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"狂犬"

今日も野営地は冒険者、商人で賑わっておりゴルド王国最北端の野営地となるここは様々な荷物が行き交う為の集荷場にもなっている。


そんな野営地に珍しい来客があった。


「あぁ、ベリット、前は国内の警備隊にいたんじゃなかったか?」


「ビットさん、あなたなら詳しい情報を得てることを踏まえて話すが、アケラの騒動があってから色々異動があったんだ。

今は北方治安維持部隊の隊長だ。」


「そうなのか?まぁよく来てくれた、アケラ村までか?」


「そうだ、正確には野営地より北の国境付近の調査だ。」


ビットは吸っていた葉巻を灰皿に置き不満そうな顔で鼻をフンと鳴らす。


「まだ認められてないのか。」


「知っていたのか!?」


「割と有名な噂話だ。

『北の廃村は国に見捨てられた村、地図から消された村』だと。」


「ビットさん、どうすれば村として貴族どもに認められる?

アケラをあそこに送ったのは国王の名だ、反対してるのは貴族だろう。」


「だろうな、ミルト村の辺境伯はもう年だからどこぞの貴族が隙を見て領地を受け継ぐつもりだろう。

だがそこで国王がアケラを置いた。」


「じゃあいずれミルト村までアケラの領地になると?」


「それを王様は期待してんじゃないか?

実際アケラがここ一体の領地になれば片付く問題が多いからな。」


葉巻を口に含みながら語るビットはどこか面白そうに話す。


「辺境伯高齢問題、魔族との領地問題、土地の有効活用方法...あわよくば領地拡大とかな。」


「あまりにもアケラに対する負荷が...。」


「ベリット、お前さんあの村に誰がいるか把握してるか?」


「ギルド職員か?いや、誰かまでは把握してないが...。」


「そうか、ならお楽しみに取っておきな!

