


手に持っているのはランタンと水晶、ランタンはゆらゆらとロウソクの火が揺らめいており水晶も特に変わった様子はない。


「う~ん、やはり魔法ではないか…。」


「あの、これは?」


「これは離れた場所に声などを届ける魔法を調べる方法だよ、もっとも考えられるのは風に声を乗せる方法。

これは非常に難易度の高い魔法で文献に乗ってる記録でも成功例はとても少ない、だが魔族なら可能性もあるかと思ってね。」


ケンジにも分かりやすいように説明をしてくれるアケラ。


「風が来ない密室で、風の動きが分かるロウソクで調べたんだけどな…。

んで水晶は精霊の動きを見る奇跡の道具かなんかじゃないかな?前に一度似たのを見たことある。」


「さすが元騎士団ですね、両方ともあたりです。

精霊の動きも見られなかったので魔法の動きもなさそうです。」


「となると?」


「ケンジさんやアケラ様と同じような能力持ちかと…リガさんの言ってることが本当ならば。」


「この状況になってまで嘘はつきません。」


白服2人と領主にまで囲まれてる状況、さらには狭い部屋で圧迫感がすごい。


「嘘はついてる感じはなさそうでしたね。」


「わかるんですか?」


「ケンジ…ここにいるのは白服2人に元騎士団だぞ?失礼な言い方になるかもしれないが尋問のプロだ、嘘ついたかどうかは大体わかる。」


「なるほど。」


白服など教会関係者は言わずもがな、騎士団も犯罪者に対して尋問を行うことがあるので慣れている。


「こうなると魔王国側にもケンジの様な転生者が要る可能性があると言った考えが出来ますね。」


「一番怪しいのは占い師ですね、どんな人物なのかを見極めなければなりません、次回は我々も話し合いに参加させてもらいます。」


白服の2人にはその権利がある、終戦後の現在では魔王国関連の物事にはすべてに教会がかかわる。


教会は大戦当時から記録してる膨大な魔王国の情報を保管しており、魔族の専門家ともいえる。


「セティさん、一度教会本部に話を戻した方が…。」


「明日には来るのですからもう遅いでしょう、それに占い師は教会本部に情報が無かったので本部から人員を呼んでも意味がないでしょう。」


「そうですか…。」


「白服のお2人には悪いですがリガを返してもらってもよろしいですか?

明日の為に準備をしなければならないので。」


リガの肩に手を置き、急かすアケラ。


「えぇ、かまいません。

まだ完全に疑いが晴れたわけではありませんが恐らく大丈夫でしょう、本部への報告書は上手い様に作っておきます。」


「助かります、案外話が通じるんですね。」


モントは不服そうな顔をした


「私だって今回の上層部の判断は軽率だと思っています、山エルフってだけで判断してると思われます、ですが上層部は皆古い考えが抜けない方々ですのでほぼ諦めてます。」


「教会も大変なんだな。」


「差別されるこちらの身にもなってくださいよ。」


心底疲れた顔でげんなりしてるリガは一刻も早くこの場から解放されたいと顔に書いてある。


「セティさんは甘いところがあるので…本来なら上層部に逆らうような態度を見せるのも恐ろしいことなんですが長命種ゆえの余裕があるからなのか…ひやひやしますよ。」


「なんか…申し訳ないです。」


「謝るくらいなら仕事を全うしようとしてください。」


序列も年齢も下のモントに叱られるセティはどこか新鮮な物を見たような気がする。


「ケンジは明日の予定は?もしかしたら出てもらうかもしれないから。」


「自分は大丈夫です、ジャガイモも植えれましたし明日は雨なので野外作業葉できませんので。」


「雨なの?」


「恐らく。」


「それも能力ですか?もし差し支えなければ詳細を…。」


その後能力ではない事や雨の予知方法などの説明などをすることになった。



◇     ◇     ◇



「んぐっ!はぁ結構早く着いたね。」


「オオカミに出会わなかったな、俺ら以外にも依頼を受けてる人もいたからだいぶ数が減ってる証拠だな。」


荷馬車から降りるバン達、荷馬車はそのまま倉庫の方に行き荷下ろしをする。


「メメさんはどうするんですか?」


「とりあえずアケラ様と会わなければ今後の予定もわかりませんね、まだ領主館が出来てないでしょうし恐らくギルドで寝泊りをされてると思われますのでギルドに向かいます。」


「私たちも依頼報告をしないといけないのでギルドでお別れですね。」


「道中お世話になりました、アケラ村にはいますのでまた何かありましたらよろしくお願いします。」


こうして青銅の短剣の3人とメメはギルドで別れた。


3人は報告の為に1階のギルドカウンターへと向かう。


本来、依頼報告は大変込み合うので長蛇の列に並ぶ覚悟が必要だが、アケラ村ギルドはその心配はいらない。

ギルドに入って見渡しても冒険者の姿は3~4人程、カウンター1人とバーカウンターに3人、バン達が王都で新しい村ができたと張り紙を見てから数日が経ったがまだ人が増えた気配がない。