俺はあの村がここら一体を統べる『街』いや『都』になると思うぜ。」


「...。」


思わず生唾を飲み込むベリット、目の前に座る太った大男は商売のことならこの国で右に出る者は居ない。


『ビットに認められた商人はどこへ行っても成功する』と言われるほど先見の目がある。


そんな男が期待する村、アケラ村は今後どうなるのか。


「楽しみだな。」


「まぁ、だいぶ先の話だろうな。

今日はゆっくり休めや、ウチの料理は絶品だぜ。」




◇ ◇ ◇



「テント、大人3人って空いてる?」


「えぇ大丈夫ですよ。」


夜、青銅の短剣ら3人は依頼を無事終えて帰ってきた。


「ギリギリだったね。」


「もう少し遅かったら真っ暗でしたな。」


「あのタイミングで騎士団に会えて情報交換出来たのが良かったんだ、あのままミルト村まで行ってたらオオカミは見つからなかっただろうなぁ〜。」


「結局何匹?」


「あの後7匹で合計12匹、10匹が依頼だから2匹分はボーナス出るかも。」


「やったね、楽しみ。」


「想定よりも多かったですな、その事も報告せねばなりませんな。」


依頼によっては依頼数が定められており、それを超えた場合は数えない場合とボーナスとして払われる場合がある。


個人依頼だと報酬があらかじめ定められておりそれを超える事は滅多に無いが、ギルド依頼となるとその功績に応じて報酬額が変動する事がある。


因みに初心者に大人気の薬草採取依頼がそれに当たる。

常時提示依頼で対象の薬草を量り買いしてくれる、大きな戦闘や大掛かりな依頼があった際は薬草不足により単価が上がるので銀級冒険者ですら薬草採取依頼に走る事がある。


「しかし疲れましたな、このまま食事をして休みましょう。」


「えぇ!買い物したいんだけど〜。」


「明日の朝にしよう、今日は疲れたよ。」


「ですな、あとリリー殿、本日は騎士団が宿泊されてる様子。

そうなると明日の早朝の方が賑わいがあるでしょう。」


「そうなの?じゃあそうしようかなっ。」


3人は明日の予定について話し合いながら野営地職員からテントの番号札を貰い料金を払う。


冒険者は割引が有り、一般テント大人1人15Gだが10Gになる。

故にミルト村へ戻るより野営地にわざわざ寄る冒険者が多い。


冒険者が多いとその分荷物を狙う泥棒や食い物の匂いに釣られた獣などに対する警備代が浮くのだ。


ビット曰く『冒険者は何があっても自己責任だ。』

らしい


その後食堂へ移動する3人。


ちらほら騎士団員らしき人が居るが冒険者が半数、そして商人と旅人がその他といった人数だ。


「何食べる?」


「私は卵とパンで良いかな。」


「私は冒険者セットで。」


「じゃあ俺もセットで良いかな。」


冒険者セット、シンプルなパンと肉とスープ。

冒険者証を提示したものだけが食べれるこのセットは王都ギルドで人気だったメニューを野営地でも食べれる様にとギルドと協力して提供してるメニューだ。


たったの5Gと破格の値段で買えるセットは冒険者に大人気!!


しかし野営地の『冒険者セット』の問題は肉。

その日に入った1番安い肉で、スープは料理の過程で出た切れ端などを煮込んだ物なので日によって味がかなり違う事だ...





バンとゴートは注文した冒険者セットをテーブルに置き2人で見つめ合ってる。


「どうだ?色的にボア系の肉だと思うんだが...。」


「にしてはスープにあまり脂が浮いていないですな...赤身だとジャンプディアとかが思い当たりますが...。」


「ジャンプディアとかの生息地はもっと東だ、ここら辺じゃ高いよ...なんだこの肉。」


「なんで毎回賭け事みたいな事するんだろ、卵パンも同じ値段なのに。」


「いやいや、あたりの時はすげぇ美味い時あったから!!」


「では、冷める前に食べましょうか...。」


「だな。」




因みに本日の肉は「オオカミ」。

運搬力に余裕があった冒険者が来る途中に遭遇したオオカミを退治し、その場で血抜きをして持ち込んだ物らしい。

肉はケモノ臭くて価値は無いが毛皮が寒くなるこれからの時期に良い値段で売れるのだ。



食後のバンとゴートは「よく考えたらオオカミ討伐依頼が出てる時点で察するべきだった。」

と感想を述べていた。


味はお察しの通り。



◇ ◇ ◇



その夜、アケラ村では。


「お呼びですか。」


リガが1人でギルドマスター室に入る。


「呼んだ呼んだ、今さっき申請書読んだんだけどさ。

本気で森の調査行くの?」


部屋にはアケラとダロラン。

毎度の様に書類仕事をこなしている2人、その書類の中には依頼に関する書類も含まれている。


ほとんどの依頼はリガやミリアが処理するが、場合によってはギルドマスターやその他上司の許可が必要な場合がある。


「今、アケラ村に滞在してる冒険者の最高ランクは銅、しかも採取の銅級です。

そうなると冒険者に任せるより私とマッシで調査するのが確実で安心です。」


「マッシ君の承諾を得たの?」


「まだですが、上司命令で駆り出します。」


「いいね、そういうところ好きだよ。」


「お待ちを、もっと慎重になるべきでは?

オオカミが生息地である森から出る程今の森には何かが起こってると考えるのが妥当かと。

あと発見されたオオカミの数も正確てはありません。

もっと大規模かも...。」


「まぁ、それを調べるのが調査なんだけどね〜、いつになるかは分からないけど騎士団の治安維持隊を待つ手もある。」


治安維持隊は定期的な領地巡回をしているので森の調査もしてくれるだろう。

だが騎士団もいつでも来れるわけでは無い、年に4回ほどだ。


「それでは遅いかと、前回はミルト村までしか巡回しなかったと聞きます。

今回もし早急に来たとしても村まで来るかどうか...。」


「来る来る、今の北方治安維持隊の隊長は私の同期だし、この前王都行った時に約束したから。」


「いつ来るか分からない様では遅いという話をしているのですが...。」


「あのね、私達は心配をしているの。

例え元金級冒険者だったとしてもブランクもある、そして万が一のことがあれば今のギルドからリガ君が居なくなるのは痛すぎる。」


「ですが」


「万が一だって、ここの森は王都周辺の森と違い魔王国領地との境界線がある。

何が来ていてもおかしくは無い。」


少し声のトーンを落として話すアケラ、遥かに年上のはずのリガはその様子に少し押される。


「で、ではこのままで良いと言うのですか?」


「もう少し待とうよ、村の準備も何も出来てない。

変に蜂の巣を突く事はないだろ?森の浅いところにはマッシ君が居るし異常があればすぐに知らせてくれる。

今の所異常はオオカミが森から出て行ったくらいだ。」


「...。」


「リガ、わかってくれ。

今この時期に君に何かあればギルドはどうなる?」


「......分かりました、ですが氷賢の季に入るまでに騎士団が来なければ行かせてください。」


「ふぅ、まあそれで良いよ。」


氷賢の季節の明確な始まりは定められてないが、一般的には氷が張り始めたらとされている。


「ただし、これ以上森に異変が起こるようでしたら...。」


「その時は是非、だけどせめて他の現役冒険者も連れて行って欲しい。」


「良いでしょう、約束しましたからね。」



リガは軽く会釈して部屋を後にした。



「......ふぅ。」


「ありがとうございました、すみません私に威厳が無いばかりに。」


「いやいや、ダロランさんは良くやってるよ。

彼女の正義感の強さは相変わらずだね。」


「そこが玉に瑕ですが、はて?以前からリガ君を知ってるのですか?」


「う〜ん、まぁギルドマスターだから良いかな、私が騎士団に入ったばかりの事だったんだけどさ。

その事が起きた時はまだ訓練生でね、国内の警備をしてたんだよ。」



ゴルド王国の騎士団の業務の内の1つ、警備。

入団したての新人は上司とグループを作り、王都内の警備を行う。


とは言っても治安が良い王都内、する事も特に無いのでちょっとした騒ぎもすぐに耳に入る。



『ギルドの受付嬢がギルドマスターを半殺しにした。』



平和なゴルド王国ではかなりショッキングなニュースだった。




◇ ◇ ◇ ◇




「リガ・アルヘオ、45歳、ジュゲ大山脈アルヘオ集落出身...あってるか?」


「はい。」


騎士団警備隊本部、と言っても騎士団の敷地内にある建物を借りてるだけだが。

その中にある尋問室、そこにはリガと警備隊の隊長、その他警備兵が居た。


「今回の件を読み上げるぞ、まずギルドマスターに対する暴行、脅迫、殺人未遂までも入ってる、本人は治療所で治療中だ。

酷い打撲、骨折、あと特筆すべき事が睾丸破裂。」


「おぉ。」

部屋に居た兵士が少し身震いをする


「なぁ、なんでこんなことしたんだ?聞き込みしたら君は職員皆に慕われてたらしいじゃないか。

ギルド事務局員で、しかも事務局長になる話も出てたんだろ?」


灰色の肌の一部が赤くなった拳に手枷をつけられてるリガは俯いていた顔をあげ尋問官を見つめる。


「私は救ったんだ。」


「は?」


「あのクソ豚野郎...ギルドマスターは若い女性職員に日常的に淫行紛いな事をしてたんだ。」


「ギルドマスターが?」


「私ももっと早く気がつけば良かった...アイツは立場を利用して...。」


「それに怒って?」


「今日の朝だ、部下が泣きながらもう限界だと泣きついて来て、何が起きてるか知らなかった私は立場上その子の証言だけで決めつけるのは良くないと思い皆に聞き回った。」


「なるほどね、それで常習犯だと分かったと。

君は見た感じ気が強いから被害に遭わなかったのかな。」


「さぁ、そしてギルドマスターに直接言ったんだ、『ギルドの長として正しい行いをしろ、そして娘たちに謝罪をしろ』と。

そしたらアイツ『少しくらい良いじゃないか減るもんじゃないし、嫉妬か?見苦しいぞ。』なんてほざきやがった。」


ギリギリと歯を食いしばる音が部屋に響きそうなほど顔を歪めるリガ


「...とりあえず動機は分かった。」


「ギルドで働いてる受付嬢達は皆健気な娘で、彼女らは家族のために身を粉にして働いてくれてるんだ!!