「じゃあミリアちゃん、依頼の方よろしく。

俺はもうちょい森の奥の方見てくるわ。」


「分かりました、マッシさんもお気をつけて。」


どうやら窓口でやり取りをしていた人物は職員だったらしい。



「どうも。」


「お疲れ様です、ご用件は何でしょうか?」


「依頼達成報告です、『街道に出たオオカミの討伐依頼』です。

これ、オオカミの耳です。」


受付カウンターに麻袋を置く、中にはオオカミの右耳が12枚入っており無事依頼の数を超えていることを確認できた


「確認しますね〜、はい確かに10枚ありますね!余分の2枚も確認しました。」


「ねえお兄ちゃん、今回の報酬は1匹当たりいくらなの?」


「依頼書見とけよな、今回は普通の森オオカミだから1匹当たり50Gだ、だから今回は500Gとボーナスが少し付くぐらい…。」


「あの、その件なんですけど、本当に今依頼内容に変更がありまして。」


「「え?」」


「事務局長と森林監視員からの要請で緊急性が上がりまして、報酬が増額しました。」


「ていうことは?」


「1匹当たりの報酬金が100Gとさせて頂きます、それにより今回のお支払いは100G×12匹で1200Gのお支払いです。」


「せ、1200G!!」


「凄い!1回の報酬金で過去最高じゃない!?」


「これはすごいですな、しかしなぜ?」


3人は目を輝かせながら窓口に詰め寄る。


「今回のオオカミ討伐依頼は本来森林調査と一緒に受注される予定でしたが、森の様子がまだわからないことが多く尚且つ銀級冒険者以上でないと危ないという事で討伐依頼だけが出たんです。」


「なるほど、確かに調査依頼だと銀級が行くことが多いですな。」


「そしてその後の話し合いで緊急性を変更する可能性がありましたが、つい先ほど緊急性が高いと判断されまして…。」


「ありがたい話ですが大丈夫ですか?その、森の方は。」


「恐らく大丈夫かと思います、緊急性が上がった理由としてはミルト村付近でも目撃情報が上がったからです。」


「範囲が広がってる…。」


「今現在ミルト村と野営地でも同様の依頼を発行してますので当分は大丈夫です、あとは北部治安維持隊を要請して森の調査をする流れになると思います。」


「え?北方治安維持隊なら野営地まで来てると思いますよ?」


「え!?来てるんですか!?」


「えぇ、国境付近の調査だと言ってましたよ?

隊長さんの名前なんだったっけ?」


「ベリットさん、15人ほどの隊だったかな。

恐らく入隊直後の新兵が数名と熟練兵が5名程だと思います、偵察兵もいたかな。」


「詳しくお聞かせ願えますか?」


「もちろん喜んで。」


騎士団オタクのバンは隊の装備や動きであらかたの予想ができた、その後ちょくちょく話を脱線しながら有益な情報をミリアに話した。





「なるほど、となりますと恐らくこちらに着くのは今日の夕方か明日ですかね?」


「あの人数だと野営も大変なので今日中には来るかもしれません。」


「分かりました、早急にギルド内で情報共有させてもらいます。」


ワタワタとするミリア、ここから先はギルド職員の仕事なのでバン達冒険者は何もできない。


一仕事終えた青銅の剣はバーカウンターに腰掛ける。


「いやぁ、でもいい稼ぎになったな。」


「確かに、突然報酬が上がったのは驚きましたが良い結果になりましたな。」


「何に使う?私欲しいのがあるんだけど。」


「石鹼は買わないからな、取り合えずお疲れさまという事で飯食おう。」


頬を膨らませるリリーを横目にバーテンダーのジギに料理を注文する。


「なんかおススメってありますか?」


「まだ試作段階ではあるが、ボアの肉を使った料理がいくつかある。」


「ボア肉かぁ、どうする?」


「オオカミよりはおいしいでしょう、大鳥も良いですがお祝いの席でもありますし少し特別な料理を頼んでみるのも一興では?」


「わたしは卵とパンでいいかな…。」


「今回はリリーも食べてもらうからな、3人で仲良く同じものを食べて仲を深めようじゃないか。」


「えっ。」


「マスター、おススメを3つ。」


「あいよ。」


ジギは厨房に入って行った、いつも卵やパンなどを食べているリリーは期待が2割不安が8割の表情で待つしかなかったのだ。


◇     ◇


「待たせたな、今回は試作段階だから安く提供させてもらう、是非食べ比べて味の感想を聞かせてくれ。

まずは若いボアのステーキだ、子供のボア肉は臭みが少なかったのでワインで少し臭みを取った程度だ、さらに肉質がやわらかくする効果も見込めたので普段と違う味わいになってるはずだ。」