そんな彼女らを守るのも上司の務めだろ!

あんたもわかるはずだ!!??」


身を乗りこなしてテーブルを強く叩き訴える。


「落ち着け、そりゃわかるさ、俺も人の上に立つ者だ。

だがな、今回はやり過ぎなんだこんな事言いたくは無いが世間では悪者にされるのは貴女だ。」


「何?」


「この騒ぎを我々で揉み潰すのは無理だ、印刷屋にも伝わるだろう。

見出しはどうなると思う?」


「...。」


「山エルフ、ギルドマスターを暴行。

みんな食いつくだろう、ギルドマスターの淫行疑惑なんて些細なものになってしまう。」


「ギルドの信頼を根本から揺るがす事だぞ!!??」


「注目度の話だ、もちろん見逃せる話では無い、だがそれよりも国を代表するギルドの代表者が多種族の。

それも山エルフに半殺しにされたのが問題なのだよ。」


「またそれか!!我々山エルフが魔王軍に仕えていたのは何代も前の世代だ!!それも一部の集落のはぐれもの達だ!!」


「あぁ、分かっているさ、だが国民がどう捉えるかは別の話だ...。」


「......ハッ、もう良い、早く牢屋に入れるなり国外追放するなりしろ。

なんならその国民の前で晒し首にしていいぞ?『国に逆らったダークエルフ』としてな。」


「おいやめろ、冗談でもそんなことを言うんじゃ無い。

それに今回の件は上層部の判断待ちだ、まだ牢屋行きは確定では無い。」


「なぜだ?普通なら極刑だろ?」


「ギルド所属受付嬢34人による著名活動が行われた。

内容はギルドマスターによる日常的な猥褻行為、責任ある立場の者らしからぬ行動の告発だ。」


「...そうか、あの子たちが...。」


「もちろん、暴力行為に対する処罰はあるが私からもゆるくなる様に願書を書いておこう。」


「いいのか?立場的に。」


「我々騎士団は国王陛下の為に動く、それはつまり国の為。

ギルドマスターの行為は国の発展を妨げる行為であると判断する。」


警備隊の隊長は羽ペンを走らすと封筒に入れ隊長しか所持が許されないスタンプで封蝋を押した。


「これを持って行ってくれ。」


「はっ!」


隊長は後ろにいる警備兵に封筒を託し、警備兵は駆け足で部屋を出て行った。


「数日後には判決が出る、それまで待機しててくれ。」


「......感謝する。」


「まったく、もっと冷静になれ、過度な正義感は身を滅ぼすぞ。」


「耳が痛いね。」


「今のはエルフのギャグか?」


「ふっ。」





◇ ◇ ◇ ◇




「と言った話があってね〜、その時は担当地区じゃ無かったから仲間から聞いた話だけど。」


「はぁ、そう言えば新しく若いギルドマスターが着任してましたな、5年ほど前だった様な気が...。」


「んでその時ついた二つ名が『狂犬』。

忠誠心が高いけど噛みついてくる、自分が正しいと思ったならそれを貫き通す。」


「なるほど、それでその2つ名が...。」


「んでその後ギルドをクビになって、ミルト村で退職金暮らしをしてたところを再スカウトされた感じかな。」


「ふむ、アケラ村は問題児が集まりやすいようですな。」


「確かにそうかもね、ダロランさんは?」


「私は学園でちょっと揉めまして、追い出されたところを陛下に拾ってもらいまして、知識を生かして村の復興をと。」


「国王陛下の命かぁ、何か考えがあるんだろうけど...何だろな。」


「もうだいぶお歳ですからね、それでも私達国民はついていくのみですよ。」


「違いないね、私なんか陛下に命を助けてもらった様な感じだし。」


「陛下のお声がなければ重罪でしたか。」


「貴族どもはドラゴン襲撃事件の損失しか考えてなかったからね、金しか見えてない連中だよ。」


「ほっほ、今やそんな貴女も一応貴族ですよ。」


「あぁ〜やだやだ、めんどくさい。」


「ほっほっほ。」


2人は雑談をしながら書類にサインを書く夜を過ごす。




◇ ◇ ◇




「お、曇りだ、天は味方してるぞ。」


上着を着て朝早くジャガイモの様子を見に駆け足で倉庫に行くケンジ。


「おぉ、だいぶいい感じに乾燥してる、今日植えれそうだな。

てか植えないと間に合わないな。」


天気は曇り、カレンダーによるともう10月に入る。

肌寒さ的にもう11月かと思ったがまだ10月らしい、世界が違うので気候が違うのは当たり前の話なのだが慣れない。


「今回はお試しといった面もあるし、やらないと始まらないからな。」


ケンジはいそいそとジャガイモを植える準備を始めた。


木箱に程よく乾燥したジャガイモを並べてゆき、リヤカーの荷台に積んでゆく。

前世の感覚で載せると後悔することになるのは経験した。


ほぼ全てのパーツが木で出来ているため非常に重たい、車輪もスムーズに回らないし、そもそも畑までの道が割とボコボコなのだ。


「アルミ製品はいつの時代に作られたんだ...アルミ製品のありがたみが身に染みるな...。」


数個の木箱を乗せ、畑の横に下ろす。


「ふぅ、あと3往復かな。」


ケンジの目の前の畑には名も知らぬ鳥が飛んでいた。


(こりゃいい。)



◇ ◇



朝食後、畑には労働者組が集まっていた


「はーい、おはようございます。

本日は待ちに待ったジャガイモの植え付けを行います〜。」


おぉ〜と小さな歓声と小さな拍手。


メンツはいつものゴベさん達。


「とはいっても結構簡単です、今このジャガイモたちは半分に切ってるのでこの切った面を下にして植えるだけ。

間隔は手のひら!」


木箱に並べられた種芋を手に取り、みんなが盛り上げてくれた畝の真ん中に穴を開けて植える。


「深さは手を突き刺して指が埋まるくらいまで、そして穴を掘ってジャガイモを切った面を下にして置く。

そして土を被せる、以上。」


「そんなんでいいんですか?」


「もっとするなら肥料を撒いたり、土を改良したり、いろいろ出来るけど今は実験段階かな。」


アケラ村の財政はまだ大丈夫(主に食料面)と聞いてるので最悪収穫量が少なくても問題ないとダロランから了承を得てる。


「はぇ〜、これなら簡単だな。

んで次は手のひらを置いてっと、ここだな。」


ゴベさんが見よう見まねで植えると他の人たちも続々と後に続いて植えてゆく。


「俺反対側から植えていきますわ、合流したら詰めるか開けましょう。」


「じゃあ自分横の畝から...。」


皆がそれぞれ考えて仕事を始める


(この調子ならすぐ終わるな。)