3人の目の前に置かれたステーキ肉は脂身と赤身が良いバランスでカットされた手のひらサイズのイノシシ肉だった。

少しワインの色素が移った程度に色が付いており、中まで火がしっかり通った褐色のおいしそうな一品だ。


「おぉ、凄い美味そう!!ボア肉は乾燥させた奴しか食ったことないなぁ。」


「燻製肉ですね、そのまま乾燥させただけだと臭みがあるので香草などで燻して香り付けをした物でしたね。」


「ではさっそく。」


良く研がれたナイフで肉を切りフォークで口に運ぶ。


「「「!!」」」


驚愕する3人、そもそも冒険者業をしている者たちは基本的に保存食で生活している。

肉を食べる時は狩りに成功した時や、今回の様に依頼達成の報酬金が多い時に食べるぐらいだ。


ましてや王都などの都心に行けば行くほど肉料理は高くなる、屋台の何の肉かわからない串肉を食べるぐらいがせいぜいだろう。


「うまい!!!」


「なにこれ全然臭くない!」


「ワインの風味が程よく臭みを消してるのですな。」


口の中に肉の脂が残っているうちに同じ皿に乗っていた蒸かしたジャガイモを食べる。


「やっぱり脂っこい料理にはジャガイモが合うな。」


腕組をして様子を見ていたジギが頷く。


「料理は組み合わせだ、王都でしか手に入らない高級素材を使わずともいいものは作れる。

むしろここでしかできない料理もある、この料理に使った肉は鮮度のよいボアの子供の肉だ。

成熟した大人のボア肉だとより臭みが出るし、肉質も硬い。」


「なるほど、確かに小ぶりなボア肉は市場では見かけないな、やっぱり可食部が多い大人のボアの方が人気だしコストが低いからか?」


「おそらくはな、そして次に食べてもらうのは大人のボア肉だ。」


「え?臭みがあるんじゃ。」


「食べてみろ。」


次の料理が運ばれてくる。


ステーキの横に置かれた器にはゴロゴロとした茶色い塊が入っており、食欲がそそられる香りがした。


「これは?」


「今うちの職員の1人と料理法を開発してるものでな、料理名は知らん。

ワインとボア肉、更に硬水をいれてジャガイモとトマトなどを一緒に煮込んだ料理だ。」


「おぉ、凄い。」


「みてこれ、フォークがすんなり刺さるよ。」


「ボア肉がここまでやわらかくなるとは、臭みもないですな。」


肉じゃがの様な名のない料理をガッツく3人


食後にパンとワインを飲んで食事を終えた。


「どうだった?」


満腹になった3人にメモ帳を取り出したジギが感想を求める。


「いや、メッチャ美味かったです。」


「アケラ村は森林が近く野生動物の肉が手に入りやすいので名物になるかもしれませんね。」


「意外と脂っこくなかったかな、特に煮込みは女性でも食べやすいかも。」


「ふむふむ、いくらくらいなら買う?」


基本的な肉料理なら何の肉かによるが安くて10Gから高い物で100Gの物もある。

コショウなどの香辛料を使い始めたらきりがない。


「ボア肉の仕入れ値がどんなものかわからないけど、今回みたいに依頼成功時なら少し高くても頼むかも。

20Gくらいまでなら?」


「ステーキ単品ならそれくらいかもね、パンとかセットなら25Gとか?」


「20Gくらいか…、わかったありがとう、また職員と相談してみる。」


「でもこんなのなかなか食えないよな、王都でも食べれないんじゃ?」


「う~ん、貴族が高級品を独占してるってこともあるが、調理方法でここまでうまくなるとはなぁ。」


「この村の名物料理になるかもね。」


満足した3人は駄弁りながら夕方まで駄弁った。



◇      ◇     ◇     ◇



その日の夕方、北方治安維持隊がアケラ村に到達した。


「お疲れ様です、領主様に野営の許可を得てきます。」


「いや、自分で行く。」


ベリットは馬から降り、ギルドへと向かう。


中に入りあたりを見渡す。


「おや、君たちは。」


「あっ隊長さん。」


「ここで会うとは、野営地ではすまなかったね情報を教えてもらったのに夜食を奢り損ねてしまった。」


「いえいえ!!隊長さんも忙しいでしょうし。」


「今は食後かな?良ければ奢らせてほしい。」


「いいんですか!?」


「ちょっとリリー。」


「バンどの、ここまで言われて断るのも失礼になりますよ。」


呼ばれたジギが紙を渡す。


「こいつらの食事代だ。」


「ありがとう........なかなかに食べたね。」


「「「ごちそうさまです。」」」



治安維持隊の隊長とはいえ75Gのステーキと酒代などを含めた90Gの支払いは痛いものであった。



読んでいただき誠にありがとうございます!!


X(旧Twitter) @yozakura_nouka


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