ケンジは見回りながらジャガイモ植えを手伝う。


「あぁ、あまりギュッて土を押しちゃうと芽が出にくくなっちゃうから土を被せるだけでいいですよ、後で水やると自然とギュッてなるので。」





レクチャーしながら植えていると何やかんやで割とすぐに終わった。


「やっぱり人数多いと早いですね。」


「この後は何するんです?」


「本来なら水やりを行います。」


「1番近いのだとギルド裏の井戸ですかな?」


「今後はそうなりますね、ただ今回は違います。」


「あっ!知ってますよ〜、最近ジギさんの料理にも使われてるあの『水壺』でしょう?」


「いやぁ、あれは塩分が多すぎて良くないので使えません。

1番最初は天に任せます。」


「へ?天?」


植え付けが終わり皆がゾロゾロと帰ってきた所でケンジらは倉庫へと移動した。





「今から皆さんにわかりやすく雨が降るタイミングを教えます。」


ゴベさん達は目をキョトンとさせて互いに見つめ合う。


「何いってんだ?」


「皆さん、鳥は虫を食べる。

これは知ってますよね。」


頷く労働者達。


「本来なら、虫たちも天気の良い日なら地面より高い場所を飛びます、故に鳥も高い場所を飛びます。」


天気の良い日、言うなれば乾燥してる日は虫の羽根が軽く高いところを飛ぶ。


「しかし雨が降りそうな日になると湿度が上がり虫は羽根が重くなり高く飛べなくなる、そうなると低いところを飛んでる虫を食べに鳥がいつもより低い位置を飛ぶんです!!」


キマった!


だがそう感じたのは1人だけで、大半の傍観者は頭に?を浮かべていた。


「あの、その『シツド』てのはなんでしょ?」


「あっ!えっとそのシツドってのはですね...。」


(マズイ!なんかわかりやすい例えを...水...水分が...あっ!)


「えっとですね!遠い国の単語を使ってしまいました!!

わかりやすく言うと空気中に居る水の精霊の事です!!」


冷や汗をドバドバかきながら弁解をする。


「はぁ、その水の精霊さんがどうなると虫が飛べなくなるんだ?」


「えっとですね.....!!!

雨って空から水がたくさん降ってくるじゃないですか!!

それはいっぱい水がある、つまり水の精霊がいるって事ですよね?

雨が降る前にはその水の精霊が空から降りてきてるんです!!」


「ほうほう。」


「その水の精霊が虫の羽根を濡らして高く飛べなくするんです、イタズラみたいなもんですね!

で、低く飛んでるところを鳥が食べる!と言う事なんですね!!」


「なるほど!それで雨がいっぱい降ってる時はイタズラの力が強くて虫や鳥たちは飛べねぇってか!!」


「そ、そうです!!さすが!!拍手!!」


間一髪である。


「いやぁ前から思ってたんだよ、ギルドとかで王国で働いてる娘に手紙を送ろうとした時に『雨の日は鳥が飛べないから馬車で出したほうが早い』とか言われた事あってさ、昔デケェ鳥が雨でも飛んでるの見たから不思議に思ってたんだよな!!」


「なるほどな!空飛ぶ奴らは水の精霊のイタズラで飛べない時があるのか、それは仕方ないな!誤解が解けたぜ!!」


なんやかんやで空飛ぶ生き物が雨の日飛べない問題も解決してしまった。


「と、とにかく今朝見た時は鳥が低く飛んでたので今日の昼過ぎか夕方、遅くても明日には雨が降るかも〜って感じです。

降らない事もあるのでその時は皆さん井戸からバケツリレーになります。」


「わかった、精霊はわがままってのは常識さ!

まぁ、俺らの中で魔法使えるのちょっとしかいないけどな!!ガハハ!」


ここ数日、皆で話しながら作業をして少しづつだが村の1人として認められてるような気になってきた。


辺境の田舎特有のコミュニケーションって奴だ。


(懐かしいなぁ、前世はほぼ自動化が進んで農家同士のコミュニケーションがなくなったから、こういうのが楽しく感じる。)


目頭が熱くなった所で、お腹が鳴り、ケンジの腹時計はお昼を告げた。


ゴベさん達も同じ時計を持っており、家庭のあるものは家で、その他はギルドで昼飯を取ることにした。


雨が降りそうな昼のアケラ村、農場にいたケンジは知る余地もなかった。



ギルドが今大変な騒ぎになっている事に。


読んでいただき誠にありがとうございます!!


X(旧Twitter) @yozakura_nouka


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